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「兄」として
しおりを挟むその日から、ヒースヴェルトの毎日は、とても充実したものになった。
日頃、トリシャの授業を受けるのだが、ヒースヴェルトは一度言われたことは全て理解してしまうので、トリシャも驚いていた。それもあり、驚異的なスピードで勉学が進み、ルートニアス邸で過ごすようになって1ヶ月の月日が流れた頃には、修了過程を全て終えてしまったのだ。
そのこともあり、ヒースヴェルトはハンターごっこに時間を費やせた。
アシュトの読み通りルートニアス領内で、多くの砡の欠片を見つけることができた。
ヒースヴェルトは初心者なのもあるし、身分が身分なので危険な岩場や洞窟には行かず、川辺や明るい森の中などを探し回る…山菜採りのようなイメージだが、ヒースヴェルトにはそれが新鮮でとても楽しかったようだ。
「アシュト、アシュト!こっち来て!?」
アシュトは風を読むことに長けていたが、ヒースヴェルトは匂いが分かるらしい。神力の成せる技だろうが。
「おっ、見つけたッスか?」
「ん~、こっちの方から、匂いがするの。でも、見えなくって…。」
森の中で目を凝らすものの、見えるのは木々や草花だけ。
「……あぁ。目で見えない砡の欠片は、動物が虚とかに持ち帰ってることもあるッスよ。」
「動物さんが?どうして?」
「うーん。単純に綺麗な物好きな種類もいるッスけど、知恵のあるヤツは本能的に、分かってるのかも…。」
「??」
「ヒー様とおんなじですよ。澱みのない砡の欠片、側に置いているだけで精神的にも肉体的にも、落ち着くっていうか。まぁ、ヒー様みたいに、浄化はできないと思うんスけど。」
「えぇっ?じゃあ、それはぼく貰えない、ですぅ…。動物さんの拠り所…奪え、ないです…。」
しゅん、とするヒースヴェルトに、そんな優しすぎるハンターはいねぇな、と困ったように頭を撫でてやる。
「そうッスね。ヒー様の思うようにしましょう。なら、他を探さないと、ッスね!」
「あいー!」
ハンターの真似事を始めて数日経過したが、ヒースヴェルトが食べることができた砡の欠片は、僅か二つ。
例え安全な場所だけ探索しているだけとはいえ、ここまで見つからないことにヒースヴェルトはショックを受けていた。
「むー。売れる欠片は見つかる、けれど…ぼくの食べる甘い飴はなかなか無いの、です~。」
「まぁ、普通のハンターとしては、十分合格点ッスよ。でも、質の高い砡の欠片は、どうやら二種類あるみたいッスねぇ。」
「んぇ?二つ?」
アシュトは、質の高いと思われる砡の欠片をヒースヴェルトにいくつか持っていったが、その殆どは生まれて五十年は過ぎている物だった。澱みを持たず、そのまま時を重ねた砡の欠片と、生まれて数年足らずの、若い欠片。
まるで、採れたての果実と、長年熟成させた上質な酒を見比べているような、そんな感覚だった。
「ヒー様は、甘くて、採れたてな果実を求めてる。でも、世の中の多くは熟成された高級ワインばっかり、って感じッスね。」
「わぃん。美味しい、ですか…?ぼく、新鮮じゃないの、好きじゃないです…多分。澱みが少ないの、わかります、けど……むー。」
それは、食べてはいけない気がする。ディーテ神も、生まれてすぐのもの、を勧めたこともあって、ヒースヴェルトは新しい欠片を求めていた。
「…多分、子供が酒を飲めないように、ヒー様も時を重ねた欠片は身御体に合わないのかもしれないッスね。」
「ヒー様、ご自身で砡の欠片を集めるのも、それはヒー様にとってすごく大事だと、オレは思ってる。でもな?」
ちょこん、と側にしゃがんで、優しい眼差しで笑いかける。
「一人で全部、は無理ッスよ。それに、あなたが天上界へ行くための浄化でしょ?結局、ここに住む皆のためなんスよ。
だから、アルクスに集まる砡の欠片の中から選びとるのも、正解ッス。」
「……ぼくのため、は…みんなの、ため?」
「ウッス!」
アシュトの、とても優しい説得に、ヒースヴェルトはすとん、と心が落ち着いたような感覚を覚えた。
(……やっぱり、お兄ちゃんみたいだ。分からない気持ちも、嫌だと思っていたことも、アシュトに言われると…納得しちゃう。)
ふにゃり、と笑顔になって。
「おにーちゃん、ありがとう。」
素直に、そう言えた。
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