19 / 158
第2章
2-01死
しおりを挟む
いずみは深い深い眠りの中にいた。
夢すら見られない程衰弱しきったいずみを案じた兼成は、未明に宮内庁病院へ入院させたのだ。
水無月家関係者のお務め等による負傷は、特殊な身体状況に陥ることが多い。
市井の病院では対応出来ないばかりか、騒動が起こるのは必至なのだ。
余計なパニックを回避するため、無条件で宮内庁病院に入院できる取り決めがなされていた。
いずみの方はこれで良いとして、問題は如月湧の方だった。
いくら水無月家の実力者を伴うと言っても、魔窟と化している如月家へ行かせても良いのだろうか?
兼成はとんでもない過ちを犯したのではないかと後悔した。
そろそろ湧たちは現場に到着する頃だろう。
手掛かりを得られずとも、無事に帰還してくれることを祈った。
(現在、巷では失踪扱いされているうちの何人が被害にあっているのか見当がつかん…。身内がいなくなって初めて異常に気付くのだろうが… …? 身内?)
そこまで考えて兼成は、築地川高校校長の言葉に違和感を覚えた。
「あいつは“娘”と言った…孫ではなく…。儂と同い年で娘は確か交通事故で…孫なら長男の娘がいるが…確かまだ中学生だったはず…」
学生時代はそれほど緊密な付き合いがなかったため、その時は再会を喜ぶあまり違和感に気付けなかった。
「しまった! ヤツはっ!」
“怪異に娘が殺された”と警察に通報したことは事実であり、警察も校長に防犯ビデオの画像をコピーし、手渡した事は確認できていた。
しかしその事件そのものが、捏造されたものなら…。
「如月湧たちを止めろ!」
兼成はスタッフに怒鳴った。が、それに対する返答は…、
「今、監視中の柳瀬川から連絡があり、3人が怪異と遭遇。如月湧以外は消滅。如月湧は怪異を撃破したものの…意識不明の重体です。柳瀬川スタッフが現在宮内庁病院に搬送していますが…心肺停止状態のため、絶望的だということです」
「な、何と言う…ことだ…」
一足遅かった…兼成は己の失態を悔やんだ。
兼成が宮内庁病院に到着した時、院内には異様な空気が充満していた。
元々一般患者はいない(皇居内にある)ためロビーなどに人影はないが、代わりに粘度の高い重々しい瘴気の様なものが支配している。
建物自体は古いが設備は最新のものばかりなので、実際の明度は充分なのだがそれでも暗かった。
「まず…何をどう、お話ししたらよいのか…」
院長室にて院長が困惑し切った顔で口を開いた。
「どんなことでも仰って下さい。全て私の落ち度、覚悟はできております」
兼成は年相応の老いぼれた爺の様に、覇気を喪失した口調で応える。
「いえ、落ち度とかそういう事、以前の問題なのです」
「…と、いうと?」
「そうですな。言葉では説明しきれないので、これをご覧ください」
院長は言いながら電照パネルにレントゲン写真を数葉掲示した。
―――――・―――――・―――――
さくらはその朝、いつも通りに始業時刻の30分前に登校した。
「な、なに? これ…」
ところが、教室内は“いつも”とは異なり、不気味な静けさに包まれていた。
「あ。そうか如月君がいないんだ。道理で静かな訳よね…」
が、それ以上にクラスメートが少なかった。
この時間なら、朝練を終えた運動部所属のクラスメートが少なくとも12~3人はいるはずだ。
「まあ、いずみがいないのはともかく、こんなに少ないのはおかしいわ…」
「………」
「あれ? 誰もツッコンでくれない…」
普段なら誰か一人ぐらいはツッコミを入れてくれるのだが、教室にいるクラスメートは皆自席に座って俯いていた。
「なんなの? この陰気なムードは…」
さくらの不審はSHRが始まっても、クラスメートが10人しか登校していない事でいよいよ不安となった。
2時限目は自習になったため、トイレに駆け込んでいずみの携帯をコールした。
けれどいずみが電話に出る事はなかった。
確信がある訳ではないが、いずみがお務めで何かドジった? と考え(たまに大事に発展してることがあって、柳瀬川が事態の後始末をしている)、父親に連絡を取った。
そして…
「え? 如月君が? 何よそれ? なんで如月君が怪異に?」
さくらは視野が急激に狭まり、危うく意識を失うところだった。
「すぐに病院に行くから、手配してっ!」
それだけ叫んで、さくらは学校を飛び出した。
病院に着いて、さくらが案内されたのは極秘エリアの特殊病棟だった。
ここは様々な特殊な患者を隔離する病棟であり、さくらもその存在は聞いていたものの、実在していることはこの時初めて知った。
全て地下にあり、レベル3以上の警備がなされている。
治療エリアは無菌状態なので、全身の殺菌滅菌処理を2時間かけて行なわなければ入れない。
さくらは治療エリア外周のガラスで区分された通路を通り、湧が処置を受けている部屋の前に案内された。
「処置って…」
さくらは湧に対して“処置”という絶望的な言葉を使われた事が無性に腹立たしかった。
不満を隠そうともせず、湧の部屋の前を見る。
そして処置室内が一望できるガラス窓の反対側に置かれたベンチに兼成を見つけた。
「そ、宗主っ! 何なんですかっ! なんで湧くんが怪異に…かいいに殺されなければ…ならないんですか…」
さくらは兼成にしがみつき、一気に叫んだ。
如月湧を“湧くん”と呼んだことに兼成は驚きを隠せず、さくらの湧に対する想いを理解した。
「さくら…そうか…君は…。今回の一件…全て儂の落ち度じゃ。申し訳ない…」
兼成は泣き叫ぶさくらを抱きしめ、謝罪した。
「…じ、じゃあ…本当に…湧くんは…ゆうく…んが、しんだ?…」
「すまない…本当にすまないことをした…」
さくらは兼成の腕の中で、脱力して床にへたり込んでしまった。
「う…うわぁぁぁぁぁぁ~っ! いやぁ~湧くんっ! いやぁぁぁっ!」
何が合っても沈着冷静で、決して取り乱さないさくらが子どもの様に泣きじゃくった。
さくらの悲しみに胸を締め付けられた兼成は、成す術も無くさくらをやさしく抱きしめていた。
「そ、宗主。湧くんに何があったんですか? 教えてください」
しばらく自我を失った様に泣いていたが、突然顔をあげて兼成に喰ってかかる様に問いつめた。
柳瀬川家次期宗主なのだ、いずれ全ての事実を知る事になる。ならば、最初からきちんと話しておいた方が良いだろう。
兼成はさくらに全てを話すことにした。
「如月君の相模原の自宅に、彼の父親が残した資料を探しに行ったのじゃ」
そこまでの経緯は簡潔に説明した。いずみが絡んでいたことを知った時、さくらの顔に少しだけ嫉妬の様な暗い表情を見た。
まあ、恋敵などという可愛い感情も今となっては意味をなさないだろう。
しかし、あるいは…
「柳瀬川の監視の中、自宅に入った3人は間もなく現れた怪異に襲われた。すぐに柳瀬川が援護に向かったが、到着までのたった30秒で二人は消滅。如月君は怪異を撃退したが、深手を負っていた」
「消滅? それは…?」
さくらの疑問はそのまま返答になった。
「まさに消滅。塩の結晶以外、何も残っていなかった」
「湧くんも深手って、湧くんは消滅しなかったってことですか?」
「そこが不明なのじゃ、何故如月君は…」
兼成が腑に落ちなかったのは、湧だけは肉体が破壊されていない。
そして…、
「ここに搬送された時には既に死亡していた…」
「! くっ…」
さくらの頬が、再び涙で濡れた。
―――――・―――――・―――――
いずみは唐突に目覚めた。
気力体力が衰弱したための昏睡であり、身体的な障害はないのである程度体力が回復すれば問題なく目覚めるのだった(少なくともいずみの身体はそのようにできてるらしい)。
見慣れぬ天井の照度が落とされたLED照明が目に入った。
「あれ? ここ、!ぎゃああああああ~痛い痛いっ!」
起き上がろうとして全身に力を入れた途端に、毛細血管が悲鳴を上げた。
何日も筋肉に力を入れなかったため、毛細血管があちこちで切れたらしい。
「あう~。あ、点滴? ここって病院かぁ」
身体の力を抜いて、目だけで辺りを伺う。
スタンドから点滴が自分の方に繋がっていた。頭の上の方からは“ピッピッピッ”と規則正しい電子音が聞こえている。
しばらくして看護師がやってきた。
「起きたわね。点滴はまだ残ってるからもう少し我慢してね。心電図はもう大丈夫だから外すわね」
「はーい。いつもすみません。葉山さん」
いずみが初めて能力を使った時から、ここではかならずこの看護師の葉山よう子が担当することになっていた。
いずみの能力は国家レベルのトップシークレット扱いなので、対応するスタッフも限定されているのだ。
「今回はどのくらい寝てました? 私…」
「え~と、今日で11日目ね」
「え? そ、そんなに?」
さすがにこんなに長期間寝ていたのは初めてだった。いずみ自身驚きを隠せない。
「今回は本当にヤバかったんだからね。あと少しで心肺停止ってところまで衰弱してたんだから。お務めなので仕方ないとは思うけど…もっと自分を大切にしなさいよ?」
「はぁ~い。でもね今回はきっと収穫が…」
「おっと! そこまで! 私にもそれ以上話しちゃ色々まずいことになるわよ」
葉山よう子は危険な匂いを感じ取る能力に長けていた。
彼女は危険回避という能力のため、この宮内庁病院にスカウトされたのだった。
「あ、尿管カテーテル外すわね。ちょっと痛いけど我慢してね」
「あ~いつもこれが嫌なんだよね(涙)葉山さんが専任してくれてるから我慢できるけど、他の人だったら絶対に自分でやるわ」
「お年頃だもんね(笑)…はい、終わり」
「あ、ありがとうございますぅ~、でもやっぱりちょっと痛い(涙)」
「あ、そうそう。さくら呼ぼうか?」
「さくら来てるんですか? 何で?」
「う~ん。それは本人から聞いてね。私はどんな些細な面倒事でも関わらない様にしてるの。ごめんね」
葉山があらゆるトラブルを回避してしているのは、関わるとどんな些細なトラブルでも大事になってしまうからであった。
逆にいえばトラブルメーカーなのだ。
葉山が病室を出て行ってからかなりの時間が経ってから、さくらがやってきた。
院内にいたとは思えないほどだ。
「あ、いずみ起きたのね。気分はどう? 何か飲む?」
「…へ? あ、ああ大丈夫…」
さくらの様子がおかしい。いつもなら飛びついてくるものの、やけに大人しい。
というか、少しやつれてる気がした。
「さくら…何かあったの? 大分疲れてるみたいだけど…」
「…う、ううん。なんでもない…。私の事よりいずみこそ早く体力回復させなきゃ。いまは余計なこと考えるんじゃないわよ…」
とはいうものの、さくらはいずみを見ようとはしなかった。
その落ち着かない視線から、今は何を言っても無駄だと思った。
「あ、私、用事があるからもう行くね。何かあったら葉山さんにお願いしとくから…」
いずみの返事を聞かずにそそくさと出て行ってしまった。
「さ、さくら…?」
しばらく扉を見ていたが、いずみは諦めて目を閉じた。
―――――・―――――・―――――
「それはどういうことですか?」
さくらは自分の耳を疑った。
つい今しがた湧が“死”んだと知らされ、そして今度は…
「如月君が蘇生しました。まだ身体的には損傷が激しく、とても生き返ったとは言えません。が、損傷した部位は時間経過とともに徐々に回復しています」
「…はい?」
さくらは目を見開いたまま、しばらく呆けていた。
次々と語られる説明は、とても医師の言葉とは思えない。
けれど、何より湧が生きていることがさくらに希望を与えた。
それは兼成も同じだったが、湧が生き返ったと聞いた時のさくらの目の輝きを見て、優しく微笑む事しかできなかった。
<続く>
夢すら見られない程衰弱しきったいずみを案じた兼成は、未明に宮内庁病院へ入院させたのだ。
水無月家関係者のお務め等による負傷は、特殊な身体状況に陥ることが多い。
市井の病院では対応出来ないばかりか、騒動が起こるのは必至なのだ。
余計なパニックを回避するため、無条件で宮内庁病院に入院できる取り決めがなされていた。
いずみの方はこれで良いとして、問題は如月湧の方だった。
いくら水無月家の実力者を伴うと言っても、魔窟と化している如月家へ行かせても良いのだろうか?
兼成はとんでもない過ちを犯したのではないかと後悔した。
そろそろ湧たちは現場に到着する頃だろう。
手掛かりを得られずとも、無事に帰還してくれることを祈った。
(現在、巷では失踪扱いされているうちの何人が被害にあっているのか見当がつかん…。身内がいなくなって初めて異常に気付くのだろうが… …? 身内?)
そこまで考えて兼成は、築地川高校校長の言葉に違和感を覚えた。
「あいつは“娘”と言った…孫ではなく…。儂と同い年で娘は確か交通事故で…孫なら長男の娘がいるが…確かまだ中学生だったはず…」
学生時代はそれほど緊密な付き合いがなかったため、その時は再会を喜ぶあまり違和感に気付けなかった。
「しまった! ヤツはっ!」
“怪異に娘が殺された”と警察に通報したことは事実であり、警察も校長に防犯ビデオの画像をコピーし、手渡した事は確認できていた。
しかしその事件そのものが、捏造されたものなら…。
「如月湧たちを止めろ!」
兼成はスタッフに怒鳴った。が、それに対する返答は…、
「今、監視中の柳瀬川から連絡があり、3人が怪異と遭遇。如月湧以外は消滅。如月湧は怪異を撃破したものの…意識不明の重体です。柳瀬川スタッフが現在宮内庁病院に搬送していますが…心肺停止状態のため、絶望的だということです」
「な、何と言う…ことだ…」
一足遅かった…兼成は己の失態を悔やんだ。
兼成が宮内庁病院に到着した時、院内には異様な空気が充満していた。
元々一般患者はいない(皇居内にある)ためロビーなどに人影はないが、代わりに粘度の高い重々しい瘴気の様なものが支配している。
建物自体は古いが設備は最新のものばかりなので、実際の明度は充分なのだがそれでも暗かった。
「まず…何をどう、お話ししたらよいのか…」
院長室にて院長が困惑し切った顔で口を開いた。
「どんなことでも仰って下さい。全て私の落ち度、覚悟はできております」
兼成は年相応の老いぼれた爺の様に、覇気を喪失した口調で応える。
「いえ、落ち度とかそういう事、以前の問題なのです」
「…と、いうと?」
「そうですな。言葉では説明しきれないので、これをご覧ください」
院長は言いながら電照パネルにレントゲン写真を数葉掲示した。
―――――・―――――・―――――
さくらはその朝、いつも通りに始業時刻の30分前に登校した。
「な、なに? これ…」
ところが、教室内は“いつも”とは異なり、不気味な静けさに包まれていた。
「あ。そうか如月君がいないんだ。道理で静かな訳よね…」
が、それ以上にクラスメートが少なかった。
この時間なら、朝練を終えた運動部所属のクラスメートが少なくとも12~3人はいるはずだ。
「まあ、いずみがいないのはともかく、こんなに少ないのはおかしいわ…」
「………」
「あれ? 誰もツッコンでくれない…」
普段なら誰か一人ぐらいはツッコミを入れてくれるのだが、教室にいるクラスメートは皆自席に座って俯いていた。
「なんなの? この陰気なムードは…」
さくらの不審はSHRが始まっても、クラスメートが10人しか登校していない事でいよいよ不安となった。
2時限目は自習になったため、トイレに駆け込んでいずみの携帯をコールした。
けれどいずみが電話に出る事はなかった。
確信がある訳ではないが、いずみがお務めで何かドジった? と考え(たまに大事に発展してることがあって、柳瀬川が事態の後始末をしている)、父親に連絡を取った。
そして…
「え? 如月君が? 何よそれ? なんで如月君が怪異に?」
さくらは視野が急激に狭まり、危うく意識を失うところだった。
「すぐに病院に行くから、手配してっ!」
それだけ叫んで、さくらは学校を飛び出した。
病院に着いて、さくらが案内されたのは極秘エリアの特殊病棟だった。
ここは様々な特殊な患者を隔離する病棟であり、さくらもその存在は聞いていたものの、実在していることはこの時初めて知った。
全て地下にあり、レベル3以上の警備がなされている。
治療エリアは無菌状態なので、全身の殺菌滅菌処理を2時間かけて行なわなければ入れない。
さくらは治療エリア外周のガラスで区分された通路を通り、湧が処置を受けている部屋の前に案内された。
「処置って…」
さくらは湧に対して“処置”という絶望的な言葉を使われた事が無性に腹立たしかった。
不満を隠そうともせず、湧の部屋の前を見る。
そして処置室内が一望できるガラス窓の反対側に置かれたベンチに兼成を見つけた。
「そ、宗主っ! 何なんですかっ! なんで湧くんが怪異に…かいいに殺されなければ…ならないんですか…」
さくらは兼成にしがみつき、一気に叫んだ。
如月湧を“湧くん”と呼んだことに兼成は驚きを隠せず、さくらの湧に対する想いを理解した。
「さくら…そうか…君は…。今回の一件…全て儂の落ち度じゃ。申し訳ない…」
兼成は泣き叫ぶさくらを抱きしめ、謝罪した。
「…じ、じゃあ…本当に…湧くんは…ゆうく…んが、しんだ?…」
「すまない…本当にすまないことをした…」
さくらは兼成の腕の中で、脱力して床にへたり込んでしまった。
「う…うわぁぁぁぁぁぁ~っ! いやぁ~湧くんっ! いやぁぁぁっ!」
何が合っても沈着冷静で、決して取り乱さないさくらが子どもの様に泣きじゃくった。
さくらの悲しみに胸を締め付けられた兼成は、成す術も無くさくらをやさしく抱きしめていた。
「そ、宗主。湧くんに何があったんですか? 教えてください」
しばらく自我を失った様に泣いていたが、突然顔をあげて兼成に喰ってかかる様に問いつめた。
柳瀬川家次期宗主なのだ、いずれ全ての事実を知る事になる。ならば、最初からきちんと話しておいた方が良いだろう。
兼成はさくらに全てを話すことにした。
「如月君の相模原の自宅に、彼の父親が残した資料を探しに行ったのじゃ」
そこまでの経緯は簡潔に説明した。いずみが絡んでいたことを知った時、さくらの顔に少しだけ嫉妬の様な暗い表情を見た。
まあ、恋敵などという可愛い感情も今となっては意味をなさないだろう。
しかし、あるいは…
「柳瀬川の監視の中、自宅に入った3人は間もなく現れた怪異に襲われた。すぐに柳瀬川が援護に向かったが、到着までのたった30秒で二人は消滅。如月君は怪異を撃退したが、深手を負っていた」
「消滅? それは…?」
さくらの疑問はそのまま返答になった。
「まさに消滅。塩の結晶以外、何も残っていなかった」
「湧くんも深手って、湧くんは消滅しなかったってことですか?」
「そこが不明なのじゃ、何故如月君は…」
兼成が腑に落ちなかったのは、湧だけは肉体が破壊されていない。
そして…、
「ここに搬送された時には既に死亡していた…」
「! くっ…」
さくらの頬が、再び涙で濡れた。
―――――・―――――・―――――
いずみは唐突に目覚めた。
気力体力が衰弱したための昏睡であり、身体的な障害はないのである程度体力が回復すれば問題なく目覚めるのだった(少なくともいずみの身体はそのようにできてるらしい)。
見慣れぬ天井の照度が落とされたLED照明が目に入った。
「あれ? ここ、!ぎゃああああああ~痛い痛いっ!」
起き上がろうとして全身に力を入れた途端に、毛細血管が悲鳴を上げた。
何日も筋肉に力を入れなかったため、毛細血管があちこちで切れたらしい。
「あう~。あ、点滴? ここって病院かぁ」
身体の力を抜いて、目だけで辺りを伺う。
スタンドから点滴が自分の方に繋がっていた。頭の上の方からは“ピッピッピッ”と規則正しい電子音が聞こえている。
しばらくして看護師がやってきた。
「起きたわね。点滴はまだ残ってるからもう少し我慢してね。心電図はもう大丈夫だから外すわね」
「はーい。いつもすみません。葉山さん」
いずみが初めて能力を使った時から、ここではかならずこの看護師の葉山よう子が担当することになっていた。
いずみの能力は国家レベルのトップシークレット扱いなので、対応するスタッフも限定されているのだ。
「今回はどのくらい寝てました? 私…」
「え~と、今日で11日目ね」
「え? そ、そんなに?」
さすがにこんなに長期間寝ていたのは初めてだった。いずみ自身驚きを隠せない。
「今回は本当にヤバかったんだからね。あと少しで心肺停止ってところまで衰弱してたんだから。お務めなので仕方ないとは思うけど…もっと自分を大切にしなさいよ?」
「はぁ~い。でもね今回はきっと収穫が…」
「おっと! そこまで! 私にもそれ以上話しちゃ色々まずいことになるわよ」
葉山よう子は危険な匂いを感じ取る能力に長けていた。
彼女は危険回避という能力のため、この宮内庁病院にスカウトされたのだった。
「あ、尿管カテーテル外すわね。ちょっと痛いけど我慢してね」
「あ~いつもこれが嫌なんだよね(涙)葉山さんが専任してくれてるから我慢できるけど、他の人だったら絶対に自分でやるわ」
「お年頃だもんね(笑)…はい、終わり」
「あ、ありがとうございますぅ~、でもやっぱりちょっと痛い(涙)」
「あ、そうそう。さくら呼ぼうか?」
「さくら来てるんですか? 何で?」
「う~ん。それは本人から聞いてね。私はどんな些細な面倒事でも関わらない様にしてるの。ごめんね」
葉山があらゆるトラブルを回避してしているのは、関わるとどんな些細なトラブルでも大事になってしまうからであった。
逆にいえばトラブルメーカーなのだ。
葉山が病室を出て行ってからかなりの時間が経ってから、さくらがやってきた。
院内にいたとは思えないほどだ。
「あ、いずみ起きたのね。気分はどう? 何か飲む?」
「…へ? あ、ああ大丈夫…」
さくらの様子がおかしい。いつもなら飛びついてくるものの、やけに大人しい。
というか、少しやつれてる気がした。
「さくら…何かあったの? 大分疲れてるみたいだけど…」
「…う、ううん。なんでもない…。私の事よりいずみこそ早く体力回復させなきゃ。いまは余計なこと考えるんじゃないわよ…」
とはいうものの、さくらはいずみを見ようとはしなかった。
その落ち着かない視線から、今は何を言っても無駄だと思った。
「あ、私、用事があるからもう行くね。何かあったら葉山さんにお願いしとくから…」
いずみの返事を聞かずにそそくさと出て行ってしまった。
「さ、さくら…?」
しばらく扉を見ていたが、いずみは諦めて目を閉じた。
―――――・―――――・―――――
「それはどういうことですか?」
さくらは自分の耳を疑った。
つい今しがた湧が“死”んだと知らされ、そして今度は…
「如月君が蘇生しました。まだ身体的には損傷が激しく、とても生き返ったとは言えません。が、損傷した部位は時間経過とともに徐々に回復しています」
「…はい?」
さくらは目を見開いたまま、しばらく呆けていた。
次々と語られる説明は、とても医師の言葉とは思えない。
けれど、何より湧が生きていることがさくらに希望を与えた。
それは兼成も同じだったが、湧が生き返ったと聞いた時のさくらの目の輝きを見て、優しく微笑む事しかできなかった。
<続く>
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる