奴隷魔族の私に、幸せは訪れない〜救いを求めた少女が、世界の敵になるまで〜

鹿の子

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生き延びた

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蒼白い光の粒が、夜の森に渦を巻き、やがて静寂の中へと溶けて消えた。

空間の歪みが収束した後に残されたのは、二つの影と、湿った土の感触だけである。

エヴァは膝から崩れ落ち、枯れ葉の上に手を突いた。

肺が酸素を求めて激しく収縮と拡張を繰り返す。

腕の中には、リリスがいる。

その身体は恐ろしく冷たく、人形のように動かない。

エヴァは乱れる呼吸を整え、周囲を見渡した。

見覚えのある木々の配置、鼻腔をくすぐる薬草と乾燥した土の匂い。

木立の隙間から、古びた小屋の窓明かりが漏れている。

かつてリリスと共に薬を届けた、あの薬師の老婆の小屋の裏手であった。

運命の悪戯か、あるいはメルクリウスの慈悲か。

エヴァはリリスを抱え直し、痛む足を引きずって明かりの方へ歩を進めた。

小屋の戸を叩く。

乾いた音が夜の静寂を破る。

しばらくして、重い閂の外れる音と共に、扉が僅かに開いた。

隙間から覗く老婆の顔は、最初こそ警戒に強張っていたが、ランプの光がエヴァの蒼白な顔を照らすと、驚愕に目を見開いた。

「おやまあ、あんたがたは……」

言葉よりも先に、老婆は扉を大きく開け放った。

エヴァのボロボロの衣服と、血に塗れたリリスの姿を見て、事情を察するには十分であったのだろう。

何も聞かず、ただ二人を暖炉の前の長椅子へと招き入れた。

老婆は薪をくべ、鉄鍋から湯気の立つスープを木の椀に注ぐ。

「おあがり。今は何も言わなくていい」

差し出されたスープからは、野菜と干し肉の素朴な香りが立ち上る。

エヴァは震える手で椀を受け取り、一口だけ啜った。

熱い液体が喉を通り、凍り付いていた内臓に染み渡る。

生の実感が、涙と共に込み上げてくるのを、彼女は唇を噛んで堪えた。

休息は一瞬でいい。

エヴァは椀を置き、長椅子に横たわるリリスの傍らに跪いた。

リリスの呼吸は浅く、不規則である。

背中の傷口は黒く変色し、メルクリウスの配下が残した呪いの残滓が、依然として彼女の再生能力を阻害している。

このままでは、彼女の命の灯火は尽きる。

エヴァは自らの胸に手を当て、核となる魔力回路を確認した。

残量はほとんどない。

無理に絞り出せば、術者である自身の生命維持に支障をきたす危険領域である。

だが、迷いはなかった。

「……光よ。我が命を薪とし、この子を照らせ」

エヴァは静かに詠唱し、両手をリリスの傷口にかざした。

淡い、しかし純粋な黄金の光が掌から溢れ出す。

自らの血管を巡る血液を、直接魔力へと変換する禁忌に近い術式。

光がリリスの背中に吸い込まれ、黒い呪いの痣をじりじりと焼き消していく。

エヴァの額に玉のような汗が浮かび、視界が白く霞む。

指先の感覚が失われていく。

それでも、彼女は光を絶やさない。

この子が、自分のために流した血の量に比べれば、この程度の痛みなど些細なものだ。

やがて、リリスの背中から黒い靄が完全に消え去った。

傷口の端から新しい皮膚が再生を始め、白く滑らかな肌が戻ってくる。

リリスの呼吸が深くなり、安らかな寝息へと変わる。

頬に微かな赤みが差したのを確認し、エヴァは術を解いた。

途端に、強烈な目眩が彼女を襲う。

世界が回転し、床が迫ってくる。

エヴァはその場に崩れ落ち、リリスの眠る長椅子の縁に頭を預けた。

意識が急速に遠のいていく暗闇の中で、彼女はリリスの手を握り締めた。

温かい。

生きている。

その確かな熱だけを頼りに、エヴァは泥のような眠りへと沈んでいった。
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