わたしの理想の王子さま~婚約破棄騒動から始まる災難の日々~

増田みりん(旧みりんこ)

文字の大きさ
34 / 41
第3話 婚約者ができました?

ep.33

しおりを挟む

 その日、わたしはユーグと王宮の侍女たちによってもみくちゃにされた。

 夜会に参加するために、日が高いうちからお風呂に入り、なんだかよくわからない美容にいい液体を身体中に塗りたくられ、マッサージをされる。

 夜会に出るだけなのに、こんなの必要?
 そう、聞きたかったのだけど、ユーグ率いる侍女集団の圧がすごくて、とても聞けなかった……。

 こんなに気合いを入れても、見てくれる人なんていないのに……時間の無駄じゃないのかな。

 なんて、悲観的に思ってしまうのはきっと心が弱っている証拠なんだろう。
 こんな気持ちのまま、エリクの婚約者として夜会に出ても大丈夫なのか、正直不安だ。

 だけど、この夜会に出ることが旅行に連れて行ってもらう条件だったのだから、不安でも心配でもエリクの婚約者らしく振る舞うしかない。
 だって、それがエリクとの約束だもの。破るわけにはいかない。

 これでもか! というくらいコルセットを締められて、いつもよりも格段に時間をかけて化粧と髪をまとめてもらい、仕上がったのは夜会が始まるほんの少し前だった。

 別段わたしはなにもしていないのだけど、なんだかすごく疲れた……着付けだけで二時間くらいかけているのだから、なにもしていなくても疲れて当然だ。

 ユーグを初めとする侍女の皆さんはとても清々しい顔をしている。仕事やりきった! っていう雰囲気がすごく出てる。お疲れ様です……。

 夜会の時間になってわたしはエリクの元へ向かう。
 正装したエリクはやっぱり王子さまそのもので、見た目だけならわたしの理想の王子さまそのものなのになあ、なんて思ってハッとする。

 わ、わたし、なに考えているんだろう……⁉︎
 エリクが理想の王子さまなわけないのに。どこからそんな考えが出たんだろう。まったくもって謎だ。

 そんなことを思ってしまったために、気まずいのがさらに気まずく感じて、気絶したいと心から思った。
 まあ、そんなことできないんだけどね! やったらエリクにあとでネチネチ怒られるだろうし!

 スーハーと深呼吸をしていると、エリクがわたしに気づく。
 そして、わたしを見てふわりと微笑んだ。

「綺麗だね」

 そのエリクの笑顔と言葉に、わたしの心臓がバクンバクンと暴れ出した。
 慌てて俯いたけれど、きっと顔が赤くなっているのはエリクからは丸見えだろう。

「ユーグたちが頑張ったのがすごくよくわかる」
「……へ?」

 顔をあげると、エリクはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべていた。
 いつも通りのエリクに、少しだけほっとする。
 嬉しくてニヤけそうになるのを堪えて、ぎゅっと眉を寄せて怒るふりをしてみせる。

「わたしも頑張ったのよ!」
「へえ。なにを頑張ったわけ?」

 ユーグたちにされるがままになっていただけでしょ、とエリクの目が語る。
 そんなエリクにフン! っと顔を反らす。

「支度してもらうのだって大変なのよ。まあ、男の人には一生わからないのでしょうけれど」

 本当の本当に大変だったんだから!
 夜会のたびにあんなの繰り返さないといけないんだから、貴族令嬢たちの忍耐力は素晴らしい。
 わたしはいつもあそこまでやらないから、もう少し楽なのだけど。

「へえ、そういうものなの?」
「そういうものなの!」

 怒ったふりをするのも大変だ。少し気を緩めると顔がニヤけちゃうのだもの。
 エリクとまた以前のように話せるのが嬉しい。
 でも、ちょっとだけ胸がずきんとする。

 あの時のことなんてなかったかのように振る舞うエリクに、ほんの少しだけモヤっとしてしまう。
 わたしは自分の気持ちがわからなくて困っているというのに、その原因を作った本人は普段とまったく変わらないなんて。

 わたしの我儘なんだとは、わかっている。
 けれど、これが正直なわたしの気持ち。
 わたしはいったい、エリクにどうしてほしいのだろう。それがわからない。わからないから、困っている。

「……そろそろ行こうか」
「え、あ……う、うん」

 ぎこちなく返事をすると、エリクが不思議そうな顔をする。

「もしかして……緊張している?」
「な、なんのこと?」

 惚けてみせようとも、十年の付き合いになるエリクには通用しない。
 こういうとき、幼なじみってすごく厄介だと思う。

「大丈夫、リディはいつも通りにしていれば。僕がずっと傍にいるから」

  ね、と笑うエリクに、胸がドキドキと高鳴る。
 なんでこんなにドキドキしているんだろう。相手はあのエリクなのに。本当に、自分で自分がよくわからない。

「今夜はきみが僕のお姫さまなんだから、ちゃんと守ってあげる」

 行こう、と手を引いたエリクに続いて歩く。

 ……僕のお姫さま。
 今夜限りのものだとしても、そう言われると胸がときめいてしまう。

 きっと、これは魔法なんだ。夜会にかけられた、今夜だけの魔法。
 だからわたしはこんなにドキドキしているし、エリクがいつもよりもキラキラして見える。そう考えれば納得だ。

 ──この魔法が一生解けなければいいのに。

 そう思ったのも、きっと魔法のせいなんだろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...