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6.気づかれない
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きれいに整えられたホールからは、昨夜の痴態はまったく感じられない。色とりどりのドレスに、きらめくシャンデリア。控室からホールに移動した私たちに、お父様とアルベルト殿下が手を差し出す。
アルベルト殿下が何か言いたげにこちらを見たけど、口が開かれることはない。こんな大勢の前で騒いで、昨夜のことが知られてはいけないと彼もよく理解しているのだろう。
そして妹の手はアルベルト殿下に、私の手はお父様に。それぞれ差し出された手に重ねた。
「エミール嬢」
一通りの挨拶を終えると、何人かに話しかけられた。そのほとんどが男性だ。
エミールに婚約者はいないし、決まった相手もいない。四候出身かつ王妃となる姉がいる娘を嫁に迎えられるのだから、誰よりも早く縁をつなぎたいと思っているのだろう。
それはエミールが社交デビューしてからずっと変わらない。だけど、これはと思う相手をお父様が見繕っても、お母様が探してきても、話がまとまることはなかった。
いつから――ふと沸いた思いに、ぎゅっと手を握りしめる。
推測に過ぎないし、邪推に過ぎない。だけどどうしても、妹はアルベルト殿下の婚約者になるために、相手を見つけなかったのではと、思えてしかたなかった。
「もしよろしければ、一曲お願いできますか?」
そう言って手を差し伸べてきたのは、子爵家の次男。エミールが社交デビューしてからずっと、めげることなくエミールに話しかけていたのを覚えている。
ほんの一年足らずとはいえ、ずっと見続けていた女性が別人だということに気づいていない。アルベルト殿下と同じように、彼も私と妹を見分けられない。
これまで一度もそんなことを気にしたことはなかった。だけど一度気にしてしまえば、振り払うことはできない。
お父様とお母様以外に、私たちを見分けられる人はいないのだろうか。私をエミールではないと気づいてくれる人はいないのだろうか。
陛下とお父様の決定に真っ向から歯向かうことはできない。だから抱いた思いはひた隠して、口元に柔らかな笑みを浮かべながら目の前の男性の手を取る。
「お手柔らかにお願いしますね」
公の場でアルベルト殿下以外と踊るのは初めてだ。今はどうしようもないことを考えず、目の前のことにだけ集中しよう。
そうして三曲ほど踊り終えて、一息つく。エミールの真似をしているつもりはない。だけどそれでも、私に気づく人はいなかった。
「エミール嬢。もしよろしければ私とも」
声をかけられ、気づかれないように小さく息を吐く。
さすがに少し疲れた。体力的にとはいうよりは、気持ち的に。だからやんわりと断りを入れて、ホールを出る。
中庭の花も今日のためにと丹念に手入れされ、ちょっとした飾りが増えている。ピンク色のリボンがついた茨、木には太陽の光を受けて輝くボールがかけられている。
子供の頃にいろいろなところを飾りたいと、私と妹で手あたり次第リボンを結ぼうとして枝を折ったりしたからか、私たちが手を付けないように、いろいろなところにちょっとした飾りを施してくれる。
そんな、思い出と優しさが詰まった庭園を見ていると不意に名前を呼ばれた。
「オリヴィア」
私を呼ぶ、よく知る声に。
アルベルト殿下が何か言いたげにこちらを見たけど、口が開かれることはない。こんな大勢の前で騒いで、昨夜のことが知られてはいけないと彼もよく理解しているのだろう。
そして妹の手はアルベルト殿下に、私の手はお父様に。それぞれ差し出された手に重ねた。
「エミール嬢」
一通りの挨拶を終えると、何人かに話しかけられた。そのほとんどが男性だ。
エミールに婚約者はいないし、決まった相手もいない。四候出身かつ王妃となる姉がいる娘を嫁に迎えられるのだから、誰よりも早く縁をつなぎたいと思っているのだろう。
それはエミールが社交デビューしてからずっと変わらない。だけど、これはと思う相手をお父様が見繕っても、お母様が探してきても、話がまとまることはなかった。
いつから――ふと沸いた思いに、ぎゅっと手を握りしめる。
推測に過ぎないし、邪推に過ぎない。だけどどうしても、妹はアルベルト殿下の婚約者になるために、相手を見つけなかったのではと、思えてしかたなかった。
「もしよろしければ、一曲お願いできますか?」
そう言って手を差し伸べてきたのは、子爵家の次男。エミールが社交デビューしてからずっと、めげることなくエミールに話しかけていたのを覚えている。
ほんの一年足らずとはいえ、ずっと見続けていた女性が別人だということに気づいていない。アルベルト殿下と同じように、彼も私と妹を見分けられない。
これまで一度もそんなことを気にしたことはなかった。だけど一度気にしてしまえば、振り払うことはできない。
お父様とお母様以外に、私たちを見分けられる人はいないのだろうか。私をエミールではないと気づいてくれる人はいないのだろうか。
陛下とお父様の決定に真っ向から歯向かうことはできない。だから抱いた思いはひた隠して、口元に柔らかな笑みを浮かべながら目の前の男性の手を取る。
「お手柔らかにお願いしますね」
公の場でアルベルト殿下以外と踊るのは初めてだ。今はどうしようもないことを考えず、目の前のことにだけ集中しよう。
そうして三曲ほど踊り終えて、一息つく。エミールの真似をしているつもりはない。だけどそれでも、私に気づく人はいなかった。
「エミール嬢。もしよろしければ私とも」
声をかけられ、気づかれないように小さく息を吐く。
さすがに少し疲れた。体力的にとはいうよりは、気持ち的に。だからやんわりと断りを入れて、ホールを出る。
中庭の花も今日のためにと丹念に手入れされ、ちょっとした飾りが増えている。ピンク色のリボンがついた茨、木には太陽の光を受けて輝くボールがかけられている。
子供の頃にいろいろなところを飾りたいと、私と妹で手あたり次第リボンを結ぼうとして枝を折ったりしたからか、私たちが手を付けないように、いろいろなところにちょっとした飾りを施してくれる。
そんな、思い出と優しさが詰まった庭園を見ていると不意に名前を呼ばれた。
「オリヴィア」
私を呼ぶ、よく知る声に。
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