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二、開花
二、開花 ④
しおりを挟む僕の祖母と竜仁さんの祖父は婚約者。運命の番だった。
それなのにそのイタリア人の祖母とは、運命を無視して結婚しているってことだ。祖母の位置にいた人の本の翻訳だなんて、もし僕にできる頭脳があったとしても心が拒否するだろう。
竜仁さんのボロボロに読み込まれた本が、大切にされているのが伝わってきても、その気持ちは変わらない。
「君は憎いの?」
「それは聞いても無駄だよ」
憎いと言われたらきっとノーだ。
でも祖母の思いを汲む側としてはイエスなのだと思う。
祖母だけが傷つき、祖母だけが悲しく寂しく死んでいったのに、僕はどんな顔して祖母の憎む相手の本を翻訳するの。
憎くなくても、無理でしょ。
「僕は祖母に大切に育てられた。その祖母が僕に花を喰らわせるほど憎んでいた相手だよ」
何を言っても無駄だと思う。
この人と僕には相容れない部分がある。
「誰か別の人が見つかるでしょ。運命の番を捨てた一族なんだから」
身体が痛いので体力を回復するために目を閉じた。
彼の表情を見て顔色をうかがうのも疲れるからだ。
「僕は祖母の形見を全て譲り受けたら、貴方の前から消えるので」
「つれないねえ、私の運命は」
それでもご機嫌で、僕の隣で本を読み続けている。
「運命ならば僕を犯していいの? 花を喰ってたら犯していいの?」
「愚問だね」
「噛んでいい理由は、なに?」
別に怒っているとか悔しいとか腹が立っているから聞いているわけではない。
栄養ある食事や花を食べるのを怒ってくれるところ。
捨て猫の保護と項を噛むのを同列に考えているんじゃないのかと思えてしまう。
「貴方は運命の相手じゃなくても好きになることを知っているはずなのに。ボランティアで手を差し伸べて後悔するよ。本当に好きになった人に振り向いてもらえないなんて。どうするの。監禁しちゃうの?」
恵んでもらっている僕が何か言える立場ではないけどさ、浅はかな行動だったね。
「君のことは一目見て欲しいと思ったんだ」
「今までどんな生活をしてそんな性格で、どんな人間かも知らないのに」
「知っていけばいい。簡単な話だよ」
運命だから好きにならないといけないと意地になってないかな。
貴方が意地になっていても、僕が迷惑なんだけど。
だって僕は貴方が隣にいても何も感じないし何も変化はないのだから。
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