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百十六話 事件の真実 ②
しおりを挟む「私はギルと幼い頃からよく会っていた。
当然ギルとアンジェが婚約した時やその後のことも側で見ていたからよく知っている。
ギルは最初からアンジェを苦手にしていたが、私たちがどれだけ諌めて宥めても、アンジェ自身をを決して見ようとはしなかったんだが、そういうことがあったという訳なんだ。
だけどギルがいくら王妃殿下にいろいろと言われたとはいえ、王妃殿下の言うことだけを信じ込んでしまった自分が悪かったんだと言っていた。
確かにギルの言う通りだが幼かったギルが母上である王妃殿下のことを疑うことなく信じ込んでしまうことはある意味仕方なかったと思うんだ」
フィンレルがギルバード様のことを眉間を寄せて辛そうに話す。
そうだよね、いくら王子という立場であっても、幼いギルバード様はお母様である王妃殿下の言うことが正しいんだと信じるわよね。
それでギルバード様は余計アンジェリカを疎んじて蔑ろにしていたのね。
「そうだったのですか…」
アンジェリカが複雑な表情になる。
ギルバード様のことを聞いて複雑な気持ちになっているんだろうけど、今更真実を知ってもね…。
「まあこれは私の推測なんだが最初王妃殿下はアンジェのことを気に入らなかったけど、ギルバード様との婚約を壊すことまではするつもりはなかったんじゃないかな?
王妃殿下はアンジェを気に入って可愛がっているように見せて、アンジェを王宮内で誰も味方がいない状態にして、自分だけをアンジェが頼りにするように仕向けて、御し易くして自分の思い通りに動く人形にしたかったんじゃないかと…。
でもアンジェはそんな達じゃなかった、アンジェは例え孤独でも自分一人でも立ち向かえる人間だった。
そして私や他の貴族令嬢たちを味方につけていった。
そこは王妃殿下の予想が外れたんじゃないかと私は思っている。
結果あの卒業パーティーのことがあってギルバード様とアンジェの婚約は白紙になり、ギルバード様はエレナと結婚した。
でも王妃殿下はエレナのことはアンジェ以上に気に入らなかったんじゃないかな?
王妃殿下はエレナが馬鹿で愚かなことをわかっていた。
でも王妃殿下はエレナはいつか自分で何かをやらかして自滅すると思っていたんじゃないかな?
だからその時を待ったんだと思う。
それがベレッタの事件だった。
その時に王妃殿下はエレナが自滅するのを手伝ったということかな」
「っ!…」
私はジークハルト様の話を聞いてクラクラしてきた。
王妃殿下はギルバード様に近付く女性たちが気に入らなかったの?そこまで偏執的にギルバード様を愛していたのかしら?
「大丈夫か?」
私の隣に座るフィンレルが私の手を握り心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「ええ、ビックリしているだけ大丈夫よ」
私はフィンレルの心配そうに揺れる水色の瞳を見つめて微笑む。
フィンレルが私の手をキュッと握りながらひとつ頷く。
「…そうですの…ではわたくしが側妃にと推したからキャロのことも気に入らなかったということかしら?」
アンジェリカはキャロライナ様に申し訳ないと思っているのか、悲痛な顔になっている。
ジークハルト様がそんなアンジェリカを気遣って肩に手を回して引き寄せる。
「それももちろんあるな…王妃殿下はアンジェのことは陛下が気に入って可愛がっていると思っていたからね」
「えっ?陛下はわたくしにあまり近寄らず、最低限の会話しかしたことがござきませんよ。
当時はわたくしのことを気に入ってらっしゃるようには到底見えませんでしたけど?」
アンジェリカが首を横に振りながら、ジークハルト様の言葉を否定するようなことを言う。
「そうだな…だが王妃殿下はそう思い込んでいらっしゃったみたいだ。
だけど王妃殿下はキャロライナ様自身のことも気に入らなかったんではないかな?
実は陛下からお聞きしたのだが、ギルバード様の側妃候補にはキャロライナ様だけではなく王妃殿下が推していた令嬢もいたらしいんだ。
だが、陛下はキャロライナ様を選んだ。
それはキャロライナ様が身分も申し分ないし、それにキャロライナ様自身がとても優秀だったからだ」
「王妃殿下は自分の推している令嬢じゃなくわたくしが推していたキャロが選ばれたから、キャロを排除しようとしたということ?」
アンジェリカが側にいるジークハルト様の顔を見上げる。
「というか、王妃殿下は自分が陛下が気に入っていると思い込んでいる令嬢のことが全員気に入らなかったんじゃないかな?」
「えっ?」
アンジェリカがジークハルト様に聞き返すように声を上げた。
「陛下がアンジェ、キャロライナ様のことを気に入って可愛がっていると思ったから王妃殿下は二人を気に入らなかったと思う。
例え自分が推している令嬢が側妃に選ばれてもその令嬢が陛下に気に入られてると王妃殿下が思えば同じことになっていたと思うよ」
えっ?王妃殿下はギルバード様を盲目的に愛しているからギルバード様に近付く女性が気に入らなかったのではなく、陛下がその令嬢たちを気に入ってると思ったから気に入らなかったの?
「ですが、ギルバード様のお子様が生まれることは必須ですわよね?」
私がジークハルト様に聞く。
「ああ、普通はね。
だけど王妃殿下は自分の息子の子、自分の血が繋がった王家の血を絶やさないことより、陛下が気に入る令嬢を排除することの方が大事だったんじゃないかな?
それほど王妃殿下は陛下ただ一人だけに執着していると言える。
これは陛下からお聞きしたから事実だろう。
王妃殿下は昔から陛下にかなり執着していたそうだ。
ギルバード様を盲目的に愛して甘やかしていたことは事実かもしれないが、王妃殿下にとってはギルバード様より陛下なんじゃないかと私は思う」
今までの王妃殿下の話を聞いていて、ジークハルト様の話が本当だとしたら、そこまでしてしまうその恐ろしいまでの執念とも言える陛下への執着が怖くなってくる。
フィンレルが私を心配して肩を抱き引き寄せる。
私はフィンレルの背中に自分の腕を伸ばして、フィンレルにさらに近づいていく。
今フィンレルの温もりが私を安心させてくれる。
「ジークそれでそのお話がどうして今回のわたくしたちの襲撃とキャスとラファを攫おうとしたことに繋がりますの?」
アンジェリカは顔色を悪くしているけど、ジークハルト様に話の続きを促した。
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