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特務支部!?
しおりを挟む「で、この子はどうするんだ?初めの報告書では、六十日の後、大魔境の神殿へ帰す…とあったが?本気で考えてんのか?こーんな小さな子を?たった一人で、また暮らさせるのか?」
ナッシュの核心を突いた一言に、皆押し黙る。神との約束は、違えることはできないだろう。
しかし、神殿に無事に帰宅して、はいおしまい、というにはあまりにも存在が大きく、それぞれの思いが揺れ動く。
「もし、叶うことならば…私はアルクスを辞めても良いと思っています。」
初めにそう言ったのは、リーナだった。
「私には…アルクスでの地位や役割はそれほど重要視されていません。むしろ、ヒー様に出会ってから、彼の力になりたいと…お世話をしたいと、思っています。もちろん、神殿で生活するには、少々大変かも、ですけど…。」
あの朽ちた神殿に、生活の基盤を作るとなると、なかなか大仕事だが、それでもリーナは、ヒースヴェルトのそばに居てやりたいと願った。
「へぇ、意外だったね。君が一番にそんなことを言うなんてさ。(先越されちゃったじゃん…)」
ルシオは驚いたように言う。
「ディーテ神が唯一顕現なされる、崇高な神殿でしょ?そこに住もうだなんて、ほんっと烏滸がましいよね人間はさー。」
皮肉まじりに毒を吐くが、リーナは拳をぐっと握りしめた。
「だって!!ヒー様、またあの朽ちた神殿の中で、一人で眠るのですか?地下の広間で、神像に縋って、お母さんの帰りをずっと待つんですか…。寂しいじゃないですか。せっかく、この六十日の人の暮らしを体験して…楽しいこと、たくさん知れたのにッ。
だったら私、生活できるように整えて一緒に暮らします!!」
「まぁまぁ。リーナの気持ちも分かるけどさ。ナッシュ、僕も途中から調査隊のメンバーに加えてもらったんだけど。その調査経過を見てて思ったんだよねぇ。」
「んー?」
「大魔境に、支部作らない?もしくは、大魔境の調査拠点を神殿に置くとかさー、とにかく、ヒースヴェルト様のお側に居たいの。ぼ・く。」
「……………はい?」
そこにいる、全員が耳を疑った。
「ルシオ様、今なんつった?え。支部?拠点て…?」
「大魔境で見つけたのは、旧式の大神殿だって?その神殿。」
報告を書いたのはフォレン。彼の報告の正確さはアルクスでも有名だった。
「えぇ。間違いなく、死都市が生まれる前の神殿です。」
「じゃ、うちのバカ親父が変に神託を隠しだした千年前より、もっと前。
ただ、そこに創造神ディーテ神が在らせられた。その真実だけを皮肉なことに凶悪な魔獣たちによって守られてきた、歴史ある神殿ってことでしょ。
新しい世界に生まれ変わる、これからの聖地にするにはピッタリだ。
うん。いいね。
好き勝手やってくれた親父には……もう消えてもらおう。時代を変える準備を、そこでしたいんだよね。教会には内緒でね?」
ルシオは低い声でそう言うと、悪戯好きな笑顔で続けた。
「僕がそこに行く。もー決めた。転移装置も置くから神殿の修繕もできるでしょ。何より、ヒースヴェルト様が人間界を知るにも、それが一番だよね。」
いいよね?と、いつもの調子で傲慢に。
「ルシオ様…それはさすがに…いや、でもそれができるなら、ヒー様は寂しくないし、教会が…生まれ変わる機会にも、なるのか?」
ディランは唸った。相変わらず無茶苦茶な提案をするが、大抵のことはやってしまう。
単に三千年生きてきたエルフだからというわけではないだろう。現に、更に長生きしている彼の父親は最低だ。
「教会?今の腐ったディーテ神教はもう終わらせるよ。僕がね。
そして、新たな神を、ヒースヴェルト様を神として迎え入れる準備を、大魔境の神殿を拠点に、していく。あの子の聞いた、神託のおとりに…。僕の役目、僕の使命だよ。」
「ママの信仰は、人たちの心から、なくなるの…?」
ヒースヴェルトはショックを隠せなかった。まだ足を踏み入れたことさえないものの、この世界にはディーテ神を崇拝する教会や神殿が点在していることは知っていたから。
「大丈夫です、ヒースヴェルト様。ちゃんとディーテ様とヒースヴェルト様のお二方を信仰するのです。
当たり前じゃないですか。私のディーテ様の神託を都合のよいように潰していく馬鹿者を切り離すだけです。
それに、これから造る神像はあなた様と、お母様のお二人が並んだものにしていくつもりですよ。神殿でも、教会でも、ずっとディーテ様と一緒ですよ、ヒースヴェルト様。」
「!!ぼく、ぼくの像っ!!?そっか、ぼくとママと並んだの、作ってくれるの!!?それなら、ぼくいいよ!ママと一緒、すごく嬉しい!!」
興奮気味に喜ぶヒースヴェルトは、その興奮で神力が漏れだしたのか、虹色をぶんぶんと振り撒きだしたため、フォレンが落ち着かせる。
「ヒー様、落ち着いて!御力が溢れてますって、首領が…おじいちゃんが、びっくりしてますから!」
おじいちゃんが、と言われてヒースヴェルトはハッとして虹色を消した。
「ぁ、ごめんなさい…ぼく、まだ、上手に神力抑えられないの…。神殿に帰ったら、そっちのお勉強も、がんばるの……。」
しゅん、としたヒースヴェルトに、ナッシュは驚いていたものの、すぐに優しい表情でニッコリ笑った。
「ははっ、スゲェ。これが新しい神様候補の御力…虹色の光か!あったかくて、安心するな。
よし、オレはルシオの考えで良いと思うぜ。ルシオ、やっちまいな」
「当然だよ。僕はあの子が聞いた神託を…千年信じ続けてさ。今、叶おうとしているんだ。
必ず潰す。そして、ヒースヴェルト様が管理しやすい世界を整える助力がしたいんだ。」
「やれやれ…。こんな話をしに来たんじゃないんだけれどね…。ルシオ様、物事には順序がありますよ。
まず、教会に協力を仰いでいる《審査》を止めましょうか。
そのためには…展開率のわかる携帯型の機械導具があれば、役所に置けるんだけどね?
今は転移装置ぐらい大がかりだから、教会の土地を利用していた。でも、もう教会と何かするのはやめにしよう。設置代金、毎年多額に支払ってるけど、全て引き上げてしまえば教会に献金することもなくなるし。」
「…携帯型…。そうか、その方法ならあるいは…。」
「そ。役場に出生届を出すときに、妊婦の家族が借りればいい話になるでしょう?」
フォレンの提案をルシオは目を見開いて聞いていた。白の眷属の、腕の見せ所である。
「決まり、だな。大魔境に特務支部を構え、ルシオはそこの責任者だ。お前は携帯型展開率審査機具を作り、ディーテ神教の奴らから手を切る。まずは、そこからだ。それから…」
ナッシュはちら、とヒースヴェルトを見る。その目は優しく、穏やかで。
「可愛いオレの孫を全力で支えろ。特務支部は、これまでの調査隊のメンバーを引き継ぐものとする。以上だ!」
「「はい!」」
「孫って!冗談じゃなかったんですか!」
「本気だよ。な、ヒースヴェルト~!」
「わーい!おじいちゃぁーん!!」
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