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第61話 魔王は手を掴む
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マユの目が真っ直ぐにオレを見る。生まれ変わっても変わらないとても強い目。
「生まれ変わったあの日からずっとずっと探してた。ダーク君を。赤ちゃんの時に引っ越して、隣の家があなただったのにすごく驚いた。お互い小さくなったねって話しかけたんだよ」
オレ、その時まだ思い出してない。ただの赤んぼうだ!! ごめんマユ!!
「そうしたら、ダーク君ぎゅって手を掴んでくれて口付けしてくれて」
それたぶん、赤ちゃんがおもちゃがわりに手をしゃぶっただけでは!? 何してるんだ、赤ちゃんのオレぇぇ!!
「今度は一緒だねって喜んだんだ。二人とも人間だからもう戦わなくていいんだって。世界が変わってたなんてびっくりだったけど」
それもあの日に思い出したんだ。本当にごめん。
オレは申し訳なさでぐったりと頭を下げる。マユはずっとずっと待っていてくれたんだ。オレが記憶を取り戻す前からずっとずっと。
「でもね、私の中にもう一人私がいたの。それが真由。転生した時に私と真由が別々になってしまったみたいなの。私は彼女に申し訳なくて、必要以上に前に出る事をなくしていったんだ。真由を通して見るあなたは、ダーク君じゃなくてずっと拓也君だった。そして、拓也君、君は私じゃなくてずっと真由の事を好きだっただろ?」
「う……」
図星だった。前世で約束したからマユを探してはいたが好きなのは真由だと心に決めていた。
「いいんだ。今の私と今のダーク君が一緒になる夢は叶ったから。だからね、私はもう幸せだから、真由の邪魔をしちゃ駄目だ……から……ダメだからっ……」
マユの声が震える。
「私だけ向こうに戻れるなら、そうしたい。これ以上はもう見てるのが辛いんだ……。おかしいだろ。私なのに私に嫉妬するなんて」
戻る必要なんてないじゃないかと思っていた。だけど、自分に置き換えて考えれば耐えられるのか。あれだろ。オレ二号とかがオレを差し置いて真由と目の前でいちゃつくってことだろ!?
無理だ。脳内会議室で乱闘騒ぎが日課になる。
「マユ様、おまかせ下さいッス。わたしがずっとお守りします。生まれ変わったって。だから悲しみから解放されましょうッス。さぁ!!」
鉄拳は嬉しそうに尻尾を振りながらマユの返事を待っている。そりゃそうか、邪魔者の魔王が向こうに行けなくて、勇者マユとだけ帰れるんだ。
「それじゃあ、行くね。これ以上は言ってても悲しくなるだけだし。ありがとう、探してくれて。見つけてくれて。好きだって言ってくれて」
「――ッ!!」
「お願い、ケルちゃん」
「いいのじゃな、わん? 勇者」
「うん」
「わたしも一緒にお願いしますッス!」
ケルベロスの口が開く。
おい、何してるんだオレ! 今すぐとめないと!
だけど、オレが耐えれない事をマユに強いるのか?
だが、このままじゃ……探して探して、やっと見つけた彼女が永遠に見つからない場所に行ってしまう。
池照の時のように透けて向こう側が見えるマユが現れる。
ダメだ! おい、とめろよオレ二号。お前が魔王だろ。前世約束したんだろ!!
カッコつけてマユに何も伝えないまま一人で全部しようとして失敗したんだろ。なんとかしなきゃ今度は二度とマユに会えないんだぞ!!
オレ二号は首をふり、オレを指さした。
そうだ、オレはオレで魔王のオレもオレなんだ。動かなきゃならないのはオレなんだっ!!
ケルベロスの口にオレの腕を噛ませ蓋をする。カッコ悪いとか言ってる場合じゃないんだ。
「わ、わんわんわんわ!?」
ケルベロスが何か言っているがどうでもいい。行かせない。マユは行かせない!!
約束したんだ、生まれ変わったら一緒になろうって。オレはまだ約束を果たしてないんだよっっ!!
「拓也君……、どいてもらってもいいかな」
「そうッスよ。邪魔しないで下さい大間君!! そこからどくッス」
「行かせない!! オレまだちゃんと伝えてないんだ。約束だって!!」
「なら、半魔族獣人の力で引き剥がしてやるッス」
鉄拳の手が伸びてくる。凡人のオレは勝つことが出来ないだろう。だが、負けられない!! 負けられないんだ。
「拓也君、お願い……」
マユの言葉でオレの戦う意志は砕かれる。そんなに戻りたいのかよ。
「まったく、いつもは噛むな噛むなというくせにわん」
ケルベロスが噛ませていた腕から離れ再び口を開ける。
薄っすらとしたマユがケルベロスへと近づいていく。
「さようなら、ダーク君。真由と仲良くしてね」
手を振る彼女にオレも手を振り返す。
吸い込まれる。その刹那、オレはマユの腕を掴んだ。
「え?」
驚くマユにオレは言う。
「一緒になるって約束だろ。約束破る気かよ!! 絶対に行かせない!!」
その時、池照の体から光が飛び出し真由の体の中に取り込まれた。
何が起こったのかわからないまま、マユを掴む手が増えた。
「行っちゃダメだよ。マユちゃん。もう一人の私」
増えた手の主は真由だった。
「生まれ変わったあの日からずっとずっと探してた。ダーク君を。赤ちゃんの時に引っ越して、隣の家があなただったのにすごく驚いた。お互い小さくなったねって話しかけたんだよ」
オレ、その時まだ思い出してない。ただの赤んぼうだ!! ごめんマユ!!
「そうしたら、ダーク君ぎゅって手を掴んでくれて口付けしてくれて」
それたぶん、赤ちゃんがおもちゃがわりに手をしゃぶっただけでは!? 何してるんだ、赤ちゃんのオレぇぇ!!
「今度は一緒だねって喜んだんだ。二人とも人間だからもう戦わなくていいんだって。世界が変わってたなんてびっくりだったけど」
それもあの日に思い出したんだ。本当にごめん。
オレは申し訳なさでぐったりと頭を下げる。マユはずっとずっと待っていてくれたんだ。オレが記憶を取り戻す前からずっとずっと。
「でもね、私の中にもう一人私がいたの。それが真由。転生した時に私と真由が別々になってしまったみたいなの。私は彼女に申し訳なくて、必要以上に前に出る事をなくしていったんだ。真由を通して見るあなたは、ダーク君じゃなくてずっと拓也君だった。そして、拓也君、君は私じゃなくてずっと真由の事を好きだっただろ?」
「う……」
図星だった。前世で約束したからマユを探してはいたが好きなのは真由だと心に決めていた。
「いいんだ。今の私と今のダーク君が一緒になる夢は叶ったから。だからね、私はもう幸せだから、真由の邪魔をしちゃ駄目だ……から……ダメだからっ……」
マユの声が震える。
「私だけ向こうに戻れるなら、そうしたい。これ以上はもう見てるのが辛いんだ……。おかしいだろ。私なのに私に嫉妬するなんて」
戻る必要なんてないじゃないかと思っていた。だけど、自分に置き換えて考えれば耐えられるのか。あれだろ。オレ二号とかがオレを差し置いて真由と目の前でいちゃつくってことだろ!?
無理だ。脳内会議室で乱闘騒ぎが日課になる。
「マユ様、おまかせ下さいッス。わたしがずっとお守りします。生まれ変わったって。だから悲しみから解放されましょうッス。さぁ!!」
鉄拳は嬉しそうに尻尾を振りながらマユの返事を待っている。そりゃそうか、邪魔者の魔王が向こうに行けなくて、勇者マユとだけ帰れるんだ。
「それじゃあ、行くね。これ以上は言ってても悲しくなるだけだし。ありがとう、探してくれて。見つけてくれて。好きだって言ってくれて」
「――ッ!!」
「お願い、ケルちゃん」
「いいのじゃな、わん? 勇者」
「うん」
「わたしも一緒にお願いしますッス!」
ケルベロスの口が開く。
おい、何してるんだオレ! 今すぐとめないと!
だけど、オレが耐えれない事をマユに強いるのか?
だが、このままじゃ……探して探して、やっと見つけた彼女が永遠に見つからない場所に行ってしまう。
池照の時のように透けて向こう側が見えるマユが現れる。
ダメだ! おい、とめろよオレ二号。お前が魔王だろ。前世約束したんだろ!!
カッコつけてマユに何も伝えないまま一人で全部しようとして失敗したんだろ。なんとかしなきゃ今度は二度とマユに会えないんだぞ!!
オレ二号は首をふり、オレを指さした。
そうだ、オレはオレで魔王のオレもオレなんだ。動かなきゃならないのはオレなんだっ!!
ケルベロスの口にオレの腕を噛ませ蓋をする。カッコ悪いとか言ってる場合じゃないんだ。
「わ、わんわんわんわ!?」
ケルベロスが何か言っているがどうでもいい。行かせない。マユは行かせない!!
約束したんだ、生まれ変わったら一緒になろうって。オレはまだ約束を果たしてないんだよっっ!!
「拓也君……、どいてもらってもいいかな」
「そうッスよ。邪魔しないで下さい大間君!! そこからどくッス」
「行かせない!! オレまだちゃんと伝えてないんだ。約束だって!!」
「なら、半魔族獣人の力で引き剥がしてやるッス」
鉄拳の手が伸びてくる。凡人のオレは勝つことが出来ないだろう。だが、負けられない!! 負けられないんだ。
「拓也君、お願い……」
マユの言葉でオレの戦う意志は砕かれる。そんなに戻りたいのかよ。
「まったく、いつもは噛むな噛むなというくせにわん」
ケルベロスが噛ませていた腕から離れ再び口を開ける。
薄っすらとしたマユがケルベロスへと近づいていく。
「さようなら、ダーク君。真由と仲良くしてね」
手を振る彼女にオレも手を振り返す。
吸い込まれる。その刹那、オレはマユの腕を掴んだ。
「え?」
驚くマユにオレは言う。
「一緒になるって約束だろ。約束破る気かよ!! 絶対に行かせない!!」
その時、池照の体から光が飛び出し真由の体の中に取り込まれた。
何が起こったのかわからないまま、マユを掴む手が増えた。
「行っちゃダメだよ。マユちゃん。もう一人の私」
増えた手の主は真由だった。
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