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お気に入りの証拠
しおりを挟む「きゃああああーーーーーああぁ!!!」
施設を貸し切りにしているため、ヒースヴェルトの叫び声は館内じゅうにこだまする。
「きゃはははぁ!!!アシュト!アシュトぉー!もっかぃ!もーぃかい!!!」
「ひー、さま・・・も、休憩・・・っ」
「んええええーーっ!?
ね、サイゴなの。こぇでサイゴにしるからぁーっ!ねぇ?いっかぃだけ!おにぇがい!」
「うっぷ。ゥィッス、本当にこれで最後ッスからね?約束ッスよ、マジで!!」
数あるアトラクションの中でも、ヒースヴェルトが一番気に入ってしまって、この度四十六回目のウォータースライダー。落差二十メートルはおそらく世界一の高さを誇り、国外からの客も多い。
が、しかし、今日から一週間は、ルートニアス公爵令息の名で貸し切りとなっている。直営なので、何の問題もない。
「きゃはははぁ!!!たのしぃーーー!」
そして、四十七回目の見事な滑りを、冷たい炭酸水を飲みながら微笑み眺める、公爵令息二十六歳。
「随分と突然の帰省だったな、フォレン。」
声がして。フォレンはそちらを見やる。
「父上・・・態々こちらにいらっしゃるとは。」
すっくと立ち上がり、苦笑い。
そこには、ルートニアス公爵その人が執事のラドリーをつれて立っていた。
レイモンド・ルートニアス。金髪緑目はフォレンの親であることが一目でわかる。
「突然、クッションを詰め込んだ馬車を寄越せと言ったかと思えば、城に戻らずこんな場所を貸し切りおって。どういうつもりかと思ってな?」
「申し訳ありません、父上。・・・見てのとおりです。」
そして、温水に浸かってアシュトと遊び、キャラキャラと笑う彼の姿を見て、また口元が緩む。
「こども・・・?いや、どこか雰囲気が違う。」
ただの子供ではない、と公爵も理解したらしい。
「アルクスの任務で調査をしていたところ、ある御方より、暫くの間御身を預かることとなりました。護衛と、経験を・・・と、いうことで。」
「経験?それで大浴場なのか?」
「えぇ。あの方には、どんなことでもお見せしたいと。まずは、楽しむことを。」
「ふむ・・・。あの子は何者なのだ?」
どこか、ヒースヴェルトを下に見るような言い方に、眉を潜める。
「父上、言葉を慎まれますよう。あの方は・・・おそらく、今、この世で最も高貴な御方ですよ。」
「まさか。皇帝陛下よりもか?他国の王族より、我が国の陛下が劣ると?戯れ言を申すなよ。」
陛下に忠誠を誓っているレイモンドにとっては、フォレンの言葉は気持ちのいいものではない。勿論、「人」として括るなら、その意見も正しいだろうが。
高貴=王侯貴族と直結させる思考は、人間のそれそのもの。
そういうフォレン自身も、ほんの数週間前までは自らをそれなりに身分の高い存在だと思って生きてきたのだ。
大魔境の調査を機に、いとも簡単に砕かれたが。
「戯れ言ではございません。私は・・・とんでもなく狭量な視野であったことを、知らされました。ディランさえも。」
ディランの名が出たことで、レイモンドも息を飲む。忠誠を誓っている陛下が溺愛している弟君。そして、かつて生前の最愛の娘と婚姻を誓い合った相手でもあった。
(あの方さえも、この子供に拐かされているというのか。
確かに見目は美しいが、それだけのようにも見える。)
じっと見つめてると、ヒースヴェルトもその視線に気付き、フォレンのそばに駆け寄る。
「フォレン、のおとうさん?にてゅねー!」
「えぇ。私の父です。この大浴場を作った人ですよ。」
アシュトから受け取ったふわふわのタオルにつつまれたヒースヴェルトは、天使な笑顔でレイモンドに挨拶をした。
「こん、にちは!ひーすべぅと、です!」
「フォレンの父親の、レイモンド・ルートニアスと申します。失礼だが、お歳を聞いても?」
「んぇー?音?なんの、おとー?聞こえんょ?」
こてん、と首を傾げてフォレンに助けをもとめる。まだ、人の言葉を完全にマスターしたわけではないヒースヴェルトは、難しい言い回しに困ることがある。
「ヒー様の年齢を聞いておられるのですよ。何歳ですか?って。」
フォレンはヒースヴェルトの髪を撫でながら言い直してあげた。
「あ~・・・。ひーたん、なんさいゃろねぇ?ママと暮らしはじめのは、十年の前よー。ママかゃ、聞いたぇしょ?」
幼い言葉遣いに、拙い態度。見た目十歳前後にしては、教育などされなかったもののように見える。
レイモンドは、この教養のない平民のような彼に正直戸惑うしかなかったが。
「はにゃももりの町、にはぁ、たしかねぇ、四さいのときよ。」
「・・・そう、ですか。四歳のときに。」
そうなると、ヒースヴェルトの年齢は十四歳。
ちら、とアシュトを見ると、小さく頷いた。
その頃の四歳前後の失踪者、死亡者のリストを洗う。そうすれば、また彼の出生について調べられる。
「そうしたら、ヒー様はいま十四歳ですね。」
「ぁい!そうなのー?」
ふにゃ、と笑うと、ヒースヴェルトはレイモンドに向き直り、
「ここ、すごく、すごーーっく楽しぃね!!ひーたん、ここ好きよ!フォレンのおとぅさん、しゅごいのね!」
頬を染めて、全力で褒めまくるヒースヴェルトに、レイモンドも思わず照れる。
(こっ、これはっ!けしからん愛らしさだなっ!!)
「ねぇ、フォレン。ここ、気に入ったの。このしゅーべりだぃも、ブランコも!ぜんぶ、ぜーんぶ!なの。」
「ありがとうございます。嬉しいですね。」
「だからね、ママの真似すゅの。いい?」
「?」
ママの真似、とは?とふと考えて。
神力の使える彼が、気に入ったものに対して行使するもの、など一つしかない。
「ちょっ、待ってください、ヒースヴェルト様それはっ!!!」
ぴかっ。
(遅かったか・・・。)
ヒースヴェルトの周りの空気が一瞬で浄化され、虹色の光の粉が辺り一面に舞い上がった。
ディーテ神が言葉の加護をフォレンたちに授けた時と同じ。
ただ一つ違うところは、ディーテの光は金色であるのに対して、ヒースヴェルトのそれは、美しいオパールの輝きであったこと。
そして、大浴場の中央に、不思議な虹色の模様が表れ、すぅっと、消えていった。
「こ、れは。」
エンブルグ皇国で、二つしか存在しない神殿の、そして大魔境の遺跡の地下にあった。
《神聖陣》そのものだった。
「い、今の光は・・・!?」
その場に居合わせたレイモンドと、ラドリーは驚愕していた。
「んふふっ。ママがひーたんのおうちにしてゅのと、おんなじの~。」
ヒースヴェルトは、遺跡の結界と同等の力を行使できて、上機嫌だった。ディーテの神力を真似ることで、自分もディーテの側にいられると実感したのだ。
「ヒー様、同じ、とは?」
「んっと。ここに来ゆ人、おケガしなぃよ~。あとー、わるもの、ここはぃったゃ、びりびりよ~!きゃはは!」
こわいー!と、楽しそうに笑うが。
(この場所にだけ、「人々が怪我をしない」力がこもった?それに「悪人を寄せ付けない」って、神聖結界ってことじゃ・・・。なんてことだ。娯楽施設が聖域になっちまった。)
アシュトは、彼が神力を使うところを直接見るのは初めてだった。
しかも、聖域を作る瞬間など。自然とその身体は震え、気づけば支えきれず両膝を折っていた。
「アシュト!平気か?」
神力にあてられたアシュトを心配し、そっと肩を叩く。
「ッ!す、みません。大丈夫ッス・・・。」
「しかし・・・《聖域》にしてしまわれるとは。」
その二人の様子を見たヒースヴェルトは、少し考えて、たずねた。
「あれ?だめだったの・・・?」
しょぼん、と肩を落とす。
「い、いえ!違うのです。ヒー様は思うとおりに成されて良いのです。が、今の加護は、なんと言うか、あまり頻発してはいけませんよ。
でないと、ヒー様の《お気に入りの場所》は、全て聖域になってしまうから。」
困ったように笑うフォレンに、ヒースヴェルトは更にしょんぼりとした。
(そっか。あんまりやったら、いけないのかな・・・。)
ヒースヴェルトが森を出てから、彼にとって素敵なことがたくさんあった。
嬉しくなって、素敵だと思った場所に《しるし》をつけただけのつもりだったので、フォレンたちの困った顔を見て、少しだけ後悔したのだった。
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