11 / 41
第2話 幼馴染みが行方不明になりました
ep.10
しおりを挟む「それで? 他に聞きたいことは?」
握手をし終えたあと、ユーグはどこかわくわくとした顔をして聞いてきた。
それがなんというか……そう、まるで懐き始めた子犬みたいに思えて、ユーグは不思議な人だなあ、と思った。
彼には警戒心を抱きにくい。その雰囲気のせいなのか、彼の表情のせいなのか……まあ、恐らくは両方なのだろうけれど、とにかく人から警戒心というものを薄れさせるのが上手い。
わたしはまだ彼を信用したわけじゃない。
だから、絆されないように気をつけなくては……良いカモにはなりたくないし。
「そうね……まずは理由が知りたいわ。わたしの家にいたい理由と、エリクを助ける理由。あと、それによってあなたにどんなメリットがあるのかも」
ない知恵を絞って、懸命に考えた質問をすると、ユーグは「へえ」というように眉毛をあげた。
「なるほど……バカじゃないみたいだね」
「どういう意味……?」
完全にわたしをバカにしてるよね。
喧嘩売ってるの? 絶対買わないけど!
「ああ、ごめん。別にリディをバカにしていたわけじゃない……とは言い切れないんだけど」
「そこは嘘でも言い切ってよ……」
悲しいじゃないの。
確かにわたしの頭が良くないことは自覚しているけれど!
「すごく答えにくい質問だな、と思ってさ」
「答えにくい……?」
「そう。でもまあ、答えられる範囲で答えると、キミの家にいたいのは、エリク王子と接触しやすいからさ。エリク王子を助けるのも、彼に恩を売りたいから」
「エリクに恩を……? それがあなたにとってメリットになるの?」
「なるよ。ボクの目的を果たすためには、エリク王子の協力が必要なんだ。だからボクはエリク王子に恩を売りたいし、キミの家にいればおのずと怪しまれずにエリク王子と接触する機会が与えられる。この取り引きは、ボクにとってメリットが大きいのさ」
「ふうん……そう。あなたの目的というのは?」
すらすらと淀みなく答えていたユーグが、その質問に初めて言葉を詰まらせた。
「それは……まだ答えられないな」
「まだ?」
「うん。でも、ボクの目的はきっとエリク王子にとっても悪いことじゃないし、エリク王子が悪事に手を染めないといけないようなことでもない。だから安心して」
にこっと笑った彼の言葉を信用して良いものか……。
でも……なんとなくではあるけれど、ユーグは嘘をついていない気がする。
きっとエリクに会いたいというのも、恩を売りたいというのも本当のこと。
だとしたら……あとはエリクに任せればいいかな。
エリクが判断したことならきっと間違いない。わたしはユーグは信じてないけれど、エリクのことは信じているから。
「わかったわ。あなたを完全に信用したわけではないけれど、あなたの目的についてはこれ以上聞かない。次は……エリクは、どこにいるの?」
一番聞きたくて、でも聞くのがなんとなく怖くて聞くのを躊躇っていた質問。
エリクが怖い目に遭っていたらどうしよう、大怪我をしていたら……そんな恐い想像ばかりが膨らんで、その質問をするのも恐る恐るだった。
ユーグはわたしのそんな心境がわかっているのか、安心させるようににこっと笑った。
「王子さまは無事だよ。擦り傷はあるかもしれないけど、大きな怪我はしていないし、しばらくは命を奪われることもない。王子さまがいるのは、王都の端っこにある、とある富豪の持ち物だった屋敷だよ」
「エリク、無事なんだ……良かった……」
ほっと胸に手を当てて息を吐く。
大した怪我もしていないと聞いて、本当に安心した。しばらくは命を奪われることもないようだし……ん? しばらく……?
「……ユーグ、ひとつ確認したいのだけど」
「なにかな?」
「『しばらくは命を奪われることはない』って言ったけれど、その〝しばらく〟というのは、どれくらいなの……?」
「そうだなあ……」
ユーグは考え込むように腕を組み、宙を見上げた。
そして──にこっと、どこか寒気のする笑みを浮かべた。
「──三日は大丈夫だと思う」
「み、みっか……!?」
それって、明後日にはエリクがどうなるのかわからないってこと!?
しばらくって言うから、一週間くらいはあるのかと思っていたのに……!
予想外に短い時間で、わたしはパニックになった。
「す、すぐにでも助けに行かなきゃ……! エリクが死んじゃう……!」
わたしの脳裏には血塗れになって倒れているエリクの姿が浮かぶ。
やだやだ! まだエリクをぎゃふんと言わせることができていないのに……!
「落ち着いて。三日もあれば余裕でエリク王子を助け出せるよ」
「え……?」
嫌な想像ばかりが浮かび、涙目になっていたわたしはぽかんとしてユーグを見た。
ユーグは苦笑して、「エリク王子がいる場所は王都の端といっても、ここからすごく離れているわけじゃない。だから、今から準備すればなんとかなるさ」と答えた。
それにわたしはホッとする。
良かった……それならエリクは大丈夫だよね。
「──と、いうわけで」
「はい?」
唐突にポン! と手を叩いたユーグを不思議に思って見つめると、ユーグはにんまりと笑った。
「これからエリク王子を助けに行くから、ボクと会ったことは他言無用で」
「え……?」
エリクを助けに行く? 今から?
……どうやって?
「ボクがエリク王子を助け出してきたら、約束通りキミの家で雇ってもらうからね」
「え、ちょ……え?」
「じゃあ、行ってくるね~」
まるで近所に散歩にでも行くような気軽さで、ユーグは窓の外へ身を投げる。
それをぽかんとして見ていたけど、ふと気づく。
……あれ? この部屋、三階じゃ……?
慌ててユーグが消えた窓から外を見ると、もうそこにはユーグの姿はなくて、今までユーグと会話していたのが夢だったかのような気がする。
でも、夢じゃない。ユーグに口を塞がれていた感覚、まだあるもの。
どこにもユーグの姿がないということは、無事に着地できたということなのだろう。どんな超人だ。そういえば、どこからここに侵入したんだろう。
さすが窃盗団の幹部……と褒めた方がいいのか。すごく身体能力が高いんだろうな。
わたしも運動は苦手ではないけれど、この高さから飛び降りたら普通に怪我する。ううん、怪我で済めば良い方で、もしかしたら死んじゃうかも……。
窓の外を眺めながら、思う。
ユーグを信じて、いいのかな……本当にエリクを助け出してくれるのかな。
罠とかではない? 助け出して安心させたところを襲うとか……ううん、まだエリクの居場所が知られていないのに、わざわざ居場所を特定できるような情報をわたしに流すのはあまり得策とはいえない。
心では、ユーグを信じても大丈夫だと思っている。
けれど、それを頭が納得してくれない。本当に大丈夫? って、問いかけてくるんだ。
「……もう、エリクのバカ。なんで捕まっちゃうの……本当にバカなんだから……」
小さく呟いたわたしの声の、なんて弱々しいことか。
……なんでもいいの。天使でも悪魔でもいい。エリクが無事に帰ってくれさえいれば。
だから……。
「……おねがい。早く帰ってきて、エリク……」
エリクがいないと、すごく寂しい。
早くエリクの顔を見て安心したい。
わたしの願いはただそれだけ。
神さま。早くエリクに会わせてください──。
0
あなたにおすすめの小説
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる