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第1章 ~ノワール国~
ノワール国 その3
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「え~~~~~~!!」
私はへーリオス家の虚兵がある格納庫へと走って声を上げた。
そこには、ほとんど分解に近い形の虚兵。父上専用の【ナイト-へーリオス】
「アレクの旦那の容態を見に行ったら意識が戻っていたからよ、王家が所有している純度の高い鉛と金属を分けてくれと言ったらーー…。」
バァン!と音を立て勢いよく父上の部屋への扉を開ける。
「父上!!」
部屋の中では父上の容態を診ていた医者が驚きの表情をしていた。
ベットで上半身を起こしている父上はずっと横になっていたせいか少し痩せ細り全体的に萎んだように感じる。
父上は私を見て「なんだ…騒々しい…それでも年頃の娘か…。」とため息をついていた。それでもお構いなしに父上に近づき抗議する。
「そんな事より父上!父上の虚兵のあの姿はなんですか!?あれでは父上が戦うことが出来ないではありませんか!」
「なんだ、その事か…。」
父上は医者の先生に顔を向ける。
「娘にも話してやってくれないか?」
「アレク様、よろしいのですか?」
「あぁ、娘にも聞く権利もある。なにせ親子だからな。」
「解りました…。」
神妙な顔つきの二人に私の頭は「???」だった。
「アリス様」
医者の先生が私に語りかける。
「実はアレク様の容態なんですが…もう今までのような生活を送ることは厳しいかもしれません。」
「え?」
「実はな、先の戦闘での負傷でな…。」
轟撃王 タウロス
牛の姿の上級魔族。巨大な戦斧を振りかざし、その自身の頭部から生えている二本の角で父上を撥ね飛ばした。
私に短い命を謳歌せよとか言っていたが…。
「ヤツの角が少しズレていたお陰で俺の命は助かったが…。」
父上は上着を捲り傷の上に巻かれた包帯を擦る。
周りの黒く変色した皮膚がその衝撃の凄惨さを物語っている。
「恐らくは神経の一部が傷付いたのでしょう…。アレク様の右足が…。」
「まったく動かんのだ…。」
がはは!と自身の右足を叩きながら父上は言うが、私の心臓が締め付けられる思いだ。騎士団長である父上の右足が動かないなんて…。
「そんな…!先生!どうにか父上の足は元に戻らないのですか!?」
「………。」
先生の下を向く姿が答えなのだと悟った。
「………。」…どうにかならないのですか?」
「…残念ですが…私の力ではどうすることも…。」
父上の動かない足、戦線から身を引かなければならない現状。恐るべき上級魔族。異世界からの来訪者。
私の頭では理解も整理も出来ない。
【双頭の龍】と呼ばれた父上はもう戦う事が出来ないという事実を受け入れるなんて…無理だ。
目に涙が溜まりうつ向く私の頭に父上の手が乗った。
「心配するな!長い人生足が動かなくなることだってあるさ!がはは!」
…まったくこの父上は…こんなことになっても笑えるなんて…。
「ところでアリス。」
「な…なんですか?」
「戦場で私やお前を救ってくれた人がいると聞いたが礼をまだ言っていないのだ。なのでその者をここへ連れてきてはくれまいか?」
「シチリをですか?」
「おお、シチリ殿と申すのだな。」
確かにシチリには助けられたが…父上にも言うべきか?シチリは【伝説の勇者】かもしれないと…。
「あ、あの父上…」
「アリスの婿に相応しいか一目見んとな!」
………へぇぁ!?
「ちっ父上!!!こ、こんな時に何を仰っているのですか!!!」
顔が赤くなるのが解る。そんな私に父上は更に言う。
「お前はカペルシュ家のオズと一緒になると思っていたがな。」
ん~~ーー……黒歴史…。
「まぁよい。男の俺では解らない事もあるだろう、なぁ先生。」
「そうですね、うちの娘は反抗的ですがアリス様を見るとアレク様か羨ましく思います。」
「ガハハ!しかしアリスお前の婿になる条件は分かっているだろう!」
婿の条件…それは【父上の攻撃を見切る】こと。
オズはそう聞いたとき最初の頃は張り切って訓練をしていたが…父上は強く。私もオズの本性が解ってきて別れを告げたら「アレク殿には勝てる訳がないから良かった。」と…。思い返すと腹立たしいが、一理あるのも私は理解している。父上の攻撃を見切ることが出来たのは友人であり仕えるべき王でもあるグライス王ただ一人だからである。
でも!だからと言って口に出して言うことか!!良かったとか!!仮にも恋人との交際条件だったのだぞ!!まったく!!別れて正解だ!
「ではアレク様、私はそろそろ。」
「おう、悪かったな先生。」
「いえいえ、とんでもないです。こちらこそお力になれず…。」
「構わんよ。」
「では、すいません。失礼いたします。」
先生は深く頭を下げて屋敷を後にした。
「父上なぜ【ナイト-へーリオス】があの様な姿になったのかまだ聞いていませんが?」
「んー…アレックス殿がな、涙を流しながら訪ねてきてな。」
~~「頼むよ、アレクの旦那!俺に剣を打たせてくれよ!もう二度と折れる剣を作る訳にはいかねぇんだよ~!!」~~
「ーー…ってな。」
ん?オヤジさんから聞いた話と少し違う??
「…あのオヤジさんがと言うよりドワーフが泣くというのが想像出来ません。」
「あぁ見えてオヤジ殿は涙脆いのだ。あのなんと申したか…救ってくれた…。」
「シチリですか?」
「おぉそうだ、シチリ殿がオヤジ殿の剣を折ってしまっただろ?それでも生きて戻っただけで安心して工房に籠って2日泣き明かしたらしい。」
「あまり人の外見で判断はしたくないのですけど…そうは見えません。」
「オヤジ殿と酒を交わしたときに聞いたが、幼き頃はドワーフ族の中でも弱虫で泣き虫だったらしい。勇者様との旅のお陰で成長した今のオヤジ殿があるのだな。」
父上は腕を組み頷きながらそう話す。
「成長かぁ私も頑張って成長しないと。」
「そうだな、人間死ぬまで成長だ!そこに限界などない!ガハハハ!!」
屈託なく笑う父上だが、その足はもう動くことはない。
「父上はもう【虚兵】には乗らないのですか?それで、オヤジさんに父上の【ナイト-へーリオス】を渡したのですか?」
「そうだ。今現在で我がノワール国の資源には問題はないが無駄に浪費するわけにもいかぬ、今また魔族が迫ってきたときに動かなければだだのガラクタにしかならぬ、アイツはそれを望むまい。俺とは違いまだ戦える。だからせめて武器と成り戦場へと駆り出せればアイツも本望だろう。老兵は死なずただ去りゆくのみ……とは言ったものの…騎士として最後は戦場で散りたかったがな…。」
父上の握りこむ拳を私は見ることしか出来ない。騎士として戦場で散りたかったと言う父上…娘の私としては…とても複雑な心境だ。
「アリス、俺はもう前線で戦えん。だからアリス。」
「はい。」
「早く婿を連れてこい。」
「っ!?父上!?」
「戦えんでも教えることは出来る!孫を鍛えねばな!」
「ちょっ!父上気が早すぎます!」
「名前も決めんとな!あと孫専用の馬も親から準備せんとならんな!防具などは…いや先ずは何よりも体力をつけねばならんな!へーリオス家としては剣聖が望ましいがそれとな…!!」
父上がここまで一人で盛り上がるのは珍しい…「ははは…。」と苦笑いの私を置いて未だ見ぬ孫、つまり私の子への未来が止まらない。
「はぁ~…。」
トントン。
「ん?」
扉を叩く音に助けられた。
暴走する父上をやっと静止させたから。
「旦那様よろしいでしょうか?」
まだまだ言い足りぬようでため息を吐く父上。
「いいぞ、なんだ?」
ぎぃと音をたてて扉を開ける。そこには背筋が少し曲がっていて青いワンピースに白いロングエプロンを着けた女性。
今年で48歳になる。メイド長のクロックの姿があった。
クロックは若い頃は大層な美人で【双頭の竜】がクロックをめぐって争ったとまで噂になったくらいだ。
彼女は亡くなった母上に代わり私の世話を焼いてくれる。メイドなのだが私にとって育ての親、乳母みたいな者だ。教養も善悪の区別を教えてくれたのもクロックだし、私の話もしっかりと聞いてくれるし助言もしてくれる父上も私もとても信頼している人の一人である。
ちなみに、オズとの交際を最初から反対していたのもクロックである。なにやら女の勘というものが働いたらしい。私が交際を解消すると言ったときは自分の主でもある父上やカペルシュ家当主が相手でも1歩も引かず私を庇護してくれた。その時にクロックは感極まって「私の娘を傷つける事は許しません!」と言ってしまった為、その場が氷ついたのは今では両家の笑い話になっている。
最近、顔の小皺も目立ってきている彼女に何かしてあげたいと話したところ「アリス様の笑顔が見れるだけでクロックは胸がいっぱいでございます。」と返されてしまった。
「アレク様、アレク様の盟友だという方がお越しになっています。」
「盟友?」
「俺だー!!アレク!!!」
クロックの隣から勢いよく飛び出して来たのは。
「おお!グライスじゃないか!」
「グライス王様!?」
グライス王の突然の来訪に私は焦って背筋を正す。
「よいよいアリスよ。今は王として来たのではない。アレクの盟友として参上したのだ。気を楽にしろ。」
「ハッ!」
相手はこの国の王なのだ気を楽にと言われても…。
「なんだアリスお前こんな小さいときはよくグライスに肩車されて髭を引っ張っていたじゃないか。」
やめてーー!父上!!
「はっはっは!懐かしいな!そんな事もあったな!!」
「がっはははは!」
この二人の空気は私には重すぎる。
「長くなりそうなのでお茶をご用意いたしますか?」
「いや、クロックよ!せっかく友が足を運んでくれたのだ!ワインの上物を頼む!」
「かしこまりました。」
「いや、まてまてアレク!これを見るがよい!」
グライス王が懐から1本のビンを取り出す。
「超最高酒【クイーン・ローズ】だ!」
「おお!?これが噂に聞く【クイーン・ローズ】か!」
「お前と呑みたいと思い王の権限で取り寄せたのだ!世界で7本しかないのだぞ!!」
「それはありがたい!」
「さぁさ!呑もうではないか!クロック!お前も呑むか?」
「超最高酒 【クイーン・ローズ】ですか、これは良い冥土の土産になります。」
いつの間にかにグラスが3つと酒の肴になるチーズやハムなどが用意されている。クロックは仕事が早い…いや元々自分も呑む気だったのかもしれない。
こうなると夜は長いし酔うと話がくどくなるので…。
「父上、明日シチリ殿を呼んで来ますので私は失礼させていただきますね。くれぐれも飲み過ぎになられませんように。」
「おう!解ってる解ってる!」
「グライス王様、失礼いたします。」
「うむ、今宵は騒がしくなるが気を悪くしないでくれな。」
「ハッ!」
私はクルリと振り返り、足早に父上の部屋を後にして自室へと足を急がせる。
明日は朝から楽園へと向かわないと。
今頃シチリは何をしているのだろう?
窓から空を見上げると月が淡い光を放っていた。
私はへーリオス家の虚兵がある格納庫へと走って声を上げた。
そこには、ほとんど分解に近い形の虚兵。父上専用の【ナイト-へーリオス】
「アレクの旦那の容態を見に行ったら意識が戻っていたからよ、王家が所有している純度の高い鉛と金属を分けてくれと言ったらーー…。」
バァン!と音を立て勢いよく父上の部屋への扉を開ける。
「父上!!」
部屋の中では父上の容態を診ていた医者が驚きの表情をしていた。
ベットで上半身を起こしている父上はずっと横になっていたせいか少し痩せ細り全体的に萎んだように感じる。
父上は私を見て「なんだ…騒々しい…それでも年頃の娘か…。」とため息をついていた。それでもお構いなしに父上に近づき抗議する。
「そんな事より父上!父上の虚兵のあの姿はなんですか!?あれでは父上が戦うことが出来ないではありませんか!」
「なんだ、その事か…。」
父上は医者の先生に顔を向ける。
「娘にも話してやってくれないか?」
「アレク様、よろしいのですか?」
「あぁ、娘にも聞く権利もある。なにせ親子だからな。」
「解りました…。」
神妙な顔つきの二人に私の頭は「???」だった。
「アリス様」
医者の先生が私に語りかける。
「実はアレク様の容態なんですが…もう今までのような生活を送ることは厳しいかもしれません。」
「え?」
「実はな、先の戦闘での負傷でな…。」
轟撃王 タウロス
牛の姿の上級魔族。巨大な戦斧を振りかざし、その自身の頭部から生えている二本の角で父上を撥ね飛ばした。
私に短い命を謳歌せよとか言っていたが…。
「ヤツの角が少しズレていたお陰で俺の命は助かったが…。」
父上は上着を捲り傷の上に巻かれた包帯を擦る。
周りの黒く変色した皮膚がその衝撃の凄惨さを物語っている。
「恐らくは神経の一部が傷付いたのでしょう…。アレク様の右足が…。」
「まったく動かんのだ…。」
がはは!と自身の右足を叩きながら父上は言うが、私の心臓が締め付けられる思いだ。騎士団長である父上の右足が動かないなんて…。
「そんな…!先生!どうにか父上の足は元に戻らないのですか!?」
「………。」
先生の下を向く姿が答えなのだと悟った。
「………。」…どうにかならないのですか?」
「…残念ですが…私の力ではどうすることも…。」
父上の動かない足、戦線から身を引かなければならない現状。恐るべき上級魔族。異世界からの来訪者。
私の頭では理解も整理も出来ない。
【双頭の龍】と呼ばれた父上はもう戦う事が出来ないという事実を受け入れるなんて…無理だ。
目に涙が溜まりうつ向く私の頭に父上の手が乗った。
「心配するな!長い人生足が動かなくなることだってあるさ!がはは!」
…まったくこの父上は…こんなことになっても笑えるなんて…。
「ところでアリス。」
「な…なんですか?」
「戦場で私やお前を救ってくれた人がいると聞いたが礼をまだ言っていないのだ。なのでその者をここへ連れてきてはくれまいか?」
「シチリをですか?」
「おお、シチリ殿と申すのだな。」
確かにシチリには助けられたが…父上にも言うべきか?シチリは【伝説の勇者】かもしれないと…。
「あ、あの父上…」
「アリスの婿に相応しいか一目見んとな!」
………へぇぁ!?
「ちっ父上!!!こ、こんな時に何を仰っているのですか!!!」
顔が赤くなるのが解る。そんな私に父上は更に言う。
「お前はカペルシュ家のオズと一緒になると思っていたがな。」
ん~~ーー……黒歴史…。
「まぁよい。男の俺では解らない事もあるだろう、なぁ先生。」
「そうですね、うちの娘は反抗的ですがアリス様を見るとアレク様か羨ましく思います。」
「ガハハ!しかしアリスお前の婿になる条件は分かっているだろう!」
婿の条件…それは【父上の攻撃を見切る】こと。
オズはそう聞いたとき最初の頃は張り切って訓練をしていたが…父上は強く。私もオズの本性が解ってきて別れを告げたら「アレク殿には勝てる訳がないから良かった。」と…。思い返すと腹立たしいが、一理あるのも私は理解している。父上の攻撃を見切ることが出来たのは友人であり仕えるべき王でもあるグライス王ただ一人だからである。
でも!だからと言って口に出して言うことか!!良かったとか!!仮にも恋人との交際条件だったのだぞ!!まったく!!別れて正解だ!
「ではアレク様、私はそろそろ。」
「おう、悪かったな先生。」
「いえいえ、とんでもないです。こちらこそお力になれず…。」
「構わんよ。」
「では、すいません。失礼いたします。」
先生は深く頭を下げて屋敷を後にした。
「父上なぜ【ナイト-へーリオス】があの様な姿になったのかまだ聞いていませんが?」
「んー…アレックス殿がな、涙を流しながら訪ねてきてな。」
~~「頼むよ、アレクの旦那!俺に剣を打たせてくれよ!もう二度と折れる剣を作る訳にはいかねぇんだよ~!!」~~
「ーー…ってな。」
ん?オヤジさんから聞いた話と少し違う??
「…あのオヤジさんがと言うよりドワーフが泣くというのが想像出来ません。」
「あぁ見えてオヤジ殿は涙脆いのだ。あのなんと申したか…救ってくれた…。」
「シチリですか?」
「おぉそうだ、シチリ殿がオヤジ殿の剣を折ってしまっただろ?それでも生きて戻っただけで安心して工房に籠って2日泣き明かしたらしい。」
「あまり人の外見で判断はしたくないのですけど…そうは見えません。」
「オヤジ殿と酒を交わしたときに聞いたが、幼き頃はドワーフ族の中でも弱虫で泣き虫だったらしい。勇者様との旅のお陰で成長した今のオヤジ殿があるのだな。」
父上は腕を組み頷きながらそう話す。
「成長かぁ私も頑張って成長しないと。」
「そうだな、人間死ぬまで成長だ!そこに限界などない!ガハハハ!!」
屈託なく笑う父上だが、その足はもう動くことはない。
「父上はもう【虚兵】には乗らないのですか?それで、オヤジさんに父上の【ナイト-へーリオス】を渡したのですか?」
「そうだ。今現在で我がノワール国の資源には問題はないが無駄に浪費するわけにもいかぬ、今また魔族が迫ってきたときに動かなければだだのガラクタにしかならぬ、アイツはそれを望むまい。俺とは違いまだ戦える。だからせめて武器と成り戦場へと駆り出せればアイツも本望だろう。老兵は死なずただ去りゆくのみ……とは言ったものの…騎士として最後は戦場で散りたかったがな…。」
父上の握りこむ拳を私は見ることしか出来ない。騎士として戦場で散りたかったと言う父上…娘の私としては…とても複雑な心境だ。
「アリス、俺はもう前線で戦えん。だからアリス。」
「はい。」
「早く婿を連れてこい。」
「っ!?父上!?」
「戦えんでも教えることは出来る!孫を鍛えねばな!」
「ちょっ!父上気が早すぎます!」
「名前も決めんとな!あと孫専用の馬も親から準備せんとならんな!防具などは…いや先ずは何よりも体力をつけねばならんな!へーリオス家としては剣聖が望ましいがそれとな…!!」
父上がここまで一人で盛り上がるのは珍しい…「ははは…。」と苦笑いの私を置いて未だ見ぬ孫、つまり私の子への未来が止まらない。
「はぁ~…。」
トントン。
「ん?」
扉を叩く音に助けられた。
暴走する父上をやっと静止させたから。
「旦那様よろしいでしょうか?」
まだまだ言い足りぬようでため息を吐く父上。
「いいぞ、なんだ?」
ぎぃと音をたてて扉を開ける。そこには背筋が少し曲がっていて青いワンピースに白いロングエプロンを着けた女性。
今年で48歳になる。メイド長のクロックの姿があった。
クロックは若い頃は大層な美人で【双頭の竜】がクロックをめぐって争ったとまで噂になったくらいだ。
彼女は亡くなった母上に代わり私の世話を焼いてくれる。メイドなのだが私にとって育ての親、乳母みたいな者だ。教養も善悪の区別を教えてくれたのもクロックだし、私の話もしっかりと聞いてくれるし助言もしてくれる父上も私もとても信頼している人の一人である。
ちなみに、オズとの交際を最初から反対していたのもクロックである。なにやら女の勘というものが働いたらしい。私が交際を解消すると言ったときは自分の主でもある父上やカペルシュ家当主が相手でも1歩も引かず私を庇護してくれた。その時にクロックは感極まって「私の娘を傷つける事は許しません!」と言ってしまった為、その場が氷ついたのは今では両家の笑い話になっている。
最近、顔の小皺も目立ってきている彼女に何かしてあげたいと話したところ「アリス様の笑顔が見れるだけでクロックは胸がいっぱいでございます。」と返されてしまった。
「アレク様、アレク様の盟友だという方がお越しになっています。」
「盟友?」
「俺だー!!アレク!!!」
クロックの隣から勢いよく飛び出して来たのは。
「おお!グライスじゃないか!」
「グライス王様!?」
グライス王の突然の来訪に私は焦って背筋を正す。
「よいよいアリスよ。今は王として来たのではない。アレクの盟友として参上したのだ。気を楽にしろ。」
「ハッ!」
相手はこの国の王なのだ気を楽にと言われても…。
「なんだアリスお前こんな小さいときはよくグライスに肩車されて髭を引っ張っていたじゃないか。」
やめてーー!父上!!
「はっはっは!懐かしいな!そんな事もあったな!!」
「がっはははは!」
この二人の空気は私には重すぎる。
「長くなりそうなのでお茶をご用意いたしますか?」
「いや、クロックよ!せっかく友が足を運んでくれたのだ!ワインの上物を頼む!」
「かしこまりました。」
「いや、まてまてアレク!これを見るがよい!」
グライス王が懐から1本のビンを取り出す。
「超最高酒【クイーン・ローズ】だ!」
「おお!?これが噂に聞く【クイーン・ローズ】か!」
「お前と呑みたいと思い王の権限で取り寄せたのだ!世界で7本しかないのだぞ!!」
「それはありがたい!」
「さぁさ!呑もうではないか!クロック!お前も呑むか?」
「超最高酒 【クイーン・ローズ】ですか、これは良い冥土の土産になります。」
いつの間にかにグラスが3つと酒の肴になるチーズやハムなどが用意されている。クロックは仕事が早い…いや元々自分も呑む気だったのかもしれない。
こうなると夜は長いし酔うと話がくどくなるので…。
「父上、明日シチリ殿を呼んで来ますので私は失礼させていただきますね。くれぐれも飲み過ぎになられませんように。」
「おう!解ってる解ってる!」
「グライス王様、失礼いたします。」
「うむ、今宵は騒がしくなるが気を悪くしないでくれな。」
「ハッ!」
私はクルリと振り返り、足早に父上の部屋を後にして自室へと足を急がせる。
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