2 / 119
研究室にて。
しおりを挟む大魔境の奥にある神殿の一角に、砡の欠片を収めている部屋がある。そこは研究室と隣り合わせで、一人の白砡術士がいる。
銀髪の、アイスブルーの瞳をしたエルフ。
「はー…ったく、盾の坊やはほんっとに遠慮がないっていうか。こうと決めたら頑固すぎだよね納期短すぎるんだよホントにさぁ…何?教会と話しつけてきたから来月までに?国内の審査装置全て回収かとかあり得なくない?誰に依頼してんのホントさぁ。僕だよ?ぼ、く。」
右手にドライバーを握り、左手には銀色の作りかけの機械導具。羅針盤のような形をしていて、四方に色の違う砡の欠片が嵌められている。
元々、大がかりな装置だったそれは、現在コンパクト化させ、お盆くらいのサイズまで小さくなった。
アルクスの行う事業の一つ。産まれてくる子どもたちの砡の展開率を測ること。
低ければ問題はないが、高ければ制御訓練を施す。でなければ、展開率が高い子供は、砡の欠片に触れると暴発を起こすことがあるからだ。
そしてこれは、人と、砡との相性を調べる装置。世界中に生み出される砡の欠片に対する、自らの展開率が測定できる。
これまで、大がかりな装置を世界中に点在していたディーテ神教会の敷地に置かせてもらうことで、子供が生まれ、展開率を調べる《展開率の審査》をさせてもらっていた。
しかし、教会の在り方に疑問を持ったアルクス側が、教会との縁を断ち切り、別の方法で審査することにした。
それが、今回ルシオが大量生産している、これなのだ。
ブツブツと文句を垂れながらも、その手は作業を止めない。研究室には、それと同じ物が百個以上は作られていた。
「ルシオ様、愚痴聞こえてますよー。悪いとは思ってるんですけどね、早い方がいいじゃないですか。
腐った教会と縁を切って、新しいシステムを導入するんですよ。やっと各国の主要都市の役場に、置いていけるように手配してもらえたんですから。」
研究室に入ってくる、金髪緑目の青年は、ニッコリ微笑む。その手には今日中にサインを、貰いたい書類の束。
「なに?ソレ。」
「その携帯型審査盤の契約書類です。
役場の出生届け出窓口に一件依頼がある毎に五千レル。教会に払っていた設置料金と比較しても破格。ルシオ様は良い機械を作られました。」
上機嫌の彼とは正反対に不機嫌真っ只中なルシオは深い溜め息を吐く。
「元々、君の提案でしょ?全く…。でも、教会がよく引き下がったよね?貴重な収入源だっただろうに。」
「まぁ、そこは私の手腕ということで。ふふふっ。」
怪しく笑うのは、ここより東に位置する大国、エンブルグ皇国の公爵家の長男、フォレン・ルートニアスだった。父親は現皇帝の補佐で、皇帝とは幼い頃からの親友同士。
そんな父を持つ彼もまた、その話術と頭の回転はすさまじく、アルクスの頭脳と呼ばれている。
そして。
「ルシオ様、これ、今日の収穫だ。やっぱ大魔境は他のハンターどもに荒らされていないから、質のいい欠片が見つかるな。」
ばたん、とノックもなしに入ってくる、赤い髪の男。
その金色の瞳は、エンブルグ皇国の皇族の証。
「ディラン。また探索に行ってたのか?…ヒー様に見つからなかった?」
「あぁ、フォレン。来ていたのか。…なんでヒー様?」
「知らないの?ヒー様、魔境探索がしてみたくて、ディランが次に出掛けるときはついていくんだって、張り切っておられたからさ。」
「…はぁっ?そんなもん、ダメに決まってるだろ!危険すぎる……。まぁ、他の場所なら行ってもいいけどよ~…。」
頭を抱えて唸るディランに、ルシオは疑いの目を向けた。
「殿下、ぼくのヒースヴェルト様を巻き込まないでよね。あの美しい御身体に一筋の傷だって、なんなら小指のササクレだって許さないんだからね!」
「ササクレは関係ねぇだろ流石に。それに、ヒー様はご自分で欠片を探すことを半ば使命だと思ってるからな…。まぁ、そうなんだけどよ。」
そう。アルクスには、いつも潤沢に砡の欠片を保管している。だか、それらの殆どは、浄化を目的としているヒースヴェルトにとっては無用のものだった。
「我々が日々集めて来る砡の欠片だけでは…まだ完全なる浄化には足りない。
ヒー様の澱みを浄化できる、生まれてすぐの中砡欠片は本当にレアだからなぁ…。」
「ヒー様にしか、その見分けがつかないしな。俺らは、とにかく集めるしかねぇ。」
ヒースヴェルトは、その砡の欠片が、何年前に生まれた物か、見ればすぐにわかるのだ。特別な、神の目、とでも言うのだろうか。
「はぁ…。ヒースヴェルトさまに会いたい……。」
ここ数日、審査盤製作のために研究室に籠りっぱなしのルシオは、既にヒースヴェルト切れを起こしていた。
「はは。せっかく大っ好きなディーテ様とヒースヴェルト様の《ご自宅》にラボを抱えたってのに、ずっと籠りっきりじゃあな。」
「ヒースヴェルトさま…あぁ…可愛らしい頬に触れたい…。美しい虹色の御髪に顔を埋めたい……。あーーーー。」
「「…………。」」
見た目は絶世の美男子で、その頭脳は世界一の《白砡術士》で、ディーテ神の一番目の眷属を賜った、元・ディーテ神教司祭であり、父親がその最高司祭という肩書きも。
「…台無しだな。…変態エルフ。」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
農家の四男に転生したルイ。
そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。
農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。
十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。
家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。
ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる!
見切り発車。不定期更新。
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる