勇者様は鍛冶のお仕事に夢中!

増田みりん(旧みりんこ)

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 デイミアンの家で少しの間のんびりとし、そのあと、リアムは久しぶりにデイミアンに稽古をつけてもらうことになったので、ライラはそれを見学することにした。ヴァージルもライラの横に座り、眠たそうな顔をしながら眺めている。

「リアムは剣の腕が立つのね」

 激しい打ち合いをしている二人を見ながら、独り言のつもりでライラが呟くと、ヴァージルがそれに反応した。

「リアムは一人で魔物退治とかもしているくらいだからねえ。その辺にいる騎士たちよりかは腕が立つんじゃない」
「そうなの?」

 通常、魔物と戦う時は何人かでチームを組むことが多い。弱い魔物は群れでいることが多く、一人では太刀打ちできないことが多々あるためだ。

 そして強い魔物は群れを嫌い、孤立しているのが特徴だ。だからといって、一人で太刀打ちできるかと聞かれたらそれは難しい。弱い魔物の群れよりも厄介なものが多いのだ。

 そのため、魔物退治は複数人ですることが暗黙のルールとなっている。
 それなのに、一人で魔物退治をしているリアムは、はっきり言って規格外だ。

「実力から見れば、リアムが勇者だと言われても納得できるんだけど……でも、リアムは勇者が持っているはずの特徴がないから、納得できないんだ」
「……」

 ヴァージルの言葉にライラは黙り込む。
 確かに、そうなのだ。リアムが優れた存在であることは、誰もが認めている。なのに、リアムが勇者だと言っても信じられないのは、勇者の特徴がないから。

(どうしてリアムには勇者の特徴がないんだろう……特に、瞳の色なんて誤魔化しようがないのに)

 何度見ても、リアムの瞳の色は青だ。それがどうしても、ライラには解せない。
 どこか楽しそうにデイミアンと打ち合うリアムを眺めながら、ライラはその理由を探した。


 
   ◆ ◆ ◆
   


 デイミアンのところから、泊まっている仮住まいであるアパルトメントの部屋に戻り、ベッドの上で寛いでいると、左肩がズキンと痛み出した。

「つっ……! また……」

 左肩を押さえて痛みを堪える。普段はローブで隠している左肩には、うっすらと黒い痣のようなものが浮かんでいる。それはなにかの紋様の途中であるかのようだった。

「うっ……まだ……まだ、大丈夫……」

 そう自分に言い聞かせていると、痛みがすっと抜けていく。
 完全に痛みが引くと、深く息を吐いた。

「……期限が、近いのかな……」

 呟いた自分の声の弱々しさに、思わず苦笑する。
 これは一部の者しか知らない話だが、聖女には魔王の呪いがかけられている。

 数代前の聖女が聖属性魔法を完成させた。その時の魔王との戦いで、魔王は最後の力で聖女に呪いをかけたのだ。

 その呪いは『魔物を誘き寄せる』というもの。呪いが発動したら、聖女はいつでもどこでも魔物たちに狙われ、追いかけられる──そういう呪いだ。
 聖属性の魔法を使えば、その呪いの効果を弱めることはできるが、完全に打ち消すことはできない。

 それでも、呪いの発動を遅らせることは可能だった。本来ならば生まれてすぐに発動するはずの呪いは、聖属性の魔法の効果によって魔王が完全に復活するまでは発動しないように、歴代の聖女たちが魔法をかけているのだ。

 しかし、復活する毎に力を強めている魔王はその呪いですらも強化しているらしく、こうして時折呪いの発作のような症状が現れる。

 呪いに対抗するように聖属性魔法が発動し、自身に合う杖を持たないライラは上手く聖属性魔法を制御できないため、そのたびに呪いの刻印のある肩に激痛が走る。

 呪いが発動するのは魔王が復活する時。そうなれば、ライラはこうして町で暮らすことも叶わなくなる。それまでに勇者を見つけなくてはならない。

 そして、発作が起こる間隔が短くなっている。恐らくこれは魔王の復活が近い証なのだろう。

「……そろそろ来るかな」

 発作が起こると、ライラの近くに魔物たちが集まってくる。呪いの一端が漏れてしまうのだろう。だから、町に魔物が侵入する前に、魔物たちを殲滅しなくてはならない。

 ライラは立ち上がり、ベッドの近くに置いてあった杖用のポシェットを身につける。杖の本数を確かめ、そっと部屋を出て町の外に向かう。

 いつもならヴァージルに見つかってしまうのだが、今回は気づかれなかったようだ。それにほっとしながら、町の外に出たライラは、戦闘音が聞こえることに気づく。

 魔物の雄叫びや断末魔も相次いで聞こえ、慌ててそこへ向かうと、その光景にライラは目を見開いた。

「え……なに、これ……」

 おびただしい数の魔物の死骸が積まれていた。そして、その中心に一人の青年が立っていて、魔物の血を払うように剣を振るう。

 そして、ゆっくりとライラの方を振り返り、顔を顰めた。
 月明かりしかない薄暗い中で、相手の顔を確認するのは難しい。けれど、ライラにはそれが誰なのかすぐにわかった。

「リアム……なの?」

 ライラの発した言葉が疑問形になってしまったのも、無理のないことだった。
 なぜなら、リアムの瞳の色は青ではなく──ライラと同じ紫色をしていたのだから。

「……あぁ。戻っているのか」

 リアムはライラの言葉に、平坦な声で答えた。そして剣をしまうと、ライラに近づく。

「聖女さまが来てくれるのなら、俺が出張る必要はなかったな」

 皮肉げに笑うのは、いつものリアムのままだった。だが、暗闇でもわかるように、紫色の瞳がぼんやりと淡く光っている。

 それに、ライラは覚えがある。魔物を退治した時、ライラの瞳も同じようになるのだ。気分が高揚した時も同じようになることがある。

「……その瞳の色は……?」

 恐る恐る尋ねたライラに、リアムは眉を寄せた。

「……興奮すると、こうなるんだ」

「どうして隠していたの?」

「俺が生まれた時は青だった。だけど、物心つき始めた頃、癇癪を起こすと紫色になるようになった。俺の母親は弱い人だったから……そんな俺の変化を受け入れられなくて、得意だった光魔法で紫になっても元の青に見えるように周りを錯覚させた。母親が病気で死んでからは、自分で魔法をかけたりもしていたけど」

「……やっぱり、火の魔法以外も使えるんだね」

 リアムはライラを見て、「さすがは聖女さまだな」と苦笑した。

「火の魔法以外は碌に使えない。だから、嘘は言ってないぜ? まあ、いずれあんたにはバレるだろうとは思っていたけど、まさかこんなに早くバレるとは、少し想定外だったな」

 ため息を溢したリアムに、ライラは俯いた。
 リアムはやっぱり勇者だった。それがわかって嬉しいはずなのに、ライラの心はちっとも晴れない。むしろ、知る前よりも曇っている気がする。

 苦手な魔法を使ってまで、リアムは自身が勇者であることを隠そうとしていた。嫌がるリアムを無理に勇者にさせるのは、果たして正しいことなのだろうか。

 ライラは生まれてすぐに王宮に引き取られた。物心ついた時には自分は聖女で、国を救う存在なのだと言い聞かされていて、それを嫌だと思うことも、疑うこともなかった。
 だけど、リアムは違う。

「……まあ、バレちまったもんはしょうがない。あんたの望み通り、勇者になってやるよ」

「え……で、でも、リアムは勇者にはならないって……」

「……正直にいえば、もう少ししたら俺が勇者だと申告するつもりだった。魔王を倒さないと、みんな困るわけだしな。だけど、まだ少しやりたいことがあって、それが終わるまではと思っていただけだ」

「それはもういいの?」

「よくはない。できることなら、俺が勇者だと知らせるのはあと数日だけ待ってくれないか? あと少しで完成するんだ。それができたら、俺は勇者としてあんたについて行く。だから……頼む、あと少しだけ待ってくれ」

 そう言って頭を下げたリアムを、ライラはじっと見る。

 喜ぶべきだ。これでリアムと一緒にいられるのだから。嬉しいと感じるべきなのに、ライラの胸には、よくわからない罪悪感でいっぱいになった。

 それらを必死に呑み込み、ライラはにこりと笑って頷く。

「……わかった。リアムのやりたいことが終わるまで、待ってる」
「……ありがとう」

 ほっとしたようにお礼を言ったリアムに、ライラは首を横に振る。

「町に戻るか。……と、その前に」

 リアムがパチンと指を鳴らすと同時に、魔物の死骸に火が灯る。それは一瞬で燃え尽き、灰になった。

「すごい……杖がなくて無詠唱なのに……」

「火の魔法だけだけどな、こんなことできるのは」

 なんてことのないようにリアムは言うが、一属性だけであっても指を鳴らすだけで魔法を発動させ、対象のものだけを燃やし尽くすのは誰でもできることではない。むしろ、できるのはリアムくらいだろう。

「ほら、戻るぞ」
「あ、うん」

 リアムに促されて、ライラは彼のあとに続いた。
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