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第七章【未来16歳/沙織28歳】
第84話 新入生が来ると、先輩になったと自覚するね【未来16歳/沙織28歳】
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4月初め、高校2年生になって初めての放課後。
私は凛と話をしながら、部室へと向かっていた。
「ついこの間入学したと思ったのに、もう1年たったんだね…年を取ると、時間がたつのが早いよね」
「年を取るって、私たち、まだ16歳じゃない、未来」
「うん、そうだね…」
そう、まだ、16歳なのだ。
早く大人になりたいと思っているのに、私はまだまだ子供なのだ。ホームルームでの沙織さんの姿を見ていて、その差を実感していた。沙織さんは…大人だ。大人の、綺麗な先生だ。追いつきたい。沙織さんの隣に立っていて、恥ずかしくない大人に、早くなりたい。
「…未来?」
「あ、ごめん、考え事してた」
「もう」
凛は少しふてくされたように頬を膨らませた。普段、教室ではツンとすましていて表情をあまり変えない凛は、日本人形みたいとよく言われている。人によっては冷たいイメージを持たれているかもしれない。
(本当は、こんなに可愛いのにね)
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「ううん。相変わらず、凛は可愛いな、って思っていただけ」
「もう、馬鹿」
口では怒ったようにいいながら、頬が紅く染まる。やっぱり可愛い。この可愛らしさをもっとみんなに知ってもらいたいな、と思うのと同時に、この可愛い凛を知っているのは私くらいなんだという変な優越感も心をくすぐってくる。
(やっぱり、私、悪い子だな)
そんなことを思いつつ、少し浮かれて歩いている隣の凛に向かってまた声をかけてみた。
「凛は、今年の文芸部をどんな風にしたいとかって考えてる?」
「そうね…」
ちょっとうつむいて、それから少し意地悪な顔を向けてくる。
「未来がいてくれたら、それでいいかな」
「もう…冗談言わないで」
「冗談じゃないんだけどな」
笑う。うん、やっぱり可愛い。この笑顔をみんながみたら、凛に対する評価は一変すると思うんだけどな。
「正直な話…神美羅先輩がいるから、にぎやかな一年になるのは間違いないと思うよ」
「違いないね」
私も笑う。まったくもって、凛の言うとおりだ。神美羅先輩がいる限り、退屈という感情に私たちが囚われることはないだろう…神美羅先輩がいてくれる限り…私たちが2年になったということは、先輩は3年ということであり、それはすなわち、来年になれば卒業されていなくなられるという事でもある。
(やっぱり、時間がたつのは早いよ)
少し寂しい気持ちになりながら、部室前についた。
私の気持ちが伝わったのか、凛は私を元気づけるように、
「私たちの楽しい高校生活のためにも、神美羅先輩には留年してもらおうか?」
などと笑いながら、部室の扉を開けた。
開けた先に、男の子がいた。
白い肌。
落ち着いた雰囲気。
背は高くない。痩せているというか、華奢。
見るからに、文学少年、といった感じの趣。
「!?」
私と凛が驚いてその場に立ち尽くしていると、その男の子の後ろから、ひょっこりと顔を出してくる人がいた。
長い銀髪で、紅い瞳のちょっと人間離れしたかのような美人、さっきまで私たちが話題にあげていたまさにその人、神美羅先輩だった。
「未来、凛、驚いた?驚いちゃった?」
にししっと笑っているその顔を見ていると、この人、黙っていれば深窓の令嬢なんだけどなぁ、と残念な気持ちが湧き上がってくる。
「驚いたというか、なんというか」
「どちら様、です?」
「じゃーん!なんと、新入部員なのだ!」
「…どうしてそんなに楽しそうなのよ、由良」
「そりゃぁ、楽しいからに決まっているでしょ、蘭子」
よく見ると、部室の隅に楼蘭先輩も座っておられた。眼鏡に手をあてて、やれやれといった風にため息をついている。
神美羅先輩は心の底から嬉しそうに笑うと、さきほどから押し黙っている男の子の背中をばんっと叩いた。
「雪原くん、自己紹介してもらってもいいかな?」
「…は、はい」
雪原くん、と呼ばれたその子は、少しおどおどした口調で語りはじめた。
「雪原遼、15歳、1年3組です」
声は大きくない。小さい声…だけども、透き通った、ちゃんとよくとおる声だった。
(あれ?この子)
見たことがある。覚えがある…というか、今日の入学式で見た子だ。
新入生代表として挨拶していた子…だ。
「あっ」
思わず、声をあげてしまった。
なんとなく、昨年の事がデジャブで思い出される。
隣に立っている凛を見つめる。去年、新入生代表で挨拶したのは、この凛で、代表になるということは、入試の成績がトップだったということで。
(ということは)
この子が、今年の学年トップ入学ということで、去年のトップが凛で、一昨年のトップは、確か神美羅先輩だったはず…
なんということでしょう。
我が文芸部に、それぞれの学年のトップがそろってしまったということではありませんか…
(私は平均値を下げているんだけどね)
去年と同じようなことを思い、ちょっと懐かしくなって、笑ってしまった。
「…それで、ご趣味は?休日は何して過ごしてる?好きな食べ物は?ご家族の方は?」
「由良…お見合いのおばちゃんじゃないんだから、いい加減にしなさい」
いつも通り頭をぽんと叩かれて、神美羅先輩はぺろっと舌を出して質問をやめた。
ようやく質問責めから解放された雪原くんは、ほっと息をはくと、優しい顔をして笑った。
「宜しくお願いします、星野先輩」
「うん、こちらこそよろしく…って、あれ?」
私、まだ自己紹介していないのに、どうして私の名前知っているの?
私がそう疑問に思ったのが分かったのか、雪原くんはあわてて手を振ると、焦ったように口を開いた。
「実は僕…星野先輩のこと、知ってるんです…というか、先輩に憧れて入ってきたというか…」
「え?」
「どういうこと?」
口をはさんできたのは、凛だった。
詰問するかのように、鋭い瞳で雪原くんを睨みつけている。
「去年の文化祭に、高校の下見をかねて来てみたんです」
去年の文化祭…あぁ…あれか…
私は思わず、頭を押さえてしまった。
去年の文化祭で、我々文芸部が行ったのは…自主制作映画の発表だったのだけど…そのタイトルが…
『恐怖!双頭の巨大怪蛇ゴウランガ!南米アステカ文明の秘境に蛇島ククルカンの吸血鬼は実在した!!』
言うまでもなく、発案者は神美羅先輩。企画、脚本、監督も神美羅先輩で、こんなとんでもないタイトルの自主製作映画であったにも関わらず、意外なまでにクォリティが高く、昨年の我が高校の文化祭人気投票でダントツの1位を取ってしまったという快作であったのだ。
…そして、その主演をつとめたのが、恥ずかしながら私だった…
「…あれを、見たの…」
「最高でした!」
先ほどまでおどおどしていたのが信じられないくらい、目をキラキラと輝かせて見つめてくる。後ろで神美羅先輩がドヤ顔で手を組んでいるのが見えて、申し訳ないけど、少しイラっとしてしまった。
「僕も…高校生になったら、あんな風に自由に生きてみたい、って思ったんです…自分を変えたいんです!」
…どちらかといえば、自由なのは主演をしちゃった私ではなく、監督をした神美羅先輩ほ方だと思うんだけど、どうしてあっちを憧れてくれなかったのかな。
そんなこんなでみんなで談笑していた時、部室の扉が開いた。
「みんな、そろっているかな」
声がする。心臓がどくんと跳ね上がったのを感じた。
私が世界で一番好きな声。沙織さんの声。
「あ、水瀬先生、やっほー!」
神美羅先輩は明るい声で手をあげると、ドヤ顔をしながら部屋の中心に立っている雪原くんを紹介する。
「わが文芸部に、さっそく期待のニューフェイスが加わったよ」
ご丁寧に、じゃーん!と効果音までつけていた。
沙織さんは何も言わず、驚いた顔を浮かべている。
雪原くんは沙織さんの方をみて、ゆっくりと丁寧な声で、挨拶をした。
「1年2組、雪原遼です。顧問の方ですね。どうか宜しくお願いいたします」
沙織さんは何も答えない。
ずっと、黙ったまま、雪原くんを見つめている。
どうしたのかな?と思った。私は隣にたっている雪原くんの手を、つんとついた。
しばらくの沈黙の後、やっと、沙織さんが口を開いた。
「…文芸部顧問の水瀬沙織です。歓迎します。こちらこそ、よろしくね」
口調は優しいのに、なぜか、言葉に棘が刺さっているのように感じられるのはなぜなんだろう?
分からないけど、とりあえず。
私は沙織さんをみれるのが嬉しくて…じっと、沙織さんを見つめていた。
■■■■■
夜。
高校2年生になって最初の一日が終わって、少し疲れた私はお風呂につかってゆっくりしていた。
お湯が暖かい。
お父さんも、茜先生も、玲央も、つむぎも、みんな先にお風呂に入ったから、私が一番最後だった。
なので、時間をきにせず、ゆっくりと湯船で身体を暖めている。
私はお風呂場にスマホを持ち込んでいた。
こういう時、防水加工のスマホなのがありがたい。動画をみたり、ネット小説を読んだりして、ゆるゆると過ごしていた。
その時。
「あ」
沙織さんからメッセージが来た。
嬉しい。
いつも夜遅くにメッセージくれることが多いのだけど、今日はいつもより早い時間にくれたのが、なんか嬉しい。
(久々に会えたからかな)
春休みは、楽しいけど、寂しかった。
学校生活が始まらないと、沙織さんに会える機会が少なくなるからだ。
今日から学校生活が始まったから、今日から毎日、平日は沙織さんに会える。そのことが私はとっても嬉しいし、沙織さんも同じように嬉しいと思ってくれているのかな。
もしそうなら、嬉しいな。
わくわくしながら、スマホを見る。
『未来、いま、大丈夫?』
沙織さんのメッセージに、にこにこしながら返事を返す。
『今お風呂場ですけど、大丈夫ですよー!』
既読。
いつもならすぐに返事が返ってくるのに、今日は少しだけ返事が返ってくるのが遅かった。
ちょっと待って、その間に湯船の中でぱたぱたと足を動かして、暖かいお湯が循環して体をぽかぽかに暖める。
そうしていたら、ようやく、沙織さんからの返事が返ってきた。
『お風呂、なの。なら、いつもみたいに、写真送ってなんて、いえないわね』
私は少し考えた。
いつもなら、沙織さんからもらった指輪と一緒の写真をよく送っているんだけど、今日はお風呂に入っているから、残念だけど指輪は脱衣所に置いている。
本当はずっと肌につけていたいんだけど、さすがにお風呂では外さないと、ね。
うーん。
スマホをインカメラにすると、手を伸ばして、ピースをする。
湯気で曇らないかな…大丈夫かな。
ちゃぽん、とお湯が揺れた。
沙織さんのことを思って、にっこりと笑う。
指輪は映っていないけど、今の私を、見てほしい、な。
ぱしゃり、と自撮り。
『えへへー。今の私、ですー!』
写真を添付して、送信。
しばらく待つ。
じっと待つ。
けっこう待つ。
さっきよりも、返事がくるのが遅い。
既読には…なっているんだけどな。
足をぱしゃぱしゃさせて、お湯の暖かさを感じながら、今、沙織さんは何をしているのかな、と思う。沙織さんのことを考えているだけで、身体がほわんと暖かくなってくるのは、お風呂のお湯のせいではないと思う。
そうしていたら、スマホがなった。
ようやく、沙織さんからの返事がくる。
『いろいろお話したかったんだけど…全部、飛んでっちゃった』
沙織さんからのメッセージは、そんな文面だった。
飛んでっちゃった?なんで?
そう思いながら、首をかしげる。
お湯が首元を伝って落ちる。
続けてまた、メッセージが届いた。
『未来、えっち』
えっち…えっち…えっち!?
慌てて、さっき撮った写真をもう一度よく見てみる。
ピースした、さっきの写真。
…思ったより、映ってた。
なんていうか、お湯の中の、
むねの、
ぴんくの、とこまで、ちょっと
「ああああああぁぁぁああっ」
恥ずかしくなって耳まで真っ赤になる。
ちゃぽん。
そして手元を狂わせてしまい、湯船に沈むスマホの音がお風呂場に響いたのであった。
私は凛と話をしながら、部室へと向かっていた。
「ついこの間入学したと思ったのに、もう1年たったんだね…年を取ると、時間がたつのが早いよね」
「年を取るって、私たち、まだ16歳じゃない、未来」
「うん、そうだね…」
そう、まだ、16歳なのだ。
早く大人になりたいと思っているのに、私はまだまだ子供なのだ。ホームルームでの沙織さんの姿を見ていて、その差を実感していた。沙織さんは…大人だ。大人の、綺麗な先生だ。追いつきたい。沙織さんの隣に立っていて、恥ずかしくない大人に、早くなりたい。
「…未来?」
「あ、ごめん、考え事してた」
「もう」
凛は少しふてくされたように頬を膨らませた。普段、教室ではツンとすましていて表情をあまり変えない凛は、日本人形みたいとよく言われている。人によっては冷たいイメージを持たれているかもしれない。
(本当は、こんなに可愛いのにね)
「どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「ううん。相変わらず、凛は可愛いな、って思っていただけ」
「もう、馬鹿」
口では怒ったようにいいながら、頬が紅く染まる。やっぱり可愛い。この可愛らしさをもっとみんなに知ってもらいたいな、と思うのと同時に、この可愛い凛を知っているのは私くらいなんだという変な優越感も心をくすぐってくる。
(やっぱり、私、悪い子だな)
そんなことを思いつつ、少し浮かれて歩いている隣の凛に向かってまた声をかけてみた。
「凛は、今年の文芸部をどんな風にしたいとかって考えてる?」
「そうね…」
ちょっとうつむいて、それから少し意地悪な顔を向けてくる。
「未来がいてくれたら、それでいいかな」
「もう…冗談言わないで」
「冗談じゃないんだけどな」
笑う。うん、やっぱり可愛い。この笑顔をみんながみたら、凛に対する評価は一変すると思うんだけどな。
「正直な話…神美羅先輩がいるから、にぎやかな一年になるのは間違いないと思うよ」
「違いないね」
私も笑う。まったくもって、凛の言うとおりだ。神美羅先輩がいる限り、退屈という感情に私たちが囚われることはないだろう…神美羅先輩がいてくれる限り…私たちが2年になったということは、先輩は3年ということであり、それはすなわち、来年になれば卒業されていなくなられるという事でもある。
(やっぱり、時間がたつのは早いよ)
少し寂しい気持ちになりながら、部室前についた。
私の気持ちが伝わったのか、凛は私を元気づけるように、
「私たちの楽しい高校生活のためにも、神美羅先輩には留年してもらおうか?」
などと笑いながら、部室の扉を開けた。
開けた先に、男の子がいた。
白い肌。
落ち着いた雰囲気。
背は高くない。痩せているというか、華奢。
見るからに、文学少年、といった感じの趣。
「!?」
私と凛が驚いてその場に立ち尽くしていると、その男の子の後ろから、ひょっこりと顔を出してくる人がいた。
長い銀髪で、紅い瞳のちょっと人間離れしたかのような美人、さっきまで私たちが話題にあげていたまさにその人、神美羅先輩だった。
「未来、凛、驚いた?驚いちゃった?」
にししっと笑っているその顔を見ていると、この人、黙っていれば深窓の令嬢なんだけどなぁ、と残念な気持ちが湧き上がってくる。
「驚いたというか、なんというか」
「どちら様、です?」
「じゃーん!なんと、新入部員なのだ!」
「…どうしてそんなに楽しそうなのよ、由良」
「そりゃぁ、楽しいからに決まっているでしょ、蘭子」
よく見ると、部室の隅に楼蘭先輩も座っておられた。眼鏡に手をあてて、やれやれといった風にため息をついている。
神美羅先輩は心の底から嬉しそうに笑うと、さきほどから押し黙っている男の子の背中をばんっと叩いた。
「雪原くん、自己紹介してもらってもいいかな?」
「…は、はい」
雪原くん、と呼ばれたその子は、少しおどおどした口調で語りはじめた。
「雪原遼、15歳、1年3組です」
声は大きくない。小さい声…だけども、透き通った、ちゃんとよくとおる声だった。
(あれ?この子)
見たことがある。覚えがある…というか、今日の入学式で見た子だ。
新入生代表として挨拶していた子…だ。
「あっ」
思わず、声をあげてしまった。
なんとなく、昨年の事がデジャブで思い出される。
隣に立っている凛を見つめる。去年、新入生代表で挨拶したのは、この凛で、代表になるということは、入試の成績がトップだったということで。
(ということは)
この子が、今年の学年トップ入学ということで、去年のトップが凛で、一昨年のトップは、確か神美羅先輩だったはず…
なんということでしょう。
我が文芸部に、それぞれの学年のトップがそろってしまったということではありませんか…
(私は平均値を下げているんだけどね)
去年と同じようなことを思い、ちょっと懐かしくなって、笑ってしまった。
「…それで、ご趣味は?休日は何して過ごしてる?好きな食べ物は?ご家族の方は?」
「由良…お見合いのおばちゃんじゃないんだから、いい加減にしなさい」
いつも通り頭をぽんと叩かれて、神美羅先輩はぺろっと舌を出して質問をやめた。
ようやく質問責めから解放された雪原くんは、ほっと息をはくと、優しい顔をして笑った。
「宜しくお願いします、星野先輩」
「うん、こちらこそよろしく…って、あれ?」
私、まだ自己紹介していないのに、どうして私の名前知っているの?
私がそう疑問に思ったのが分かったのか、雪原くんはあわてて手を振ると、焦ったように口を開いた。
「実は僕…星野先輩のこと、知ってるんです…というか、先輩に憧れて入ってきたというか…」
「え?」
「どういうこと?」
口をはさんできたのは、凛だった。
詰問するかのように、鋭い瞳で雪原くんを睨みつけている。
「去年の文化祭に、高校の下見をかねて来てみたんです」
去年の文化祭…あぁ…あれか…
私は思わず、頭を押さえてしまった。
去年の文化祭で、我々文芸部が行ったのは…自主制作映画の発表だったのだけど…そのタイトルが…
『恐怖!双頭の巨大怪蛇ゴウランガ!南米アステカ文明の秘境に蛇島ククルカンの吸血鬼は実在した!!』
言うまでもなく、発案者は神美羅先輩。企画、脚本、監督も神美羅先輩で、こんなとんでもないタイトルの自主製作映画であったにも関わらず、意外なまでにクォリティが高く、昨年の我が高校の文化祭人気投票でダントツの1位を取ってしまったという快作であったのだ。
…そして、その主演をつとめたのが、恥ずかしながら私だった…
「…あれを、見たの…」
「最高でした!」
先ほどまでおどおどしていたのが信じられないくらい、目をキラキラと輝かせて見つめてくる。後ろで神美羅先輩がドヤ顔で手を組んでいるのが見えて、申し訳ないけど、少しイラっとしてしまった。
「僕も…高校生になったら、あんな風に自由に生きてみたい、って思ったんです…自分を変えたいんです!」
…どちらかといえば、自由なのは主演をしちゃった私ではなく、監督をした神美羅先輩ほ方だと思うんだけど、どうしてあっちを憧れてくれなかったのかな。
そんなこんなでみんなで談笑していた時、部室の扉が開いた。
「みんな、そろっているかな」
声がする。心臓がどくんと跳ね上がったのを感じた。
私が世界で一番好きな声。沙織さんの声。
「あ、水瀬先生、やっほー!」
神美羅先輩は明るい声で手をあげると、ドヤ顔をしながら部屋の中心に立っている雪原くんを紹介する。
「わが文芸部に、さっそく期待のニューフェイスが加わったよ」
ご丁寧に、じゃーん!と効果音までつけていた。
沙織さんは何も言わず、驚いた顔を浮かべている。
雪原くんは沙織さんの方をみて、ゆっくりと丁寧な声で、挨拶をした。
「1年2組、雪原遼です。顧問の方ですね。どうか宜しくお願いいたします」
沙織さんは何も答えない。
ずっと、黙ったまま、雪原くんを見つめている。
どうしたのかな?と思った。私は隣にたっている雪原くんの手を、つんとついた。
しばらくの沈黙の後、やっと、沙織さんが口を開いた。
「…文芸部顧問の水瀬沙織です。歓迎します。こちらこそ、よろしくね」
口調は優しいのに、なぜか、言葉に棘が刺さっているのように感じられるのはなぜなんだろう?
分からないけど、とりあえず。
私は沙織さんをみれるのが嬉しくて…じっと、沙織さんを見つめていた。
■■■■■
夜。
高校2年生になって最初の一日が終わって、少し疲れた私はお風呂につかってゆっくりしていた。
お湯が暖かい。
お父さんも、茜先生も、玲央も、つむぎも、みんな先にお風呂に入ったから、私が一番最後だった。
なので、時間をきにせず、ゆっくりと湯船で身体を暖めている。
私はお風呂場にスマホを持ち込んでいた。
こういう時、防水加工のスマホなのがありがたい。動画をみたり、ネット小説を読んだりして、ゆるゆると過ごしていた。
その時。
「あ」
沙織さんからメッセージが来た。
嬉しい。
いつも夜遅くにメッセージくれることが多いのだけど、今日はいつもより早い時間にくれたのが、なんか嬉しい。
(久々に会えたからかな)
春休みは、楽しいけど、寂しかった。
学校生活が始まらないと、沙織さんに会える機会が少なくなるからだ。
今日から学校生活が始まったから、今日から毎日、平日は沙織さんに会える。そのことが私はとっても嬉しいし、沙織さんも同じように嬉しいと思ってくれているのかな。
もしそうなら、嬉しいな。
わくわくしながら、スマホを見る。
『未来、いま、大丈夫?』
沙織さんのメッセージに、にこにこしながら返事を返す。
『今お風呂場ですけど、大丈夫ですよー!』
既読。
いつもならすぐに返事が返ってくるのに、今日は少しだけ返事が返ってくるのが遅かった。
ちょっと待って、その間に湯船の中でぱたぱたと足を動かして、暖かいお湯が循環して体をぽかぽかに暖める。
そうしていたら、ようやく、沙織さんからの返事が返ってきた。
『お風呂、なの。なら、いつもみたいに、写真送ってなんて、いえないわね』
私は少し考えた。
いつもなら、沙織さんからもらった指輪と一緒の写真をよく送っているんだけど、今日はお風呂に入っているから、残念だけど指輪は脱衣所に置いている。
本当はずっと肌につけていたいんだけど、さすがにお風呂では外さないと、ね。
うーん。
スマホをインカメラにすると、手を伸ばして、ピースをする。
湯気で曇らないかな…大丈夫かな。
ちゃぽん、とお湯が揺れた。
沙織さんのことを思って、にっこりと笑う。
指輪は映っていないけど、今の私を、見てほしい、な。
ぱしゃり、と自撮り。
『えへへー。今の私、ですー!』
写真を添付して、送信。
しばらく待つ。
じっと待つ。
けっこう待つ。
さっきよりも、返事がくるのが遅い。
既読には…なっているんだけどな。
足をぱしゃぱしゃさせて、お湯の暖かさを感じながら、今、沙織さんは何をしているのかな、と思う。沙織さんのことを考えているだけで、身体がほわんと暖かくなってくるのは、お風呂のお湯のせいではないと思う。
そうしていたら、スマホがなった。
ようやく、沙織さんからの返事がくる。
『いろいろお話したかったんだけど…全部、飛んでっちゃった』
沙織さんからのメッセージは、そんな文面だった。
飛んでっちゃった?なんで?
そう思いながら、首をかしげる。
お湯が首元を伝って落ちる。
続けてまた、メッセージが届いた。
『未来、えっち』
えっち…えっち…えっち!?
慌てて、さっき撮った写真をもう一度よく見てみる。
ピースした、さっきの写真。
…思ったより、映ってた。
なんていうか、お湯の中の、
むねの、
ぴんくの、とこまで、ちょっと
「ああああああぁぁぁああっ」
恥ずかしくなって耳まで真っ赤になる。
ちゃぽん。
そして手元を狂わせてしまい、湯船に沈むスマホの音がお風呂場に響いたのであった。
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