25 / 73
どんな小さなことでも
しおりを挟む馬車の旅で、穏やかな時間を過ごして半日ほど経った頃。
街道の脇に流れる河川敷で、馬たちに休息を取らせるため、ヒースヴェルト一行は馬車を降りた。
川辺の魚を見ては、光った、跳ねた!と大はしゃぎのヒースヴェルト。
「ヒー様、この川の上流に、これから行くハクライという町があるんですよ。
ここは下流で、ディーテ様の砡の御力もかなり薄まっていると思いますが・・・分かりますか?」
「じょうりゅー?」
「えぇ。川の水の始まりの場所が、この川を遡ったところにあるのです。」
「かわ、のはじまりは、じょうりゅう!ね?」
こうして、ひとつひとつ。
世界の、どんな小さなことも教えていこう。
フォレンは、水面に跳ねる小魚ですらも、見逃さず伝えたかった。
「ふふ。元気な魚ですね。泳ぐのがとても速い。」
「およぐ?さかまさんは、およぐ?」
「ええ。水の中を、尾とヒレを上手く使って動きます。とても速く移動します。
でも、魚は陸には上がりません。水から出てしまうと、息ができない。」
「そっかぁ、おさかまさん、お水のなかだけね!でも、跳ねたり光ったり、すごーいのね!」
と、魚の真似をして、ぴょんと跳びはねて見せる。
「大魔境には・・・神殿には、魚はいなかったですか?」
「いないよー?村にも川、なかったしぃ。ひーたん、初めて、さかまさん見たよ。小さいんね。」
と、片手で小魚の大きさを指で示す。
「魚も種類が様々ですよ。
川でなく、大きな海では身の丈より遥かに大きな魚も泳いでいますよ。いつか、見てみたいですねぇ。」
(・・・川のない村、ね。また少し絞り込めそうか。)
フォレンは、些細な会話でも聞き逃さなかった。ヒースヴェルトの家族についても、調査を進めたい。
「う、みー?」
「はい。大陸の外側に、海水が広がった・・・塩辛い味の水があります。リーナの故郷は、その海の向こうです。」
ちゃぷ、と冷たい川の水を掬うと、ヒースヴェルトも真似をしてちゃぷん、と片手を川面に浸ける。
「うみ。しょ、からぃののお味?・・・へぇ。ひーたんにもわかゅかなー?しょ~からぃお味。」
川面から引き上げた自分の手指を、もぐちゅ、と口に含んだ。
「んんーっ。うぇぇ~!へたっぴの味!!こぇ、あまくにゃい!!!」
「!!」
ヒースヴェルトが突然に手を口に運ぶものだから、フォレンは慌ててその手を取り、やめさせた。
「ヒー様!口にいれてはなりません!
って・・・え?いま、味を感じたのですか?」
「ぅぇっ・・・。う?ん~うん。なんかねえぇ、ドロロ~してて、お天気、あめのときの、つち?みたいな。
ぅうっ、れろがぴりぴりしる」
涙を流しながら小さな舌をぺろ、と出して、安易に口に水を入れてしまったことへの後悔に苛まれていた。
あぁ、これはお可哀想だ。と、苦笑いしてフォレンはちょいちょい、と小さく手招きをする。
「アメ、嘗めましょうか。こちらへ。」
御者や護衛騎士のいない、街路樹の陰で、こっそりと。
「あー・・・ん。ん~!んはぁ!やっとお口が戻ったぁー!」
心底安堵したような表情で、両手で頬を押さえる。
「なんて顔ですか。これに懲りたら、何でもお口に入れることは、おやめください?」
よしよし、と頭を撫でてやる。
「ん。ごめんなさーい。でも、かわのお水、味したねぇ。どして?ひーたん、ここのモノ食べぇんよね?」
味が酷かったものの、川の水が口に含んでも、あの日大魔境で飲んでしまったスープのような痛みは無かった。
これはおそらく、砡の力が水に少し混ざっている証拠でもあった。
「はい。ディーテ様のお言葉をアシュトとリーナが賜っております。
どうやら、この先にある神泉という泉にはディーテ様の砡が沈んでいて、長い月日を経ることで、その水はヒー様の飴と同じように、ヒー様が口にできるものに変えられるそうなのです。
これから、それを試そうと思って、私の領地にあるハクライへ向かっているのですよ。」
馬車へと戻りながら、説明すると、ヒースヴェルトは歩く足を止めた。
「ヒー様?どうしました?」
『ぼく、食べられるの?人の、ご飯・・・。』
ぽつり、と。
「!!」
一筋、涙が頬を伝う。
その涙が、一体何なのか、ヒースヴェルトには分からなかった。
「ヒー様ぁ、フォレン様ぁ!出発しますよー!」
馬車の方でリーナが呼ぶ。なのに、ヒースヴェルトはしばらく動けなかった。
「まいりましょう、ヒー様。」
そっと手をさしのべるが、反応は無い。仕方なく、フォレンはそっと彼を抱き上げた。
「失礼しますね。・・・どう、したのですか?」
「ごはん、食べられるって、思ってなかったかや。その、ビックリしちゃた。」
フォレンは、この時の彼の涙が何だったのかは分からなかった。
多分、食べられないと思っていたものが、食べれるかもしれないという喜びの涙なのだろう、と簡単に考えていたのだか。
「ありがとぉ、ね。」
(何に対しての、「ありがとう」なのだろう・・・?)
ぽつ、と告げられた謝礼が、妙に心に残った。
0
あなたにおすすめの小説
「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」
チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。
魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。
だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。
追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。
訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。
そして助けた少女は、実は王国の姫!?
「もう面倒ごとはごめんだ」
そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~
たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。
たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。
薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。
仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。
剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。
ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる