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十話 国王、現地に立つ
しおりを挟む話し合いを終えて部屋を出たらミラン、ケングレット、アルフが同行したいと言い出した。
部屋の中にみんな居ることを許可したからどういう状況か知っているはずで言ってくるだろうとは予想していたけど、ケングレットとアルフはいいにしてもミランは…
「ミランはやめておいた方がいいわ。今までの比じゃないくらい魔物が大量にいるのよ。
スタンピードで魔物たちは興奮状態でいつもより凶暴になってるの。
それにこちら側も怪我人がたくさん出ているかもしれない。
そんなところへミランを連れて行きたくないわ」
今のところ死者の報告はない。
けど、悲惨に違いない現場をミランに見せてしまうのが心配だ。
「わかっております!でもそれはお嬢様も同じではありませんか!お嬢様だけを行かせるなんて私には考えられません。
お嬢様の為なら何でもしますから、私にも何か出来るはずです!足手まといにならないようにしますから、連れて行って下さいませ!お願いします」
「…」
俺がう~んとミランの気持ちを考えて逡巡していると
「ミランも補助でリリアナの防御壁を強化する等、役目はあるぞ!良い!一緒に行こうではないか。ワシがミランの側についていてやる!」
ミランの覚悟の言葉にゲオングじいさんの一言に俺は「わかった」と頷いて即決した。
ミランは気合いを入れるように両拳を握った。
ミランに想像出来るあんな現場を見せることに不安を感じるが、連れて行かないとせっかく自信を取り戻したミランがまた自信を失くしてしまうかもしれない。
どちらかを?となり俺はミランを連れて行く方を選んだ。
ゲオングじいさんがついてくれているしな。
俺たちはすぐに準備して馬にまたがり現場に向かった。馬で駆けて1時間半くらいで到着した。
馬上から見るとまだ前方のかなり離れた所だけど、今まで見たことがない数の魔物たちが群がるように兵士たちに突進していっている。それに交戦している兵士たちや負傷して後方に下がっている兵士たち、地面にはたくさんの魔物の死骸が転がっていて、魔物特有の青い血と人間の赤い血が地面に滲んでいて、交戦している地面は瘴気に侵されて黒くなっている所も少なくない。
獣臭と血の独特の匂いもしてくる程の惨状に思わず顔を顰めてしまい心臓がドクンッとなった。
今、騎士や魔術師が手薄と聞いたが、それでもさすが公爵家と言うべきかそれでもかなりの数いてもう到着している冒険者たちもいて一緒に戦ってくれている。
俺は目の前の光景に前の世の戦の記憶が甦ってきた。
倒しても倒しても永遠に溢れてくるように敵が襲いかかってきて全身に返り血を浴びながら鬼になり必死に剣を振るう俺。
目の前で自分の臣下たちがどんどんと倒れていった戦場。
敵は魔物ではなく、自分と同じ人間だった。
魔物も生き物だが、同じ人間を斬るということにずっと痛みを感じていた。
相手は敵で倒さないと自分が倒される。
わかってはいたけど、敵の人間たちにも愛する者、家族がいると思うと後味は決して良くなかった。
早く戦を終わらせる為に自ら望んで戦場に出たが、自分が斬った者たちを夢で見ることは何度もあった。
しばらく呆然としていたが、ハッと我に返った。
前の戦の方がもっと悲惨な現場などいくらでもあったではないか!今、平常心を失くしてどうする!と俺は自分を叱咤する。
ふとミランのことが心配になり、後ろから同じように馬に乗ってついて来ているミランを振り返り見ると、侍女で今まで私たちと魔物を討伐したことがあるとはいえ、こんな魔物討伐の現場なんて初めて見るであろう光景に顔色が青くなり顔を引きつらせているが、しっかりと馬の手綱を引き現場から目を逸らすことなく見ている。
「ミラン大丈夫か?」
「はい!お嬢様!」
顔を引きつらせながらも元気そうな声が返ってきた。
ゲオングじいさんもずっとミランの側にいてくれると言ってるし、とりあえずは大丈夫だろうか…
馬から下り馬を兵士に預けたゲオングじいさんがすぐ隊長だろうか背の高い水色の髪のガタイの良い男に向かって行った。
俺たちもゲオングじいさんの後に馬をおりついて行く。
ゲオングじいさんと水色の髪の男が少し話をしてすぐ
「今から防御壁を張る!私が前方に全体魔法を放ったら目の前の敵だけを倒しすぐ後方30メートル退避しろ!」
水色の髪の隊長だろう男が大声を上げる。
命令により交戦していた兵士たちが全体魔法攻撃の後、すぐに後退したところで
「リリアナ今じゃ!」
大きく手を広げ準備していたところにゲオングじいさんに言われてこちらと魔物の間に大きく光の防御壁を張るイメージで両手を広げ前に向けた。
白い光が俺の手の平からビカッと出て透明に近い薄い白の大きな防御壁が出来た。ブラングドンの飛行の高さも考えてこちら側にこれない程の高さになったと思う。
魔物たちは興奮状態でこちらに突進してくるが、防御壁にぶつかり跳ね返される。
防御壁にぶち当たった魔物たちは弾き飛ばされ、まるで全身に電気が走ったように身体を痙攣させのたうち回っている。けど、それでも興奮状態だからか次々と魔物たちは突進してきては同じような状態になっている。
成功したようだ。
兵士たちは統率されていて後退するのもスムーズだった。
光属性は魔物たちの一番の弱点だ、防御壁だけでは魔物が死ぬことはないが、それでもダメージは与えられる。
何度も壁に当たっているとダメージは増えていくからかなりの効果があるようだ。
「おぉ、光属性の防御壁だ!」
「す、凄い…魔物たちがのたうちまわっている!」
「何という大きい防御壁…こんなの見たことがない…」
「こんな防御壁を張れる光属性魔法の使い手がいたなんて…」
「えっ?無詠唱だったよな?」
「嘘だろ!少女が…」
「まさかあの少女が…」
「あの髪はもしかして…」
「えっ?えっ?…」
場がザワザワとしている。
無詠唱で魔法を使える者は少ないとゲオングじいさんから聞いていたが、予想以上にザワつかせているようだ。
しまったな、無詠唱だとバレてしまった。
詠唱するフリをすれば良かったかな。
でもそうすると防御壁を張る時間が遅くなるから現場を見てそこまで考えてなかった。
「みなの者、落ち着け!今から作戦をワシが話す」
ゲオングじいさんが言うと水色の髪の隊長らしき男とゲオングじいさんの周りに兵士たちがワラワラと集まってきた。
そしてまだ到着していないらしいS級冒険者ラルフが到着したらまず見張り役となるブラングドンを倒してラルフや他、隊長など魔力の高い者たちを中心に囮で魔物を引き付けてから俺たちがゼノンの目眩まし魔法を使いながら走り瘴気の沼に着いたら聖魔法で瘴気の沼を消す。
俺と一緒に沼へ向かう者たちは俺を中心にゼノンも含め魔術師たちと騎士たちでが円というより変形四角形のような形で俺を真ん中に囲むように走って移動する。
俺は魔力が高いから瘴気の沼を消すまでは攻撃するなとゲオングじいさんに言われた。魔法を使って攻撃すると余計に狙われるかららしい。
今までゲオングじいさんに魔物討伐に連れて行ってもらった時は魔物はより魔力の多い者に反応していたが、それでも自分との実力差を判断する能力があり、魔力の多い者を警戒する理性があるようだったが、スタンピードの興奮状態だとそれがなくなるらしく魔力の多い者に束で襲いかかってくるらしい。
俺が瘴気の沼を消した後、空に向かい合図の炎の玉を魔術師の一人が放ってから両方から挟み打ちで総攻撃して一気に残ってる魔物を叩く作戦をゲオングじいさんが告げた。
S級冒険者のラルフもやってくることに兵士たちは驚いてそして興奮しているようで口々にラルフのことを話す兵士たちの声が聞こえてくる。
「あのS級冒険者がくるのか!」
「S級冒険者のラルフといえば、Sランクドラゴンを1人で討伐したという…」
「S級冒険者ラルフを見れるなんて!」
「火魔法も凄いらしいが雷魔法の最上級も使えるんだよな!見れるかな?」
ゲオングじいさんと話してた隊長が俺に向かってくる。
「ハーベント公爵令嬢、失礼ながら先にご挨拶申し上げます。初めまして、私はこの現場の隊長をしておりますハーベント領魔術師団団長のシュテフ・ロッドランドでございます」
隊長のシュテフが俺を見下ろしながら無表情で挨拶してきた。
短髪の水色の髪に同じ色の綺麗な瞳をした精悍な顔をしている。
「リリアナ・ハーベントでございます。
隊長様ご苦労様です。ここまで誰一人死者を出すことなくみなをまとめて下さり感謝します」
俺の言葉に隊長は眉をピクッとさせた。
これだけの状況で怪我人は多数出ているようだが、誰も死者を出していないことはこの男が討伐に慣れ統率者として優秀である証拠だ。
俺が素直に称賛したから驚いたのだろうか?
「もったないお言葉有り難き幸せにございます。こちらこそ素晴らしい防御壁を張って頂き感謝致します。
部下を休ませることが出来ます」
こういうもろ軍人タイプは本当に感情を表に出さないんだよな。
「引き続きよろしくお願いします。
わたくしも自分の任務をちゃんと遂行してみせます」
「こちらこそ聖魔法の使い手がいて頂き大変助かります。よろしくお願いします」
隊長と挨拶を終えると
「えっ?本当にハーベント公爵令嬢か?」
「今、聖魔法の使い手って隊長言った?えっ?えっ?」
「う、美しいな…」
「あ、あんなに美しかったか?」
「えっ?で、デブじゃなかった?別人?」
など口々に聞こえてきたが、俺は気にせず
「冒険者が全員到着するまでどのメンバーでいくかゲオング様と隊長様で決めて下さい。それまで後方で負傷をしている人たちはわたくしが治療魔法をかけます。
後の方たちは体力と魔力を温存して下さい」
俺はそう言うと負傷している魔術師や騎士たちの方へ向かう。
重症と見られる者もみるみるうちに傷がすべて消えていったから凄く驚かれた。
隊長の判断か優秀な者たちが多いのか重症者の数が少なく、俺は軽症の負傷者にもどんどん治療魔法をかけていった。
ハーベント領の魔術師団には光属性魔法を使える魔術師が一人いるらしいが、魔力を温存してもらう為に俺が負傷者全員に治療魔法をかけた。
全員の治療が終わっても俺自身何ともなくまだ魔力が十分あることを確信し膨大な魔力を持っていることに感謝する。
元々のリリアナがそうだったのか、ウルヴァランのお陰かはわからないが。
素直に『ウルヴァランありがとう』お礼を言っておこう。
みなの治療が終わり、ゲオングじいさんの元に戻ると、俺と共に瘴気の沼に走るのはケングレットとアルフ、そして邸にきた目眩まし魔法が使えるゼノンや他魔術師や騎士たち13人編成で俺を真ん中にして移動することになった。後方は囮になる魔力の多い隊長や魔術師と冒険者たちと聞かされた。
そんなに多くない者たちで瘴気の沼に向かうのはなるべく固まって移動して、指示が届きやすい方がいいというゲオングじいさんの判断だ。
チラホラいる冒険者たちも魔力量が高い者が多いみたいだ。
一緒に瘴気の沼に向かう兵士たちに挨拶する。
兵士たちは隊長の前もあり、背筋を伸ばし挨拶をしてきて俺に余計なことは言ってこなかった。
後は残りの冒険者待ちになった。
もちろんS級冒険者ラルフもだ。
昼近くになってどんどんと冒険者たちが集まってきた。
冒険者たちはみな俺やミランを見て驚いた顔をしているが、俺が光属性魔法が使えて目の前の防御壁を張ったことと聖魔法も使えることを周りから聞かされ俺のことをチラチラ見てるが、何か言ってくる者はいなかった。
しかしまだラルフというS級冒険者が来ていない。
魔物の数はここでは目視でもすべて確認出来ないが、先程の報告の1000以上はいるだろう。
防御壁に何回も突進してきて動けなくなっている魔物も相当数いるが、それでも魔物の数は増えていっている。
時間が経っても俺が張った防御壁はまったく問題ないようだが、邸を出る前に聞いた時はDランクのゴルウルフやドロスネイクだけだったが、今見ると数は少ないがCランクの動物のサイのようなイグニスゴルゴンやウェントスウルフ、イグニススネイクも出てきている。
魔物はランクが上がると属性を持っていて、身体の周りに属性の色が出ていたり、身体に属性の色が表れる。
ランクの低い魔物は全身黒いが、属性を持っている物は身体の周りに煙のような属性の色を纏っている。
ランクが高い魔物になるにつれ、身体に属性の色が出てくるようでSやAランクとなると全身が属性の鮮やかな色の身体をしている。
SやAランクの魔物はまだ実際に見たことがなく、図鑑で見ただけだ。
属性の色はイグニス(火)赤、アクア(水)青、ウェントス(風)緑、フムス(土)、オブス(闇)黒、ルークス(光)白、グラシアス(氷)は水と同じ青、トニトルス(雷)青みががった銀
魔物に光属性の物はいないから白い物はいないし、すべての魔物は闇属性と言えるので通常黒い身体をしている。
Sランクのドラゴンは金や銀の綺麗な身体をしている。
Sランクのゴールドドラゴンとシルバードラゴンは光以外の全部属性を持っているからか金と銀の鮮やかな身体らしい。
Sランクとなると物理攻撃はほぼ効かず、属性魔法に対しても耐性があり、属性の強力な最上級魔法しか効かないらしい。
そのSランクといえど光属性が唯一の弱点であるが、光属性でも強力な最上級でなければ一発出倒すのは難しいらしい。
Sランクの魔物はほとんど出現しないと言われているが、それでも出てきたら優秀な魔術師が20人ががりでもなかなか倒せない程の強さらしい。
そのSランクの魔物を一人で倒せるラルフはどれ程の力を持っているのだろう?
Aランクの魔物たちは全身属性の色の身体をしている。
Bランクの魔物は黒と属性の斑模様をしていて身体でランクと属性の判断が出来る。
属性を持っている魔物の方が物理攻撃に耐性があり身体能力も高いのでランクが上になる。
属性があるからその属性の逆の魔法が効きやすいという弱点もあるが。
今はCランクの属性を持っている物たちなので黒い身体の周りに属性の色のもやのような物を纏っている。
遅くなればもっと強い魔物たちが出てくるかもしれない。早くしなければならないが、確実に作戦を成功させる為にはラルフを待った方がいい。
焦りは禁物だ。
「リリアナ様大丈夫ですか?」
ケングレットが隣に立ちながら気遣わしげに聞いてくる。
「ん?魔力は全然大丈夫よ」
「それはわかってます。貴方様の魔力量は化け物並みに無尽蔵にありますからね」
「化け物並みってそれ褒め言葉ではないわよね」
笑いながらケングレットを見上げると
「相手は魔物ですが、ここは貴方様の嫌いな戦場です…」
ケングレットが声を潜めて言った。
なるほど戦を思い出してるだろうと心配してくれてるのか。
「大丈夫よ。
そんなに柔じゃないわ!もっと悲惨なものを見てきたから…」
「…そうですか…何かあれば何でも私に言って下さい」
ケングレットは真摯な藍色の瞳を向けてくる。
「フフッ、ありがとう。今から一緒にあの魔物の群れを突っ切っていくんだからね、ケングレットのこと頼りにしてるわよ」
俺が微笑むとケングレットは一瞬フッと目を逸らした。顔が赤くなったような…
「…もちろんどんなことがあってもリリアナ様をお守りします」
「無理はしないでね。ゼノンの目眩まし魔法があるから沼を消すまでは魔物を刺激しないように私たちから仕掛けないようにしないといけないからね」
「はい。リリアナ様が狙われても必ずお守りします」
遠くから馬が駆ける音が聞こえてきて俺はその方を向く。
まだ遠くなのでケングレットは気付いてないようだ。
俺はそういう部分も敏感なのだろう、長く戦の中を生きてきたから敵味方の位置を探るのにより神経質になるのが、癖になっていたからな。
「リリアナ様?」
「あっちから馬が駆けてきてる。
ラルフという冒険者かな?」
「わかるのですか?」
「前の習性だよ」
フッと俺は自虐的に笑う。
だんだんと大きく一頭の馬が近づいてくるのが見えてくる。
近づいてくるのが見えてきて、馬に乗っている者の黒髪が見えてきた。
風に靡き、獅子のたてがみのように黒髪が逆立っていて何だか勇ましい。
どんどんと近づいてきて日に焼けた面立ち切れ長の鋭い赤い瞳を持っていることがわかる。
その時に一瞬ある男の顔が重なった。
いや、そんなはずはない!
プラチナブロンドの髪に紫色の瞳のあの男の顔…
★★★
魔法や魔物の名称には英語とラテン語を使用してます。
混ざったものもありますが、設定としてご理解頂ければ有り難いです。
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