虹色の子~大魔境で見つけた少年~

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「ふおおおおおぅ!」

ヒースヴェルトは、商店街のメインストリートの人混みを目の当たりにして、その瞳を真ん丸にして興奮した。
「ヒースヴェルト様、はぐれちゃうので、絶対御手を離さないでくださいね?」
リーナの忠告に、あわててヒースヴェルトはコクコクと頷く。
こんな場所ではぐれてしまうのは、いくら好奇心旺盛なヒースヴェルトでも恐怖だった。
「よし、リーナ。とりあえずぶらっと歩いてみるか。
ヒースヴェルト様は人の町は初めてですか?」
「んー、もりに捨てられりゅまぇに、おんまさんで、となりのまち?
いったこと、あったよー。
そこでね、ええっと・・・はままみょり?とーしゃんがくりぇたよのー。」
「ん?はま・・・[華護り]か?」
ディランは、ヒースヴェルトの拙い発音を解読し、納得した。
「華護り?何ですか、それ?」
南国出身のリーナは知らない様子。
「エンブルグ皇国の北東部にある領地の伝承に纏わる品だ。
土産としても結構人気なんだがな。
まぁ、御守りみたいなものだ。
金細工の小さな華の形をした飾りで、それを家族や、恋人なんかに贈ると、幸せをもたらすと言われていてな。
『ディーテ様の華の加護がありますように。』って、祈りを込めるんだ。」
「おまもり・・・。そうなんですね。
ヒースヴェルト様の本当の御父上様は、華護りを贈られたんですね。」
母親に捨てられた、という悲惨な過去しか知らないリーナは、人の家族にちゃんと愛されていたことが垣間見えて、ほんの少し、ほっとしていた。
「ヒースヴェルト様。」
ディランは、少し迷ったが、思いきって聞いてみた。
「その、御父様のことは、好きでしたか?」
「・・・と、しゃん?とうしゃんはねぇ、いい匂いだったかや、しゅき。」
にこ、と笑顔を向ける。しかし、その笑顔はほんの少しだけ、寂しそうだった。
「そう、か。それは良かった。」
(・・・[華護り]を扱う街は3つ。クロスフォードタウン、ドルトマンリバータウン、そしてヴォルタロードライトタウン。
どれもギュゼリア伯爵領の管理地だな。長距離を移動する馬車ではなく、馬で行ける場所にある町か村・・・。そこが、ヒースヴェルト様の故郷なのか?)
ディランは思案したが、ヒースヴェルト本人が再会を望まなければ、会わせることなどしないつもりでいた。
「ディラン、あしょこ!あれは、なぁにー?」
手をくいっと引っ張り、ヒースヴェルトはウィンドウに飾られたガラス細工を指差して聞いてきた。
「あれは、ガラス細工の店ですね。
ほら、ガラスでできたウサギさんがありますよ。」
近づいて、ふわりと抱き上げる。
棚に並べられた美しいグラスや砂時計などもあったが、ヒースヴェルトなら可愛らしいものが好みだろう、と動物の置物を見せてやると、頬を赤らめてきゃっきゃと笑う。
「かぁいーねぇ!!これはぁー?」
なんとも微笑ましい光景に、リーナは眼福とばかりに目を輝かせる。
あの口の悪い皇弟殿下が、丁寧な敬語を使うなど貴重な光景だ。
「あら?ヒースヴェルト様、何をお買いになられたのですか?」
ディランに手を引かれて、店から出てきたヒースヴェルトは、その腕に小さな紙袋を抱えていた。嬉しそうに頬を桃色に染めて、大事そうに袋から取り出す。
「ふふっ。ことりよ!ママのおてがみ鳥にそっくりなのよー。」
手のひらに鎮座するのは、透明なガラスの小鳥。尾が長く、細かな翼までよく再現されている。
良くできた細工であった。
「まぁ!美しい小鳥!良いお買い物ができましたね。」
リーナに誉められて、ヒースヴェルトは更にご機嫌になった。
「さぁ、次は目的の髪紐を探しましょう。」
ディランはふと、ヒースヴェルトのオパールの輝きを放つ髪に視線を落とす。
ディーテ神の子になりたいと、毎日祈りながら過ごした、と、言っていた。
それなら、故郷にいるであろう父親は?母親と共に、ヒースヴェルトを森へ捨てたのか。
華護りを贈るほど、愛していたのだとすれば、その事実は伏せられたままで、十年経った今も、息子を想っているだろうか。
・・・子を捨てた妻と、何も知らずに今も暮らしているのだろうか。
ヒースヴェルトに伝えないにしても、知っておくべきだと思った。
(・・・戻ったらフォレンに相談するか。)
ヒースヴェルトの出生に関わる手がかりを得て、ディランは気合いをいれた。
ヒースヴェルトのそれは、自国で起こった、あってはならない惨劇。
加護を強く受けてしまったが故の迫害、事故。
それによる怨恨。無意味な悪意は無くさなければならなかった。
それに附随する悲しみも。



ーグレイシアのような被害者を無くしたい。



その一心だったが、ヒースヴェルトと出会い、ディランの心は更に揺さぶられていた。

十年だ。

ディランとフォレンがアルクスに所属し、ディーテ神教会と提携し幼い子どもたちを加護の恩恵から救う手段として[審査]を行うことをシステム化させた。

そのお陰もあり、近年の加護暴走による死亡率は激減、アルクスでの制御技術習得と砡を利用した機械導具《星の導き》も研究が進み、今では家庭用に開発された導具の売れ行きも良く、徐々に目指した未来に近づいてきた。

 十年、かかった。
でも、その間に世界ではやはり、悲劇は起こっていたわけで。

(俺らがヒースヴェルト様を見つけたことに、何か理由があるのなら。)

繋いだ手に、僅かに力が籠る。

それに気付いたヒースヴェルトは、ディランの顔を見上げ、コテンと首を傾げる。
「あっ、すまない。・・・行きましょうか。」
へら、と微笑みかけて、街路を歩き出す。
「あっ、ヒースヴェルト様、ここですよ。
アクセサリーのお店!カーザスで一番大きな商会なんですよー。」
「おっきぃ、ねぇ!」
腰まで伸びた美しい白金の髪に、太陽の光が反射すると、キラキラと虹色を纏う。

(あぁ。美しいな。・・・本当に。)

リーナと共に店内へ走っていく彼を見て、ディランは改めてヒースヴェルトの神々しさに感嘆する。間違いなく、貴方様はディーテ神の御子であらせられる。

その高貴なる御方の側に居られる栄誉を感じると同時に、人間の汚い害意に晒されぬよう、純真な彼の心を護らねば、と強く思った。




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