15 / 16
2章:幽霊少女の願い
元気な少女の恩返し6
しおりを挟む静けさ紛れて、鳥のさえずりが朝を知らせる。
泣き疲れて寝てしまった少女の世界に、また光が宿る。ゆうきが目覚めを悟った瞬間、視界に映る世界が不思議と新鮮に感じられた。
ふと思い返せば、たった1日のできごとだったけれど、体感では酷く濃密だ。
今日初めて見せる陽の光がゆうきを照らす。
時刻は午前7時。
焼けたパンの香りとハーブが薫る紅茶の香りがゆうきの腹を鳴らした。
「やっとお目覚めかな?」
キッチンからエプロンを脱ぎながら寄ってくる春に、ゆうきは反抗するように言う。
「やっとって、まだ7時だよー」
7時、というのは起床にちょうどいい時間だとゆうきは感じ取っていた。実際、団地で寝ていた頃もゆうきは同じくらいの時刻に起きていた。
「でもそっちの子猫ちゃんはお寝坊さんだねえ」
「白猫さんはお寝坊さんです」
ゆうきはあっさり認めてしまった。思わず、春が笑う。つられて、ゆうきも笑みをこぼす。
「じゃあ、朝ごはん作ってあるから食べておいてね。わたしはすぐに学校に行くから。食器は出しといてね」
早口でそういって、春はエプロンの下に着ていた制服の襟とネクタイを直してすぐに部屋を出ていった。
鍵は机に置いてあると言われたけれど、ゆうきはなんのことだか分からない。
ゆうきは用意されたパンを口に挟む。
味がしなかった。
パンが美味しくない訳では無い。焼き色も香りもトースターでレシピ通りに火を入れた良い香りがしている。
しかし、ゆうきは味を感じなかった。どんな味かも忘れているゆうきにとって、「不思議なものを口にした」という疑惑だけが残った。
腹に入れ終わったあと、ゆうきは白猫さんの分を残して皿を洗い始めた。次は割らないように、丁寧にやり遂げる。
終わったころには、もうすっかりと日が上がっていて、白猫さんも目を覚ました。
「おはよう、白猫さん」
白猫さんはゆうきの優しい声を聞いた。
「ああ·····おはよう」
夜、泣き疲れた少女の面影はどこにもない。
何かが吹っ切れて、決心をしたように柔らかい笑みをゆうきは浮かべる。
白猫さんも安心して、お得意の欠伸を1つ入れることにした。
「白猫さんに聞いて欲しいことがあるんだけど、いいかな」
白猫さんは寝起きで朦朧とする思考を巡らして、「ああ」と了承する。
ゆうきは白猫さんのごはんを用意し終えると、白猫さんに顔を近づけた。
「わたしね、恩返しがしたいの」
「恩返し?」
頭の回らず、思わずオウム返しをしてしまう白猫さんに、ゆうきは頷いた。
「和人さんは事情があるのにわたしたちを優しく受け止めてくれて、春さんも無理なお願いを聞いてくれた。だからわたしも、なにか一つだけでいいから、恩返ししたいって思ったの」
優しい人たちだった。
そういうゆうきこそが白猫さんは優しすぎるのだと思った。だからこそ、ゆうきのその暖かさを冷ましてはいけないと決心する。
「わかった」白猫さんは言う。
「いつもありがとうね」ゆうきが白猫さんの頭をなでる。
すぐに手放そうと思っていたこの関係を、白猫さんは心地いいと感じ始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる