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第1章 ~ノワール国~
策略
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ジーンの森へと虚兵を走らせている最中に私は思う。流石、スピード特化の虚兵レユニオン、歩幅も従来より広く推進装置も効いているため兎に角速い。
速度を上げることによって生じる振動も特殊ダンパーによって限りなく抑えられ操縦者の負担が軽くなっている特殊仕様らしいが…。
「………。」
この特殊仕様はオズの意見を取り入れ国の技工士が改良をした唯一の虚兵、言えばオズの【専用機】。
操縦技術が高いオズを更に高みへとグライス王が決定を許可した。
オズは虚兵操縦の天才だと国中が認めている。
【神騎】も【適性者】も居ない我がノワール国で【虚兵】を誰よりも上手く操れるということは何よりも重宝される。ただ単に階級が高いだけでなく、その上で操作技術もあるのなら当然だ。
虚兵騎士にもまだ成れない私は、年齢もそんなに変わらないのにどんどん進んでいくオズに対し若干の劣等感みたいな気持ちを覚えつつ……もう1つの感情が…。
『なんだよ、今度は黙りこんで…怖じ気づいたのか?それとも元カレの俺に未練があるのか?』
「あるか!そんなもの!」
…そう、オズと私は2年程前は恋人と呼び合う中だった…ヘーリオス家とカペルシュ家の両家で公認されていた。
これも私の黒歴史の1ページなのだけれど…。
現在はご覧の通りただの先輩騎士と後輩騎士の間柄となっている。
そうなった理由は…オズが【虚兵騎士】になってから態度が急変したから…それ以上は語りたくない。
『なんだよ、つれないなぁ~』
まったく、この男は緊張感がないのか!この一大事に…!
『まぁ、冗談はこの辺にして…見えてきたぜ!ジーンの森!』
「…!!急いで父上を見つけないと…!」
…さぁ、ここからだ…気を引き締めなければ!自分の両頬を叩く。
『おい、アリス!あれを見ろ!』
「え!?」
ジーンの森入り口に人が倒れている。
「あれは…?」
その場へ到着すると同時に私はレユニオンから飛び降りる。
「大丈夫ですか!?」
倒れていたのは今朝方出発した新人の騎士だ。その姿は傷だらけで…私の声に反応がない。
顔と胸に手をやり呼吸と心音を確認してみる。
「…大丈夫、気を失っているだけだわ。」
『いったい何があったんだ?』
「わからない…けどこれだけ負傷しているなんてただ事ではないわ。」
ジーンの森では獣や罪人に襲われることがあるけど、ここまでやられるとは考えにくい。新人とはいえ仮にも彼は騎士なのだ。
獣、罪人などに遅れをとるとは…相手が魔族だったとしてもジーンの森にいる魔族は低級レベルで、人の前にはそうそう姿を現さないはず…。
………ん?
「あれ?」
『なにかあったか?』
【低級レベルの魔族】はそうそう姿を現さない
低級の魔族は中、上級レベル魔族を怖れる傾向がある。言い方が悪いが【ザコ】扱いを受けている。まぁその通りなんだけど…その為、低級魔族は自ら人の前に姿は見せない。不意に見つかり目があったときぐらいかな?戦闘になるのは…。
ノワール国で私が見てこの剣で斬った魔族を思い出す。
目玉ジャム。
ホースマン。
四つ目鳥。
大群だった為、何も思わなかったけど、この3種類は低級レベルの魔族!
…幾ら大群だからといっても低級魔族だけで攻めてくると言うことはあり得ない。
「まさか…いや、でも何のために?」
『おいおい、どうしたんだよ!?』
オズはまったく気がついていないようだが、私もよく解らないから説明できない。
「あれ?」
不意に目を動かすと岩影からノワール騎士の兜頭が見える。
余程重症なのだろうか横になって微動だにしない。
「あそこにも騎士が!」
『なんだって?何処だ?』
「ほら、あそこよ!彼も負傷しているはずだわ!」
『おい!?アリス!』
虚兵に乗っているオズと地面に立っている私とでは目線の角度が違う。だから倒れている騎士の姿が見えないのだろう。
急がないと、きっと彼も酷い怪我をしているはずだ。
「ねぇ!だいじょー…」
それ以上の言葉、声が出せなくなった。そこには騎士は居なかった、いや表現が違う。居たか居ないかではなく、あった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その場には騎士の首だけが無惨にも投げ捨てられていた。
『どうしたんだよ!』
「騎士」という道を選んだ以上、自らだけでなく仲間の負傷や死とは常に隣り合わせであるが、ここまで残酷なものは見たことがなかった……。
「う、ぁ、ぁ……。」
顔の皮を剥がされ眼球が飛び出し、白く見えるのは脊髄だろうか…。
『避けろ!アリス!!』
「!?」
意識が飛びそうだった私はオズの声に呼び戻された。
ドチャ!!!!!
という音と共に辺りを土埃が被う。
間一髪。
私は振り下ろされたであろう何かから身を交わす。そして腰に下げている剣を抜き構える。
舞っていた土埃が、落ち着いてくると何かの姿がハッキリと姿を現した。
巨大な棍棒…。
その棍棒に完全粉砕された騎士の兜からは頭蓋骨や脳が飛び出ている。
「外してしまたったか…これだからゴミはすぐ飛んでしまう…。」
巨大な棍棒の主はゆっくりとした動作で棍棒を持ち直しアリスの目の前に出てくる。
「お前は!!」
目の前には、約3メートルの巨体。異常発達した筋肉の身体。至る所から生えている体毛。天をつく二本の角。鋭く尖った牙。
上級魔族「大喰鬼」
巨大な乳房と腰を守る様に獣の毛皮が巻いている事から女性と判断。
「ゴミが次から次と出てくるわ!」
「なぜ、こんな所に上級魔族が?」
『離れろアリス!俺が相手をする!』
「オズ!」
オズが乗っている虚兵レユニオンは全長が18メートルに対して目の前のオウガ(メス)は約3メートルしかない。勝負は目に見えていると思うが…前に話した通り虚兵レユニオンはスピード特化。
『うぉおおおおおおおおおおお!』
オズがオウガに突進する。
「ふん!擬物の分際でぇ!」
棍棒を構え直したオウガもオズに向かって走る。自分の倍以上も大きい相手にも関わらずに怯む事は無い。むしろ、虚兵に対して何か別の意味合いの憤りがあるのだろうか。
レユニオンのスピードに合わせてオウガは棍棒をフルスイングする。レユニオンはより速く動き進む用に軽量化されている為いくら自分より小さい相手だろうが、攻撃力の高い、上級魔族オウガの一撃で沈む可能性が高い。
オウガが棍棒の狙いを付け振りかぶる。このままだとオズに直撃してしまう。
レユニオンは一撃では沈まないと思うが…。
ブォォン!
レユニオンを狙った筈のオウガの棍棒が空を切る。
襲い掛かる棍棒が当たる直前でレユニオンが一歩分後ろに下がったからだ。
『もらったーーー!!!』
「………。」
このまま行けば確実にオウガを仕留める事が出来る。
……しかし。
動じてないオウガの目が何かを狙っているのを察しオズは攻撃を止める。
瞬間、レユニオンの眼前を棍棒が過る。
『うわっ!!』
オウガの放つ棍棒はまるで生き物の様に軌道を代えて再び襲ってくる。
『しまった!』
レユニオンの腹部に棍棒の一撃が当たる。『くっ…!』レユニオンは後ろに吹き飛ぶ。
樹齢何年にもなるであろう大木を数本倒してレユニオンは倒れ動かなくなる。
「オズ!!!」
「見たか!擬物が!!」
オウガが私の方を振り向くとほぼ同時に剣を構える。
「こい!化け物!!」
「グオオオオオォォォォォォォォ!!」
『まだだぁーー!!』
動きが止まっていたレユニオンが突進を開始する。
「まだ、動くか…!」
今回はオウガが攻撃の体勢になる前にスピードに乗ったレユニオン。
しかし、目の前のオウガをかわしレユニオンは私の方へ向かってきた。
『乗れ!アリス!!』
「っ…!?」
瞬発的に私はレユニオンへと飛び乗る。
『逃げるぞ!!』
「オズ!?」
獲物を逃がし悔しそうに咆哮をあげるオウガをよそに私たちはその場を後にした。
速度を上げることによって生じる振動も特殊ダンパーによって限りなく抑えられ操縦者の負担が軽くなっている特殊仕様らしいが…。
「………。」
この特殊仕様はオズの意見を取り入れ国の技工士が改良をした唯一の虚兵、言えばオズの【専用機】。
操縦技術が高いオズを更に高みへとグライス王が決定を許可した。
オズは虚兵操縦の天才だと国中が認めている。
【神騎】も【適性者】も居ない我がノワール国で【虚兵】を誰よりも上手く操れるということは何よりも重宝される。ただ単に階級が高いだけでなく、その上で操作技術もあるのなら当然だ。
虚兵騎士にもまだ成れない私は、年齢もそんなに変わらないのにどんどん進んでいくオズに対し若干の劣等感みたいな気持ちを覚えつつ……もう1つの感情が…。
『なんだよ、今度は黙りこんで…怖じ気づいたのか?それとも元カレの俺に未練があるのか?』
「あるか!そんなもの!」
…そう、オズと私は2年程前は恋人と呼び合う中だった…ヘーリオス家とカペルシュ家の両家で公認されていた。
これも私の黒歴史の1ページなのだけれど…。
現在はご覧の通りただの先輩騎士と後輩騎士の間柄となっている。
そうなった理由は…オズが【虚兵騎士】になってから態度が急変したから…それ以上は語りたくない。
『なんだよ、つれないなぁ~』
まったく、この男は緊張感がないのか!この一大事に…!
『まぁ、冗談はこの辺にして…見えてきたぜ!ジーンの森!』
「…!!急いで父上を見つけないと…!」
…さぁ、ここからだ…気を引き締めなければ!自分の両頬を叩く。
『おい、アリス!あれを見ろ!』
「え!?」
ジーンの森入り口に人が倒れている。
「あれは…?」
その場へ到着すると同時に私はレユニオンから飛び降りる。
「大丈夫ですか!?」
倒れていたのは今朝方出発した新人の騎士だ。その姿は傷だらけで…私の声に反応がない。
顔と胸に手をやり呼吸と心音を確認してみる。
「…大丈夫、気を失っているだけだわ。」
『いったい何があったんだ?』
「わからない…けどこれだけ負傷しているなんてただ事ではないわ。」
ジーンの森では獣や罪人に襲われることがあるけど、ここまでやられるとは考えにくい。新人とはいえ仮にも彼は騎士なのだ。
獣、罪人などに遅れをとるとは…相手が魔族だったとしてもジーンの森にいる魔族は低級レベルで、人の前にはそうそう姿を現さないはず…。
………ん?
「あれ?」
『なにかあったか?』
【低級レベルの魔族】はそうそう姿を現さない
低級の魔族は中、上級レベル魔族を怖れる傾向がある。言い方が悪いが【ザコ】扱いを受けている。まぁその通りなんだけど…その為、低級魔族は自ら人の前に姿は見せない。不意に見つかり目があったときぐらいかな?戦闘になるのは…。
ノワール国で私が見てこの剣で斬った魔族を思い出す。
目玉ジャム。
ホースマン。
四つ目鳥。
大群だった為、何も思わなかったけど、この3種類は低級レベルの魔族!
…幾ら大群だからといっても低級魔族だけで攻めてくると言うことはあり得ない。
「まさか…いや、でも何のために?」
『おいおい、どうしたんだよ!?』
オズはまったく気がついていないようだが、私もよく解らないから説明できない。
「あれ?」
不意に目を動かすと岩影からノワール騎士の兜頭が見える。
余程重症なのだろうか横になって微動だにしない。
「あそこにも騎士が!」
『なんだって?何処だ?』
「ほら、あそこよ!彼も負傷しているはずだわ!」
『おい!?アリス!』
虚兵に乗っているオズと地面に立っている私とでは目線の角度が違う。だから倒れている騎士の姿が見えないのだろう。
急がないと、きっと彼も酷い怪我をしているはずだ。
「ねぇ!だいじょー…」
それ以上の言葉、声が出せなくなった。そこには騎士は居なかった、いや表現が違う。居たか居ないかではなく、あった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その場には騎士の首だけが無惨にも投げ捨てられていた。
『どうしたんだよ!』
「騎士」という道を選んだ以上、自らだけでなく仲間の負傷や死とは常に隣り合わせであるが、ここまで残酷なものは見たことがなかった……。
「う、ぁ、ぁ……。」
顔の皮を剥がされ眼球が飛び出し、白く見えるのは脊髄だろうか…。
『避けろ!アリス!!』
「!?」
意識が飛びそうだった私はオズの声に呼び戻された。
ドチャ!!!!!
という音と共に辺りを土埃が被う。
間一髪。
私は振り下ろされたであろう何かから身を交わす。そして腰に下げている剣を抜き構える。
舞っていた土埃が、落ち着いてくると何かの姿がハッキリと姿を現した。
巨大な棍棒…。
その棍棒に完全粉砕された騎士の兜からは頭蓋骨や脳が飛び出ている。
「外してしまたったか…これだからゴミはすぐ飛んでしまう…。」
巨大な棍棒の主はゆっくりとした動作で棍棒を持ち直しアリスの目の前に出てくる。
「お前は!!」
目の前には、約3メートルの巨体。異常発達した筋肉の身体。至る所から生えている体毛。天をつく二本の角。鋭く尖った牙。
上級魔族「大喰鬼」
巨大な乳房と腰を守る様に獣の毛皮が巻いている事から女性と判断。
「ゴミが次から次と出てくるわ!」
「なぜ、こんな所に上級魔族が?」
『離れろアリス!俺が相手をする!』
「オズ!」
オズが乗っている虚兵レユニオンは全長が18メートルに対して目の前のオウガ(メス)は約3メートルしかない。勝負は目に見えていると思うが…前に話した通り虚兵レユニオンはスピード特化。
『うぉおおおおおおおおおおお!』
オズがオウガに突進する。
「ふん!擬物の分際でぇ!」
棍棒を構え直したオウガもオズに向かって走る。自分の倍以上も大きい相手にも関わらずに怯む事は無い。むしろ、虚兵に対して何か別の意味合いの憤りがあるのだろうか。
レユニオンのスピードに合わせてオウガは棍棒をフルスイングする。レユニオンはより速く動き進む用に軽量化されている為いくら自分より小さい相手だろうが、攻撃力の高い、上級魔族オウガの一撃で沈む可能性が高い。
オウガが棍棒の狙いを付け振りかぶる。このままだとオズに直撃してしまう。
レユニオンは一撃では沈まないと思うが…。
ブォォン!
レユニオンを狙った筈のオウガの棍棒が空を切る。
襲い掛かる棍棒が当たる直前でレユニオンが一歩分後ろに下がったからだ。
『もらったーーー!!!』
「………。」
このまま行けば確実にオウガを仕留める事が出来る。
……しかし。
動じてないオウガの目が何かを狙っているのを察しオズは攻撃を止める。
瞬間、レユニオンの眼前を棍棒が過る。
『うわっ!!』
オウガの放つ棍棒はまるで生き物の様に軌道を代えて再び襲ってくる。
『しまった!』
レユニオンの腹部に棍棒の一撃が当たる。『くっ…!』レユニオンは後ろに吹き飛ぶ。
樹齢何年にもなるであろう大木を数本倒してレユニオンは倒れ動かなくなる。
「オズ!!!」
「見たか!擬物が!!」
オウガが私の方を振り向くとほぼ同時に剣を構える。
「こい!化け物!!」
「グオオオオオォォォォォォォォ!!」
『まだだぁーー!!』
動きが止まっていたレユニオンが突進を開始する。
「まだ、動くか…!」
今回はオウガが攻撃の体勢になる前にスピードに乗ったレユニオン。
しかし、目の前のオウガをかわしレユニオンは私の方へ向かってきた。
『乗れ!アリス!!』
「っ…!?」
瞬発的に私はレユニオンへと飛び乗る。
『逃げるぞ!!』
「オズ!?」
獲物を逃がし悔しそうに咆哮をあげるオウガをよそに私たちはその場を後にした。
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