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五十九話 ルドルフside ③
しおりを挟む父上と話をしてから、私は王太子殿下の側に侍ることがなくなっていった。
その前から殿下は諌めたり苦言を呈するとすぐ不機嫌になり私やレアンドロに対しても暴言を吐いたりするのである。
いくら言っても聞いてもらえないことに自分の無力さも感じたが、殿下に対しての失望が大きかった。
そんな有り様だったから父上と話をして父上も殿下に期待していないことを知って殿下の側にいることが嫌になってしまったのだ。
それは同じ側近候補のレアンドロもそうだった。
いや、レアンドロはもっと前から王太子殿下に対して私よりあからさまに距離を取っていた。
レアンドロは昔から婚約者のミュクリード侯爵令嬢とよく揉めていたが、入学してまもない頃にミュクリード侯爵令嬢と揉めているところをちょうどハーベント公爵令嬢に目撃され、注意されてからミュクリード侯爵令嬢との仲を見直したようだった。
そしてハーベント公爵令嬢に対しても私よりだんだんと気安く話すようになっていたのだ。
それはレアンドロだけではなくミュクリード侯爵令嬢や私の婚約者のメリアンナも急速にハーベント公爵令嬢との仲を深めていっているようだった。
Sクラスの他の生徒たちも初めはハーベント公爵令嬢の前の評判を知っていて、遠巻きに見ているだけだったのが、月日が経つにつれ、みな気軽に会話するようになっていた。
そういう私も入学して初めての試験でハーベント公爵令嬢に負けてしまったことに悔しい思いもあったが。
「とても優秀と聞いているメッケンナー侯爵令息と1位を争えるなんて幸せ者だわ」
とハーベント公爵令嬢が屈託なく笑いながら言われて悔しいという思いよりも嬉しい気持ちの方が勝った。
「ハーベント公爵令嬢、次は私が必ず1位を取ってみせます」
「ええ、メッケンナー侯爵令息がいて下さって本当に良かったわ。
わたくしもより一層精進致しますわ」
と言われてハーベント公爵令嬢がとても眩しかった。
私もより一層精進せねばと思った。
そんな日々を過ごしていた入学して3ヶ月程経ったある日、大事件が起こった。
メッケンナー領で今までにない大規模なスタンピード、魔物の暴走が起こっていると朝学院にきたばかりの私に護衛が報告してきた。
護衛は焦りながらもそれでもなるべく表情を崩さず、父上がすぐにメッケンナー領に向かったことを報告してきた。
父上がすぐ領地に向かったくらいだ。
これは只事ではない。
私も学院にいる場合ではないと思い、すぐ学院長の了承をもらい学院を早退していったん王都の邸に戻った。
そこには母上がいて状況を聞いたが、最初から高ランクの魔物が数多く出現していて相当数の被害者が出ていると聞いた。
私も領地に向かうことを母上に告げると最初は「貴方はまだ学生だから危険だから駄目よ」と反対されたが、いずれは私が後を継ぐ領地なのだ。
後継者として何もせずにはいられないと言うとお母様は小さく溜息をついて。
「お父様もルドルフに来させるなとは言わなかったわ。
わかりました。
くれぐれも無理はしないように」
そう言って許してくれた。
父上が来るなとは言わなかった。
そのことを嬉しく思い、私はすぐに準備をして護衛たちと共に馬を走らせて領地へと向かった。
ほとんど休憩を取らず馬を走らせて1日かからず領地の現場に到着した。
簡易で作られた馬舎に馬を預けて父上がいる所へ向かう。
馬舎の近くには簡易テントがあり、負傷者たちがいた。
中には王国騎士団や王国魔術師団の制服を纏った者たちが怪我をして包帯を巻かれて蹲っていたりしているのを見ながら父上の元へ向かう。
自領の騎士たち魔術師たちだけでなく王国からも派遣されている我が国で一番優秀とされている王国騎士団、魔術師団たちも負傷していることにどれほど大規模なスタンピードなのだろうと緊張が走る。
「来たのか」
父上は厳しい顔をしながらも私が来たことを咎めなかった。
そのことにひと安心した。
母上から父上が私に来るなとは言ってなかったとは聞いていたが、「なぜ来たんだ」と叱責される覚悟もしていたからだ。
「はい。父上、状況はどうなのですか?」
「思わしくはないな。
最初からAランクのドラゴンなどが数多く出現している。
こんなことは初めてだ。
死者も出ているし、重症者、負傷者も増えていく一方だ」
父上は表情を変えないが、言葉で緊急事態なのだとわかる。
「そうですか…」
私は自分の領地に危機が訪れていることに緊張が高まる。
私には何が出来るのだろう?と思っているところに。
「お前は負傷者たちの救護室への案内と負傷者の把握をしろ」
「承知しました」
私は魔力が高く属性も水、風、土と三属性を使えるが、実践経験はほとんどない。
学院での魔法の基本的な授業と幼い頃からの訓練で領地でBランクくらいの魔物を倒したことはあるが、スタンピードの現場は初めてだ。
ここは父上の指示に従った方がいいだろう。
私が負傷者の簡易テントのところに行くと馬が止まる音が聞こえた。
見るとジョシュアだった。
数人の護衛と共にやってきたようだ。
「ジョシュア!」
ジョシュアは王国魔術師団長子息で一つ年下ながら私と同じ王太子殿下の側近候補で幼い頃から何度も会ったことがある。
ジョシュアは私より魔力が膨大で火、水、風、土の四属性が使える。
そしてさすが王国魔術師団長子息といえるほど魔法に関しては才能がある。
「ルドルフ~」
ジョシュアがまるで道端で会ったかのように私に声をかけて片手をブンブン振っている。
その緊張感のなさに苛立つが今はそんなことで文句を言いたくない。
「何故来たんだ?」
俺が不機嫌になりながら問うと。
「父上からメッケンナー領で大規模なスタンピードが発生して今から向かうと聞いたんだ!それで僕も行きたいって言ったら邪魔にならないなら良いと言われたから来たんだよ~。
ルドルフ何してるの?」
「負傷者の案内と把握の為にここにいる」
俺はジョシュアを見ずに負傷者たちを見ながら答える。
「そうなんだ~ここに治癒魔法が使える魔術師たちいないんだね」
ジョシュアがテントを見渡しながら言う。
「そうだな。
治療はされているが、治癒魔法が使える魔術師たちは元々少ないし、今現場で手一杯なんだろ」
私がジョシュアに向かい言ったところで父上の護衛が走ってやってきた。
「ルドルフ様!
ご主人様が戻ってくるようにと」
「わかった」
護衛に呼ばれて私は父上の元に戻っていく。
後ろからジョシュアもついて来ている。
「もうすぐラルフ殿たち冒険者が到着されるそうだ」
「えええ~ラルフってあの世界最強のS級冒険者のラルフ?!凄い!!」
父上の言葉にジョシュアが興奮して叫ぶように言う。
「ジョシュア知っているのか?」
「知っているの何も凄い人なんだよ!
Sランクの中でも最強と言われるゴールドドラゴンやシルバードラゴンは普通のS級冒険者だと5人以上で戦ってやっと倒せるくらいなのにラルフ様はたった一人で一発で倒せるまさに世界最強の冒険者なんだよ~嘘~会えるの?本当に?」
ジョシュアが熱く語ってくれたが、そんなに凄い冒険者が来てくれるんだ。
これは何かとかなるかもしれないと私は希望を持った。
父上はジョシュアの性格も把握しているので、ジョシュアを叱ることもなく沈黙を貫いている。
そして1時間くらい経った頃に、5人の冒険者らしき人たちがやってきた。
私はその一人を見て呆気に取られる。
年の頃は私とそう変わらない身長は私よりはるかに低い茶色の髪をした少女が一番前を堂々と歩いてやってきている。
おまけに赤い髪の男性と薄灰色の髪の男性はハーベント公爵令嬢の護衛と従者ではないか!
いったいどういうことだ?
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