ぼくらの森

ivi

文字の大きさ
10 / 122
第一章 はじまり

第10話 大先輩

しおりを挟む
 宿舎の裏口から中庭へ降りたタークは、あちこち歩き回りながら竜舎へ向かっていた。

 積み上げられた樽の裏、テーブルやベンチの下……宿舎と学舎に挟まれたこの中庭には、ブラッドウルフが身を隠せそうな場所がたくさんある。
 あんな魔界の化け物に、死角から飛び掛かられたらひとたまりもない。物音に怯えながら目についた箇所を探してみるが、侵入口らしきものは見つからなかった。

 そうしている間にも、宿舎の向こう側にある訓練場からは、切羽詰まったような怒鳴り声が絶えず聞こえてくる。

 「セロさん、大丈夫かな……」

 タークが心配したそのとき、突然まぶしい光が辺り一面を包みこんだ。咄嗟に腕を顔の前に構えて目を細めると、温かい光のなかで松明を掲げる大きな人影が見えた。

 「おお、おまえ。一人で何してるんだ、危ねえだろう」

 「はっ、はい!セロさんの指示で、ブラッドウルフの侵入口を探しています」

 ようやく眩しさに慣れ始めた目が、制服を着た背の高い男の姿を捉える。ちょうど曲がり角で鉢合わせたようだ。赤髪の男の背後には、他にも人の気配がする。

 あれ?そういえば、この人……。

 タークが違和感を覚えたのと同時に、男が思い出したように口を開いた。

 「セロ?ああ、あのディノの乗り手か……」

 何か言いかけた男が慌てて口をつぐむと、その場に気不味い沈黙が流れた。彼の周りにいた人たちも目を合わせてはうつむいたり、眉をしかめたりしている。
 まるで触れてはいけない話をしてしまったかのような彼らの様子に、タークは首を傾げることしかできなかった。

 しばらくして、はっと我に返った男がわざとらしく笑った。

 「ハハハ、まあ……おまえも大変だなあ?気難しいあいつの前じゃあ、落ち着いて飯も食えないだろう?」

 周りにいた人たちが「違いない」と同意して軽く笑っている。タークがきょとんとしていると、男がさっと話題を変えた。

 「なあ、さっきも言ったが。こんな物騒なときに一人で動き回るのは危険だ。ちょうどいいから、ここで二手にわかれよう。二年生の二人がこの子についてやれ」

 二年生と呼ばれた少年が二人、タークのそばに並んだ。寝間着姿の彼らは足をそろえて立つと、背筋をすっと伸ばした。

 「それじゃあ、頼んだぞ」

 「はっ!」

 威勢のいい返事をする二人を、タークは不思議そうに眺めていた。どうしてこの人たちは、こんなに堅苦しいのだろう。まるで、セロさんみたいだ。

 男と残りの学生たちが行ってしまうと、タークのそばにいた一人が呆れたようにたずねた。

 「君、まさかとは思うけれど……あの方を知らないの?」

 タークが頷くと、もう一人の少年が驚いたように目を見開いた。

 「左胸の紋章を見なかったのか?ドラゴンの刺繍が完成していただろう?おまえからしたら大先輩なんだぞ。きちんと姿勢を正すくらいしろよ」

 ああ、そうだったんだ。だからあの男の人は、こんな緊急時にも制服を着ていたのか。違和感の正体がわかり、タークは一人納得して頷く。

 それからしばらくして、彼は自分が偉い人に会ったのだと気づき、胸が高鳴るのを感じた。

 「あの人は、英雄さんなんですね!」

 目を輝かせて喜ぶタークに、少年二人はため息をついた。

 「ま、まあ……。もう、そういうことにしておくぜ」

 「さあ、そろそろ行こうか。早く侵入口を塞がないと、やつらがどんどん入って来るよ。でも、できる限り静かにね。こんな格好で襲われたら一環の終わりだよ」

 少年が警告をする一方で、タークは心の底からわくわくしているようだ。彼はこの学舎に来てはじめて、大きな任務を任された気がした。

 「はいっ、わかりました!」

 「シーッ!」

 タークの大声に、二人は慌てて人差し指を口の前にかざした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...