どうやら私は悪女らしい~ならそれらしくふるまいましょう~

由良

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6話 舞踏会に向けて

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 ぴくりとシリルの眉が跳ねる。それから一拍して、深いため息が落とされた。

「シンフェルド候は何が正しいのか客観的に判断できる人だ。お前が横暴なふるまいをしているのだから、諫めている俺を叱責するはずがないだろう。そもそも、婚家にまで口を出すような人ではない」

 女性は嫁いだ瞬間、その家の子供ではなく嫁ぎ先の住人になる。だからよほどのことがなければ、首を突っ込んでくるようなことはない。
 だが、クラリスが死を願ったというのはじゅうぶんよほどのことに該当するだろう。

 そして真偽を確かめてくれるのなら、いざというときの頼り先には最適かもしれない。
 シンフェルド候。その名前を胸に刻む。

「まあ、ずいぶんと甘い考えでいらっしゃるのね。諫めているだけにしては……ずいぶんとセリーヌと親しそうでしたけれど」
「義妹になる相手なのだから、親しくして当然だろう。そういうふうにしか見えないのは、お前の目が濁っているからではないか」

 唾棄するような口ぶりに、はいはいと肩をすくめる。
 ここでいかに親しそうだったかを語っても、シリルは認めないだろう。なら、シンフェルド候の名前を聞きだしただけでもよしとして、あとは適当に聞き流すとしよう。



 ◇◇◇


 それから数日ほどして、パーティーの招待状が届いた。
 王城で開かれる舞踏会の誘いに、父は渋い顔をしながら頷いた。ダンスはまだ及第点とは言いづらく、人前に出したくはないのだろう。
 だけど、いつまでも家にこもってばかりはいられない。しかも城で開かれるパーティーをさしたる理由もなく断ることもできない。

「いいか。絶対に踊るな」
「……舞踏会に参加して踊らないのもいかがなものかと思いますが」
「ステップで間違いなくこれまでと違うと気づかれる。ならば足をくじいたとなんとでも言って、なんとしても踊らないようにしろ」

 舞踏会にはパートナーと連れ立って参加するのが礼儀だ。私のパートナーは婚約者であるシリルということになるのだろう。
 そしてパートナーと踊るのが普通なのだけど、私が踊らないということはシリルが誰と踊ることになるのが――考えるまでもない。

「……かしこまりました」

 楚々と頭を下げる。
 セリーヌはきっとシリルと踊れると考えて、胸を躍らせるのだろう。きっと彼の目を釘付けにできるような見事なドレスを選ぶに違いない。

「ではせめて、舞踏会に備えてアクセサリーをひとつ新調してもよろしいですか? 楽しみにしていたのだと他の方の目に映れば、踊れなかったのも不可抗力なのだと思っていただけると思うので」

 父の顔がとたんに渋くなる。私のために余計な金を使いたくはないと思っていそうだ。
 私もどうしてもアクセサリーが欲しいわけではないが、いざというときの資金は多いに越したことはない。クラリスの部屋の装飾品はあまり多くなく、いざというときには少々心もとない。

「……いいだろう。だが、あまりに高価なものは――」
「わかっております。手頃なものを選ぼうと思っているのでご安心ください」

 高すぎるものは換金しにくい。ある程度手を出しやすい金額のほうが、売りやすいというものだ。
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