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第二章【未来9歳/沙織21歳】
第23話 未来を、つむぐ。【未来9歳/沙織21歳】
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クリスマスツリーがキラキラと輝いていた。
私は手に大きな星を持って、とことこと部屋の中心にあるツリーへと向かうと、手を伸ばしててっぺんに飾ろうとした。
「…届かない」
「未来、ちょっと待っててね」
そう言うと、お父さんが私の両脇に手をそえて、「そらっ」っと上に掲げてくれた。
「わぁ、高いたかい!」
「おっとっと。未来、あんまり動かないでくれよ」
落としちゃう落としちゃう、と言いながらお父さんはそれでも私をしっかりと抱えてくれている。私は手を伸ばして、クリスマスツリーのてっぺんに金色の星を置いた。
「いい感じじゃない」
「えへへ…これなら、サンタさんも見つけやすいかな」
「きっとすぐに見つけてもらえるわよ…こんなに立派なツリーなんだから」
お母さんはそう言いながら、大きくなったお腹をそっと撫でていた。
優しい声。
聞いているだけで、胸の奥がぽぅっと温まるようだった。
「お父さん、おろしてー」
私が足をバタバタさせると、お父さんは「はいはい、待っててくれよ」と言いながら、私をそっと床におろしてくれる。
床の硬さを足に感じると、私はお父さんを置いてぱたぱたとお母さんの元へと走っていった。
「赤ちゃん、おっきくなってきたね」
「そうよー。すごいでしょ?」
お母さんは笑う。
うん。お母さんは本当にすごい。
テーブルの上には、包み紙でくるまれたプレゼントの箱が2つ置いてあった。
ひとつは、お父さんとお母さんが準備してくれた、私へのプレゼント。
そしてもうひとつは…
「私、プレゼント2つももらえるの?」
「ううん。未来へのプレゼントは、一つだけ」
「じゃぁ、こっちは誰のプレゼント?」
私が首をかしげると、お母さんは少し照れくさそうに微笑んだ。
「この子よ」
お腹にそっと手を触れる。
「まだ会えていないんだけど、もうプレゼントあげたくなっちゃった」
赤いリボンで丁寧につつまれた、小さな小さなプレゼント。
それは…まだ見ぬ私の…妹へのプレゼントだった。
「赤ちゃん、女の子なんだよね」
「そうよー…未来の妹だよー」
「えへへへへ」
私はお母さんのお腹に手をあててみた。あたたかい。この中に、私の妹がいるんだ。
「早く生まれてこないかなー」
「もう少し待っててね」
お母さんは笑いながら、私の頭をぽんぽんと叩く。
「未来は世界で一番のお姉ちゃんになれるよ」
「そうかな?」
「お母さんが保証してあげる」
私と沙織みたいになりたいんでしょ?と、お母さんは優しくいってくる。その言葉を聞いて、私もなぜか嬉しくなってきた。
頬を、お母さんのお腹にあてる。
暖かい。
お母さんの体温と、その奥に、もっと小さな、たしかな温もりがある。
「名前、もう決めてるの?」
「ううん。まだだけど…でもね、なんとなく、浮かんでいる名前はあるのよ」
「どんな名前?」
お母さんはお腹と、私の頭と、両方に手を添えながら、ゆっくりとひとつの言葉をこぼした。
「紬希(つむぎ)って、どうかな」
「つむぎ?」
「そう、紬希(つむぎ)」
なんかね、この子のことを思っていたら、自然とこの名前が浮かんできたの。私と未来、私とあなた、家族全員を優しく結んでくれるような、そんな感じの名前、と、お母さんが穏やかに言う。
「いい名前だね。未来と紬希、なんか、ちゃんとつながっている感じがするな」
お父さんが腰に手をそえて、少し考えながらそう言った。
私はもう一回、お母さんのお腹にほおずりすると、
「つむぎちゃん、こんにちは!お姉ちゃんだよー!」
といった。
私の声に、お母さんのお腹の奥から、ふわりと蹴り返されたような感覚があった。
お母さんが目を丸くして笑う。
「いま、動いた。未来に返事しているみたい」
「つむぎちゃん、すごーい!」
私は目をまんまるにして、大きな声で笑った。
クリスマスツリーの灯りが瞬いて、リビングを金色に照らしている。
窓の外では雪が舞い続けていて、静かな夜がしんしんと降りてきていた。
お母さんは目を閉じて、お腹をぽんぽんと叩いている。
「つむぎちゃんに会えるのはいつになるの?」
「そうね、来年の4月、未来が小学5年生になった時には会えるよ」
「楽しみだなー」
来年、私はお姉ちゃんになるんだ。
つむぎちゃんのお姉ちゃん。
もう、出会う前から、つむぎちゃんが愛おしくて愛おしくて仕方がない。
私はお母さんを見て、お父さんを見て、そしてまたお母さんのお腹を見て、いった。
「つむぎちゃん、早く会おうね。みんな、つむぎちゃんに早く会いたいって思ってるよ」
その瞬間、ツリーの星がゆらりと光ったような気がした。まるで、小さな奇跡がそこに舞い降りたかのように。
■■■■■
「メリークリスマス」
家の扉があいて、肩に雪を乗せた沙織さんが入ってきた。
「メリークリスマス!沙織さん!」
私は走って沙織さんを出迎える。
沙織さんの綺麗な黒髪にも雪がついていて、キラキラと輝いている。
「メリークリスマス、未来ちゃん」
沙織さんは優しくそう言ってくれた。
私は沙織さんの手をとる。冷たかった。
「沙織さん、手が冷たいよ!早く温まらなくっちゃ!」
私は手をぎゅっとにぎって、沙織さんを暖かい部屋のなかへと連れていく。沙織さんは笑いながら一緒についてきてくれていた。
「最近のサンタクロースは美女になったんだね」
「もう、姉さんったら」
「あはは。メリークリスマス、沙織」
お母さんは座ったままで、ひらひらと手を振っていた。その奥でお父さんが手に料理の皿を持ったまま、「めーりークリスマス」と言ってくれている。
雪をはらった沙織さんが椅子に座る。
手に、綺麗に包装された箱を持っていた。
「…これは?」
「メリークリスマス、未来ちゃん」
もう一度メリークリスマスって、言われて、私は沙織さんからその箱を渡された。
「クリスマスプレゼントだよ、未来ちゃん」
「わぁ…」
心が暖かくなる。私の全身に喜びが血液とともに舞いめぐる。
「開けていい!?」
「もちろん」
開けると、中から綺麗な万年筆が出てきた。
「すごーい!綺麗!」
「未来ちゃん、物書くの好きだから…」
漆と螺鈿で彩られた万年筆。小学生には早いものかもしれないけど…ずっと使ってもらったら嬉しいな、と、沙織さんが笑う。
「一生つかう!お墓までもっていく!」
「そんな大げさな…」
大げさなんかじゃない。
沙織さんからもらった初めてのプレゼントなんだもん。世界一の宝物なんだもん。
「沙織も、私と似たようなこと考えていたんだねー」
「姉さん?」
「ほら、未来。さっきあげた私たちからのクリスマスプレゼント、沙織に見せてあげて」
「うんっ」
そうこたえると、私は一冊の本を取り出した。
お母さんとお父さんからもらった、クリスマスプレゼント。
きれいな表紙で、しっかりとしたつくりの、中は真っ白な本。
「本もらったんだー!」
「ペンにしようかどうしようか悩んだけど、本にしてよかったよ」
沙織と被らなかったからね、と、お母さんは笑った。
「未来ちゃん、この前からずっと、小説家になりたいって言っていたもんね」
「えへへー。わたし、小説家になって、有名になるんだー!」
「頑張ってね」
「みててー」
嬉しい。
沙織さんもお母さんもお父さんも、私の言葉を覚えてくれている。私のこと、いつもたくさん見てくれている。
「つむぎちゃんにも早くみてもらいたいね」
「つむぎちゃん?」
「うん、私の妹!」
私はお母さんのお腹を指さす。
お母さんはにひゃっと笑って、沙織さんに親指をたてた。
「いえーい」
「…なにが、いえーいよ…」
「この中に紬希がいるんだよ」
「へぇ…女の子なんだ」
「沙織叔母さん、姪っ子が増えるぜー」
「…おばさん、かー」
やれやれ、といった風に、沙織さんが首を振った。
「沙織さんは沙織さんだよ!」
私は沙織さんに抱き着いて、顔をうずめて、沙織さんを感じて。
「つむぎちゃんにも、沙織さんは絶対に渡さないからね!」
と宣言した。
「あはは」
「あははははは」
「ははははははははははっ」
部屋の中が、笑い声で満ち溢れる。
幸せなクリスマスだった。
私が生まれてから、一番幸せなクリスマスだった。
来年のクリスマスは、つむぎちゃんも加わって、私とお母さんとお父さんと沙織さんと、5人でもっと楽しいクリスマスをするんだ。
この時、私はそう思っていた。
そう、思っていたんだ。
私は手に大きな星を持って、とことこと部屋の中心にあるツリーへと向かうと、手を伸ばしててっぺんに飾ろうとした。
「…届かない」
「未来、ちょっと待っててね」
そう言うと、お父さんが私の両脇に手をそえて、「そらっ」っと上に掲げてくれた。
「わぁ、高いたかい!」
「おっとっと。未来、あんまり動かないでくれよ」
落としちゃう落としちゃう、と言いながらお父さんはそれでも私をしっかりと抱えてくれている。私は手を伸ばして、クリスマスツリーのてっぺんに金色の星を置いた。
「いい感じじゃない」
「えへへ…これなら、サンタさんも見つけやすいかな」
「きっとすぐに見つけてもらえるわよ…こんなに立派なツリーなんだから」
お母さんはそう言いながら、大きくなったお腹をそっと撫でていた。
優しい声。
聞いているだけで、胸の奥がぽぅっと温まるようだった。
「お父さん、おろしてー」
私が足をバタバタさせると、お父さんは「はいはい、待っててくれよ」と言いながら、私をそっと床におろしてくれる。
床の硬さを足に感じると、私はお父さんを置いてぱたぱたとお母さんの元へと走っていった。
「赤ちゃん、おっきくなってきたね」
「そうよー。すごいでしょ?」
お母さんは笑う。
うん。お母さんは本当にすごい。
テーブルの上には、包み紙でくるまれたプレゼントの箱が2つ置いてあった。
ひとつは、お父さんとお母さんが準備してくれた、私へのプレゼント。
そしてもうひとつは…
「私、プレゼント2つももらえるの?」
「ううん。未来へのプレゼントは、一つだけ」
「じゃぁ、こっちは誰のプレゼント?」
私が首をかしげると、お母さんは少し照れくさそうに微笑んだ。
「この子よ」
お腹にそっと手を触れる。
「まだ会えていないんだけど、もうプレゼントあげたくなっちゃった」
赤いリボンで丁寧につつまれた、小さな小さなプレゼント。
それは…まだ見ぬ私の…妹へのプレゼントだった。
「赤ちゃん、女の子なんだよね」
「そうよー…未来の妹だよー」
「えへへへへ」
私はお母さんのお腹に手をあててみた。あたたかい。この中に、私の妹がいるんだ。
「早く生まれてこないかなー」
「もう少し待っててね」
お母さんは笑いながら、私の頭をぽんぽんと叩く。
「未来は世界で一番のお姉ちゃんになれるよ」
「そうかな?」
「お母さんが保証してあげる」
私と沙織みたいになりたいんでしょ?と、お母さんは優しくいってくる。その言葉を聞いて、私もなぜか嬉しくなってきた。
頬を、お母さんのお腹にあてる。
暖かい。
お母さんの体温と、その奥に、もっと小さな、たしかな温もりがある。
「名前、もう決めてるの?」
「ううん。まだだけど…でもね、なんとなく、浮かんでいる名前はあるのよ」
「どんな名前?」
お母さんはお腹と、私の頭と、両方に手を添えながら、ゆっくりとひとつの言葉をこぼした。
「紬希(つむぎ)って、どうかな」
「つむぎ?」
「そう、紬希(つむぎ)」
なんかね、この子のことを思っていたら、自然とこの名前が浮かんできたの。私と未来、私とあなた、家族全員を優しく結んでくれるような、そんな感じの名前、と、お母さんが穏やかに言う。
「いい名前だね。未来と紬希、なんか、ちゃんとつながっている感じがするな」
お父さんが腰に手をそえて、少し考えながらそう言った。
私はもう一回、お母さんのお腹にほおずりすると、
「つむぎちゃん、こんにちは!お姉ちゃんだよー!」
といった。
私の声に、お母さんのお腹の奥から、ふわりと蹴り返されたような感覚があった。
お母さんが目を丸くして笑う。
「いま、動いた。未来に返事しているみたい」
「つむぎちゃん、すごーい!」
私は目をまんまるにして、大きな声で笑った。
クリスマスツリーの灯りが瞬いて、リビングを金色に照らしている。
窓の外では雪が舞い続けていて、静かな夜がしんしんと降りてきていた。
お母さんは目を閉じて、お腹をぽんぽんと叩いている。
「つむぎちゃんに会えるのはいつになるの?」
「そうね、来年の4月、未来が小学5年生になった時には会えるよ」
「楽しみだなー」
来年、私はお姉ちゃんになるんだ。
つむぎちゃんのお姉ちゃん。
もう、出会う前から、つむぎちゃんが愛おしくて愛おしくて仕方がない。
私はお母さんを見て、お父さんを見て、そしてまたお母さんのお腹を見て、いった。
「つむぎちゃん、早く会おうね。みんな、つむぎちゃんに早く会いたいって思ってるよ」
その瞬間、ツリーの星がゆらりと光ったような気がした。まるで、小さな奇跡がそこに舞い降りたかのように。
■■■■■
「メリークリスマス」
家の扉があいて、肩に雪を乗せた沙織さんが入ってきた。
「メリークリスマス!沙織さん!」
私は走って沙織さんを出迎える。
沙織さんの綺麗な黒髪にも雪がついていて、キラキラと輝いている。
「メリークリスマス、未来ちゃん」
沙織さんは優しくそう言ってくれた。
私は沙織さんの手をとる。冷たかった。
「沙織さん、手が冷たいよ!早く温まらなくっちゃ!」
私は手をぎゅっとにぎって、沙織さんを暖かい部屋のなかへと連れていく。沙織さんは笑いながら一緒についてきてくれていた。
「最近のサンタクロースは美女になったんだね」
「もう、姉さんったら」
「あはは。メリークリスマス、沙織」
お母さんは座ったままで、ひらひらと手を振っていた。その奥でお父さんが手に料理の皿を持ったまま、「めーりークリスマス」と言ってくれている。
雪をはらった沙織さんが椅子に座る。
手に、綺麗に包装された箱を持っていた。
「…これは?」
「メリークリスマス、未来ちゃん」
もう一度メリークリスマスって、言われて、私は沙織さんからその箱を渡された。
「クリスマスプレゼントだよ、未来ちゃん」
「わぁ…」
心が暖かくなる。私の全身に喜びが血液とともに舞いめぐる。
「開けていい!?」
「もちろん」
開けると、中から綺麗な万年筆が出てきた。
「すごーい!綺麗!」
「未来ちゃん、物書くの好きだから…」
漆と螺鈿で彩られた万年筆。小学生には早いものかもしれないけど…ずっと使ってもらったら嬉しいな、と、沙織さんが笑う。
「一生つかう!お墓までもっていく!」
「そんな大げさな…」
大げさなんかじゃない。
沙織さんからもらった初めてのプレゼントなんだもん。世界一の宝物なんだもん。
「沙織も、私と似たようなこと考えていたんだねー」
「姉さん?」
「ほら、未来。さっきあげた私たちからのクリスマスプレゼント、沙織に見せてあげて」
「うんっ」
そうこたえると、私は一冊の本を取り出した。
お母さんとお父さんからもらった、クリスマスプレゼント。
きれいな表紙で、しっかりとしたつくりの、中は真っ白な本。
「本もらったんだー!」
「ペンにしようかどうしようか悩んだけど、本にしてよかったよ」
沙織と被らなかったからね、と、お母さんは笑った。
「未来ちゃん、この前からずっと、小説家になりたいって言っていたもんね」
「えへへー。わたし、小説家になって、有名になるんだー!」
「頑張ってね」
「みててー」
嬉しい。
沙織さんもお母さんもお父さんも、私の言葉を覚えてくれている。私のこと、いつもたくさん見てくれている。
「つむぎちゃんにも早くみてもらいたいね」
「つむぎちゃん?」
「うん、私の妹!」
私はお母さんのお腹を指さす。
お母さんはにひゃっと笑って、沙織さんに親指をたてた。
「いえーい」
「…なにが、いえーいよ…」
「この中に紬希がいるんだよ」
「へぇ…女の子なんだ」
「沙織叔母さん、姪っ子が増えるぜー」
「…おばさん、かー」
やれやれ、といった風に、沙織さんが首を振った。
「沙織さんは沙織さんだよ!」
私は沙織さんに抱き着いて、顔をうずめて、沙織さんを感じて。
「つむぎちゃんにも、沙織さんは絶対に渡さないからね!」
と宣言した。
「あはは」
「あははははは」
「ははははははははははっ」
部屋の中が、笑い声で満ち溢れる。
幸せなクリスマスだった。
私が生まれてから、一番幸せなクリスマスだった。
来年のクリスマスは、つむぎちゃんも加わって、私とお母さんとお父さんと沙織さんと、5人でもっと楽しいクリスマスをするんだ。
この時、私はそう思っていた。
そう、思っていたんだ。
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