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第3章

3-11ルイーナ

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 ルイーナの一言で、いずみは確信した。
 “この娘は能力者だ”と。
 まれに一般人でも怪異が見える人はいる。
 しかし、それは精神を集中して“見よう”とした時だけであり、偶然見えることはない。
 “見える”と“見る”とでは、その意味が大きく異なっているのだ。
 能力者は、非物質(霊体など)との波長が合わせやすく、そのレンジが幅広いほど能力的に高いと言える。
 ルイーナは窓から何気なく見た公園に、“黒くて”“毛むくじゃら”の何かが見えたと言った。
 色や形をハッキリと見ることができるなら、相当な能力者だと思われる。
 けれども、いずみはルイーナに対する警戒心が強まる一方で、親近感も覚えていた。
 「ルイーナ、今から話すことは現実の話なの。決して特撮ヒーロー番組やアニメの話じゃないから、真剣に聞いて」
 いずみはわざとらしくならないように、精一杯真面目な顔でルイーナににじり寄った。
 さすがにその迫力に圧されて、ちょっと後ずさったが、
 「いずみさん? あ! 私は見てはいけないモノを見ちゃったんですね?」
 と、即座に意図を理解した。
 「ルイーナ…あなたやっぱり…」
 「やっぱり?」
 「見えるんだ…」
 いずみの問いかけに、ルイーナは一度目をつむり、静かに語り出した。
 「これ以上、いずみさんに隠しても仕方ないですね」
 後悔した素振りではないから、きっとギリギリまで隠しておこうと思っていたらしい。
 いずみは自分が試されていたと気付いたが、そのことをとやかく言うつもりはなかった。
 今は一刻を争う事態なのだ。
 「私が住んでいたところはアーカムという街です。ご存知ですか?」
 ルイーナの問いに首を横に振る。
 きっとニューヨーク郊外の街なのだろうと思った。
 「そこは古くから西洋魔術の研究が盛んな、言い換えればかなり変な街です」
 「街ぐるみで魔術を研究してるの?」
 日本も平安時代に陰陽師という魔術的研究者が集う、陰陽寮というのがあった。
 実際には現在も非公式ながら、脈々と受け継がれているが…。
 「黒魔術専門といった方がいいのかもしれませんが、人外などの研究も行われていて、私が見たような低級なモンスターが街中をうろついていました」
 「へ? 街中を? それを放っているの?」
 「だって、キリがないんですよ。駆除するのは」
 ルイーナは大袈裟に両手を挙げた。
 「そっかぁ、ルイーナも…」
 いずみは一瞬、穏やかな笑顔を返した。
 「も? では、いずみさんも…“見える”んですね?」
 「あ”」
 語るに落ちたとはこのことだ。
 「仕方ないから白状するけど…、今この街はモンスターによって大勢の人が犠牲になっているの」
 「大勢? 100人とかですか?」
 「事件として亡くなった人は一人もいないわ。でも推定で1万人以上が消されている」
 はっきりしたことは未だに判っていない。
 本当に1万人なのか、それ以上なのかすら確定できていないのだ。
 「それは何か根拠があるのですか?」
 「それがわかっていないのよ。ただし、行方不明者が約1万人、届け出がない人もいるだろうから推定で1万人以上だろうってことなのよ」
 確かにこれでは“現実の話”と言っても、誰も信用しないだろう。
 いずみの立場上、これ以上の情報は公開できない。
 これではルイーナが信用してくれるはずもなかった。
 「街中で塩の山を見たこと…ない?」
 「あ、あります。お店の入り口の横に…」
 「ちっがぁ~う! それは“盛り塩”って言って、縁起担ぎなの!」
 「そうなんですか? じゃあ、あれですかね?」
 そう言って窓の外を指差すルイーナ。
 何かと思っていずみが見に行くと、佃大橋の橋桁の下、周りを工事用のパネルで囲まれた中に大量の塩が詰め込まれていた。
 「な、なにこれ? 何でこんなところに?」
 「さあ、私も不思議に思ってたんですが、管理人さんなどに聞いても誰も知らないっていうんです」
 ルイーナの部屋は3階なので、佃大橋の橋桁とほぼ同じ高さだ。
 工事用のパネルはかなりの高さまで目隠ししてあり、2階からでは中が見えないらしい。
 すなわち、橋の下に何があるのかは、ルイーナの部屋からしか見えないようだ。
 「警察に…と言っても、事件の可能性を指摘できないから通報を控えさせられました」
 「そうかぁ。まあ、あれが…??」
 いずみは急に違和感を覚え、口を閉ざした。
 (待って? ちょっと何か変だわ)
 自問自答する。さくらも沈黙しているところは、何か危機感を覚えているのかもしれない。
 「いずみさん? どうかしましたか?」
 ルイーナはごく自然に問いかける。
 「…ルイーナ、あなたが日本に来た本当の目的って何?」
 いずみは直球ど真ん中をルイーナに投げつけた。
 「そ、それは特撮とアニ…」
 「そんな建前を聞いてるんじゃないの!」
 畳み掛けるようにルイーナの返答を遮った。
 「いずみ…さん?」
 「私も本当のこと話すから、ルイーナも話して」
 といっても、もちろん水無月家に関することはトップシークレットだから話せないけどね…いずみは心の中で付け足した。
 「…分かりました。では私も覚悟を決めます」
 仰々しい口調とともに、ルイーナは今まで見せたことがなかった真剣な表情で応えた。
 その顔立ちは同じ15歳とは思えないほど大人びていたが、邪心を感じさせない清らかなものだった。
 (へえ、こんな人間離れした無垢な顔立ちって初めて見たわ)
 いずみは別の意味でルイーナという留学生に興味を抱いた。
 「じゃあ、私から現在のこの街の状況を説明するわ」
 「この街? ですか?」
 「そう。今、この付近で実際に起こっている異様な事件よ」
 いずみは公開されている情報のみで、簡潔に経過を説明した。
 しかし、この事件の異常性は“怪異”なしでは語れない。
 いずみは、水無月家のお務めを悟られないよう、慎重に言葉を選んだ。
 「するとそのモンスターたちが民間人を殺戮…消滅させた? と?」
 「まあ、端折って言えばそういうことね」
 ルイーナはしばし考え込んでから、訝しげに問うてきた。
 「それを…、いずみさんはどうやって知られたんですか?」
 “誰から”とか“どこで”ではなく、“どうやって”と聞かれたのが痛い。
 今度はいずみが考え込んでしまった。
 「う~ん。実は…ね。私は幽霊やモンスターが見える体質なの…」
 「はい?」
 今度はルイーナが惚けた。
 「ルイーナも霊…ゴースト?っていうのかな…、あとはUMA?とか見えるんでしょ?」
 いずみは断定的な言い方をした。
 「ちょっと待ってください。私はエクソシストでもゴーストバスターでもないですよ? ただのか弱い少女です」
 と言い切った。
 さらっと“か弱い”とか形容詞を付けて…。
 どこまでもシラを切る様子だ。
 いずみは半眼で睨みつけた。
 「ルイーナぁ~。あなたがある特殊な能力を持ってるってことはもうバレてるの」
 「え? どういうことですか?」
 ルイーナはあくまでシラを切るつもりなのだが、すでに冷や汗をかきまくっていた。
 それは、少し前からルイーナに寄り添うようにして、さくらが座っていたからだ。
 さくらは、至近距離からルイーナの顔をジーッと覗き込んでいた。
 見えていなければなんともないだろうが、見えているから堪らない。
 対面のいずみは、ルイーナがキョドッているのが楽しかった。
 「ルイーナが冷や汗をかいているからよ」
 「ひ、冷や汗くらい誰でもかきますよぉ~」
 その言葉を聞くなり、いずみはさくらにゴーを出した。
 〈じゃあ、お願い。少し悪乗りしてもいいからねぁ~〉
 【うひひひ…了解ぃ~!】
 フレンズになってから、さくらは良くない意味でいずみの性格に影響されているらしい。
 【それではっ!】

 「ギャアァァァァ~」

 突然ルイーナが自分の胸を押さえて、悶え始めた。
 顔を真っ赤にして、身をよじり始める。
 「WHAT’S??」
 さくらがルイーナの背後から胸を鷲づかみにして、揉みしだく。
 やがて、息が荒くなるルイーナ。
 自分の身に起こっていることは見えているから、もちろん分かっているのだが、振りほどくことができない。
 一方のさくらは、以前からいずみにしていたことだから手馴れたものだ。
 「あ~~~~AH~」
 日本語・英語まじりの嬌声を聞いているうち、いずみも鼻息が荒くなってきた。

 【おおおっー! この弾力! このボリューム! さすがにアメリカァ~~~ン いずみとは全くの別物だわっ!】
 〈ほっとけっ!〉
 「い…いず…みさん…これは? 一体…あうう~」
 さすがのルイーナも、こんな手段で攻められるとは思ってなかったらしい。
 髪を振り乱して、快楽に耐えている姿が同性から見ても…
 “エロかった”
 しかも、さくらは快楽的刺激より、くすぐったくなるように力をセーブしている。
 ルイーナは笑いを堪えきれず、目から涙を流して悶えていた。
 「クフフフフ~ファファファ~いず…みさん…あなたの仕業ですかァ~、た、助けてください~」
 「だって、ルイーナってば素直に話してくれないんだもん」
 いずみはごく平静な口調で告げる。
 その落差が大きくて、ルイーナは今度こそ“敗け”を認めた。
 「あうう~こんな方法で敗北するとは思ってませんでした」
 「じゃあ、まずこの娘から紹介するわね。でないと納得できないでしょ?」
 いずみはとってもいい笑顔でさくらに抱きついた。
 「この娘は私の親友で“さくら”というの。今はこうしてフレンズになっちゃったけど、元はれっきとした人間です」
 【ち、ちょっとぉ、“元は”とか“れっきとした人間”とか言わないでよう。私が何か変なものになっちゃったみたいじゃん】
 「? フレンズって何ですか?」
 ルイーナは早速鋭い質問を放った。
 「う~ん。うまく説明できないんだけどね…言うなれば…幽霊?」
 <ガジッ!>
 さくらはいずみの頭に噛み付いた。
 「痛い、痛い」
 〈だって三位一体が人間なら、肉体がなくなっちゃたから…幽体と霊体で…幽霊?〉
 【ひっどぉ~い、いずみまでそんな風に思ってたんだぁ!】
 「…仲、いいんですね。でも、さくらさんって…」
 ルイーナが少し離れたところから割り込んできた。
 二人のやりとりが見えていたとなると、やはり相当の能力者だ。
 「【ん?】」
 「亡くなられた…んですよね?」
 「【死んでないっ!】」
 「! ええっー?」
 いずみとって、さくらは死んでいない。
 現にこうして会話ができるのだ。肉体があった頃と何ら変わっていないのだ。
 だから必要以上に反発した。
 「いい? ルイーナ! これだけは注意していてね。さくらは肉体こそ消滅させられたけど、精神というか魂はこうしてちゃんと活きてるのっ! だからさくらが死んだなんて、2度と言わないで!」
 これがいずみの本心だった。
 さくらは涙を流して微笑んでいた。やっぱりいずみは自分にとってかけがえのない親友なのだ。
 「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんです。ただ、フレンズってどういう意味なのかなって、守護霊みたいなものかと思ったもので…」
 「あ~そか、で、フレンズなんだけど…」
 ルイーナが興味深そうに身を乗り出す。
 「私にもわかりません!」
 いずみは胸を張って断言した。
 <スパカァ~ン>
 【コラコラコラッ!】
 さくらは巨大ハリセンでいずみを叩きながら嘆いた。
 「あらら…」
 ルイーナが盛大にこけた。
 【ふざけてないでちゃんと紹介してヨォ~】
 さくらがハリセンを振り回しながら怒鳴る。
 〈だって、本当によくわかってないんだもん〉
 【それなのに私を裸に剥いたり、チョップ入れたり出来るって何よっ!】
 いずみは基本的に“取扱説明書”を見ない人種だ。
 全て直感なのである。だから偶然“取説”にもない機能を使っていたりする。
 フレンズについても、湧の友紀と話していてある程度理解できた。
 逆に理路整然と解説するのは大の苦手なのだ。
 【じゃあもういいからいずみの感じた通りに説明してあげてよ】
 〈あ~い。〉
 返事だけは良いいずみだった。

 「…というわけで、私の眼の前で怪異というか死神みたいなモンスターに襲われて、塩の結晶になっちゃったんだけど、さくらの魂はこうして私の中に入れることができて、今は共存してます」
 「そのゴーストが…」
 「フ・レ・ン・ズ!」
 「…ごめんなさい、フレンズが視覚化してるってことですか?」
 「…ん。かな?」
 <ごちん!>
 〈いったァ~い! あにすんのよぉ!〉
 【かな? ってなによ。もういい! 私が説明するっ!】
 と言って、さくらはルイーナの意識に同調を試みた。
 「あ!」
 ルイーナは小さく呟いた。
 今まではアナログラジオのような膜のかかったような音が、クリアになったらしくルイーナは鮮明にさくらを認識した。
    <続く>
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