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澱みを映す鏡
しおりを挟むヒースヴェルトが目覚めたのは、それから一時間後のこと。
『リーナ…ルシオさん、呼んで欲しい。』
ぼーっとした様子で、天井を見つめたまま、側にいてくれたリーナの手を握る。
「は、はい、えっと、これをこうして、ルシオ様の持っている腕輪に波長を合わせて…。」
ぴこん。
小さな音と共に、ルシオの顔がホログラムのように浮かび上がる。
「あっ、ルシオ様。ヒー様がお目覚めになりました。それで、あの、ルシオ様にお会いしたいそうなのですがッ!?」
リーナが腕輪に向かって話をするも、途中で切られ、数秒後。
バダン!!!
「きゃあ!?」
勢いよく開いた扉に、ゼエゼエと息を切らすイケメン。
「ヒッヒースヴェルト様!わたくしにおはなしとは何でありましょうか!!!?」
「ヒッヒースヴェルト様って。」
その形相にドン引きのリーナを押し退け、ベッドの脇に縋るように膝をつき、潤んだ瞳で訴えかけていた。
その様子に、ヒースヴェルトもさすがに苦笑いを覚えた。
『ルシオさん。鏡を作って欲しいの、です。砡の鏡……ママが、夢で教えて、くれました。』
ぽわ、とヒースヴェルトの指が金色の光を纏う。ディーテ神の力を預かっているのだ。
『ぇっとママから預かった…作り方、を渡し、ます。』
淡く光る指先。ルシオの額に軽く触れる。
「………っ!!」
「魂の、澱みが…どれだけキレイになったか、分かる鏡なんだって。この地の砡の欠片でしか、作れない…。ママが、白の眷属なら作ることができるよ、って。…できる?」
神泉の水で磨いた銀製の鏡を、四つの砡の欠片で囲い、全ての力の回路を組み込み、循環させる仕組み。鏡には神語で数値が刻まれるようになるそうだ。
金色の光は、まるでその仕組みを頭の中に直接詰め込まれたような感覚だった。
「……分かりました。すぐに、完成させますね。」
大事になさってくださいね、と伝えるなり、飛んで出ていった。
「相変わらず凄い勢いでしたね…。」
「ふふっ。ルシオさん、ずっと、あんな感じ、だね。」
「ご気分はいかがですか?あ…今はジャンニさんがいないから、お飲み物とかの準備ができませんね…。」
「んふふー。大丈夫、なのです!」
ヒースヴェルトは、得意そうにそう言うと、いつも持っているお出掛け用ポシェットの中から、水色の水筒を取り出した。
「まぁ!それは??」
「アルクスに、来る前に、ジャンニに、お弁当と、青のキラキラのカクテルを、作って貰っていたのです!」
密閉されていた蓋を、ポン、と開けると、ヒースヴェルトのお気に入りの青いカクテルジュースがなみなみと入っていた。
「飲む、です。コップ、ください!」
「はい!待ってくださいね!」
※※※※※※※※※※※※
「それで?どういうことなんだ。お前が黒の石で実験するって。」
アルクスの談話室。カフェが隣接していて、ホテルのロビーのような場所だった。フォレンは、コーヒーを飲みながら、機嫌が悪そうにしている。ディランがルシオに提案したことについて、納得いかない様子だった。
「どうって、言葉の通りだよ。魔境の魔物の相手になるのは俺くらいのものだろう?確かにルシオ様も相当強いけどよ、機械導具を作らなきゃなんねぇのは事実。ヒー様が神殿に帰るまでに、やっときたいと思ったんだよ。」
「……ふぅん。何か隠してないかい?」
「別に。」
にっこりと、人好きのする顔。殿下スマイルを向けられると、フォレンは黙るしかない。あの笑顔が出るのは、これ以上話すことは無い、と言う意味だから。
「ま、いいけどね。」
そんなとき、腕輪が鳴った。
「ぁ、ヒー様、目覚められました!」
サイズが小さくなったリーナと、その脇にちょこん、と座っているヒースヴェルトの姿まで、動画のように映される。この通信機は凄い進歩だと素直に感じた。これが、世界中で通信できるようになれば、別の意味でも時代は変わるだろう。
「!分かった。」
「一時間ってところか。今日は、これ以上何かをするのは…止めておいた方がいいだろうな。目的も果たしたし、一度邸に戻ろう。アシュトも邸に戻るように言っているから。」
「あぁ。」
医務室に入ると、ベッドに腰掛け、白いマグカップを持ったヒースヴェルトが二人に気付いて微笑んだ。
「二人とも、ごめんなさい!とても眠くなって、寝ちゃったの。」
「いえ。大丈夫ですよ、澱みを消すのに、かなりご負担がかかるようですね…。無理をなさらないでください。」
「ぁい~。」
マグカップを空にして、ヒースヴェルトは立ち上がった。
「ん。元気いっぱい、です!」
「良かった…。じゃあ、今日は邸に戻りましょう。澱みの消しかた、分かっただけでも大収穫です。ヒー様。」
「ぁい!中庭で、お弁当食べる、です~!」
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