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第1話
しおりを挟む「あらら?」
私リリー・ベッキンセイルは聖女としての務め、朝の祈りを終えて、礼拝堂から自室へ戻ろうとしましたところ、軽い眩暈に襲われましたの。
少し休憩をと椅子に座っておりましたら、頭の中にいろいろな思い出が急激に思い出されて、ますます眩暈が酷くなってまいりました。
目を瞑り、眩暈に耐えておりましたら、だんだんと頭の中に見慣れない景色が浮かんでは消え、最後にまばゆい光が瞼の裏に炸裂したかと思ったらーーーー。
「ここ、どこ?あ、いや礼拝堂、礼拝堂は分かってるんだけど・・・。」
私、橋本香織がいるのは礼拝堂で朝の祈りを終えたところ。祈りは聖女の大事な仕事で、私は聖女なのでいつもと変わらず仕事を終えたところで。
いや待て待て、私はしがないアラサーOL経理担当だ。でもリリー・ベッキンセイルでもあって、昨日は今日の会議の資料をまとめてから寝て、そして明日はリリーの婚約者との婚姻の日で・・・。
混乱する。非常に混乱している。
頭を抱えて、どれくらいの時間そうしていたのかも分からないくらい頭の中の記憶を擦り合わせに擦り合わせた結果。
私は橋本香織として日本の経理OLをしていたという記憶。
また私はこちらの世界でリリー・ベッキンセイルとして聖女をしているという記憶。
この2つが共存し、感情や考え方は橋本香織のもの、身体や能力はリリー・ベッキンセイルのものを受け継いでいると結論付けた。
「マジか・・・」
私は一瞬これからの人生を悲観した。が、悲観しても何の意味もないことを瞬時に悟り考えを切り替えた。
「訳の分からんことになったけど、まぁ、生きていくしかないか!」
リリーの自室に戻り、ぽすんとベッドに横になる。そして、もう一度ゆっくりこの世界での記憶、特に直近で対処しなければならないことはないかと思い出してみる。
「あ、そうだ。明日結婚するんじゃん!」
思い出してみると、リリーは20歳。数回しか会っていない、リリーを物のように扱う高圧的な40代の油ギッシュな公爵との縁談は既にまとまっていた。
聖女はその性質上トロフィーワイフとしては最上級のものである。教会側も公爵から多額の寄付を受けている手前、聖女一人くらい手放すことは造作もないことだった。
リリーは婚約に表立って反対はしなかったものの、内心では酷く悲しみ、婚約相手を軽蔑していた。
そりゃそうだ。思い出した私も嫌だ。
「あ~、なんとか婚約白紙に戻せないかなぁ~!」
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