怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

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五十五話 旦那様もですの?!

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 フィンレルの執務室の前までケイトと来てからノックをすると、フィンレルの従者が扉を開けてくれた。

「やあ、ベレッタここに座って」

 フィンレルが扉を開けた正面にある執務机の左側奥のソファ席を指す。

 フィンレルの執務室に初めて入ったけど、とても広くて机に書類は山になっているが他は整理整頓されてとても綺麗だった。

「はい、失礼致します」

 私が席につくとフィンレルが前に座る。

 それからすぐ従者がお茶を入れてくれて、お茶受けのクッキーも一緒に置いてくれた。

「ありがとう、ラルト」

「いえ、奥様ごゆっくりどうぞ」

 と言って従者の一人ラルトが下がった。

 フィンレルには専属従者が二人いて、黒髪に黒い瞳のラルトと、濃い緑色の髪と焦げ茶の瞳のナッチス。

 ラルトの髪と瞳の色は前世の日本人みたいで懐かしくてなんだか心安らぐわ。

 ラルトは二十四歳だけど大きな目の細身の可愛らしい童顔で十代後半くらいに見える。

 ナッチスは十九歳だけど、ラルトより背が高くガッチリとしていて大人っぽい。

 二人ともとても気が利く良い子たちだ。


「ベレッタは来月王都へ向かうんだよな」

「ええ、そのつもりだったのですが、王都へ向かうのは辞めようかと思っておりますの」

「えっ?君の叔母君の親友であるカエンシュルト伯爵夫人の教育をどうしても受けたいと君は言っていたじゃないか?」

 私の言葉にフィンレルが驚き戸惑っている。

「ええ、確かにそうなのですが…旦那様のことがありましたし、わたくしの執務のことも気になりますしね」

「ああ、私のことは大丈夫だよ。

 私も君と一緒に王都に行くつもりだから」

「へっ?」

 フィンレルの思ってもない返答に私は間抜けな声が出てしまった。

「私も君とラファエルと一緒に王都に行くつもりだよ」

 フィンレルが私が聞こえてなかったのかな?と思ったのか、首を傾げながらもう一度言った。

 違う違う!えっ?フィンレルも王都に行くっていうことに驚いてるのよ。

「えっ?旦那様も王都に行くつもりですの?」

 私は目を見開きフィンレルを見る。

「ああ、元々両親と私が領地へ戻る前は、領地に管理人と少ない使用人たちを置いてだいたい王都で過ごしていたんだ。

 今王都の管理を任せているのがその者たちだ。

 彼らは元は寄子の貴族やこの領地の人間だしこちらに戻ってきて、前みたいに領地を管理してもらおうと思う。

 もうちゃんと伝えてあるんだ。

 ここは王都までそんなに遠くない。

 馬車なら一日で馬ならもっと早く行き来出来るからな」

「えええ、そうなんですのぉ?!」

 私はフィンレルの言っていることが信じられなくて少し大きな声になる。

「えっと…駄目なのかな?それとも私と一緒は嫌なのかい?…」

 フィンレルが悲し気にその水色の瞳を揺らせている。

「…い、いえそうではありませんけれど…」

 私が戸惑っていると。

「そうか!領地のことは心配しなくても大丈夫だ!

 それに君が選んだ執事長フレオ、侍女長リリアンナ、それから君のお気に入りの料理長のランディスも連れて行けるぞ」

 おっと!フィンレルが一転して目を輝かせてここで好条件をぶっ込んできたわね!

 確かにフレオ、リリアンナ、そらにランディスが一緒に王都に来てくれたら有り難いわ。

 でも領地のこともだけど他の使用人たちをどうするつもりなんだろ?

「確かにわたくしが信頼するフレオたちが一緒に行ってくれることは嬉しいですが、それで領地は大丈夫ですの?

 他の領地の使用人はどうなります?」

 私が聞くと。

「領地のことは管理人を置いておけば、何かあれば私がすぐ戻れるから大丈夫だ。

 それと使用人だが、みなに私たちが王都に移ろうと思っているが、ついて来れるか聞いたらほぼ全員がついて行きたいと言ってくれんだ。

 ここに残りたい者は数人だからこのまま管理人たちと共に留まってもらうつもりだ」

 あら、もう先に話を通していたのね。

 今の使用人がほぼそのまま王都に来てくれるなんて、私も有り難いわ。

「そうなんですか…ケイト以外の叔父様の従業員は離れることになりますけれど、その四人が抜けても問題ないということですわね?」

「ああ、元々使用人は豊富にいるからな」

 フィンレルがえっへんと胸を張っている。

「確かに王都での使用人を新たに雇わなくていいことも助かりますわ」

「そうだろ?ラファエルの乳母も侍女もついて来てくれるならラファエルのことも心配はない。

 あとは君のケイト以外の専属だが王都に行ってからでも問題ないのではないか?」

 フィンレルに言われて確かにそうだわ。

 私は今のところケイトだけで十分だけど、これから社交をするようになるとケイトだけに負担をかけるのは悪いから、あと二人くらいは私の専属になってもらいたいけど、それは王都に行ってからでも問題ない。

 もう目を付けている子はいるしね。

「旦那様の仰る通りですわ」

「そうか!ではそれで決定で良いだろうか?」

 フィンレルが満足そうに美しく微笑む。

「えっええ、…」


 ということで来月の王都へ向かうのに、フィンレルもほとんどの使用人も一緒に行くことが決まった。

 みんなで大移動だわね。



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