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五十八話 ルドルフside ②
しおりを挟む貴族学院の入学式で私は首席だったので、新入生代表として挨拶を学院の講堂の舞台の上で行なった。
歴代でも学院首席入学は王族が多い。
それは幼い頃から高度な教育を受け、学院を入学する頃には学院で学ぶべきものをすでに学び終えているのが、王族だからだ。
あの優秀な父上さえ、陛下に次いで次席だったという。
しかし王太子殿下はクラス分けでBクラスだったのだ。
今までから日頃の王太子殿下を見ていてもしかしたらSクラスは無理かもしれないが、それでもAクラスには入るのだろうと思っていたのにその結果に愕然とした。
こんなことがあっていいのだろうか?と思った。
いくら本当に成績が振るわなくても王族ならせめてAクラスに入れるべきでは?
忖度などなかったことにも驚いた。
その後のクラス分けで私は首席なのだから当然Sクラスだった。
私の婚約者のメリアンナもSクラスだった。
私の婚約者として当然だと思っていた。
しかし教室に入って私はまた驚くことになった。
そこにはハーベント公爵夫人と令嬢しか持っていない薄紫色の髪をした瞳はハーベント公爵閣下と同じ濃い紫色の瞳の少女がいたのだ。
あの7歳の時のお茶会とは別人のように痩せて瑞々しい白い肌をした美しい少女が席に座っていたのだ。
あの少女は本当にハーベント公爵令嬢なのか?
12歳になって体調が回復してから王都に戻ってきて王太子妃教育を開始したと聞いていたが、私は会ったことがなかったので、教室で彼女を見て驚き過ぎて口をポカンと開けてしばくボーッと立ち尽くしてしまったくらいだ。
ハーベント公爵令嬢は見た目も変わっていたが、中身もまったく別人ではないかというくらい違った。
今まで良い噂など聞いたことがなかったのに目の前の令嬢はいつも柔らかく微笑みを浮かべて、Sクラスには成績優秀な下位貴族の子爵令嬢や男爵令息がいるが、誰に対しても態度を変えることなく穏やかに接している。
授業も真面目でそしてとても優秀だった。
後で聞いたが、入学試験の次席は彼女だったという。
入学後、初めてのテストでは私を上回り彼女が1位だった。
とても驚きだった。
私より優秀な者がいることにも驚いたが、それがあのハーベント公爵なんて。
その後、私と彼女でずっと1位を争っていくのだが、こんなにも優秀だったのかと思った。
そして成績優秀者が生徒会役員となる。
私、ハーベント公爵令嬢、私の婚約者のメリアンナ、私と同じ側近候補のレアンドロ・カスティーニャ公爵令息の婚約者、テレサ・ミュクリード侯爵令嬢、あとは成績優秀者の伯爵令息、子爵令嬢などが所属した。
レアンドロは元々学術が苦手でクラスAクラスだったので、この段階では生徒会役員には選ばれなかった。
側近候補としては不十分と言わざるを得ないが、学術が苦手なレアンドロがAクラスに入ったことは上等ではないかと思った。
レアンドロは少々脳筋なところはあるが、剣の腕は確かで堅物であるが真面目で努力を惜しまない男だ。
そして王太子殿下だが、Bクラスで全然成績は振るわないが、生徒会長に指名された。
成績でいくと有り得ないが、生徒会はこれから国政を担っていく上で学院の運営に関わることはその予行演習とも言えるので、王太子殿下を生徒会に所属させることになったようだ。
それなら成績も何とかしてSクラスにすれば良かったのではないかと思ったが、
そこは忖度されなかったようだ。
今から頑張り成績を上げていけ!という陛下のお考えがあるのかもしれない。
しかし王太子殿下はこの生徒会の活動もまったくやる気を見せず、現れては生徒会副会長のハーベント公爵令嬢を罵倒して正論を言い返されて、憤慨して出て行くという有り様たった。
なので王太子が生徒会長だが、生徒会長抜きで残った面々で運営しているようなものだった。
本当に溜息も出ない。
私とレアンドロはしばらく王太子殿下の側近候補として側にお仕えしていたが、王太子殿下のあまりの酷い言動に嫌気がさしてきていた。
そんなある日、久しぶりに王都の邸に父上が帰ってこられて私に話があるとのことで応接室で父上と私の二人きりになった。
そこで父上から学院のことを聞かれた。
最初は躊躇していたのだが、すべて正直に話せと言われて私は王太子殿下の酷い現状についてすべて話した。
「はぁ~、やはりそうか…まあ王太子殿下はもういい。
ハーベント公爵令嬢はどうだ?」
「えっ?」
父上からハーベント公爵令嬢のことを聞かれると思っていなかったので、思わず声が漏れた。
でも考えてみれば彼女は王太子殿下の婚約者でいずれ王太子妃、そして王妃になる方だ。
父上が気にされるのも当然だ。
私はそう思い直す。
「ハーベント公爵令嬢はとても優秀でいらっしゃいます。
学術もですが、魔法学においてもいつもトップクラスです」
「そうだろうな。
ハーベント公爵令嬢は王太子妃教育でもあの完璧で厳しいと言われている王妃殿下も手放しで絶賛しておられる」
「えっ?そうなのですか?」
ハーベント公爵令嬢は王太子妃教育でも王妃殿下に絶賛される程であると?
あのお茶会の様子を見ていたから考えられないことであるけど、でも学院に入学してからの彼女を見ていると納得出来るものだ。
しかし彼女にいったい何があったというのだ?
そんなに人間は変わるものなのか?
私の疑問をすぐ悟った父上がふっと笑みを浮かべる。
「ハーベント公爵令嬢は体調を崩して領地で療養しておられたが、領地でも騎士たち魔術師たちだけでなく領民にも大変な人気なのだそうだ。
身分など気にせず、平民とも気楽に接しておられて困ったことがあれば、率先して現地に向かい問題を解決されていたそうだ」
「そうなのですか?」
私は驚きに目を見開く。
「ああ、ハーベント公爵令嬢は領民だけでなく陛下も王妃殿下も大変気に入っておられる。
陛下はベンヘルトにはもったいないくらいだとおっしゃっておられている。
私も何度かお会いしたが、素晴らしい才媛であるだけでなく肝が据わっていてあの方こそ王太子妃、王妃に相応しいと思っているよ」
私は父上の言葉に驚きで声も出せず父上の顔を見る。
ハーベント公爵令嬢は父上がここまでいう存在なのか。
「驚いて声も出せないようだな。
まあ仕方あるまい。
ルドルフ、お前は7歳のあのお茶会以来ハーベント公爵令嬢にお会いしていないのだからな。
しかしハーベント公爵令嬢は変わられた。
痩せられて見目が変わられただけではない。中身も公爵令嬢としてそして王太子殿下の婚約者として文句のつけようがないくらい成長されたのだ。
ハーベント公爵令嬢は王太子妃教育が始まってから王太子殿下に対しても努力されていた。
お前と同じようにな。
少しでも良好な仲を築こうとされていた。
それを拒んだは王太子殿下だ。
お前はとちらの方にお仕えしたい?」
父上がニヤッと少し嫌な笑いをされた。
「…もちろんハーベント公爵令嬢です」
私は正直に気持ちを伝えた。
王太子殿下の側近候補なのにという思いはあったが、今の王太子殿下にお仕えしたいとはどうしても思えない。
「そうだろうな。
私もだよ。
陛下と王妃殿下も素晴らしい方だが、ハーベント公爵令嬢はそれ以上になられる逸材だ。
ハーベント公爵令嬢とお前、そしてカスティーニャ公爵令息、テンペスト伯爵令息が中心となってこの国を担ってもらいたいと思っている」
「父上…」
初めて父上からこれからこの国を担って欲しいと言われた。
私は嬉しさもあったが、戸惑いと不安もある。
「しかし王太子殿下が…」
「ああ、そこは心配いらない。
第二王子殿下は非常に優秀な方だ」
父上は悪人顔ともいえる程、両方の口角をゆっくりと上げてにんまりとされた。
それは王太子には第二王子殿下がなると言っているようなものだ。
そんなこといくら宰相といえど、父上か言っていいことなのだろうか。
「父上!それは…」
私が焦って言うと。
「まだ可能性の話だ。
それにここにはお前しかいないからな。
しかしそうなるかもしれないからと言ってお前が側近にならないということではない。
陛下も私もお前やハーベント公爵令嬢には期待している。
ハーベント公爵令嬢はこの国になくてはならないお方だ。
ルドルフ!そのことをしかと刻みつけよ」
「父上承知しました」
「うむ、話は以上だ」
私は父上との話を終えて一人私室に戻った。
一人になりたくて従者にはすぐ下がるように言いつけた。
一人になって父上との話を思い返す。
父上だけでなく陛下も王太子殿下を見放すかもしれないんだ。
でもハーベント公爵令嬢のことはこの国になくてはならない存在とおっしゃれた。
私に王太子殿下ではなくハーベント公爵令嬢にお仕えするように言われたも同然だ。
私は今までに考えられなかったことを父上に言われて混乱しながらなかなか寝付けず朝を迎えることになった。
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