虹色の子~大魔境で見つけた少年~

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砡の色

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翌日。
「おはようございます、ヒースヴェルト様。」
リーナが、祭壇で丸くなって眠っていたヒースヴェルトに声をかけると、延び放題の灰色の埃まみれな髪の毛を掻き分けながら目を擦る。
「ぅー?リーナ!『おはよう!』」
昨日、神の加護を受けてからは、人の話す言葉と神の言葉が自然と脳内で翻訳されているように感じる。
使い分けも自在にできるようになった。
「ふふっ。『おはよう』は、お、は、よ、う、ですよ。ヒースヴェルト様。」
「ぉー、ぁー、ょおーう?」
「えぇ!お上手です、ヒースヴェルト様。お、は、よ、う!」
「あい!!おー、あー、よぉーう!!」
にこっと笑うと、リーナも自然と微笑んでしまう。新しい言葉を教えてもらい、ヒースヴェルトは走ってフォレンたちの元へ行った。
「フォレン!アシュト!!ディラぁン!!おーぁーよぉーう!!!」
「!!」
辿々しい朝の挨拶に、思わず顔が綻ぶ。
「おはようございます、ヒースヴェルト様。」
「こっちまで笑顔になりますね。」
駆け寄ってきたヒースヴェルトを、ディランはひょいっと抱えあげた。
その軽さに驚くが、十年の間、神から与え賜うた《砡》で生き続けた彼を思えば、それでも十分に成長したのだろう。
「朝ごはん、食べるかい?」
フォレンは、簡易な釜戸に火をくべて、簡単なスープを煮込んでいた。
『ごはん?人が食べるもの?』
眉をひそめながら、くんくん、と湯気の香りを嗅ぐ。
『えっと。そう、だね。
人が食べる、これはスープという食べ物だよ。
ゆっくりと、飲むといいよ。』
器によそって、ヒースヴェルトに手渡す。
不思議そうな顔で、スープの器を眺め、思いきってスープに口をつけた。
「っ!!!」
ごくん、と喉が鳴る。
飲み込んだ、と思った次の瞬間。


「ぐっ・・・ゥワアアァァっ!!!」


喉を押さえて、叫び声をあげるヒースヴェルトに、フォレンは驚き、慌てる。

「ヒースヴェルト!!!?」

『く、苦しいっ!痛いよぅ!フォレ、ン助けてっ!』

激しく咳き込むヒースヴェルトに、なす術もなく倒れ込んだヒースヴェルトを抱えて、背中を擦る。
『かっ・・・はっ。ママのアメっ、あ、めッ・・・!!』
「あっ、飴?砡の欠片っ?確かここに・・・っ!」
昨日、ヒースヴェルトから貰った砡の欠片を、ヒースヴェルトの口に投げ込む。
過呼吸を起こしていたヒースヴェルトも、次第に落ち着いてきた。
『ぅぅっ。あ、りがとう。
ゴメンね、ぼく・・・人の食べ物、食べられないみたい。』
涙目になり、息苦しそうにそう言うと、倒れたときにぶちまけたスープを見て、ヒースヴェルトは謝った。
『いや。こちらこそ・・・貴方様を危ない目に。申し訳ありません。
まさか、人の食事を受け付けないとは思いもよらず。』
フォレンは真っ青になり、ヒースヴェルトの汗を拭ってやる。

『・・・ママ。』

ヒースヴェルトが、小さく、呟くと。

『ヒースヴェルトよ、呼んだか?』

祭壇の上部に神聖陣が現れ、ディーテ神が降臨する。
『ぼく、人のごはん、食べられないみたい。
だからね、六十日分の飴を頂戴。』
『・・・そうか。もう、受け付けぬか。
分かった。手を出せ。』
ディーテは思い詰めたような顔で、ヒースヴェルトの右手を握る。
銀の光が、右手に吸い込まれた。
光が消えると、銀色の瓶が手に現れた。
『これだけあれば十分だろう。』
『ママ・・・。ありがとう。』
銀の小瓶には、数十個の虹の砡が詰まっていた。
大事そうに抱え込むヒースヴェルトを横目に、ディーテはフォレンにつげる。
『人の子よ、余はこの神殿より外へは出られぬ。
ここより先は我が子の手助けも容易ではない、そなた等の持つ砡の欠片を渡せ、加護を与えてやろう。
ヒースヴェルトを守護せよ。』
『はっ!』
4人はそれぞれ所有する機械導具を差し出した。ディーテは手を翳した。
(これは・・・!!)
フォレンの蒼砡は強く輝き、濃い藍色に変色した。
同じく、ディランの緋砡は深紅に。
リーナとアシュトの翠砡は、深緑に。
それら全ては、濃い色の中に虹色の光の粒が煌めいており、その揺らめきはまるで生きているかのようであった。
『これらの色は余の眷属を意味する。
そなた達にしか扱えぬよう、制約も込めた故、万が一他者に奪われても問題はなかろう。
そうさな、この辺りの魔獣なぞ、虫螻同然よ。』
ニヤリ、と目を細めて口角を上げるディーテに、思わず身震いする。
『有り難き幸せ。』
『それとな。少し・・・やることができた。
60日より先に戻っても、留守やも知れん。
ヒースヴェルトを頼んだぞ、人間よ。』
『お任せください。』

遺跡を出ると、凶悪な魔物は昨晩のうちにディランの手により粗方始末されており、ヒースヴェルトを警護しながらの大魔境脱出は来たときよりも楽だった。

というのも、ディーテ神の親バカも炸裂して、フォレンの結界は通常展開の十倍に跳ね上がり、ディランの深紅の剣は軽く振るだけでも勢い余って大木を凪払ってしまうほど。

『森、終わり?ここから、お外なの?』
リーナに手を引かれて歩いていたヒースヴェルトは、明るくなった空を見上げて、景色が変わったことに気付いた。
『そうですよ、ヒースヴェルト様。お外、ですよ!』
『きゃあ~!!嬉しい!嬉しいっ!!』
その場で両足を踏み鳴らして、まるで子どものようにはしゃぐ。
少しして、フォレンが真面目な顔で跪く。
『ヒースヴェルト様、よく聞いてください。
ここから先は、人間の住む世界です。
ヒースヴェルト様は創造神ディーテ様の御子様でいらっしゃる。
どんな危険があるか分かりません。
だから、絶対に私たち4人以外と、神語でお話にならないこと。
砡の欠片を・・・飴を、人前で食べないこと。お約束、できますか?』
『うん。お約束、守るよ。大丈夫。人の言葉、教えてね。』
そう、言うと、こほんっ!と咳払いをしてヒースヴェルトは片言な人の言葉で、がんばる、とだけ、伝えた。

ヒースヴェルト、初めての人間界へ!


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