虹色の子~大魔境で見つけた少年~

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誰が為に

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翌朝、ジャンニの作った朝御飯のいい匂いに、ヒースヴェルトはぱっちりと目を覚ました。
天蓋ベッドから降りて、朝御飯の準備がされているテーブルに向かうと、そこには、ヒースヴェルトが見たことの無い色とりどりな野菜が使われたスープと、見るからに柔らかそうなパン、それから、昨日お願いした、青いカクテルが並んでいた。他にも、見たことのない暖かな料理たち。
「おはようございます、ヒースヴェルト様。よく、眠れました?」
朝御飯、できてますよ。と、ジャンニは席に案内してくれる。
そこには、いつもの皆が待っていて、おはようございます、と朝の挨拶をしてくれた。ヒースヴェルトも、元気よく返す。
「うん!とーっても眠れたよ!」
「それは良かったです!お腹は空いてます?今日はパンを焼いてみましたよ。」
「ぱんっ!知ってゅー!いつも、フォレンたちも~、いーっぱい、食べていゅよねぇ~。ひーたん、なんこ?」
ちょこ、と着席。ホテルの一室は、さながら貴族の朝の食卓のようだった。
ジャンニは、特別にディランやフォレンたちの朝食をこの部屋に運ぶよう手配し、ヒースヴェルトの特別食も、それに似せて作った。
まるで、同じ食事を食べているように思えるほど。
「今日から、皆が揃っているときは一緒にテーブルを囲みましょう。
ジャンニが来てくれたから、できることです。感謝しないと、ね。ヒー様?」
ぱち、とウィンクするフォレン。
その通りだった。

人の世の食べ物を、食べることが出来なくなった。

そんな自分が森を出てから、叶わないと諦めていたこと。

しかも、こんなに大勢の人数で食卓を囲むなんて、生まれてから一回もなかったこと。

だから、それはジャンニだけじゃなくて、自分を一人の仲間として見てくれている、彼ら全員に対して感謝したかった。

「うん!ありがとうねぇ!ジャンニィも、みーんなも!」
食べよう~?と、ジャンニに、どれからいただくのか、訪ねているヒースヴェルトに、皆微笑んだ。
「楽しそうで良かった。やはりここに全員分を運んで正解だったな。」
煌びやかに飾られた食卓だけど、そこで食事をする者たちの出身や身分は様々。
マナーや品位など誰も気にしない。
なのに、とても心地いい。そんな穏やかな時間だった。

そして、食事を終えたあと。
約束していた大浴場に、ディランと共にやって来た。
相変わらず、大浴場周辺では、犯罪歴があり、まだ捕まっていない人間が何故か落雷被害に遭っているようだ。
「ん~、なんやろぅね。びりびりが多いねぇ?おうちより多いょ。
ひとの町ぃは、わるものがぁ~、多いんね!」
ある意味、考えさせられる言葉だった。

比較的、治安の良いとされているルートニアスの町であるにも関わらず、大魔境の遺跡付近の魔獣より悪者が蔓延っているなど。

何も考えず純粋な思いを言葉にしている彼に、苦笑するしかなかった。

「さっ、準備はいいですか?久しぶりだな。ヒー様、行こう!」
ヒースヴェルトの手を取り、時間ギリギリまで思いっきり羽を伸ばした。


そして、2時間後。


「はぁ~っ!!楽し、かったねぇ!!ディラン、遊ぶのじょうずね!」
頬を桃色に染めて、興奮して誉める。
「楽しめたなら、良かった・・・。
ヒー様、これから俺とアシュトは、少しの間ヒー様のそばを離れます。別のところで、しなければならないことがあって。」
ヒースヴェルトの目線に合わせ、膝をついて話す。ヒースヴェルトは、胸がチクっとするのが分かった。そっと胸に手を置き、その痛みが何なのか、考える。
(ぁ、・・・そうだ。ママが・・・仕事で何日か居ない時、ここが痛いんだ。)
そんなときは、帰ってくるまでずっと、静かな遺跡でママの像の下で過ごしている。
「すぐ、会ぇう?」
「はい。調べものが終われば、すぐフォレンの家に行きますよ。そしたら、また一緒に食事しましょう?」
「・・・ぁぃ。」
少し下を向いて、力なく頷いた。

あぁ、これは寂しがっているな、と困ったように笑い、ポンポンと彼の頭を撫でてやる。
「ん~、おしごと、なんぇしょ?ママもね、さみしい、って、ひーたん言ってみても、仕事にはぜぇたい、行くのょ。
だかゃー、おしごと、ならしょーがなぃね!」
うん、しょー、がない!と、明るく笑う。
(この方は、あの遺跡でディーテ様を待つ間、孤独だったに違いない。)
任務が終われば、彼はまたあの遺跡で一人になる?
だれもいない、孤独な聖域で、ただ親を待つだけの日々を?

(くそっ。そんなの・・・駄目だ。)

出会ってしまった。
その意味が、あるとすれば、きっと。

遺跡で出会ってから、彼を知っていって、ずっと考えていたことがある。



俺の剣は、誰が為にあるか。


世界平和?

未来平定?

そんなもの、俺の柄ではない。


愛した相手は、もうこの世にいない。


この力を何のために振るっているのか、いつも分からなかった。
ただ、グレイシアのときのように、もう誰かが大切な人を失う姿を見たくない。それだけだった。
がむしゃらに強くあれと修練し続け、力をつけたけれど。

出会ってしまった。

あんなにも純真な、優しい心根の子。

ディーテ様の愛を受けた子。

この虹色の子を守らせては、もらえないだろうか、と。
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