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第11章

11-03使命

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 敵の勢力は計り知れないが、兼成の進言によって宮内庁のエージェントが潜入捜査した限りでは、警察庁内には疑わしい部署はなかった。
 しかし、潜入捜査したエージェントが後日、行方不明になる事案が数件発生していた。
 宮内庁ではそれ以上の捜査が難しいために、頓挫していたのだ。
 そこに発生した東銀座の大規模な爆発事故。真相を知るものはフラッパーズ他水無月家のものたちだけだった。

 「警察庁全部が敵性勢力ではないとして、ならば一部の幹部が導尊の手のものと考えられる」
 大介は5人に向かって考えを口にした。
 「幹部って言っても、警察庁長官の安倍?なんたら以外は調査できてないんでしょ?」
 いずみが関心なさそうな口調で答える。
 「そこなんだ。上層部の数人は宮内庁の息のかかった官僚だったが、この3ヶ月でほとんどが行方不明となり、表向きは皆辞職したことになってる」
 「怪しすぎない? それぇ~! なのに問題になってないの?」
 「宮内庁では大騒ぎじゃ。しかし極秘任務じゃから部外秘だ。なのでフラッパーズ結成を急いだのじゃよ」
 とはいえ、当のいずみたちも未だにフラッパーズが何を目的としているのか、ほとんど理解も説明も受けていない状況だ。
 急いだと言われて、『わかりました。頑張ります!』などと軽々しく言えるものではない。
 水無月家のお務めのように、人外が相手ならまだ明確な目標設定ができる。しかし警察庁などの『人間』の組織相手となると、最終的に何を目標とするべきなのか全く想像できない。
 「まあフラッパーズに潜入捜査などさせる気はないから、その点は安心してくれ」
 流がいずみの表情を読んで先回りする。
 ただ、導尊が直接関わっていなくても人外対策が急務なのは変わりなかった。
 「導尊は人外、というよりもはや魔物といったほうが適してるだろう。これらを使役してこの世界での勢力を拡大している可能性がある」
 「勢力? それって警察なんかの組織を ってこと?」
 いずみが素朴な疑問を口にした。一般市民からすれば勢力といえば警察権力が真っ先に思いつくためだろう。
 「警察とは限らない、民間の団体なども含め、人心を掌握してコントロールするなど、その方法は多岐に及ぶ」
 「え~っ。それじゃあちょっとでも怪しいグループ見つけたら調べなくちゃいけないの?」
 「だからフラッパーズには調査させないと言っただろう」
 流は苦笑いしていずみを宥めた。
 「フラッパーズの役割はこちらが指定した時代のある場所で怪異を処理してもらう。もちろん歴史が大きく変化するような作戦は行わない」
 「大きく変化? どういうこと?」
 「過去に様々な権力者が殺害された事案を中心に調査を進めている。その中で表向きは祟りや呪いだが、実際には病死だったものがいくつか発見された。導尊は病に伏している相手に妄想を抱かせ、呪いによる恐怖心を増大させる。そしてその恐怖心こそが導尊のエネルギー源となっているんだ」
 「あ、それを妨害してターゲットを助けるのね」
 いずみが理解したような明るい表情で答える。
 「いや、助けてはダメだ。歴史が変わってしまうからその権力者には亡くなってもらう。しかし、導尊が得ようとするあらゆるエネルギーをフラッパーズが奪取するんだ」
 「へ? ええっ~! なんかそれって、火事場泥棒みたいじゃん!」
 少し的外れな抗議が返る。
 「火事場泥棒じゃないさ。ただ、導尊による殺害、これは歴史上変えることができない。しかしそれによって導尊が得られるはずだった思念エネルギーだけは、絶対に与えてはならない。その思念エネルギーを導尊が得られる得られないは歴史に大きな変化を与えないからだ」
 「でも…、それは何か矛盾が生じませんか?」
 今まで黙って聞いていた湧が、何かを考えながら呟いた。
 「如月君はタイムパラドックスのことを言ってるのかな? 表面的な事実を維持しても、真実が異なれば矛盾が生じると思っているんだろうね」
 「その通りです」
 「実はタイムパラドックスは起こらないんだ」
 流は事も無げに答える。
 「え? でもそれじゃあさっきの歴史が変わるってことと矛盾しませんか?」
 「そうだよ! おかしいじゃん」
 湧もいずみも驚きのあまり大声で反論した。
 「ああ、言い方が良くなかったね。厳密に言うと、過去にタイムスリップした時点で元いた未来は少なからず変化しているんだ。でなければ、例えば過去の自分に遭遇してしまった時に矛盾が生じるだろう? 自分の記憶とは異なる事象が起こったわけだからね。だから元の未来へは戻ることができない。戻った世界では未来の自分に出会った記憶が植え付けられる。そうやって局所的な変化は時間をかけて無難な記憶に収束されることになるんだ」
 「それだと未来の自分にあった記憶の世界と、元の世界の違いはどこなんですか?」
 「ま、それ以上の過去を改変しなければ記憶だけだと思う」
 「それだけ?」
 いずみが呆れた声で聞き返す。
 「それは大したことじゃなければ修正が効く。ということですか?」
 湧も疑問を返した。
 「まあそうだね。ただし、生死に関わる噂などは何故か歴史に影響するんだ。例えば導尊発生の起源とされる藤原種継暗殺事件だが、長岡京に遷都した際に功労者であった藤原種継は、殺害後に悪霊となって都に怪事件を起こしたとされている」
 「殺されたことを恨んでってこと? ある意味、自分が苦労して作った都で?」
 いずみが不審そうに尋ねる。
 「そこが不明なんだ。桓武天皇は急ぎ平安京に遷都した。たった10年でだ」
 「遷都するには随分と短期間ですね。まるで何かから逃げ出したような感じです」
 湧も違和感を持ったらしい。
 「そもそも長岡京に遷都する前から、平安京を準備していたんじゃないかと思われる」
 「じゃあ何で平城京から長岡京に? あ! 道鏡かっ!」
 「そうだろうね。一刻も早く平城京から遷都したかったんだと思われる」
 「種継の暗殺は事実なんですか?」
 「事実だ。だが、その後の悪霊怨霊は導尊の仕業らしい。民を天皇を恐怖させ、その負の感情エネルギーを貪っていたようだ」
 「あ! それを阻止するのが私たちなのね!」
 やっと話が理解できたいずみが嬉々として叫んだ。
 「あ~、まあそうなんだが…、言うのは簡単なんだが…」
 「?」
 「いかんせん噂の真偽を確かめなければならないし、たとえ導尊が関わってなくても、悪霊が恐怖を撒き散らしたことで歴史が変わってしまった事例も数多くあるんだ」
 「え~、じゃあどうやって導尊と戦うのよぉ!」
 「そのあたりは柳瀬川家が担当している。間もなく最初のターゲットが判明するから、特訓通りに戦ってみてくれ」
 「もし失敗したら私たちはここに戻ってこられないんだよねぇ?」
 「最初のターゲットは導尊とのつながりが強くないから、たとえ失敗しても歴史が変わることはないと思うが、多少の変化はあるかもしれない。余程のことがない限り大丈夫だろう」
 流は割と軽く言い切った。
 「「「「「「・・・・・・」」」」」」
 さすがに6人とも冷めた目で流を睨む。
 「ま、まぁこれからの戦いの練習のつもりで挑んで欲しい!」
 「練習って言い切っちゃったよぉ!」
 いずみが叫んだ。
    <続く>
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