獣のお礼参り~こちらけもけもネットワークでございます~

ねこセンサー

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鳥は自由だと…お思いになられますか?

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 お電話ありがとうございます。こちらけもけもネットワークでございます。
 
 お客様、申し訳ございません。当店はペットショップではございません…非常にまぎわらしいワードを含んでおりますが、当店はどちらかといえば飼われる側でなく飼うG…いえ、失礼いたしました。ふふ、お褒め頂き恐縮です。発声練習は当店では必須科目でございますので。ハイ。声と言うものは聴覚と言う感覚に直接響くものでございますので、洗脳や誘導には大変有効な手段でございますよ…?ハイ。おや、お切りになられますか。…ハイ。どうぞ、夜道にはお気をつけなさいませ。今夜は荒れるようでございますよ…?そちらのお天気は。
 
 
 失礼いたします。
 
 …お電話ありがとうございます。けもけもネットワークでございます。
 
 お客様、お若くていらっしゃいますね。ええ、私どもはプロでございますので。
 
 お顔の色が悪くていらっしゃるのではありませんか?…ふふ、ええ。わたくしどもは、プロでございますので。
 
 お客様が、ご不調の中、当店をお選びいただきましたことに、感謝の意を表させてください。
 
 …時々、あるのです。人生の終わりを予見したお客様が、私どもに未来を託したいとご連絡を下さるケースが。
 
 当店といたしましても、そのようなサービスはもちろん業務に含まれて居りますので、ご安心くださいませ。
 
 それでは、お客様のご希望は何でございましょう?
 
 残されるご家族へのフォローですか?それとも、ご自身のことでございましょうか。
 
 …おや、そちらでございますか。
 
 ええ…そうですね。人に限らず、欲と言うものはそういうものですね。自分がどうしても得ることが出来ないとわかっているものほど、欲しがるものです。それはお客様のお父君、母君にも同じことでございましょう。
 
 …健康な体が、欲しかった、と。そうであれば、ご両親が仲良く居られた、と…
 
 ふふ。ああ、申し訳ございません。いえ、お客様を笑ったわけではございません。ヒトというものはそういうものであったな、と…私の勝手な思い込みでございますよ。
 
 御客様…余計なお世話かと思いますが、ヒトの心と言うものは、頑固で、脆いものです。
 
 お客様のお体が丈夫でなかったから、ご両親は手を取り合っておられないとお客様はそうお思いでしょうけども。
 
 世の中、健康なお子様を抱えておられても、優秀なご子息に恵まれていても。離婚をする夫婦と言うものはございます。
 
 むしろ、そちらのほうが多いように思いますけれどもね。私どもは。
 
 お客様のお体は、直接的な原因ではないと思いますよ。要因の一つ、可能性くらいの規模ではないかと思います。
 
 お客様はお若いので、あまりご存知ではないでしょうが。父親と言うものは、母親と違いまして自らの子の実感を得るのが遅くなりがちです。腹のふくらみを毎日目の当たりにする女性とは違いますからね。命の重み、それを持つことのつらさは、母が子を産み落とすまでは実感しにくいものなのです。
 
 そして、生まれた子と向き合うことを恐れて避け続け、決定的な溝を作る親子と言うのは珍しいものでもないと思いますよ。子の健康にかかわらず、です。
 
 お気にやまれますな。…いいえ、大変個人的なことなのですけれども、私子供は好きなのですよ。ですから、お客様のようなお子様が当店をご利用する事態になっておられることに大変憤りを覚えておりますのですよ。ええ。大変個人的ではございますが。
 
 ご心配召されるな。遺されるご家族には、それ相応のアフターフォローをいたしますので。
 
 お客様は、どうなさりたいのですか?
 
 …ふふ、そうですね、鳥ですか…
 
 無いものねだり、とは思いますけれども。よろしいでしょう、わたくしが一肌脱ぎましょう!
 
 御客様には、可愛らしい翼を手配いたしましょう。
 
 …先に逝かれた、ご友人にも。お会いできると良いですね。…ふふ、当店は不思議なお店ですから。
 
 …ですから、どうか、残りの時間を心安らかに、お過ごしくださいませ。
 
 私どもは、基本的には無垢で純粋な魂の味方です。…ないものねだり、なのですよ。…私どもは持てぬものですから。
 
 持てぬ者なれば、それを愛でて守りたい。それが、当店の起こりなのです。
 
 どうか、心安らかにお過ごしください。
 
 本日は、けもけもネットワークのご利用、まことにありがとうございました。
 
 
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 昔から、虚弱体質といわれていた。生まれてきたことが奇跡だとも。ぼくは、未熟児で生まれた。
 
 お母さんはとても、とても心配性だった。いつも、いつもぼくをどこからか見つめて、はらはらした顔ばかり見せていた。
 
 お父さんはそんなぼくらを見て、心配しすぎたらゆうとがおおきくなれないよ、と笑っていたけれど。
 
 冬は良く風邪を引いた。ほっぺたが乾燥してピリピリする時期は、喉が痛くて咳が止まらなくって、口の中で血の味がすることが多かったし、肌もがさがさに乾燥して、かさぶたがかゆくてとても辛かった。かきむしってしまうのは必死に我慢した。お母さんが、とても悲しむから。血の滲む腕を見て、お母さんは言った。
 
 『どうか、自分を大事にして』
 
 そういって、涙を一滴だけこぼして、ぼくを抱きしめてくれた。
 
 お父さん達はぼくが見ているときは仲良くしていたけれど、実際はそうではないことは少しずつわかってきた。
 
 お父さんは体が弱くて、すぐに病気になるぼくを怖がって、仕事ばかりするようになった。そんなお父さんを、お母さんは夜中になじっていた。
 
 「あなたがいないとゆうとがさみしがるの!」
 
 「じゃあ誰が治療費を出すんだ!俺が仕事をやらねば病院代は誰が出すんだ!お前が働くか!?」
 
 「無理よ…!!病院に通院しなければあの子は…!!」
 
 「じゃあ黙っててくれ!」
 
 「…」
 
 ぼくが熱を出して、寂しくてリビングの隣の和室で寝ていたとき。遅く帰ってきたお父さんとお母さんのけんかを聞いてしまった。
 
 …ぼく、邪魔なんだな。
 
 その次の冬、とうとう僕は大きな病院に入院することになった。
 
 病気の名前は、とうとう教えてもらえなかったけれど。
 
 なんとなく、もうあのお家には帰れないような気がしていた。
 
 小さいアパートのお家。住んでいたのは五年。ランドセル、無理なのかもしれないな。病院へ行く道の途中、きらきらしたランドセルをしょって友達と笑いながら歩く小学生を見て、僕はなんとなくそう思っていた。
 
 僕は、体が弱いから邪魔者なんだ…だから、お父さん達のためにも、早く居なくなったほうが良いに違いない。そうしたら、体の丈夫な子がお父さん達の間に生まれて、皆であのお家で笑い合ってくれるかもしれない。…僕は、そこにはいないだろうけど。
 
 
 「バッカじゃねえの」
 
 病院に入院し始めた頃、まだ僕は狭い範囲だけど歩くことは出来た。そうして、同じ病棟に居る友達が出来た。
 
 釣り目の印象的な、ちょっと口の悪い男の子。まさきは、いつも唇を尖らせていた。
 
 まさきの家族は、忙しいのかたまにしかこなかった。まさきも、家族が来てもそっけなくて、いつも病室の窓ばかりを眺めていた。
 
 「なんで?ぼくがもっと体がじょうぶだったら。皆幸せだってそう思わないの?」
 
 まさきは口は悪いけど、ぼくのためにいつも怒ってくれた。自分のことは本当に話してくれないけれど、僕はおしゃべりだから何でも彼に話した。
 
 「んなわけねーだろ。お前の体は関係ねぇ。俺は、お前の父親は嫌いだ。おまえのかーちゃんはまだいいけど。」
 
 ちょっと気分が良かったので、僕はまさきの病室に来ていた。まさきはベッドに横になって、上半身だけ起こしてぼくのおしゃべりを聞いてくれた。
 
 「かーちゃんのほうはわりとお前の様子を見に来てるけど、父親のほうなんてほとんど見ないじゃないか」
 
 「お仕事忙しいから…」
 
 ぼくが口を挟むと、まさきは窓から視線を戻して、目を吊り上げて声を荒げた。
 
 「夜間面会もあるというのに。自分の子供から逃げ回ってるようなこんじょうなしはきらいだ!」
 
 そういった後、まさきはふらりとベッドの上に倒れこみ、咳き込んだ。
 
 「無理しちゃダメだよ。…ごめん、君を怒らせたいわけじゃなかったんだ…」
 
 ひとしきりせきこんだあと、まさきは目尻を下げてぼくに謝ってくれた。
 
 「…わるい。おれはああいう人が嫌いなんだ。…お前のとーちゃんだけど」
 
 「ううん。…ぼくのために怒ってくれて、ありがとう」
 
 そういうと、まさきは少しだけ口の端をあげて、笑ってくれた。
 
 「ああ。…知ってるか?この病院、結構金持ちなんだぜ」
 
 「うん」
 
 まさきのお話は唐突に話題が変わるので、それはいつものことだ。
 
 「この病院の周りは、うめー飯屋とか、りっぱなスポーツジムとか。プール教室とか、美術館とかあるんだってさ」
 
 「へえ」
 
 「…よくなったら、いきたいな。」
 
 「そうだね」
 
 「友達皆で、お小遣いもって、買い食いとかしてえなあ!あっちのほうに、うまいパン屋があるんだってさ。クリームパンがうめーんだって」
 
 「クリームパン」
 
 そうだ。そういって、まさきは笑った。
 
 「もし、生まれ変わるなら。次は人間じゃなくて動物になりたいなあ…!!強い動物が良いなあ。ライオンとか、象とか。でっかいの、あこがれるなあ…」
 
 「あ、それならぼく、鳥になりたい」
 
 まさきはぼくのことばに目を瞠った。
 
 「えー、鳥は弱そうだからなあ。俺は良いや」
 
 「僕は鳥が良いな。気ままに、空を飛んで居たいよ」
 
 「空かー。確かに飛んでみたいなあ」
 
 弱いからだのせいで。僕はあまり外に出ることが出来なかった。いつも、部屋の中から、窓の外を見ていたから。
 
 そんな時、空を自由に飛び去っていく鳥達が、とっても自由に見えたんだ。僕にはないものをもっている。どこへでも飛んでいける、翼を持つ鳥たちが。
 
 「…きもちは、わからないわけでもないかな…」
 
 「まさき?」
 
 僕にはそのとき、ぼくから顔を背けて窓の外を眺めるまさきの横顔がものすごく、寂しそうに見えた。
 
 でもすぐ、にかっといつもの明るい笑顔を浮かべたので、そのときは特に気にしなかったんだ。
 
 「いつか、元気になったら。こづかいにぎりしめて、あそこのパン食いに行こうな!」
 
 「うん!」
 
 病院に入院しているぼくらは、できるだけ約束はしない。出来ない約束は、したくないんだ。いつも明るく振舞う僕らだけど、ひたひたと、背中から迫ってくるものがあることを、僕らは何よりも知っていた。せめて、最後まで明るく居たかった。僕らの見ていないところで家族が泣いたり、悲しむのは見たくなかった。
 
 その後、一年を待たずにまさきの病室は空き室になり、その後すぐに新しい子が来た。その頃には、僕も病室から出歩くことが難しくなっていた。
 
 お母さんはお見舞いによく来てくれた。どんどん力をなくしていく僕を見て、悲しそうな顔をする時間が増えたけれど、それでも僕を元気付けた。お母さんは将来の話をよくしてくれた。大きくなったらここに行こう、これをやろう。その楽しそうな計画の中に、いつしかお父さんの名前がなくなっていたことに僕は薄らと気づいていたけど、僕は気づかない振りをした。最後まで、何も知らない子供で居たかった。お母さんが、そう望んでいる気がしたから。
 
 目を覚ましているときよりも、ぼんやりとしたはっきりとしない意識の中に居ることが増えてきた頃、不思議な夢を見た。
 
 もう、手を上げることも億劫なのに、僕は病院の入り口付近にあった重そうな電話の受話器を持って、どこかへ電話していた。
 
 もう、歩くことも出来ないのに…ぼくははきはきと誰かと電話している。ああ、あんなにおしゃべりしていたのはいつだったか…
 
 沢山おしゃべりをする僕を、僕は眺めている。
 
 そのとき、ふと隣に誰かが立っていたことに気がついた。見上げてみると、かっちりとした黒いスーツを着た男のヒトに見えた。…でも。お顔が。
 
 ふわふわした、狐さんの顔だった。狐さんは、僕と目が合うと、瞳をしぱしぱさせた後、牙を見せてにかっと笑った。
 
 「間に合いました。…当店のご利用は、命あるうちでなければならない取り決めがございますので」
 
 そう、僕に話すと、僕に手を差し出してきた。…きつねさんの、手だ。枯葉の色の毛皮の手先は、真っ白な毛で覆われていた。
 
 「なにぶん無茶な要求にしてしまいましたので。お客様には申し訳ないのですが、今すぐこちらに来ていただけますか?」
 
 ぼくは、頷いて、ふわふわした肉球をおそるおそる握り締めた。きつねさんはそれをみて、また牙を見せて笑ってくれた。
 
 …だって。このヒトの、声。さっきの、電話の声の人なんだ。僕のこと、心配してくれてた。
 
 信じていい気がしたから、そのままこの人の手を握って、導かれるままに歩いていった。
 
 …いつの間にか、病院の入り口の電話ボックスは見えなくなって、周り一面真っ白な空間になっていた。
 
 でも、不思議と不安じゃなかった。僕の手を、暖めてくれるふわふわのお手てがあったから。
 
 
 ------------------------------------------------------------
 
 朝って、楽しいよね。何より、ぼくらにとって暗闇は怖いものだから、それがなくなってお日様が全てを照らし、僕らの目を見えるようにしてくれるから。朝は大好きだ。僕らはいつもの場所に集合して、情報交換をするのだ。
 
 「昨日はあっちの畑で人間が土を穿り返してたから、虫が取れるぞ」
 
 「それ情報が遅い。もう水張っちゃってたよ」
 
 「あっちの家でうまい木の実が出来てたよ」
 
 「でも、人間に見つかると追い出されるからな、こっそり行けこっそり!」
 
 朝の情報交換。ここはちょっとした大きな木があって、皆で集まるには都合が良い。見晴らしが良いからね。時折、ここに住んでるっぽいヒトが僕らに米をくれるしね。
 
 時々、ヒトがやってきて奥の建物の前で腰を折ってる。何してんだろうね。ガラガラうるさいのならされるのは辛いけどね。
 
 「あ、でも」
 
 僕の鳴き声にみんながふりむいた。
 
 「向こうのでっかい建物の近くの、茶色の食べ物やさん…」
 
 「パン屋か?」
 
 「それ、それ!」
 
 僕は興奮してぶわりと膨らんでしまったけど、気にせず喋る。僕、おしゃべり好きなんだよね。
 
 「またたてものがおっきくなるみたいだよ!…もっと、おいしいのくれないかなあ…」
 
 「お前パン好きだよなあ…あれ食いすぎたら飛べなくなるぞ。食いすぎるなよ」
 
 わかってるよ!と僕は膨れる。あそこは僕らスズメにとっては恐ろしい場所なんだ。美味しくって、食べ過ぎちゃうと飛べなくなるから。恐ろしいんだよ。あそこに来るヒト、わりと僕らの姿を見かけるとパンくれるし。くれるなら、やっぱり…食べちゃうじゃない?やめ時がわからなくて怖いんだ!
 
 「ニンゲンってすごいよね。あんなおいしいものつくって、食べられるんだから。うらやましいなあ…」
 
 「また始まったなあ。」
 
 「ま、食べ過ぎないなら良いんじゃないか」
 
 「そうだなー」
 
 皆でおしゃべりして、分かれていく。僕は基本的には、この大きな木の近くに居る。何だか落ち着くんだよね。ここにやってくるヒトを見るのも楽しいし、ここの石像の形も好き。なんだろうなあ。あったこともないはずなんだけど、この石像は大好きなんだ。
 
 僕は割りとヒト好きなスズメだから。むこうの、沢山の人が集まる大きな建物はなんだか好きじゃないんだけどね。ふくざつ!
 
 今日は天気が良いから、石像のそばで日向ぼっこをしようっと。
 
 しあわせだよ、僕。今が、一番幸せだ。
 
 
 
 
 
 
 
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