次こそは平和な世でのんびり気楽に生きていくつもりだったのに何でか悪役令嬢として生きていくことになってしまった!

asamurasaki

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五十六話 国王、王妃をお母様と呼ぶ

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陛下と王妃との面会の終わってから王妃に誘われお茶会を開くことになった。

王妃は最初からそのつもりだったようで、俺は王妃の私室に初めて招かれて入室した。
部屋にはすでにお茶会の準備が整っていて、テーブルの上には色とりどりのお菓子とお茶のカップが置いてあり、お茶を注いでもらえばすぐお茶会が始められる。

俺は今までより少し緊張していた。
俺がいくら王太子の婚約者で公爵令嬢であっても普通なら王妃の私室に入るなど考えられないからだ。

国王と王妃の私室は子供である王太子、王子、王女でも簡単に訪れることが許される場所ではない。
ちゃんと先触れを出して国王、王妃の了承がないといくら王族でも入室が許される場所ではないのだ。

そこに俺が呼ばれているのである。
王太子は今王宮にいないようだが、王太子に知られないようにする為であったとしても王妃の私室である必要はない。

この国では国王、王妃と子供たちである王太子たちは別の宮を住居としている。
国王と王妃が住んでいる宮は国王と王妃専属のメイド、従者、侍女たちがいて、
王太子たち付きの使用人たちはまた別にいる。
だから他の部屋でも王太子に知られる可能性が低いからだ。

それをどうして今回は王妃の私室なんだろう?と思った。
俺は王妃の意図を図りかねながら王妃に促されて王妃が着席した後に向かい合わせの椅子に座った。

王妃付の侍女が俺が着席してすぐ音を立てず、テーブルの近くまでやってきてカップに優雅にお茶を注いで下がっていった。

「リリアナ、わたくしと二人っきりよ。
リラックスしてちょうだい」

席について王妃がニコッと邪気のない笑顔を見せた。
俺の少しの緊張も見逃さない王妃はさすがである。

「王妃殿下、このような席を設けて頂き感謝申し上げます」

「ふふっ、リリアナは相変わらず礼儀正しくきっちりしているのね。
誰かとは大違いだわ。
まあ、比べるまでもないけれど…」

ん?誰かと大違いとは?
俺が首を傾げると王妃は意味ありげに微笑む。

「誰かとはベンヘルトがお熱を上げてる令嬢のことよ」

えっ?と声を上げそうになったのを堪える。
陛下も王妃もフローラとは決して会おうとしていないようで、デビュタント以降会ったという話は聞いていないけど。

「ふふっ、もちろんわたくしはあの令嬢とは会っていないわ。
会いたくもないし、けどベンヘルトと令嬢のことは逐一報告が上がってきていてわたくしもすべて聞いているわ。
礼儀もマナーもなっていないし、非常識なことをしているそうね!
本当に嘆かわしい」

さっきまで微笑んでいた王妃が眉を吊り上げて不機嫌な顔を顕にした。
王妃がこんな顔をするのは珍しい。
いつどんな時も表情を崩さない鉄壁の女性なのに。

「王妃殿下、どうされましたか?」

「あら、ごめんなさい。
わたくしとしたことが、顔に出すなどはしたなかったわね。
でも報告が上がってくる度にベンヘルトに対して落胆しているのよ。
まあ、その前からベンヘルトに期待することをもうやめてしまったけれど…リリアナという素晴らしい婚約者がいながら貴方を蔑ろにして、貴方に暴言を吐き、あの令嬢に懸想するなんてね。
もうわたくしの評価は地を這っているわ」

王妃は少し悲しそうな顔をしたけど、すぐいつもの微笑みになった。
あんなに王太子を溺愛していたのに今は自分の息子に対しての評価が地を這っているという。

「申し訳ございません。
わたくしが不甲斐ないばっかりに」

これは俺の本心でもある。
確かに王太子自身の問題であると思っているが、最初の頃は俺も王太子との関係をそれなりに良好に保とうと努力した。
あの初対面の俺を見た時の下品な笑みを向けられた時、気持ち悪いと思ったし、正直一国の王太子としてどうなんだと思ったが、それでもお互い恋愛云々の感情が湧かなくてもそれなりに良好な関係を築ければ、今までのリリアナの悲劇を起こらないよう避けることは出来ると思った。
リリアナとリリアの敵を取るんだと思ってはいるが、王太子の態度いかんでは穏便に済ませることも考えた。
でもやっぱりというか駄目だった。
王太子と会って数ヶ月で諦めてなるべく関わらないようになった。

「リリアナは何も悪くないわ。
貴方がどれほど努力していたか、わたくしは今までちゃんと見てきたし知っているわ。
悪いのはすべてベンヘルトよ。
わたくしが育て方を間違ったのよね」

王妃が溜息をつく。

「そんなことはございません。
わたくしなどが申し上げるのはおこがましいですか、第一王女殿下も第二王子殿下も優秀で素晴らしい方です」

あえて王太子がどうだということは言わないようにした。

「リリアナは優しいのね…
わたくし貴方に娘になってもらいたかったわ」

王妃が切なそうに俺を見る。
もう俺が王太子と婚姻することが失くなったのだと確信しているような言い方である。

「でもわたくしはどうなっても貴方をわたくしの本当の娘だとずっと思っているわ」

王妃が柔らかく俺に微笑みかけてくる。

「もったいないお言葉です」

「リリアナ、わたくしをお母様と呼んでくれませんか?」

王妃が切なそうに俺を見つめる。
心の底からそれを望んでいると俺は感じた。

「…お母様」

「ありがとう。
本当にごめんなさいね」

「そんな…殿下が謝ってはならないです!」

俺は少し声を大きく上げてしまった。

「いいのよ。
他に誰もいない…貴方だけですもの。
それにわたくしが本心で貴方に謝りたいんだもの。
リリアナ貴方には本当に申し訳ないと思っているわ」

そう言って王妃が俺に頭を下げた。

その言葉で態度て何故王妃が俺を私室に招いてくれたかわかった。
本当に俺に謝りたい、そして自分の娘だと思っているんだということを言葉だけでなく行動で示してくれたのだ。

「お母様…ありがとうございます。
わたくしのことをそこまで認めてくれ、わたくしにも愛をくれてわたくしは幸せ者です」

俺は感謝の言葉をあえて畏まらず、正直な言葉で伝えた。
王妃は瞳を潤ませて俺を優しい本当の母親のような眼差しで見てくれた。

「リリアナありがとう…」

俺も少し瞳の端に水分を感じた。
でも涙を流してはいけない!
俺は王妃から目を逸らさず見つめ返した。

「そろそろ今日貴方をお茶に誘った本題を言わなきゃね」

「本題、ですか?」

気を取り直して俺に微笑みかけながら言う王妃の顔を見つめて首を傾げると。

「ええ、わたくし今度学院の生徒たちの親、夫人たちを招いて交流会を開こうと思うの」

「生徒たちの親御様との交流会ですか?」

突然の話に俺は頭に疑問が浮かぶ。
王家は今までそういうことをしていたんだろうか?
俺の疑問がわかったように王妃はフフッと上品に笑う。

「そうよ。
今まで歴代の王妃がそういうことをしたということは残っていないわ。
あったかもしれないけど、そういう記録は残っていないのよ。

影からの報告でサイアン男爵令嬢がベンヘルトだけじゃなく他の婚約者がいる子息にも擦り寄っていっているのは知っているわ。
中には下位貴族の子息だけじゃなく少ないけど、高位貴族の子息の中にも懸想し始めている者がいると聞いているわ。
それはこれから大問題になりかねないわ。
それでわたくしがすべての生徒の親と会うことは難しいけれどもベンヘルトやリリアナと同じ学年の生徒の令息、令嬢の親、夫人を集めて交流会を開き、わたくしの考えを知ってもらおうと思っているの」

「といいますと?」

「リリアナと同じ学年の生徒の母親、夫人たちを身分関係なく何回かに分けて交流会と称して招待して、わたくしがさりげなくあの令嬢に懸想しかけている子息たちがいることを誰とわからないように伝えるわ。
そしてベンヘルトの婚約者はリリアナしか考えられないとお話するわ。
今後、例えそうならなくとも今はそれだけで十分伝わると思わない?」

なるほど!
王妃は交流会で生徒たちの母親を招いて王妃の意向を伝えようとしているんだ。
それだけで生徒たちの母親はどういうことか悟るだろう。
いくら王太子がリリアナを嫌おうとも蔑ろにしていようとフローラに懸想していようとも、王妃が王太子の婚約者はリリアナにしかいないと思っていると伝えることで、自分の子供たちがリリアナを蔑ろにしたり悪意を持って揶揄することは王妃が認めているリリアナを否定することだけでなく王妃のことも否定することになる。

そして自分たちの息子たちでフローラに懸想している者たちが、行ないを改めなければ王妃のひいては王家の反感を買うことになる。
それは息子のことだけでなく自分たちの家の評価も下がることになる。
夫人たちは自分の主人にも必ず話すだろうし息子たちに必ずキツく注意するだろう。

それは子息たち、特に婚約者がいる子息たちとその家に対する警告をすると意味だ。

王妃は俺や他の婚約者がいる令嬢のことを思って事を起こそうとしてくれているのだ。

「お母様ありがとう存じます」

「当然だわ。
リリアナはわたくしの大切な娘ですもの。
その娘が他の生徒たちに謂れのないことを言われるのは我慢ならないわ。
それに他の婚約者がいる令嬢たちにも事を荒げるような事はして欲しくないわ」

王妃が俺を見ながら飛びっきりの美しい微笑みを見せてくれた。

俺のことだけでなく今後起こるかもしれない事を懸念して他の令嬢たちのことも思ってくれている王妃に感謝した。
王妃も国を民を思う立派な為政者なのだと思った。

王妃とのお茶会を終えて帰る時にお父様も王宮での仕事を終えて帰るところで、
「少し待っていてくれ」と伝令が届き、俺はお父様と同じ馬車に乗って帰ることになった。

馬車の中でお父様に陛下と王妃との面会の話と王妃とのお茶会の話をした。

「王妃殿下はまともになられたんだな」

お父様、それ不敬だよ!
いや実は俺も昔は同じことを思っていたけど。

「お父様!」

俺がお父様を咎める顔をすると。

「ハハッわかっているよ。
ここでしか言わないよ!
王妃殿下から生徒たちの親に言ってもらうのは効くと思うな」

お父様が愉快だという顔をする。

「そうですね。
令息たちの親御様は戦々恐々となるでしょう。
特にサイアン男爵令嬢に懸想している令息は事情聴取され、キツくお叱りを受けるでしょう」

「そうだろうね。
馬鹿でなければ関わり合いを持たなくなるだろう」

お父様もかなり辛辣だな。

「そうですわね」

「それに王妃殿下だけでなく王宮で働く者たちの間では王太子殿下の評価はゼロどころではないよ」

お父様はニヤッと笑う。
お父様もこんな黒い笑いをするんだと思った。
でもお父様は俺とお母様のことがある前は外交の最前線で他国に赴き、他国の王族、大臣や文官たちと丁々発止のやり取りを繰り広げていた人なんだ。

俺はいつもお母様や俺を溺愛する優しく甘いお父様の姿を見慣れているせいか、お父様の黒い部分に少し驚き苦笑いする。

「…フフッ、あの馬鹿と脳が足りない小娘を早く叩き潰したいものだよ…」

俺はお父様が独り言のように小さく呟いた言葉が聞えていたが、聞えないふりをしてジョシュアたちの魔導具研究の話へと話題を変えた。




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