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2章:幽霊少女の願い
元気な少女の恩返し1
しおりを挟むリビングに呼ばれたゆうきは、あまりの静けさに不自然に思った。
和人はゆうきにいった。
『うちは騒がしいから、我慢してね』
と。
動物は黒猫のみおただ1匹しかみていない。
その気配すら、ゆうきには感じることはできず、和人の母親の存在も感じることはできなかった。
リビングは、和人の部屋のように綺麗ではなかった。
·····否、ある一部分だけが乱雑に物が散らばっていた。
机を囲むようにして置かれる座布団。
奥の段に置かれたテレビや古いゲーム機。
リビングから見えるキッチンには大きな汚れはなく、とくに綺麗にされていた。
赤いコートを着た女の人が寝転がっている周辺と机上に物が集中していた。
和人はその女の人に近づくと、肩を揺らした。
「母さん、起きたって言ったのに、もう寝たの?」
「うるっさいわねー·····起きてるっつーの」
女の人は焼酎の入ったグラスを片手に和人の手を払った。
「その人が、和人さんのお母さん?」
ゆうきは近づくと、お酒の匂いに頭をふらつかせながら尋ねた。
「ごめんね、さっき水を渡したはずなんだけど、すっかりできあがってるみたい」
「あんただれ?」
「お客さんに失礼だよ母さん」
「この家は私と和人と秋の家だー! わたしはそんな子供知らん」
ゆうきは和人の母親の「こども」という言葉に聞き捨てならない気持ちになった。
しかし、和人の肩に力が入ったことに気がついて、勢いを失った。
和人は「母さん」と今までにない低い声で呼ぶ。
「もうその話はやめよう」
それはとてつもなく冷めた声をしていた。
ゆうきの身体中の筋肉が弛緩し、背筋を凍らせた。
「和人怒ってんの?」
「怒ってないよ」
「和人、秋まだ帰ってこないの? いつ帰ってくるの? 明日? ていうか、なんでいないんだっけ」
「だからやめようって」
「あ、おかえり秋」
ゆうきを見つめながら、和人の母親は手を伸ばす。
先程ゆうきを家の者ではないの断言したことで、ゆうきはその手を怖いと感じた。
「わたし、秋ちゃんじゃないですよ·····」
ゆうきの言葉に、和人の母親は首を傾げる。
「嘘だあ、秋だよー。ほら、昔みたいにこっちにおいで? 嫌なことがあるなら言っていいんだよ?」
迫り来る手を掴むことができないゆうきは、和人に視線で助けを求めた。
和人は肩を震わせ、息を荒らげて、今から吐き捨てる自分の言葉の重みを確かめながら、ゆうきに迫る手を掴む。
「やめろって言ってんだろうが!」
和人は怒気をそのままに、重苦しい言葉を吐いた反動で肩を上下させていた。
普段の優しい笑顔からは考えられないほどの怒声を耳にしたゆうきは、信じられないというように手を口に当てた。
「和人·····痛い」
燃え盛る熱気と張り詰めた冷気が混同するような刺々しい空気に、和人の母親の声がした。
それは弱々しく、涙の海に浸った残酷なもののように、ゆうきは感じた。
和人はしばらく怒号の余韻に浸っていると、気がついだと言うように、自分の母親の手を離した。
やせ細っていた母親の手は、和人の握っていた部分が赤く手形が浮かび上がっていた。
和人は自分の過ちに気づいたように、母親を心配する。
「あの、お母さん·····大丈夫ですか」
さすがのゆうきも、破天荒な性格をそのままにしてはいられなかった。
「ごめん、今日は寝る·····おやすみ、和人」
和人の母親は、それだけを残して奥の部屋にいった。酒は机に置かれていた。
取り残された2人は罪悪感のような張り詰めた空気が漂った。ゆうきは自分がここにいてはいけないのだと、瞬時に悟った。
「あの、ごめんなさい。わたし、帰ります」
和人は俯いたまま、「ごめん」とだけ呟いた。
重々しい空気に、1匹の黒猫の鳴き声が響く。
ゆうきはその存在が、白猫さんであると確信するのにそう時間はかからなかった。
「白猫さん、ごめんね。今日は違うところで寝よっか」
ゆうきの頭の中には、何一つまとまった結論はなかった。
和人の私物。
母親の異様な様子。
秋という人の存在。
しかし、その答えを見つける好奇心より、大事にしたいものが、ゆうきにもあったのだ。
大切なものがあるからこそ、和人のそれを壊すようなことはしたくないとゆうきは決心する。
「また今度、一緒に来よう」
ゆうきの声はか細く、優しいものだった。
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