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二、開花

二、開花 ⑮

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「会って数時間で惚れたとでも?」
「君が運命と気づいてからずっと思っていましたよ」
 歯の浮いた言葉。
 家柄も良く、性格も良さそうでモテそうな男だ。こんな台詞、言い慣れてるに違いない。
 騙そうとしている。
 いくらご馳走を用意したり祖母の形見を集めてくれていても、無償ではない。
「信じられない?」
「昨日の行為を思い出すと、花の毒よりも貴方の方が怖いから」
 信じられない。
 今まで恋愛対象として優しくされたこともなければ、無理強いされるセックスも初めてだ。

「まあ、無理矢理番にしていて説得力も糞もねえって感じですよね」
 よいしょっとシーツがかぶったままのソファを持ち上げると、僕を米俵のように簡単に持ち上げた。
「ドライブしましょ。閉じ込めていたら気持ちも落ち込んでしまうでしょうしね」
「いえ、気分悪いから眠っていたいです」
「じゃあ助手席で寝てていいですよ。さ、行きましょう」
 すれ違いまくっている。
 捻れて、感情を無視している。
 それなのに、嫌いになりきれない何かを竜仁さんは持っていた。それがずるい。
 感情も気分も全部彼にコントロールされている気分がして気持ちが悪いんだ。

「君は花のせいで香りを放つほうに栄養を持って行かれているでしょう。でもきっと君は花を食べるのを止めたら美青年に成長するでしょう。身長も伸びるだろうし、綺麗になる。間違いないね」

らせん階段をを降りながら背中をなぞられた。腹が立ったので僕も背中を蹴る。
 背中を蹴ったのに下半身に鈍痛が響いたので、抓った方がいい。
 暴れても必死で落とさないように僕を掴むので、腹立たしい。
 乱暴にするなら乱暴にしてほしい。優しい行為はいらない。
 いちいち信じようとするたびに、傷つかなくて済む。
 最初から最後まで、貴方は僕に対して悪役でいてほしいんだ。

「自分に栄養を与えてくださいよ」

 何を言っているのかわからないが、僕の身長が低いのもガリガリなのも、花のせい。
 全部花のせいにしてしまうのはどうなんだろう。僕の未来への展望がないのが一番の原因なのに。


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