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7話 楽しいデート

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「――どうして俺が……」

 ぶつぶつと不満を漏らしているのはシリル。私の横を歩いているのに、こちらを見ようともしていない。
 どうして私たちが並んでいるのかというと、アクセサリーを選びに出かけたいから同伴してほしいとお願いしたからだ。来てくれないと何をするかわからないと脅したのが効いたのだろう。

「愛しい婚約者様に選んでいただきたいと思うのが乙女心というものでしょう」
「なら商人を呼べばいいだろう。わざわざ出向く必要がどこにある」

 貴族というものは、店に足を運んだりはしないらしい。お抱えの商人を家に呼び、注文する。それがシリルの常識なのだろう。
 そして伯爵位を持っている父も同じようなことを言っていた。わざわざ出向くのは下位貴族のすることだと。

 だが、商人を呼べばまず間違いなくセリーヌが介入してくる。自分もほしいと騒いで、あれもこれもと選ぶだろう。
 その結果、私に回す資金がなくなったから我慢しろと言われては困る。誰の介入もなく、無事に装飾品を手に入れるためには、自ら店に行き、選ぶ必要があった。

「愛するお方と共に歩きたいと思うのも乙女心なのですよ」
「どの口が乙女などと……」
「まあ、シリル様は乙女をご存じでいらっしゃらないの? 恋する女性はみんな乙女と言っても過言ではないというのに……」

 今この場には私とシリルしかいない。道行く人々はいるが、それは勘定に入れなくてもいいだろう。
 だからといって、気を抜くことはできない。よけいなことをしないように、監視されている可能性があるからだ。

 ふふふ、と笑いながら当たり障りのない返事をして、店に入り、売れそうなものを選ぶ。今日私がするのは、それだけだ。

「――ライラ」

 そのはずが不意に、声をかけられた。いや、かけられたどころではない。腕を掴まれた。
 なにごとかと思ってそちらを見れば、見知らぬ男性が一人。彼もまた、私を見て不思議そうに首を傾げた。

「あ、すみません。人違いでした」

 するりと手を解いて頭を下げる男性に、ちらりとシリルの様子をうかがう。婚約者が見知らぬ男性に声をかけられているのに、とまどう様子はない。とことん興味がないのだろう。
 それでも、シリルの前なのだから彼の思うクラリスらしくふるまう必要がある。彼の中にあるクラリスは「いえいえ、お気になさらないで」とほがらかに許す女性ではない。

「無礼な人ね。気安く触れて、人違いの一言ですませるつもり?」

 じろりと睨むと、男性がひるむように一歩後ずさった。

「せっかくシリル様との楽しいお出かけだったのに興がそがれてしまったわ。ねえシリル様、腕を組んでもよろしくて?」
「いいわけがないだろう」

 恐縮しきる男性をよそにシリルに手を伸ばすが、さっと避けられてしまう。そしてまた意味のない応酬を繰り返しながら、店に向かった。
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