54 / 97
悪魔にでも
しおりを挟む
「行けー!」
刹那、リリスの両腕の皮膚が内側から食い破られた。
バヂリ、グチュリ。
湿った破壊音と共に、骨と肉を排除して飛び出したのは、鋼鉄よりも硬く、蛇のようにしなやかな、棘だらけの深緑の蔦であった。
それは生物的な脈動を打ちながら、瞬きする間もなく、リリスを組み敷こうとしていたガストンの胸板を貫いた。
「が……ッ!?」
ガストンの目が限界まで見開かれる。
悲鳴を上げる暇すらなかった。
貫いた蔦は、ただ突き刺さるだけでは終わらない。
ズルリと体内で蠢き、無数の毛細根を血管の一つ一つに侵入させる。
心臓が、肺が、胃袋が、異物に蹂躙され、急速に養分として吸い上げられていく。
ガストンの皮膚の下を、何かが這い回るようにボコボコと隆起し、次の瞬間、彼の目、鼻、口、耳から、鮮血と共に真紅のバラが爆ぜるように咲き誇った。
「あ……ボ、ス……」
ガストンは、自身の顔面が花園と化す中で、乾いた肉人形のように崩れ落ちた。
同時に、リリスの左手から伸びたもう一本の蔦が、目前のボルコフを襲っていた。
ボルコフは反射的に剣を盾にしたが、触手の威力は、ただの覚醒級剣士の防御を紙屑のように粉砕した。
剣身ごと腹部を貫通される。
「ご、ふッ……!」
ボルコフの口から、大量の血反吐が撒き散らされた。
彼は信じられないものを見る目で、自分の腹から生えた蔦を見下ろした。
痛い。
熱い。
腹の中で、何かが蠢いている。
腸が引きちぎられ、内臓が根に変わっていく。
「ぐあぁぁぁぁッ! やめ、やめろッ! 俺の体が……中で、何かが……ッ!」
絶叫するボルコフの傷口から、急速に蕾が膨らみ、パッと開花する。
それは、彼が流した血の色よりもなお濃く、禍々しいほどに美しい大輪のバラであった。
リリスは無表情のまま、右腕を一振りする。
蔦に繋がれたボルコフの体は、布切れのように宙を舞い、地面に叩きつけられた。
彼は痙攣し、全身の毛穴から細い茎を突き出しながら、花の養分となって絶命した。
「ヒッ……!」
「ば、化け物だ……!」
残された盗賊たちが、恐怖に顔を歪めて後ずさる。
リリスは泥の中からゆっくりと立ち上がった。
両腕はもはや人の形を留めていない。
肩から先は、太く脈打つ茨の束となり、その先端には鮮血を滴らせた捕食植物の顎が開いている。
彼女の瞳は、泥と雨に濡れながらも、感情の色を完全に失っていた。
あるのは、有機的な殺戮機構としての冷徹な機能だけ。
逃げ出そうと背を向けた盗賊の背中に、伸びた蔦が突き刺さる。
「ぎゃあああッ!」
脊椎を砕き、そのまま首を貫通して、口から花を咲かせる。
リリスは手首を(あるいは手首があった場所を)僅かに動かすだけで、蔦を自在に操り、逃げ惑う男たちを次々と串刺しにしていった。
斬りかかってくる斧を蔦で受け止め、瞬時に巻き付いて腕をねじ切る。
魔法を放とうとした術者の喉元に棘を突き立て、詠唱ごと食い破る。
一人の男が、泥に足を取られて転倒した。
彼は涙と鼻水を垂れ流し、リリスに向かって両手を合わせた。
「た、助けてくれ! 悪かった! もうしない! 金もやる、何でもするから!」
リリスは、その男の前に静かに歩み寄った。
かつて自分が、彼らにそう乞うた時のように。
そして彼らが、それを嘲笑い、踏みにじった時のように。
リリスの茨が、男の開かれた口内へと滑り込む。
「んぐッ……ぉ……!」
舌を押し潰し、食道を裂き、胃袋へと到達する。
体内での開花。
男の体がビクンと跳ね、眼球が裏返る。
リリスは表情一つ変えず、養分を吸い尽くして萎びた死体を、ゴミのように投げ捨てた。
数分も経たずして、街道の喧騒は死絶した。
雨音だけが、変わらず降り注いでいる。
だが、そこはもはや泥濘んだ街道ではなかった。
累々と重なる盗賊たちの死体。
その全てから、異常な生命力を誇る真紅のバラが咲き乱れている。
血の赤、バラの赤。
腐臭と、濃厚な花の香りが混じり合い、むせ返るような死の園が形成されていた。
リリスの体からは、不思議と汚れが消えていた。
返り血も、泥も、すべては触手が吸収し、彼女の肌を白磁のように美しく修復していた。
かつての痣も、噛み跡も、犯された痕跡も、すべて消え失せていた。
リリスは、泥の中に座り込むエヴァの元へと歩み寄った。
エヴァは震え、言葉を失い、目の前の光景を凝視していた。
彼女の知るリリスではない。
彼女が守ろうとした少女は、地獄そのものを現出させた怪物だった。
リリスはエヴァの前に跪いた。
血を一滴も浴びていない、純白の肌。
整いすぎた顔に、壊れた人形のような微笑みを浮かべる。
彼女はそっと手を伸ばし、エヴァの汚れた頬に触れた。
その指先は温かく、優しかった。
「もう、大丈夫です」
リリスの瞳から、一筋の涙が伝い落ちる。
「エヴァさんを傷つけるものは、全部、私が肥料にしましたから」
「だから……安心してください」
エヴァの喉がひきつり、悲鳴も言葉も出ない。
ただ、目の前の美しい悪魔が流す涙と、周囲に広がる死の花園の対比だけが、網膜に焼き付いていた。
刹那、リリスの両腕の皮膚が内側から食い破られた。
バヂリ、グチュリ。
湿った破壊音と共に、骨と肉を排除して飛び出したのは、鋼鉄よりも硬く、蛇のようにしなやかな、棘だらけの深緑の蔦であった。
それは生物的な脈動を打ちながら、瞬きする間もなく、リリスを組み敷こうとしていたガストンの胸板を貫いた。
「が……ッ!?」
ガストンの目が限界まで見開かれる。
悲鳴を上げる暇すらなかった。
貫いた蔦は、ただ突き刺さるだけでは終わらない。
ズルリと体内で蠢き、無数の毛細根を血管の一つ一つに侵入させる。
心臓が、肺が、胃袋が、異物に蹂躙され、急速に養分として吸い上げられていく。
ガストンの皮膚の下を、何かが這い回るようにボコボコと隆起し、次の瞬間、彼の目、鼻、口、耳から、鮮血と共に真紅のバラが爆ぜるように咲き誇った。
「あ……ボ、ス……」
ガストンは、自身の顔面が花園と化す中で、乾いた肉人形のように崩れ落ちた。
同時に、リリスの左手から伸びたもう一本の蔦が、目前のボルコフを襲っていた。
ボルコフは反射的に剣を盾にしたが、触手の威力は、ただの覚醒級剣士の防御を紙屑のように粉砕した。
剣身ごと腹部を貫通される。
「ご、ふッ……!」
ボルコフの口から、大量の血反吐が撒き散らされた。
彼は信じられないものを見る目で、自分の腹から生えた蔦を見下ろした。
痛い。
熱い。
腹の中で、何かが蠢いている。
腸が引きちぎられ、内臓が根に変わっていく。
「ぐあぁぁぁぁッ! やめ、やめろッ! 俺の体が……中で、何かが……ッ!」
絶叫するボルコフの傷口から、急速に蕾が膨らみ、パッと開花する。
それは、彼が流した血の色よりもなお濃く、禍々しいほどに美しい大輪のバラであった。
リリスは無表情のまま、右腕を一振りする。
蔦に繋がれたボルコフの体は、布切れのように宙を舞い、地面に叩きつけられた。
彼は痙攣し、全身の毛穴から細い茎を突き出しながら、花の養分となって絶命した。
「ヒッ……!」
「ば、化け物だ……!」
残された盗賊たちが、恐怖に顔を歪めて後ずさる。
リリスは泥の中からゆっくりと立ち上がった。
両腕はもはや人の形を留めていない。
肩から先は、太く脈打つ茨の束となり、その先端には鮮血を滴らせた捕食植物の顎が開いている。
彼女の瞳は、泥と雨に濡れながらも、感情の色を完全に失っていた。
あるのは、有機的な殺戮機構としての冷徹な機能だけ。
逃げ出そうと背を向けた盗賊の背中に、伸びた蔦が突き刺さる。
「ぎゃあああッ!」
脊椎を砕き、そのまま首を貫通して、口から花を咲かせる。
リリスは手首を(あるいは手首があった場所を)僅かに動かすだけで、蔦を自在に操り、逃げ惑う男たちを次々と串刺しにしていった。
斬りかかってくる斧を蔦で受け止め、瞬時に巻き付いて腕をねじ切る。
魔法を放とうとした術者の喉元に棘を突き立て、詠唱ごと食い破る。
一人の男が、泥に足を取られて転倒した。
彼は涙と鼻水を垂れ流し、リリスに向かって両手を合わせた。
「た、助けてくれ! 悪かった! もうしない! 金もやる、何でもするから!」
リリスは、その男の前に静かに歩み寄った。
かつて自分が、彼らにそう乞うた時のように。
そして彼らが、それを嘲笑い、踏みにじった時のように。
リリスの茨が、男の開かれた口内へと滑り込む。
「んぐッ……ぉ……!」
舌を押し潰し、食道を裂き、胃袋へと到達する。
体内での開花。
男の体がビクンと跳ね、眼球が裏返る。
リリスは表情一つ変えず、養分を吸い尽くして萎びた死体を、ゴミのように投げ捨てた。
数分も経たずして、街道の喧騒は死絶した。
雨音だけが、変わらず降り注いでいる。
だが、そこはもはや泥濘んだ街道ではなかった。
累々と重なる盗賊たちの死体。
その全てから、異常な生命力を誇る真紅のバラが咲き乱れている。
血の赤、バラの赤。
腐臭と、濃厚な花の香りが混じり合い、むせ返るような死の園が形成されていた。
リリスの体からは、不思議と汚れが消えていた。
返り血も、泥も、すべては触手が吸収し、彼女の肌を白磁のように美しく修復していた。
かつての痣も、噛み跡も、犯された痕跡も、すべて消え失せていた。
リリスは、泥の中に座り込むエヴァの元へと歩み寄った。
エヴァは震え、言葉を失い、目の前の光景を凝視していた。
彼女の知るリリスではない。
彼女が守ろうとした少女は、地獄そのものを現出させた怪物だった。
リリスはエヴァの前に跪いた。
血を一滴も浴びていない、純白の肌。
整いすぎた顔に、壊れた人形のような微笑みを浮かべる。
彼女はそっと手を伸ばし、エヴァの汚れた頬に触れた。
その指先は温かく、優しかった。
「もう、大丈夫です」
リリスの瞳から、一筋の涙が伝い落ちる。
「エヴァさんを傷つけるものは、全部、私が肥料にしましたから」
「だから……安心してください」
エヴァの喉がひきつり、悲鳴も言葉も出ない。
ただ、目の前の美しい悪魔が流す涙と、周囲に広がる死の花園の対比だけが、網膜に焼き付いていた。
0
あなたにおすすめの小説
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
復讐の悪女になるはずが、天使系義兄からピュアな執着と溺愛で邪魔されてます!
鈴宮(すずみや)
恋愛
サウジェリアンナ王国の王女エルシャは、不幸だった前世の記憶を持って生まれてきた。現世ではみんなから愛され、幸せになれると信じていたエルシャだったが、生後五ヶ月で城が襲撃されてしまう。
絶体絶命かと思いきや、エルシャは魔術師の男性から救出された上『リビー』という新たな名前を与えられ、養女として生きることに。
襲撃がジルヴィロスキー王国によるものと気づいたリビーは、復讐のため王太子妃になることを思いつく。けれど、義理の兄であるゼリックがあまりにもリビーを溺愛するため、せっかく王太子アインハードに近づくことに成功しても、無邪気に邪魔され計画がうまく進まない。
ゼリックの干渉を減らすためリビーは彼の婚約者を探したり、ゼリック抜きでアインハードとお茶をして復讐を成功させようと画策する。
そんな中、十六歳に成長したリビーはアインハードと同じ学園に入学し、本格的なアプローチを開始する。しかし、ゼリックが講師として学園へ来てしまい、チャンスをことごとく潰されてしまう。
(わたしは復讐がしたいのに!)
そう思うリビーだったが、ゼリックから溺愛される日々はとても幸せで……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる