魔導士カイラは許されない〜インキュバスの呪いで貞操帯をかけられた少年〜

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赤い下着と涙の一夜

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 最序盤からガゼリオと養父の性行為のシーンが入ります。その上、今回は鬱要素あります。ご注意ください。

 ですがそれらの要素は序盤だけあり、今回はまぁまぁ重要な話だと考えて作成しました! ぜひ読んでいただきたい!!

   ***

 『弾丸旅行』と嘘を吐き、ガゼリオとレオがホテルでチョコレートのように甘い時を過ごし帰宅した日の夜。

「いやしかし、良かった良かった」

 養父の個室にて、初老の男は優しげな微笑みをたたえながらガゼリオの姿を見て何度も頷いた。

「ようやく貞操帯とやらが外れたんだな。これでやっとお前の事を可愛がってやれる訳だ」

 養父のお気に入りらしい下着……ショーツがオープンクロッチになっている、炎のように真っ赤なランジェリーに身を包んだガゼリオは黙ったまま直立している。

「禁欲中、随分と辛そうにしていたが」

 養父は子供の下半身を一瞥いちべつする。

 長く囚われていたはずの肉茎がピクリとも反応せず窮屈そうにショーツに収まっているのに気付き、養父は再びガゼリオの顔を見据えた。

「貞操帯が外れた途端、まさか旅行先で自分を慰めたんじゃないだろうな」

 その問いにガゼリオは一瞬だけ躊躇った後、ほんのささやかな嘘を吐いた。

「……はい。自分で……自分を慰めました」

 その返答に養父は深く溜息を吐いた。

「全く浅ましい。私が前に後ろを解す時以外で自分を慰めてはいけないと言っているだろう」

 自慰の禁止。

 これはガゼリオが養父の家に来た時に告げられていた独自のルールであり、何度か見つかりその度に拷問で使用される魔法をかけられ苦しめられた。

 性欲の捌け口を養父との行為だけに絞りたかったのか。それともガゼリオの雄を否定したいのか。はたまた禁止されていても我慢できず慰めてしまう自分自身を蔑ませたかったのか。

 ガゼリオには理由を憶測する事しかできない。

「……すみません。夢魔の呪いで我慢ができなくなってしまって。これからはしませんから」

 養父はほんの少しだけ不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「いや、今回の事で決意したよ。手術の日程を決めておいた」

「……?」

 物々しい響きにガゼリオは脂汗を流す。何かとても嫌な予感に背中からナイフを突き立てられた気分だ。

「次の長期休暇に、お前の去勢手術の予約を入れておいてある」

「……はっ?」

 理解が追いつかず、ガゼリオは表情を硬くしたまま頓狂な声を上げた。

「お前が夢魔の呪いなどというくだらないものに引っかかってる間に、私が予約を入れておいたんだ。前々から考えてはいたんだが、流石にお前が可哀想だと思って辞めていたんだ」

 養父は足を組み、更にこう続ける。

「だが、男根があるせいで苦しかったろう? 良い機会だから全て切除してもらおうと思ってな」

「えっ……え?」

 聞き間違いなどではなかった。とガゼリオは動揺で激しく目を泳がせる。

「どうせ使わないんだ、必要ないだろう?」

「やっ……」

 「嫌だ」という言葉が喉に引っ掛かり出てこない。

「あぁ。術後の事を心配しているのか? 確かに心身に大きな変化が起こるだろうし、負担も大きいだろう。だが、私が側にいる。私が支えよう。だから安心しなさい」

 それは、息子に寄り添っているようで全く寄り添えていない台詞だった。

「さぁ、ベッドへ行こう。久しぶりに体を重ねようじゃないか」

   ***

 四つん這いにさせられながら、ガゼリオは奴にバインドとサイレントの魔法をかけられる。

 四肢を縛られ声を塞がれたガゼリオの体に、あの男の冷たい手が這わされる。

『嫌、だ』

 幽霊のような手に撫ぜられ、ようやくガゼリオは拒否した。しかし魔法のせいで声にならず、ただの空気となってしまう。

『触るな』

 首筋にあの男の舌が這う。

『気持ち悪い』

 自分の物だと示すように、あの男が背にキスマークを残そうとしている。

『……怖い』

 覆い被さられ、邪なものを尻に押し付けられる。

『嫌だ、嫌だ、嫌だ……!』

 蹂躙の予感にガゼリオの心身が恐怖で満たされた。

 レオに愛された体が。せっかくのに! またあの男で!!

『嫌だ、嫌だ嫌だ離せ離せ!!』

 後先考えず抵抗しようと足掻いたが、拘束は一向に解ける様子がない。


『……あ゛ぁぁぁぁッ!!』


 遂に忌々しい男のペニスが体内に侵入し、ガゼリオは激しい痛みと悔しさで絶叫した。

「良い具合だ。よく解してきたようだな」

 全身が冷たくなる……このまま何もかも凍り付いてしまえばいい。

 ガゼリオが子供のように泣きじゃくっている事など知らず、養父は雄の快楽に耽った。

『早く……早く、イけ! もう、嫌、だ……!!』

 ガゼリオの懇願が通じたのか。久方ぶりの雌壺に養父はいつもより早く気を逸し、ガゼリオに精を吐き捨てた。

 腹に熱が注がれたのを感じたガゼリオは『ひっ』と鋭く息を吸い込んだ。

「……実に良かった」

 バインドとサイレントを解かれ、萎んだ肉を引き抜かれる。

「さぁ、早く自分の部屋に戻りなさい。そして、手術日までに心身を整えておきなさい」

 ガゼリオの意見など全く聞く姿勢を持たない男は、そのままガゼリオを部屋から追い出した。

   ***

 自室に戻ったガゼリオは、女性用下着姿のままベッドに寝転がり絶望していた。

 うつろな視線を壁に向けながら、ガゼリオは思案し続ける。

 夢魔の呪いが解けたのは良かったが、約束通りに自分の浅ましい写真がヴェルトとカイラの元へ届けられたのだろう。

(きっと2人共、俺が親父に奉仕してる姿を見て軽蔑して……もう2度と近寄らねーだろうな)

 そしてつい先ほど告げられた男根の死刑宣告。

 あの男はやると言ったらやる男だ。

(チンコ無くなったら、あのジジイ以外に体見せられなくなる……もうレオアイツに体見せられなくなる……もし見せたら嫌われる……もう、2人きりで会えなくなる)

 レオに会えなくなる。触れられなくなる。

「あれ……?」

 そう考えただけなのに不安感と寂しさに支配されてしまう。乾き切った空っぽな瞳から涙が溢れて止まらなくなった。

「……っ」

 嗚咽を噛み殺す。

(レオに……会いたい)

 皆が自分から離れてゆく。そう考えた時、真っ先に頭に浮かんだのはヴェルトではなくレオだった。

「レオ……っ」

 性欲から離れてもなお、考えるのはレオの事ばかり。

「そっか……ハハッ。何だよ……俺もレオの事……好きになってんじゃねーかよ……」

 ガゼリオは自嘲的に力無く笑う。そして一頻ひとしきり泣いた後、ベッドからムクリと起き上がった。

 下着を着替えないまま適当な黒い服を着て、シガレットケースに煙草を1本だけ入れて胸ポケットにしまった。

 その上からお気に入りの黒い外套を着込む。


「いいや……もう何もかも、どうでも良い」


 口角を上げたまま呟き、よろよろと部屋を後にするガゼリオの赤眼は酷く濁っていた。
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