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29話
涙ながらに語られる話によれば、王妃様には毎月使わなければいけない予算が決まっているらしい。民に金を回し、国を潤すために、どうしても使わなければいけないのに、王妃様は慎ましい生活をよしとしていて、いくら言っても使ってはくれないのだと。
だがそれで責められるのは彼女たちで、王妃様の物欲を刺激するように努力しろと怒られるのだそうだ。
だから必死に考えて、王妃様が使わないのなら、自分たちで使ってしまおう。そういうことになったのだとか。
普通に考えれば、とてもおかしい話である。平民出身で、貴族のしきたりなど知らない私でも、それがおかしいことには気がついた。
でも私は身分的にはただの平民で、貴族であろう彼女を責める権利はない。
だからちらりと、私の護衛――もとい、王様が監視目的でつけた騎士の様子を見る。長年国に仕えている騎士の家系だという彼は、父の友人の親戚なのだそうで、王様の現状を憂いているひとりでもあった。
彼女と騎士、どちらのほうが家格が上かはわからないけど、私よりは彼女を責める権利があるだろう。そう思ってどうすればいいのか判断を任せようと思ったのだけど、彼はただ黙して語らず、じっと侍女を見ていた。
「お願いします。どうか、見逃してはいただけませんか」
そんな騎士の様子に、侍女の顔に喜色が浮かび、私の手にそっと腕輪が触れた。
おかしな話ではあるし、王様に報告すべき話なのだろう。だけどよくよく考えてみれば、これは王妃様と――そしてその王妃様を選んだ王様が悪いのではないだろうか。
使わなければいけない予算を使わず、侍女が責められるのを黙認しているわけなのだから。どうにかして現状を変えたいと思うのも、しかたないのではないか。
それに、王妃様の物欲があまりなく、よい人として育ったのは、彼女の環境が恵まれていたからだろう。愛し愛されて、何不自由なく育ち、愛されたまま王妃にまでなった。
もしも彼女が私と同じような境遇に置かれれば、もっと貪欲になったのではないだろうか。
「……そうね。そういうことなら、しかたないわね」
微笑んで、跪いていた侍女の手をとり――その手にある腕輪を挟みながら――立たせる。
私にはお金が必要で、王妃様はお金がいらないというのなら、私が少しぐらい貰ってもいいのではないだろうか。
どうせ使わないといけない予算だというのなら、王妃様は恵まれているのだから、少しぐらい。
それが泥沼であることに気がつかず、私は一歩、足を踏み出してしまった。
だからあの日、王妃様の葬儀の準備で慌ただしいなか、血相を変えた侍女が駆け込んできたときも、私はしかたないと言って、受け取らざるをえなかった。
王妃様の部屋で見つけたという手紙。王様に何かあったのではと疑われているから、これ以上は隠しておけない。自分のそばには置いておけないから、このなかには私たちの不正が書かれているはずだから。
そう言われて、私が隠し場所になるしかなかった。
だがそれで責められるのは彼女たちで、王妃様の物欲を刺激するように努力しろと怒られるのだそうだ。
だから必死に考えて、王妃様が使わないのなら、自分たちで使ってしまおう。そういうことになったのだとか。
普通に考えれば、とてもおかしい話である。平民出身で、貴族のしきたりなど知らない私でも、それがおかしいことには気がついた。
でも私は身分的にはただの平民で、貴族であろう彼女を責める権利はない。
だからちらりと、私の護衛――もとい、王様が監視目的でつけた騎士の様子を見る。長年国に仕えている騎士の家系だという彼は、父の友人の親戚なのだそうで、王様の現状を憂いているひとりでもあった。
彼女と騎士、どちらのほうが家格が上かはわからないけど、私よりは彼女を責める権利があるだろう。そう思ってどうすればいいのか判断を任せようと思ったのだけど、彼はただ黙して語らず、じっと侍女を見ていた。
「お願いします。どうか、見逃してはいただけませんか」
そんな騎士の様子に、侍女の顔に喜色が浮かび、私の手にそっと腕輪が触れた。
おかしな話ではあるし、王様に報告すべき話なのだろう。だけどよくよく考えてみれば、これは王妃様と――そしてその王妃様を選んだ王様が悪いのではないだろうか。
使わなければいけない予算を使わず、侍女が責められるのを黙認しているわけなのだから。どうにかして現状を変えたいと思うのも、しかたないのではないか。
それに、王妃様の物欲があまりなく、よい人として育ったのは、彼女の環境が恵まれていたからだろう。愛し愛されて、何不自由なく育ち、愛されたまま王妃にまでなった。
もしも彼女が私と同じような境遇に置かれれば、もっと貪欲になったのではないだろうか。
「……そうね。そういうことなら、しかたないわね」
微笑んで、跪いていた侍女の手をとり――その手にある腕輪を挟みながら――立たせる。
私にはお金が必要で、王妃様はお金がいらないというのなら、私が少しぐらい貰ってもいいのではないだろうか。
どうせ使わないといけない予算だというのなら、王妃様は恵まれているのだから、少しぐらい。
それが泥沼であることに気がつかず、私は一歩、足を踏み出してしまった。
だからあの日、王妃様の葬儀の準備で慌ただしいなか、血相を変えた侍女が駆け込んできたときも、私はしかたないと言って、受け取らざるをえなかった。
王妃様の部屋で見つけたという手紙。王様に何かあったのではと疑われているから、これ以上は隠しておけない。自分のそばには置いておけないから、このなかには私たちの不正が書かれているはずだから。
そう言われて、私が隠し場所になるしかなかった。
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