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第4章

4-18作戦前夜

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 飛鳥時代に天武天皇によって設置された“陰陽寮”は、占い・天文・時・暦の編纂を担当する部署である。
 しかし、やがて人外や悪霊対策のエキスパートとしての役割が一人歩きし始め、名声を博するようになっていった。
 明治2年に陰陽頭、土御門晴雄が薨じたの機に廃止されるまで、1200年以上続いてきた。
 開国によって西洋文化が取り入れられると、一般人の意識もそれまでの呪術や占いから科学的根拠に基づいた思想に変化してゆくために、陰陽寮の存在意義が薄れていたことも起因した。
 しかし、人外は確かに存在した。
 陰陽寮は解体されたが、宮内省はその事実を正確に把握していたため、帝都の安寧を目的に影の存在であった水無月を引き継いだのだ。
 同じ頃、旧陰陽寮の資産を受け継いだ阿部家のうちの一派は、兵部省や司法省に取り込まれた。
 そしてこの頃から、陰陽寮は何かにつけて水無月の存在を実証しようと、宮内省にちょっかいを出すようになっていたのだ。
 現在は警察庁と防衛省に潜んでいるらしい。
 「…ということで、本来我々のサポートを担うはずの日本政府の息がかかった連中は、全て我々の動向を探っていると思ってもらいたい」
 「うえ~。ただでさえ成功率が低い作戦なのに、足の引っ張り合いですか?」
 実行部隊のリーダー坂戸が心底嫌な顔つきで答えた。
 「まあ、今回の作戦は表向きは米軍主導だから、そう簡単に手を出してはこないだろうが、用心するに越したことはない」
 「承知致しました。ただ、みんなにもそれとなく伝えておきます」
 「頼む。説明が難しいと思うが、みんなは知らない方が安全だと思うので、作戦の詳細は伝えないでくれ」
 「はい」
 基本的に今回の作戦は、侵入でも掃討でも破壊でもない。
 水無月スタッフの役割は、湧の自宅から半径3km以内の全ての生物の排除。さらに怪異の殲滅なのだ。
 自分が直接指揮を取れないことが大介は辛かった。

 今回の作戦は大介にとっても苦渋の選択だった。
 今まで心身ともに闘ってきたスタッフたちに、作戦の全貌を伝えられないというのは、信頼できないと同義だと思っているのだ。
 ルイーナに知識自体が仲間を危機に招くきっかけになると諭され、理解はした。
 しかし、そう簡単に納得はできないのだ。
 それをルイーナに語ると“意識自体がエネルギーであり、高次元のモノを相手にする以上、知ること自体が危険なのです”と叱咤されてしまった。
 大介は師範代であり、宗主の代行でもある。
 視野を広く持ち、仲間の危険は少しでも回避しなければならない。
 そのために冷徹に見られても…だ。

 今回の作戦遂行にあたっては、人払が大原則であるため規模自体が大きくなってしまう。
 ルイーナの組織(と呼べるものがあるのかすら不明だが…)によって、米国政府主導で“大戦時の不発弾撤去のため”という臭い大義名分を押し通した。
 具体的には、湧の自宅至近のマンション建設現場において、基礎講時中に不発弾が発見されたことになっている。
 実際に不発弾(もちろんダミーだが)を埋めて、工事関係者に発見させて通報させた。
 県警には事前連絡していないため、警察省から米軍に通報が入るまで、多少の時間がかかった。
 そして、米軍は当時開発中だったBC兵器の可能性を匂わせ、撤去作業時は不測の事態を考慮して、作業区域より半径5km圏内の住民の一時退去を強制した。
 半径5km地点では、息のかかった米軍兵士が封鎖。その外側に一般兵士を配備するという念の入れようだ。
 面白くないのは日本国内でありながら、作戦遂行において一切の参加が認められなかった防衛省だった。
 いくら高度な特殊訓練を受けていると強調しても、米軍は門前払いに近い対応をするだけ。
 半径7km圏内の交通規制を要請された警察省が持てる機材を自慢げに展開していたことも、防衛省にとっては不満の種だった。
 当局も海外における自衛隊の優秀な活動は評価していたが、今回はその技術力によって作戦の真相が暴かれる危険性は避けなければならないのだ。
 ルイーナの手配によってこのような布陣になったが、半径3km以内は水無月スタッフしか存在していないことが約束され、作戦遂行に集中できる。
 作戦実行前夜、水無月スタッフは米軍の輸送ヘリコプターにて不発弾除去現場=作戦司令室に到着した。
 ここから約500mほど離れた湧の自宅までが、状況展開区域となる。
 他のスタッフは外周を移動して、本当の作戦開始時刻の午前3時までにそれぞれが配置につく。
 作戦終了は午前8時。5時間で決着がつかない場合は最終手段として、湧の自宅周辺半径300mは爆破されることになっている。
 その場合、水無月スタッフの生還は絶望的だ。
 まさに背水の陣だった。

 そして作戦遂行当日の到来を時報が伝えた。
    <続く>
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