怒れるおせっかい奥様

asamurasaki

文字の大きさ
119 / 143

百十六話 事件の真実 ②

しおりを挟む



「私はギルと幼い頃からよく会っていた。

 当然ギルとアンジェが婚約した時やその後のことも側で見ていたからよく知っている。

 ギルは最初からアンジェを苦手にしていたが、私たちがどれだけ諌めて宥めても、アンジェ自身をを決して見ようとはしなかったんだが、そういうことがあったという訳なんだ。

 だけどギルがいくら王妃殿下にいろいろと言われたとはいえ、王妃殿下の言うことだけを信じ込んでしまった自分が悪かったんだと言っていた。

 確かにギルの言う通りだが幼かったギルが母上である王妃殿下のことを疑うことなく信じ込んでしまうことはある意味仕方なかったと思うんだ」

 フィンレルがギルバード様のことを眉間を寄せて辛そうに話す。

 そうだよね、いくら王子という立場であっても、幼いギルバード様はお母様である王妃殿下の言うことが正しいんだと信じるわよね。

 それでギルバード様は余計アンジェリカを疎んじて蔑ろにしていたのね。

「そうだったのですか…」

 アンジェリカが複雑な表情になる。

 ギルバード様のことを聞いて複雑な気持ちになっているんだろうけど、今更真実を知ってもね…。

「まあこれは私の推測なんだが最初王妃殿下はアンジェのことを気に入らなかったけど、ギルバード様との婚約を壊すことまではするつもりはなかったんじゃないかな?

 王妃殿下はアンジェを気に入って可愛がっているように見せて、アンジェを王宮内で誰も味方がいない状態にして、自分だけをアンジェが頼りにするように仕向けて、御し易くして自分の思い通りに動く人形にしたかったんじゃないかと…。

 でもアンジェはそんな達じゃなかった、アンジェは例え孤独でも自分一人でも立ち向かえる人間だった。

 そして私や他の貴族令嬢たちを味方につけていった。

 そこは王妃殿下の予想が外れたんじゃないかと私は思っている。

 結果あの卒業パーティーのことがあってギルバード様とアンジェの婚約は白紙になり、ギルバード様はエレナと結婚した。

 でも王妃殿下はエレナのことはアンジェ以上に気に入らなかったんじゃないかな?

 王妃殿下はエレナが馬鹿で愚かなことをわかっていた。

 でも王妃殿下はエレナはいつか自分で何かをやらかして自滅すると思っていたんじゃないかな?

 だからその時を待ったんだと思う。

 それがベレッタの事件だった。

 その時に王妃殿下はエレナが自滅するのを手伝ったということかな」

「っ!…」

 私はジークハルト様の話を聞いてクラクラしてきた。

 王妃殿下はギルバード様に近付く女性たちが気に入らなかったの?そこまで偏執的にギルバード様を愛していたのかしら?

「大丈夫か?」

 私の隣に座るフィンレルが私の手を握り心配そうに私の顔を覗き込んできた。

「ええ、ビックリしているだけ大丈夫よ」

 私はフィンレルの心配そうに揺れる水色の瞳を見つめて微笑む。

 フィンレルが私の手をキュッと握りながらひとつ頷く。

「…そうですの…ではわたくしが側妃にと推したからキャロのことも気に入らなかったということかしら?」

 アンジェリカはキャロライナ様に申し訳ないと思っているのか、悲痛な顔になっている。

 ジークハルト様がそんなアンジェリカを気遣って肩に手を回して引き寄せる。

「それももちろんあるな…王妃殿下はアンジェのことは陛下が気に入って可愛がっていると思っていたからね」

「えっ?陛下はわたくしにあまり近寄らず、最低限の会話しかしたことがござきませんよ。

 当時はわたくしのことを気に入ってらっしゃるようには到底見えませんでしたけど?」

 アンジェリカが首を横に振りながら、ジークハルト様の言葉を否定するようなことを言う。

「そうだな…だが王妃殿下はそう思い込んでいらっしゃったみたいだ。

 だけど王妃殿下はキャロライナ様自身のことも気に入らなかったんではないかな?

 実は陛下からお聞きしたのだが、ギルバード様の側妃候補にはキャロライナ様だけではなく王妃殿下が推していた令嬢もいたらしいんだ。

 だが、陛下はキャロライナ様を選んだ。

 それはキャロライナ様が身分も申し分ないし、それにキャロライナ様自身がとても優秀だったからだ」

「王妃殿下は自分の推している令嬢じゃなくわたくしが推していたキャロが選ばれたから、キャロを排除しようとしたということ?」

 アンジェリカが側にいるジークハルト様の顔を見上げる。

「というか、王妃殿下は自分が陛下が気に入っていると思い込んでいる令嬢のことが全員気に入らなかったんじゃないかな?」

「えっ?」

 アンジェリカがジークハルト様に聞き返すように声を上げた。

「陛下がアンジェ、キャロライナ様のことを気に入って可愛がっていると思ったから王妃殿下は二人を気に入らなかったと思う。

 例え自分が推している令嬢が側妃に選ばれてもその令嬢が陛下に気に入られてると王妃殿下が思えば同じことになっていたと思うよ」

 えっ?王妃殿下はギルバード様を盲目的に愛しているからギルバード様に近付く女性が気に入らなかったのではなく、陛下がその令嬢たちを気に入ってると思ったから気に入らなかったの?

「ですが、ギルバード様のお子様が生まれることは必須ですわよね?」

 私がジークハルト様に聞く。

「ああ、普通はね。

 だけど王妃殿下は自分の息子の子、自分の血が繋がった王家の血を絶やさないことより、陛下が気に入る令嬢を排除することの方が大事だったんじゃないかな?

 それほど王妃殿下は陛下ただ一人だけに執着していると言える。

 これは陛下からお聞きしたから事実だろう。

 王妃殿下は昔から陛下にかなり執着していたそうだ。

 ギルバード様を盲目的に愛して甘やかしていたことは事実かもしれないが、王妃殿下にとってはギルバード様より陛下なんじゃないかと私は思う」

 今までの王妃殿下の話を聞いていて、ジークハルト様の話が本当だとしたら、そこまでしてしまうその恐ろしいまでの執念とも言える陛下への執着が怖くなってくる。

 フィンレルが私を心配して肩を抱き引き寄せる。

 私はフィンレルの背中に自分の腕を伸ばして、フィンレルにさらに近づいていく。

 今フィンレルの温もりが私を安心させてくれる。

「ジークそれでそのお話がどうして今回のわたくしたちの襲撃とキャスとラファを攫おうとしたことに繋がりますの?」

 アンジェリカは顔色を悪くしているけど、ジークハルト様に話の続きを促した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

分厚いメガネを外した令嬢は美人?

しゃーりん
恋愛
極度の近視で分厚いメガネをかけている子爵令嬢のミーシャは家族から嫌われている。 学園にも行かせてもらえず、居場所がないミーシャは教会と孤児院に通うようになる。 そこで知り合ったおじいさんと仲良くなって、話をするのが楽しみになっていた。 しかし、おじいさんが急に来なくなって心配していたところにミーシャの縁談話がきた。 会えないまま嫁いだ先にいたのは病に倒れたおじいさんで…介護要員としての縁談だった? この結婚をきっかけに、将来やりたいことを考え始める。 一人で寂しかったミーシャに、いつの間にか大切な人ができていくお話です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

処理中です...