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第1章 ~ノワール国~
ノワール国 その7
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「俺1人の方が都合が良いのだが…。」
そんなことを言われても納得する者はこの場には居ない。
「なっ国の一大事に騎士の私が動かなくてどうする!当然私も着いていくぞ!シチリお前の戦いもこの目で見たいしな!」
「そーだ!お前だけを戦いに行かせてアタイらだけ何もしてないのじゃ他の仲間に会わせる顔がねぇよ!」
「酷いです!私達はもう仲間じゃないですか!私もこの日の為に鍛えてきたんです!」
女子三人に同時に責められるシチリ。ご自慢?の角が垂れ下がった。
そんな空気のなかで小さい手がスーと上がる。
「私も……ついていく……。どんな……部隊にも……軍師……必要だから。」
「ぬ、軍師?誰が?」
自分に指を指して首を傾げる。
「私……必要になる。損は……ない。」
「ぬ…愉快だね…まぁいいか。」
そう言って立て掛けている武器、防具の方へ歩いていくシチリ。
私は目線を下げてゴスロリカインを見る。こんなに小さいのに…。
「小さいのに…って思った…?」
「!!!」
「皆…必ず……そう言う…。」
「そうなのか、それはすまなかった。ごめんな。」
「もう1つ……。」
カインは睨むような眼差しを私に向ける。
「ん、なんだ?」
「私……の方が……歳上……。」
「…へ?」
「アリス - へーリオス……女性…19歳…騎士…推定レベル……22レベル…。」
「っ?まさかレベル鑑定士なの?」
「うん……私は……その人の…ステータス…が…見れる……。」
「レベル鑑定士なんてそんな最上位職の人がなんでこんなところに?」
「…テスト……嫌い……。」
「へ?テスト?」
「私は……自由…が…好きだから。」
「自由?」
「国の……犬…には…ならない……わん。」
この娘は無表情で凄いことを言ってくる…。
「アイガ - ラルム女性……20歳…兵士…レベル…28…。同じくエルザ - マーガレット19歳…兵士…11レベル……。」
「ぬ?なんの話をしてるの?」
数ある武器防具の中から手甲と短剣1本を持ってきたシチリが話に入ってくる。
「むー…。」
カインは唇を尖らせてシチリを見定めるように見つめだした。
「角男…シチリ…タカ…男……24歳。」
「ぬ?なんで解るんだ?」
「私の……能力……。」
小さい胸を張ってカインは答える。
「へー…すげぇじゃん。」
「む?兵士…でも…騎士…でも…ない……何者?」
「ぬ?」
「推定レベル…………えっ…レベル……87…すごい……この…国の…虚兵騎士…でも40…くらい…なのに……。」
「87だって!?」
「ぬ、凄いのか俺?」
凄すぎる…この世界に来て数週間だと言うのに…やはりシチリは伝説の勇者なんだ…。
「そういや、お前名前は?」
「お前…じゃない…カイン。それと…私…今年で…27歳…敬え……小僧…。」
「………愉快だねぇ。」
シチリの腰元で胸を張っているのゴスロリ少女(?)と 目を線にして苦笑いをしているシチリ。
ここだけを切り取ると兄妹の様だが…姉弟か?
「シチリ、我々だけで奇襲をかける訳だが勝算はあるのか?」
「勝算?今のところ算段もつかないが…なんとかなるだろ。」
借金の事もあるし…戦闘前なのにこの気の抜けた表情……この男はどこまで楽天的なのだろうか…?ここは私がしっかりしないと。
「ノーベル部隊長殿、兜と剣を1本借りていく。シチリは鎧はいいのか?」
「動きにくいからこの手甲と短剣…あー…弓も借りてくよ。」
ただの服に剣が2本短剣が1本、弓に矢が3本……それで本当に大丈夫なんだろうか…。
それぞれの馬に乗り最終確認をする。これから先は後戻りも待ったもない生死を掛けた戦いになる。隊列は先頭にエルザとシチリがその後ろにアイガと私、カインが続く。
戦力のバランスを見てもこれがベストだろう。
「すまない、もう少し兵力に余裕があれば、そちらにも手を貸せるのだが…。」
ノーベル部隊長殿が曇った表情で言う。
「いや、その気持ちだけで充分だ。ノーベル部隊長殿はこの場を頼む。」
「騎士の名誉にかけて。」
ここからが正念場だ。
「これから魔族への奇襲をかける。シチリ敵の場所は?」
「問題無い。この方向真っ直ぐだ。」
「よし、エルザ、カイン。防具は大丈夫か?」
「はい!大丈夫です!」
カインは大きめの赤い三角帽子にぐいぐいっと深く頭を押し込める。
「おっけ…。」
「よし、アイガ。武器に不備はないか?」
「あぁ!アタイも武器も問題無しだぜ!」
「うむ、行こう皆!!勝利の為に!!」
「応!」
「おー!」
「おー!」
「…お…。」
雄叫びを上げ走り出す。若干頼りない様な気もするが一人一人の目には闘志が漲っている。
シチリがいう西の魔族。恐らくは上級魔族…相手の力は未知数だというのに此方は虚兵も神騎もない。軍団どころか5人…の内2人は戦力としては低い。
『伝説の勇者』と思われるシチリも心臓の爆弾がある。
魔族、モンスターを殲滅する必要は無いのだ…西の門へ伝達が届くまで…兵力が整うまで粘ることが出来れば私達の勝ちとなろう。
…しかし…心の不安をそのままに愛馬ユウヒは走りだす。
西の森までは全速力で走って40分近くかかってしまう。
オズの虚兵『レユニオン』ならばもっと速く進めるのだが……私にも虚兵があれば…。
「ぬ!?」
「シチリどうした?」
「気が動いてる。」
「動いてるだって!?」
後悔もさせてくれない……いや戦闘になったら後悔すらもしている暇はない。
「西の門…へ…の進軍…ならば…こっち…進路…変更…。」
カインが指を指す方向は北。
「そっちの方向ではノワールに戻ってしまうぞ?」
「大丈夫…こっち…には西の門への……小道…ある。」
カインの声に力強さを感じるが…。
「迷ってる暇はねぇぞアリス。」
「シチリ…。」
「私を……信じて……。」
決断しなければ…このまま行っても魔族の群れには追い付かない…追い付いたとしても西の門への被害は免れない。
「小道…通れば……西の門の近くへと……出る…。」
「本当なのか!?」
「うん…。」
「よし、進路変更だ!カイン導いてくれ!」
「解った…こっち…よ…。」
カインの指す方へと進路を変更し小道を目指す。
馬一頭分位の小道であったが…なるほど下りの傾斜になっている。
「これなら間に合う!ありがとうカイン!」
カインはなにも言わずピースをしていた。
西の門が小さく見えると同時に土煙を上げて進軍してくる魔族の大群が見えた。
「よし…見えた…エルザちょっとごめんな?」
「え?なんで……ひゃう!?」
シチリは馬の背中に立ち上がり右足をエルザのお尻の下に潜り込ませていた。
「シチリ!!こんな時になにをしているのだ!!」
顔を赤くしていモジモジとしているエルザに構わずシチリは弓に矢を掛ける。
「まだ、馬の動きに慣れてないからどうしても固定してもらいたんだよ。」
「あ、あ、余り足を動かさないでください!!」
「シチリ!!」
「……変態……。」
「はぁ~…。」
3人の女子を無視して思い切り矢を引くシチリ。魔族の群までは距離があるし何処を狙うというのだ?
「アイツだ……な!」
ビュッ!と放たれた矢は風切り音を上げて飛んでいく…届かないハズの矢が魔族の群れへと進んで行く。
「よし、うまく風に乗ったな!」
続いて2本目3本目と矢を放つシチリ…その矢もしっかりと魔族を捉えている。
「この距離で届くのか!!」
あり得ない……これが勇者の力か……。
「ぬ…あの鳥を狙ったつもりだったんだけどなー…。」
「鳥?」
魔族の大群から1羽の鳥らしき影が猛スピードでこちらに向かってきた。
「はーはっはっはーー!!このような小枝で我を狙うとは愚か愚か!!」
巨大な翼を持つ上級魔族。
「我は瞬撃王 アルバロス !闇王様の障害となるものは全て屠ってくれよう!」
まさか初めから上級魔族とは…父上が成す術もなく弾き飛ばされた記憶が蘇る。
見得を切るアルバロスと後ろにから此方に進路を変えた魔族の大軍。
「アルバロス……推定レベル…53……魔族軍……数…300……角男…。」
私の後ろに居るカインの手は震えていた。
如何に天才的な軍師であろうと上級から下級クラスの魔族300に対する此方の戦力は4…時間稼ぎすら……。
この中で誰よりも戦力差を判断できるカインはシチリに視線を向ける。
『レベル87である伝説の勇者』シチリは1人で行こうとしていたが…何か策でもあったのだろうか…?
「なんだ!脅えて声も出ぬのか!か弱きゴミどもよ!」
言うアルバロスにシチリは黙って見上げている。
「我が王からは女は殺すなと言われている…が殺さなければ問題ないだろう!」
アルバロスはシチリに指を向ける。
「男は別だ!貴様は殺す!どうした!命乞いでもしてみたらどうだ!?そうしたら一瞬ではなくジワジワと殺してやるぞ!はははははははははははははははは!」
「なぁ…もういいか?」
「……は?」
シチリは「よっ!」と馬の後ろから飛び降りる。
前宙でアルバロスの目の前に着地。
緑色の柄を握り……。
「ぶっつけ本番!!鏡花口伝剣術改め…七竜式闘剣術 居合いの型『極』…。」
『真空円斬』
踏み込んだ右足が地面を割る。
「でぇぇぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
凄まじい咆哮と共に横一閃に振り抜いた刃から発生したのは『風の刃』。
シチリの持っていた緑の剣はドワーフのオヤジさんが打った刃にトワさんが風の魔力を付属した『魔剣』だったのだ。
アルバロスは瞬時に飛び上がり風の刃から身を交わす。
「ふん!甘いわ!ゴミめ!」
アルバロスの視線に居るシチリは全く違うところを見ていた。
シチリのギラギラとした眼は……。
扇形に広がっていく風の刃が魔族の大軍に斬りかかる所へと向けられていた。
風の刃は軍の先頭に居たホースマンの胴に差し掛かる。
「!?」
ホースマンが危険を察知した刹那であった。
風の刃はホースマンの上半身と下半身を切り離す。
ホースマンを皮切りに次々と魔族は風の刃の餌食になっていく。
大地が切り裂かれた魔族の血で赤く染まっていき断末魔が響き渡る。
「なっ……!?」
私、カイン、エルザ、アイガに敵であるアルバロスでさえも言葉を失った。
神騎でも虚兵でも亜人族でも魔族でもない人間が……剣の一振で…『魔剣』を使用したとしても……この威力…これがシチリの『伝説の勇者』の力か……。
「す…すごい……魔族……の…軍……が……。」
見ると300の軍の5割は胴体が切断され2割~3割は重軽傷を負っていた…。
「何してる!アリス!!行け!!」
「!!!」
シチリの叫びにハッとなる。
「この鳥野郎は俺が相手をする!!」
「しかし…!」
「ア…リス…この機…を逃しては…いけない……。」
「カイン?」
「策は……こう……角男の…お陰で……時間は……稼げる……私達…は…このまま…西の門へと向かう。」
「このまま西の門へ?」
今の常態は…『私達』『魔族の軍』『西門』となりつつ中、カインの策は魔族を突き抜けて西門まで駆け抜けるというものだった。
西門への伝令は伝わっているハズだから…西門で兵士や騎士達と合流出来れば…敵の戦力はシチリの一撃で壊滅状態……これなら勝てる!
「解った…アイガ、エルザ聞いたな!このまま突っ込むぞ!」
「愚かだな!ゴミども!敵の目の前で策を練ろうとは!どこまで間抜けなのだ!はははは!」
「決まってんだろ、鳥野郎。」
「何?」
「お前は俺の敵にすらなれないのさ。」
「き~さ~ま~!!殺す!!確実に殺してやる!!」
「はいはい…。」
アルバロス相手に手をヒラヒラとさせている。
「…シチリ……。」
「問題ないよアリス。先に行って飯でも用意しててくれよ。直ぐに追い付く。」
にかっと笑うシチリ…。
「解った!待ってるぞシチリ!!」
「ふぁい…と…!!」
「生きて戻ってこいよ!シチリ!」
「どうかご武運を!」
私達はシチリに任せて馬を走らせる。
魔族の軍に近づいていくと敵の血の臭いが漂ってくる。
鮮血で馬の蹄が滑らせないようにしなくては…!
走らせていると急に辺りが暗くなった。
「!!」
目の前に立ち塞がったのは上級魔族1つ目の巨人「ギガ ジャイアント」
気性が荒く群れるのを嫌う性質を持っているハズの魔族が何故いるのか!
「ガァァァァァァ!」
手に持った丸太を振り上げて狙いを定めていた。
しまっ…!!
「ガッ…!?」
「ギガ ジャイアント」の1つ目に短剣が深く突き刺さった。
あの短剣は…シチリの!?
「がぁぁあ…。」とそのまま後ろに倒れるギガジャイアント。見ると短剣が後頭部まで貫通している。
振り返るとシチリの姿は小さく辛うじて見える位置だ。
「ひぇ~…この距離でこの威力かよ!」
「これが私達の師の実力なのですね。」
「よし!急ぐぞ!!」
愛馬ユウヒの手綱を力強く握り私達は進みだす。
そんなことを言われても納得する者はこの場には居ない。
「なっ国の一大事に騎士の私が動かなくてどうする!当然私も着いていくぞ!シチリお前の戦いもこの目で見たいしな!」
「そーだ!お前だけを戦いに行かせてアタイらだけ何もしてないのじゃ他の仲間に会わせる顔がねぇよ!」
「酷いです!私達はもう仲間じゃないですか!私もこの日の為に鍛えてきたんです!」
女子三人に同時に責められるシチリ。ご自慢?の角が垂れ下がった。
そんな空気のなかで小さい手がスーと上がる。
「私も……ついていく……。どんな……部隊にも……軍師……必要だから。」
「ぬ、軍師?誰が?」
自分に指を指して首を傾げる。
「私……必要になる。損は……ない。」
「ぬ…愉快だね…まぁいいか。」
そう言って立て掛けている武器、防具の方へ歩いていくシチリ。
私は目線を下げてゴスロリカインを見る。こんなに小さいのに…。
「小さいのに…って思った…?」
「!!!」
「皆…必ず……そう言う…。」
「そうなのか、それはすまなかった。ごめんな。」
「もう1つ……。」
カインは睨むような眼差しを私に向ける。
「ん、なんだ?」
「私……の方が……歳上……。」
「…へ?」
「アリス - へーリオス……女性…19歳…騎士…推定レベル……22レベル…。」
「っ?まさかレベル鑑定士なの?」
「うん……私は……その人の…ステータス…が…見れる……。」
「レベル鑑定士なんてそんな最上位職の人がなんでこんなところに?」
「…テスト……嫌い……。」
「へ?テスト?」
「私は……自由…が…好きだから。」
「自由?」
「国の……犬…には…ならない……わん。」
この娘は無表情で凄いことを言ってくる…。
「アイガ - ラルム女性……20歳…兵士…レベル…28…。同じくエルザ - マーガレット19歳…兵士…11レベル……。」
「ぬ?なんの話をしてるの?」
数ある武器防具の中から手甲と短剣1本を持ってきたシチリが話に入ってくる。
「むー…。」
カインは唇を尖らせてシチリを見定めるように見つめだした。
「角男…シチリ…タカ…男……24歳。」
「ぬ?なんで解るんだ?」
「私の……能力……。」
小さい胸を張ってカインは答える。
「へー…すげぇじゃん。」
「む?兵士…でも…騎士…でも…ない……何者?」
「ぬ?」
「推定レベル…………えっ…レベル……87…すごい……この…国の…虚兵騎士…でも40…くらい…なのに……。」
「87だって!?」
「ぬ、凄いのか俺?」
凄すぎる…この世界に来て数週間だと言うのに…やはりシチリは伝説の勇者なんだ…。
「そういや、お前名前は?」
「お前…じゃない…カイン。それと…私…今年で…27歳…敬え……小僧…。」
「………愉快だねぇ。」
シチリの腰元で胸を張っているのゴスロリ少女(?)と 目を線にして苦笑いをしているシチリ。
ここだけを切り取ると兄妹の様だが…姉弟か?
「シチリ、我々だけで奇襲をかける訳だが勝算はあるのか?」
「勝算?今のところ算段もつかないが…なんとかなるだろ。」
借金の事もあるし…戦闘前なのにこの気の抜けた表情……この男はどこまで楽天的なのだろうか…?ここは私がしっかりしないと。
「ノーベル部隊長殿、兜と剣を1本借りていく。シチリは鎧はいいのか?」
「動きにくいからこの手甲と短剣…あー…弓も借りてくよ。」
ただの服に剣が2本短剣が1本、弓に矢が3本……それで本当に大丈夫なんだろうか…。
それぞれの馬に乗り最終確認をする。これから先は後戻りも待ったもない生死を掛けた戦いになる。隊列は先頭にエルザとシチリがその後ろにアイガと私、カインが続く。
戦力のバランスを見てもこれがベストだろう。
「すまない、もう少し兵力に余裕があれば、そちらにも手を貸せるのだが…。」
ノーベル部隊長殿が曇った表情で言う。
「いや、その気持ちだけで充分だ。ノーベル部隊長殿はこの場を頼む。」
「騎士の名誉にかけて。」
ここからが正念場だ。
「これから魔族への奇襲をかける。シチリ敵の場所は?」
「問題無い。この方向真っ直ぐだ。」
「よし、エルザ、カイン。防具は大丈夫か?」
「はい!大丈夫です!」
カインは大きめの赤い三角帽子にぐいぐいっと深く頭を押し込める。
「おっけ…。」
「よし、アイガ。武器に不備はないか?」
「あぁ!アタイも武器も問題無しだぜ!」
「うむ、行こう皆!!勝利の為に!!」
「応!」
「おー!」
「おー!」
「…お…。」
雄叫びを上げ走り出す。若干頼りない様な気もするが一人一人の目には闘志が漲っている。
シチリがいう西の魔族。恐らくは上級魔族…相手の力は未知数だというのに此方は虚兵も神騎もない。軍団どころか5人…の内2人は戦力としては低い。
『伝説の勇者』と思われるシチリも心臓の爆弾がある。
魔族、モンスターを殲滅する必要は無いのだ…西の門へ伝達が届くまで…兵力が整うまで粘ることが出来れば私達の勝ちとなろう。
…しかし…心の不安をそのままに愛馬ユウヒは走りだす。
西の森までは全速力で走って40分近くかかってしまう。
オズの虚兵『レユニオン』ならばもっと速く進めるのだが……私にも虚兵があれば…。
「ぬ!?」
「シチリどうした?」
「気が動いてる。」
「動いてるだって!?」
後悔もさせてくれない……いや戦闘になったら後悔すらもしている暇はない。
「西の門…へ…の進軍…ならば…こっち…進路…変更…。」
カインが指を指す方向は北。
「そっちの方向ではノワールに戻ってしまうぞ?」
「大丈夫…こっち…には西の門への……小道…ある。」
カインの声に力強さを感じるが…。
「迷ってる暇はねぇぞアリス。」
「シチリ…。」
「私を……信じて……。」
決断しなければ…このまま行っても魔族の群れには追い付かない…追い付いたとしても西の門への被害は免れない。
「小道…通れば……西の門の近くへと……出る…。」
「本当なのか!?」
「うん…。」
「よし、進路変更だ!カイン導いてくれ!」
「解った…こっち…よ…。」
カインの指す方へと進路を変更し小道を目指す。
馬一頭分位の小道であったが…なるほど下りの傾斜になっている。
「これなら間に合う!ありがとうカイン!」
カインはなにも言わずピースをしていた。
西の門が小さく見えると同時に土煙を上げて進軍してくる魔族の大群が見えた。
「よし…見えた…エルザちょっとごめんな?」
「え?なんで……ひゃう!?」
シチリは馬の背中に立ち上がり右足をエルザのお尻の下に潜り込ませていた。
「シチリ!!こんな時になにをしているのだ!!」
顔を赤くしていモジモジとしているエルザに構わずシチリは弓に矢を掛ける。
「まだ、馬の動きに慣れてないからどうしても固定してもらいたんだよ。」
「あ、あ、余り足を動かさないでください!!」
「シチリ!!」
「……変態……。」
「はぁ~…。」
3人の女子を無視して思い切り矢を引くシチリ。魔族の群までは距離があるし何処を狙うというのだ?
「アイツだ……な!」
ビュッ!と放たれた矢は風切り音を上げて飛んでいく…届かないハズの矢が魔族の群れへと進んで行く。
「よし、うまく風に乗ったな!」
続いて2本目3本目と矢を放つシチリ…その矢もしっかりと魔族を捉えている。
「この距離で届くのか!!」
あり得ない……これが勇者の力か……。
「ぬ…あの鳥を狙ったつもりだったんだけどなー…。」
「鳥?」
魔族の大群から1羽の鳥らしき影が猛スピードでこちらに向かってきた。
「はーはっはっはーー!!このような小枝で我を狙うとは愚か愚か!!」
巨大な翼を持つ上級魔族。
「我は瞬撃王 アルバロス !闇王様の障害となるものは全て屠ってくれよう!」
まさか初めから上級魔族とは…父上が成す術もなく弾き飛ばされた記憶が蘇る。
見得を切るアルバロスと後ろにから此方に進路を変えた魔族の大軍。
「アルバロス……推定レベル…53……魔族軍……数…300……角男…。」
私の後ろに居るカインの手は震えていた。
如何に天才的な軍師であろうと上級から下級クラスの魔族300に対する此方の戦力は4…時間稼ぎすら……。
この中で誰よりも戦力差を判断できるカインはシチリに視線を向ける。
『レベル87である伝説の勇者』シチリは1人で行こうとしていたが…何か策でもあったのだろうか…?
「なんだ!脅えて声も出ぬのか!か弱きゴミどもよ!」
言うアルバロスにシチリは黙って見上げている。
「我が王からは女は殺すなと言われている…が殺さなければ問題ないだろう!」
アルバロスはシチリに指を向ける。
「男は別だ!貴様は殺す!どうした!命乞いでもしてみたらどうだ!?そうしたら一瞬ではなくジワジワと殺してやるぞ!はははははははははははははははは!」
「なぁ…もういいか?」
「……は?」
シチリは「よっ!」と馬の後ろから飛び降りる。
前宙でアルバロスの目の前に着地。
緑色の柄を握り……。
「ぶっつけ本番!!鏡花口伝剣術改め…七竜式闘剣術 居合いの型『極』…。」
『真空円斬』
踏み込んだ右足が地面を割る。
「でぇぇぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
凄まじい咆哮と共に横一閃に振り抜いた刃から発生したのは『風の刃』。
シチリの持っていた緑の剣はドワーフのオヤジさんが打った刃にトワさんが風の魔力を付属した『魔剣』だったのだ。
アルバロスは瞬時に飛び上がり風の刃から身を交わす。
「ふん!甘いわ!ゴミめ!」
アルバロスの視線に居るシチリは全く違うところを見ていた。
シチリのギラギラとした眼は……。
扇形に広がっていく風の刃が魔族の大軍に斬りかかる所へと向けられていた。
風の刃は軍の先頭に居たホースマンの胴に差し掛かる。
「!?」
ホースマンが危険を察知した刹那であった。
風の刃はホースマンの上半身と下半身を切り離す。
ホースマンを皮切りに次々と魔族は風の刃の餌食になっていく。
大地が切り裂かれた魔族の血で赤く染まっていき断末魔が響き渡る。
「なっ……!?」
私、カイン、エルザ、アイガに敵であるアルバロスでさえも言葉を失った。
神騎でも虚兵でも亜人族でも魔族でもない人間が……剣の一振で…『魔剣』を使用したとしても……この威力…これがシチリの『伝説の勇者』の力か……。
「す…すごい……魔族……の…軍……が……。」
見ると300の軍の5割は胴体が切断され2割~3割は重軽傷を負っていた…。
「何してる!アリス!!行け!!」
「!!!」
シチリの叫びにハッとなる。
「この鳥野郎は俺が相手をする!!」
「しかし…!」
「ア…リス…この機…を逃しては…いけない……。」
「カイン?」
「策は……こう……角男の…お陰で……時間は……稼げる……私達…は…このまま…西の門へと向かう。」
「このまま西の門へ?」
今の常態は…『私達』『魔族の軍』『西門』となりつつ中、カインの策は魔族を突き抜けて西門まで駆け抜けるというものだった。
西門への伝令は伝わっているハズだから…西門で兵士や騎士達と合流出来れば…敵の戦力はシチリの一撃で壊滅状態……これなら勝てる!
「解った…アイガ、エルザ聞いたな!このまま突っ込むぞ!」
「愚かだな!ゴミども!敵の目の前で策を練ろうとは!どこまで間抜けなのだ!はははは!」
「決まってんだろ、鳥野郎。」
「何?」
「お前は俺の敵にすらなれないのさ。」
「き~さ~ま~!!殺す!!確実に殺してやる!!」
「はいはい…。」
アルバロス相手に手をヒラヒラとさせている。
「…シチリ……。」
「問題ないよアリス。先に行って飯でも用意しててくれよ。直ぐに追い付く。」
にかっと笑うシチリ…。
「解った!待ってるぞシチリ!!」
「ふぁい…と…!!」
「生きて戻ってこいよ!シチリ!」
「どうかご武運を!」
私達はシチリに任せて馬を走らせる。
魔族の軍に近づいていくと敵の血の臭いが漂ってくる。
鮮血で馬の蹄が滑らせないようにしなくては…!
走らせていると急に辺りが暗くなった。
「!!」
目の前に立ち塞がったのは上級魔族1つ目の巨人「ギガ ジャイアント」
気性が荒く群れるのを嫌う性質を持っているハズの魔族が何故いるのか!
「ガァァァァァァ!」
手に持った丸太を振り上げて狙いを定めていた。
しまっ…!!
「ガッ…!?」
「ギガ ジャイアント」の1つ目に短剣が深く突き刺さった。
あの短剣は…シチリの!?
「がぁぁあ…。」とそのまま後ろに倒れるギガジャイアント。見ると短剣が後頭部まで貫通している。
振り返るとシチリの姿は小さく辛うじて見える位置だ。
「ひぇ~…この距離でこの威力かよ!」
「これが私達の師の実力なのですね。」
「よし!急ぐぞ!!」
愛馬ユウヒの手綱を力強く握り私達は進みだす。
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男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
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転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
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転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
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【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
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といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
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