虹色の子~大魔境で見つけた少年~

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ずっと一緒!

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ヒースヴェルトの様子がおかしいことに、リーナも心配した。

「ヒー様?何か気になることがありましたか?」
「ん~ん。だいじょぶ。ぼくは、だいじょ・・・ぶ、だから・・・。」
きゅ、っと、自分の手首を掴む。それは、まだ幼かった頃にしていた癖で。
(なんだろう。この気持ち。あったかいのに、ズキズキする。)
そのモヤモヤした感覚が気持ち悪くて、ヒースヴェルトはこの後の馬車の移動では終始黙ったままだった。

そうして、その日の夜のこと。

夜営のテントの中で、ヒースヴェルトは淡く光る何かをそっと、握っていた。
「ヒー様、まだおやすみになられないのですか?」
リーナが心配して、様子を見に来た。
「リー、ナ。ううん。今ね、ママからおてがみ鳥が来て」
とてとて、とリーナに駆け寄り、そっと両手を広げると、そこにはいつか買ったガラス細工の小鳥と良く似た小鳥がいた。但し、その小鳥は淡く光り、揺らめいているように見える。
「お手紙、でございますか?ディーテ様からの?」
「うん。そうなの。おしごとで、おうちにかえれなぃときはねぇ。こうして、小鳥さんがママのことばを持ってきてくれゆのよ。」

ぽわっ、と弾けるように小鳥が羽ばたくと。

『思うままに、たずねてみなさい。』

とても短くて、でも優しい声だった。

リーナは、その可愛らしくも神々しい神の遣わした小鳥に感嘆する。
「思う、ままに。」
小さな呟き。
「ヒー様?」
そっと、ヒースヴェルトの側に座ると、ヒースヴェルトは自らの手首をきゅっ、と掴んで、深呼吸した。
「あ、あのね。聞いてほしぃの。ひーたん・・・ぼく、は。
ぼくはね、ママとちがくてね。」
ヒースヴェルトが語りだしたことは、リーナだけでなく、フォレンも聞くべきで。
「ヒー様、ちょっと待っててください!」
リーナは、すぐにフォレンを呼んできた。とても慌てていた様子だったので、フォレンもただ事ではないと、すぐに来てくれた。
「ヒー様、お話、してくださいますか?」
そう言うと、フォレンは蒼の指輪を掲げた。
「《蒼砡結界・遮音》!」
魔導機械を発動させて、こくん、と頷く。
『これで、神語を使われても大丈夫ですよ。このテントの外のだれも、聞こえません。』
フォレンの言葉に、ほっと息をつくヒースヴェルト。
『やっとね、頭のなかが整理できたの。でも、分からなくて・・・』

そして、ぽつり、ぽつりと話してくれた。


『ぼくは人間なのに、人の物は何も食べられないし、ぼくの存在が分からなくなって。

でも、ママはリーナやアシュトに、ぼくが食べ物を食べられる方法を授けたんでしょう?

・・・人の世界に戻るように、って言われた気がしたの。

そう思ったら、お胸がズキズキして。
皆は、ぼくを守るようにママから言われただけでしょう?
それなのにリーナも、アシュトも、フォレンや、ディランまで、ぼくのご飯のために、ぼくを守る以外のことで、こうやって動いてくれていて。

それが、とても嬉しいのに、喜べないの。

だから、すごくモヤモヤしてるの。気持ち悪いの。
どうして?どうして、こんな気持ちになるの?』

思ったことを、そのままに。

いつかは、また、人間と暮らしていかなくてはならないのではないか。

この長い外出期間は、その準備なのではないか。

だとしたら、人の世界を学ばなければ、ならないのではないか。

そんなことを考えていた、と。少しずつ話した。

『それは、自分の思いと、ヒー様のお考えになるディーテ様のお心が、同じでないとお思いだから、だと。』
全てを聞いて、リーナは優しく頭を撫でる。
『おなじ、じゃない?』
『ヒー様は、ディーテ様の元で、ずっと暮らしていたいのですよね?』
『うん。ママと一緒にいたい。でも、分かってるんだ。大人になったら、きっと・・・。』
うるっ、と瞳に涙の膜が張る。
『リーナ、話すべきではないか?あの日、ディーテ様から言われた、あの事も。』
フォレンは、あの日の報告の際に、ヒースヴェルトのことについてリーナから知らされていた。
『ヒースヴェルト様は、もう、どんなに望んでも、人と生きていくことの方が難しいそうなのです。
ディーテ様がおっしゃいました。あなた様は《天上の民》になるのだと。』

『・・・へ?』
『《天上の民》とは所謂、ディーテ様の元で暮らすことを許された、我々人間などにとっては新たな神様になられる、ということです。』
『ママと、同じ?大人になっても、ママと一緒にいられるの?
まっ・・・ママ、は、ぼくをこっちがわに、戻そうと思って、森から出したんじゃないの?』
『えぇ。ゆっくりと、天上の民になられる過程で、人の世界を学ぶ機会をくださったのです。
だから、大丈夫ですよ。』
自分の立場が、とか。そんなことよりも。
最愛の親と共に在れることが嬉しくて。

『ぅ、ふっ・・・うぁああああん!!』

そう思ったら、もう涙は止まらなかった。

『ママと一緒にいられる!これからも、ずっと!!うわぁーーーーーっ!!』

リーナに抱きついて、わんわんと泣くヒースヴェルトは、心底安心したのか、傍らにディーテ様が遣わせた小鳥を侍らせたまま、眠りについた。小鳥は、まるでヒースヴェルトを想う母親のように、片時も彼から離れなかった。



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