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二、開花
二、開花 ③
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食事のあと、寝癖を直してくれて、イタリア語の小説を何冊か持ってきた。
「祖母の小説なんだ」
「……そう」
僕の祖母が傷ついた原因でもある人の本。
だがよくよく聞いてみると、彼の祖母が書いた本だという。
そんな話をしていたような気もするけど、僕には関係ないのに。
「訳ができないとき、聞いてもいいかな」
どうやら僕に読ませ、自分も読むつもりのようだ。
「貴方もすごい神経してるんですね」
へっと鼻で笑うと、彼は少し驚いたように目を見開いた。
自分の祖母の翻訳を、婚約破棄した祖母の孫の僕にさせる。
残酷だと思わない貴方は、やはりすこし僕と価値観がずれてるのかもね。
ベットのそばに一人用のソファを持って来て、本を読みだした。
分からない言い回しを聞いてくるあたり、この人は僕が憎いとか嫌いと言った感情はないようだ。アルファのくせに対等に接しようとしてくれているのかな。
ボロボロの本は、付箋を何枚も貼っていて独学で読もうとした痕跡が見られた。
純粋に祖母の本が読みたいだけで、その感情が先走りして僕を傷つけるとは思っていないようだ。
僕と同じで周りの大人に聞けなかった、聞ける人が居なかったんだろうって伝わってきた。
アルファのくせに僕と同じ部分があるなんて不思議な人だ。
「お金持ちのくせに」
「んん? 急にどうしたの」
「お金持ちなら、さっさとイタリア語喋れる美女でも捕まえて読み聞かせしてもらえただろうし、雇えるでしょ」
それかイタリア語を習ったり。
その年でアルファが誰かに頭を下げて何か習うのは考えられないか。
ボロボロになった本を閉じ、彼は何から説明しようか考えているようだった。
「うーん。一応、日本での発売権は手に入れているんだ。あとは祖母の本の翻訳家を探すだけなんだけど、私と同じ感性の人がいいなって。語彙力が高いとか上手い言い回しに変えなくていい。私と同じ気持ちで訳してくれる人、ってことで」
「自分で翻訳したいってこと?」
「あーなるほど。極論だけどそうだね。でも私は、書き手ではなく読み手の位置に居たい。ずっと」
そして僕に微笑んでくる。確かに綺麗な顔だから、微笑まれたら女性なんて簡単に転がるだろう。でも僕に微笑むなんて、何かを企んでいることだけしかわからない。
「君が書いてくれないか。辰紀くん」
「……まさか」
そんな力量もない。学も知識もない。
「僕が少しも憎くないと思ってるの?」
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