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ヒースヴェルトの力
しおりを挟む「だとしても、どの国が何に対して喧嘩するというんだ。この世界は砡の協定により国家間の争いを禁じているんだぞ。」
世界の成り立ちは、幼い頃に嫌でも聞かされる。
創造神ディーテの手により世界は造られ、四つの聖なる砡により支えられて成り立つ。
大昔、欲を出した富豪が聖砡を自国へと盗み出した。
すると、盗まれた砡が在った大陸は一夜にして荒れ果て、植物すらも生えない死地となった。
そして、盗まれた聖砡を持ち込まれた国は二倍の力を得たのだから、勿論栄えると思われたが、有り余るその神聖力は呪いとなり、加護の有無関係なく人々は道端の砡の欠片ですら、触れるだけで、その肉体は腐り落ちてしまったそうだ。
それ以降、世界は聖砡がある場所を基点に国も四つに分け、争うことなく世界の均衡をたもたねばならないと、多くの人々の死と破滅によって知らされた。
聖砡を元の場所へ戻して、世界がもとに戻るまでかかった年月は、四千年。
聖砡を奪った富豪がいた国は滅び、全く関係の無い者たちにより新たな国が建国された運びとなった。
その新たな国というのが、西国ロレイジア。
「四千年前の過ちの痕跡が残る《死都市》で、最近浮浪者が住み出したらしい、と。
ロレイジアの支部の調査ではそこまでだったな。
我が国も警戒は怠らないが、これ以上はヒー様を危険にさらすことになる。俺は無視することにした。
エンブルグ皇国としても、静観を決め込む。これは兄上の意見でもある。」
ディランはため息を吐き、頭を掻く。
「陛下と会っていたのか?」
「あぁ。昨晩《転移装置》でな。」
転移装置は、アルクスの支部には必ず設置してある《白》の砡の力による機械導具で、起動する度に損壊の危険があるため、修繕が前提のお値段的に超高級な移動手段であった。
「さすが皇弟サマだな。」
そんな貴重な方法を簡単に利用し、陛下に会ってくるとは。フォレンは相変わらず型破りな彼に苦笑いをした。
「まぁ、我が国には今のところ国家を揺るがすような危険は、ない。・・・国家間の争いは禁じているが・・・内紛はあり得る話だ。
例えば、北の国はどの時代も王位継承で死人が出る。荒くれ者の集まりだと聞くし。」
「・・・あぁ。それは私も聞いたことがあるな。」
「一体何処の国なんかね。善からぬ事を企んでいるのは。」
面倒臭そうにぼやくディランだが、その目は少しだけ、陰りを見せた。
国の安寧を考えなければならない立場であることを、改めて思い出させる。
(いま、皇子は二人おられるものの、継承権の順は資質の面でディランが相変わらず高いからな。
凍結宣言が陛下のご命令により解かれでもすれば・・・ディランが次の王になる可能性が極めて高い。)
そうなれば、公爵家を継ぐ自分としても、側近として立場を固めなければならない。自由に、国中を飛び回れなくなる。
無くはない未来に、フォレンも頭痛を覚えた。
どことなく重苦しい空気のまま、少し静寂の時を過ごしていると。
「ねぇーえ、むつかしぃオハナシ?僕つまんないよー。」
何とも明るいヒースヴェルトの声。
重苦しかった空気が、一気に明るく爽やかなものに変わる。
「ヒー様!すみません!」
「ディラーン!!何処行ってたの?せっかく一緒にあわあわするのの気持ちだったのに!」
ぷん、と頬を膨らませてポコ、とディランの腹を殴る。(が、とてもかわいらしい攻撃で、別の意味でやられている。)
「うぐっ!俺も一緒に、ですか!?うーん、そうですね。
んじゃ、次に行く町で一緒に入りましょうか。確か、ハクライには公爵家直営のホテルの近くに大浴場があるよな、フォレン?」
「あぁ。貸し切るように手配済みだよ。ヒースヴェルト様、大きなお風呂で遊びましょうね。」
よしよし、と頭を撫でると、大きなお風呂、というのが、物凄く気になるようで。
「ふぇ?お風呂で、あしょぶの?あわあわの他にもっとたのし?」
「ふふっ。えぇ、お風呂ではたくさんの遊び方がございますよー。その辺りは、アシュトの方が詳しいかもしれませんね。」
リーナもハクライの大浴場のことは知っているらしく、ヒースヴェルトに室内に噴水があるだとか、子供向けにブランコまで設置していることも教えていた。
「あれ?アシュトはぁー?」
アシュトの姿がないことに気づいて、ヒースヴェルトはキョロキョロとあたりを見回す。
「アシュトは、一足先に次の町に行きましたよ。ヒー様の泊まるお部屋とか、準備しに行ってます。」
「ふぅん?」
準備、と言われてもいまいちピンときていないヒースヴェルトは首をかしげていた。
「あ、そうだ。ディラン。どこかに腕の良い料理人はいないか?できれば秘密を厳守できて、身元のハッキリした者がいい。」
フォレンが、ふと尋ねる。
「腕がよくて秘密を守る・・・ヒー様専属料理人ってとこか?」
「そうだ。」
ディランは少し考えてから、口を開いた。
「・・・いる。最適な料理人がな。少し待ってろ・・・いや、直接ハクライに連れていこう。別行動になるが、大丈夫だよな?」
「あぁ。ハクライへは公爵家の馬車で移動する。安全なルートを辿るし、公爵家の馬車を襲ったりする阿呆はなかなかいない。
それに、ウチの護衛騎士らは君のところの近衛騎士と同じ訓練をしているじゃないか。」
「そうだな。全く問題ない。分かった。んじゃ、早速行ってくる。
ヒー様、フォレンやリーナの言うことをよく聞いて、困ったことがあったらすぐに相談するんですよ。
我々は、貴方を助けるためにいるのですから。」
跪いて、ヒースヴェルトの手を握る。
安心していいよ、と。
それが嬉しかったのか、ヒースヴェルトはその手を優しく握り返すと。
「うん。・・・あっ、ちょっと待っててね。思い出した!!」
そう言うと、ヒースヴェルトは自分の荷物をまとめて貰っている棚から、銀色の瓶を持ち出した。
その中から一つ虹色の砡を取り出すと。
「えへへ。待ってね~、」
にこ、と微笑む。そして、少し考えてから、ディランの耳元で囁いた。
『ディランの赤い飴玉、もう砕ける寸前。僕の飴と《融合》させてね。昨日、《融合》の方法をママから夢で聞いたの。夢のこと、今思い出したから。まっててね、んーっと。』
目を閉じて、ふわりと風を起こす。オパールの髪がまるでオーロラのようにヒースヴェルトを包む風に舞い上がると。
『ゆーごう!!!』
瞬間、部屋の空気があの遺跡で感じたものと同じに感じられた。
(神力を使っている?ヒースヴェルト様が?)
ディランの手に握られている大剣に嵌められた緋の砡が強く光りだし、虹色の砡も共鳴するように輝き出す。
その神々しい光の渦に、ディランらは目を見開いて固まった。
やがて光がおさまると、手にしていた虹色の砡は消え、ディランの大剣に輝く砡が、色を変えていて。
「ま、まさか砡が合体?本当に融合されたのか?」
緋色とオパール色が、ミルクを混ぜたように渦巻いて動いている。
まるで宇宙を閉じ込めたような。しかし、その存在は他の砡とは比べ物にならないくらいに美しく、神々しい。
『有り難き幸せに存じます。』
姿を変えた砡をまじまじと見つめ、ヒースヴェルトを見て深く礼をする。
「ヒースヴェルト様、今のは一体?」
尋ねるフォレンに向き直り、ヒースヴェルトはへへん、と笑った。
「ディランの飴玉がこわれそうだっかやー、ママの飴とガッタイさせたのよ。
そしたら、まだ使えるのよ。」
ドヤ顔で説明する。
(砡の寿命が見える?ヒースヴェルト様の御力なのか)
「あの、ちなみにこの砡はどうですか?」
フォレンは確信を得るため、ヒースヴェルトに自らの指輪を見せる。
「んんぅ~、大丈夫。まだ、しんさん!」
「しんさん?」
「え?ちがった?じゃあー、すんせん?」
ヒースヴェルトは首をかしげ、唸る。
「あっ、ひょっとして、新鮮、ですか?」
リーナは気が付いた、とばかりに手を打って答えた。
「そー!それぇ!まだね、生まれてすぐなの。美味しそうなの。あ~・・・ん。」
あー、と口を開いて、フォレンの持つ砡を手ごと食べようとする。
「わー!!ヒー様、食べちゃダメですぅ!」
三人が大慌てで食べるのをやめさせると。
「じょ~だん、よ。あははっ」
ヒースヴェルトは、悪戯好きな顔をしてニヤリと笑う。
「勘弁してくださいよ、もー。」
フォレンは珍しく表情を崩して笑った。
一人ぼっちだった彼が、誰かと過ごし冗談を言う。心暖まる成長が、純粋に嬉しかった。
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