虹色の子~大魔境で見つけた少年~

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神饌(ひーさまのごはん)

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ディランとフォレンが帰ってきて、ヒースヴェルトの寝起きの元気な様子を確認して。

いよいよ、ジャンニとの契約のとき。

「えっ?神泉の水を使った料理を、ですか?」
「そ。ヒースヴェルト様の身体は少し特殊でね。普通の食べ物は御身体には毒なのだ。
で、どうするかと言うと、神泉から汲み出した聖なる水で調理すること。
そうすることで、砡の・・・いや。とにかく、ヒースヴェルト様も食べれる料理を作ることができる、と。」
フォレンの説明を聞いたジャンニは、少し考えた後、ぽん、と手を打って納得した。
「それって、いわゆる、神饌ですね!私、経験あります!!」
「・・・神、饌?」
聞きなれない言葉に、ディランも首をかしげた。
「はい。誰も食べることは出来ない料理なんですけど。ディーテ様に召し上がっていただくため、捧げるためだけの料理です。
子爵家の料理研究資料に神饌を作る部族の資料もあって、領内だったし、現地に行って試しに作ったことがありますよ。」

「それは、知らなかったな・・・。そんな部族がいたとは。」
「国境近い、山しかない場所です。殆ど他の人と交流のない方々で人数も少ないですし、ほぼ自給自足で。
うちもその部族だけ納税は、作物であててもらってますから。」
「では、作り方などは任せても良いか?」
「はい!お任せください。ヒースヴェルト様はきっと、神様ととても相性の良い御方なのでしょうね、素晴らしいことです。」
そう言って微笑むジャンニ。
深く考えない性格なのか、ヒースヴェルトのことを訝しく思わない彼女に好感を持てた。
「なら、契約しても問題ないな。フォレン、頼む。」
ディランから《契約砡》を受け取ると、速やかに展開する。
「すげぇ、初めて使うんだろ?見事なもんだわ。」
いくら自身の展開率が高いからと言っても、機械導具として砡の力を発動させるのには、訓練も必要だし、コツがある。
「《蒼》なら誰にも負けないって言っただろ。守護の展開は私の領分だ。」
青い光に包まれた部屋で、契約が行われた。

ジャンニはヒースヴェルトの専属料理人として雇用し、期間はおよそ2ヶ月。
特殊な調理法については蒼の砡の力によって秘匿され、契約期間満了後も口外禁止となる。
本人の、意思とは関係なく遂行されるのは、若干呪いにも近い。

「これで少なくとも2ヶ月は大丈夫かな。」
約束の日までにヒースヴェルトを大魔境の奥、大神殿の遺跡に連れ帰ったあとのことを、ふと考えてしまった。
(・・・遺跡に帰ったら、ヒー様はどうされるのだろうな。
これまでどおり、ディーテ様とあの朽ちた遺跡で暮らすのか?)

「フォレン、あおいの、ぴかーっの、終わった?」
「えぇ。滞りなく終わりました。
早速、ジャンニに何か作ってもらいましょうか?
ホテルの厨房を借りれるようにしときましょうね。」
「わぁ!何がいいかなー!!ひーたん、食べゆの本当に、久しぶりのー!」
「ヒースヴェルトさま、食べたいものなど、ありますか?」
ジャンニが視線を合わせて膝を折った。
「んむう~、ひーたん、わかんないよ。」
何が好きなのか。何が食べたいのかすらも、思い出せないし、分からなかった。
「・・・あっ。」
しばらくして、ヒースヴェルトは思い出した。あの日、父親が買ってくれたお肉の串焼き。
「ぉにくの、くし、ゃーき?まち、の、みちのお店でぇ、おと、うさんが、買ったよの。覚えてるの、それだけよ。
あまーくてぇ、からーぁくてねぇ、んま~!!なんよ。」

「ほほぅ、なかなかワイルドだな!俺も好きだな、露店の串焼き。・・・似せて作れるか?」
ディランも、城にいた頃はお忍びで町に出掛けた時は食べ歩きしていた。懐かしいな、と笑った。
「はい!やってみましょう!!」

「たのしみ、にしてゅねー?ジャンニィ、がんばぇーー!」
「ふぐぅ!しっ、失礼しますっ、一時間後くらいに、お部屋にお持ちしマッスぅ!!」
万歳しながら応援する愛らしいヒースヴェルトに、心を抉られながらジャンニは部屋をあとにした。

「さぁ、楽しみは後に取っておいて、ヒー様、ディーテ様の泉にお散歩しに行きません?美しい泉がありますよー。」
「ママの泉!!?行く!行きたぁい!」
すぐに部屋のドアめがけて駆け出すヒースヴェルトを、リーナはすかさずキャッチする。
「はぁい、お待ちくださいヒー様。まずはおし支度してから、ですよぉ。」
「ぅにぇ~??おしたくぅ?おきがぇ?」
「正解です!じゃー、これに着替えましょ。」
さっ、と取り出したのはさらりとした鮮やかな青い絹のスタンドカラーのロングシャツ。
足首までの長い丈はサイドスリットで動きやすいデザイン。
絹の生地に合わせて、同じく軽い着心地の白いズボンは、とても清涼感のある装いだった。
髪には、お気に入りの金の華を付けて。

「はぁー、愛らしい!けど凛々しい!なに着ても似合いますねぇ、ヒー様最高!」
「リーナ、最近性格変わったか?」
ディランの素朴な質問。
「あら?私、こちらが素でございます。」
(今まで猫被ってたのか。)
アルクスでも人気の美人な、南国出身のお嬢様。凛とした態度、美しい黒髪の彼女。
実は貴族なんじゃないか、とも噂されていたが、その真実は謎だった。
砡の展開率も高く、アルクスの若い女の子達からは憧れの的なのだが。
(ヒー様と出会ってから、良く笑うようになったし。)
まぁ、ヒースヴェルトに惚れ込んでいるのは、間違いないだろう。

(まぁ、でも、すこーし、ほんの、すこーしだけ、ルシオ様に似てるんだよな。あの感じ。)

ディランは遠い目をして、しみじみと思った。ヒースヴェルト愛が振り切れての暴走だけはしてくれるな、と。






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