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第2話 幼馴染みが行方不明になりました
ep.8 ???→リディ
しおりを挟む追手を撒き、なんとか拠点に戻ることができた。
見慣れた薄気味悪い場所に〝戻ってきた〟という実感はあっても、〝帰ってきた〟と思うような安心感はない。
ここは、誰も彼もが薄気味悪い。
少し気を抜けば、誰かに取って食われそうな気がして、気を緩めることもままならない。
そんな感じであるここにいる奴らに対し、仲間意識などあるわけもなく、信頼できる仲間なんて存在はおとぎ話のような夢幻である。
それなのにここに戻ってくるのは、ここしか居場所がないからだ。
それに組織から抜け出すのは、並大抵なことではない。下手に逃げ出しても連れ戻され、処分されるだけだ。
「……珍しく騒がしいな」
そんなことを思いながら歩いていると、なにやらざわざわとしている。
それを不思議に思い、すれ違ったやつに声をかける。
「ねえ、なにかあったの?」
「あ……お戻りになったのですね。ええ、実はちょっとした収穫がありまして」
「……収穫?」
聞き返すと、彼は詳しくその〝収穫〟について教えてくれた。
それを聞き、思わずニヤリと笑う。
「へえ……それは、面白いことになったね」
「そうですよね」
頷く彼とは〝面白い〟の意味が違う。
それをわかっていながら、敢えて言う。
「──これから、楽しみだな」
〇●〇●〇●〇●〇●〇●
あの夜会での事件以降、貴族たちの間では夜会を控えようという雰囲気になっており、わたしの理想の王子さま探しは難航していた。
そのためわたしは、理想の王子さまにいつ出会っても良いように自分磨きを頑張ることにした。
お肌のお手入れ、ダンスの特訓、礼儀作法、次に流行りそうなドレスについてなどなど、自分磨きの情報を得るために、わたしは秘かに奔走していた。
それと時を同じくして、最近エリクの姿を見かけなくなった。
少し前までは三日に一度はうちに来ていたのに、ここ数週間はうちに来ていないようだった。
いったいどうしたのだろう、と不思議に思いつつも、こういうことは前にもあり、いつの間にかひょっこりと現れ、庭でいつも通りに読書をしていたので、今回もそうなのだろうとわたしは楽観視していた。
「……はい? 父さま、今なんておっしゃったの?」
わたしは父さまの言葉が上手く飲み込めず、聞き返した。
すると、父さまも戸惑った顔をして再び同じ台詞を口にした。
「王太子殿下がリディをお呼びになっている……らしい。だからリディ、すぐに支度をしてくれ」
「ど、どうして王太子さまがわたしを……?」
わたしと王太子さまに接点などない。言葉を交わしたことすらないのだ。
それなのに、王太子さまがわたしを呼んでいる……?
「それがわからないんだ……しかし、王太子殿下がおまえをお呼びになっていることは間違いない。すぐに支度を整えて、王宮に向かうぞ」
「わかりました」
わたしは慌てて支度を整えて父さまと一緒に王宮に向かう。
そして王宮のとある部屋に案内され、そわそわと待っていると、王太子さまがお見えになった。
わたしと父さまは同時に頭をさげる。
「王太子殿下、この度は──」
「挨拶はいい。突然、あなたたちを呼んだのはこちらだからな。顔をあげよ」
父の口上を遮り、王太子さまはそう言う。
戸惑って父さまの方をちらりと見ると、父さまも同じく戸惑っているようだったけれど、王太子さまの指示に従おう、というように頷く。
わたしも父さまに倣い、顔をあげると、王太子さまは申し訳なさそうに眉を落とした。
王太子さまはエリクと同じ金髪だけど、顔立ちはあまり似ていない。整ったお顔をされているとは思うけれど、エリクの顔を初めて見たときよりは感動が薄かった。これがすごく失礼な感想であることはわかっているので、心の中だけに留めておく。
「突然、呼び立ててしまい申し訳ない。このようにあなたがたを急に呼び出したのは、我が末弟のことで話があったからだ」
「……エリクさまの?」
父さまの顔つきが強ばる。
いったいどうしたのだろう、とわたしは不思議に思いながら、王太子さまと父さまの顔を交互に見る。
「クラヴリー伯爵はご存じかと思うが……我が弟、エリクの行方がわからない」
「え……?」
エリクの行方がわからない……?
あまりに唐突に告げらた台詞に、わたしの頭は真っ白になった。
どういうこと? それって、エリクが危険な目に遭っているかもしれないってこと……?
「総力を挙げてエリクの行方を捜しているが……未だ手がかりすら掴めぬ有様だ。しかし、今回エリクが行方不明になったのは、例の窃盗団の仕業ではないかと踏んでいる」
「やはり、そうですか……」
父さまは痛ましそうな顔をする。
わたしは王太子さまのお話についていけなくて、おろおろとする。
「先日の夜会で、我々は例の窃盗団の団員を多数捕獲することに成功した。その立役者がエリクだ。例の窃盗団で上手く逃れた団員がエリクを逆恨みし、攫った可能性があるんだ。そしてその夜会でリディアーヌ嬢は、例の窃盗団の幹部と接触し、危険が及んだところをエリクが救った──つまり、リディアーヌ嬢はエリク自ら助けるほど、エリクにとって重要な人物であると、彼らに知られた可能性が高い」
「……我が娘が、例の窃盗団に狙われる可能性があると?」
「ああ。だからリディアーヌ嬢の身の安全を確保するために、王宮で預かりたい。もちろん、伯爵とその奥方にも王宮に来ていただくことにはなるが……ご了承いただけないだろうか?」
「我が家にいるよりも王宮で匿っていただいた方が安全でしょう。ぜひともお願いいたします」
「では、すぐに手配を整えよう。──リディアーヌ嬢」
「は、はい」
突然名前を呼ばれ、慌てて返事をする。
正直、急展開すぎて頭はとても混乱していた。
「申し訳ないが、あなたは今日から王宮で過ごしてほしい。多少の不便はあるかもしれないが……あなたの身の安全のためだ。ご了承いただきたい」
「わかり、ました……」
王太子さまにそう言われて、断れるわけがない。
だって、わたしはただの伯爵令嬢なのだから。
そもそも、わたしはなにがどうなっているのかが全然わからないのだ。
エリクが攫われた可能性があると、わたしの身も危険? 本当に? それが本当だとして、王太子さま自らが動く必要があることなのだろうか。
わたしの身の危機が迫ると言うのなら、そんなわたしを王宮に置いておく方がリスクが高い気がする。
……考えても考えても、わたしには王太子さまがなにを考えているのかなんてわからない。
エリクがこの場にいてくれたら、王太子さまの考えを見抜いて教えてくれただろうか。
いや、教えてくれることはないな。だってエリクは意地悪だもの。
……エリクは、大丈夫だよね?
ちゃんと帰ってくるよね? そして、いつもみたいにわたしをバカにして、わたしのお喋りに付き合ってくれるよね?
「では、リディアーヌ嬢はこのままに王宮に……」
「──王太子さま」
不敬と知りつつ、わたしは王太子さまの台詞を遮って声をかけた。
そんなわたしを咎めようとした父さまを、王太子さまが止める。
「なにかな、リディアーヌ嬢」
「エリクは……エリクさまは、大丈夫ですよね?」
「……」
王太子さまは一瞬目を見開いたけれど、すぐに優しく微笑んだ。
「もちろんだ。私が必ずエリクを見つけ出す。いや……むしろエリクなら、自分でなんとかするかもしれないな」
確かに、エリクなら心配しているわたしたちの前に涼しい顔で現れて「無駄な心配させてごめん」とか言いそうだ。
そんなエリクの姿を想像すると少しだけ気持ちが落ち着いた。
「エリクを心配してくれてありがとう、リディアーヌ嬢」
心から嬉しそうに言った王太子さまにわたしは首を傾げる。
エリクを心配するのは当たり前のことなのに、どうして王太子さまはそんなに嬉しそうなんだろう。
まるで、エリクのことを心配している人なんかいないみたい。王子であるエリクに限ってそんなことはないと思うけれど。
不思議に思ったけれど、なんとなく口に出すのはばかられて、わたしは曖昧に返事をするだけに留めた。
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