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狭間の世界
しおりを挟む狭間の世界で修行を始めて一週間くらい経った頃。
ヒースヴェルトは自らの虹の光を使い、ふわん、といつかの小鳥を生み出しては羽ばたかせる。
ディーテ神の言霊鳥のように。
『……神力を他の何かに変えることは、もうマスターしたようだね。』
『ママ!お仕事行ってきたの?』
ディーテ神の声を聞いて、ふわふわとヒースヴェルトの周囲を舞っていた虹色が、弾けた。
『ぁぁ。…終わりの近い世界があってね。管理者と翼を引き揚げさせたところだよ。』
どくん。と心臓が鳴った。
『終わりの近い、世界?』
『星は生きているから、当然寿命もある。もう、どうしようもなく老いた大地には、命は芽吹かぬ。…お前にそれを見せようと思ってね。』
『……えっ!?せっ、世界の…ぉ…終わりを…っ?』
そんな恐ろしいもの、見たくない。想像しただけでヒースヴェルトの顔色は真っ青になってしまった。
『管理者として、終焉は必ず経験する。先に見ておけ。…お前の世界が、終わるとき、お前がちゃんと立っていられるように。』
狭間の世界に来てから、ヒースヴェルトに強いられる事は、彼にとってなかなかつらかった。
管理者の力不足で戦争なんていうものを引き起こさせてしまった星の、過去を見せられた。
それによって苦しむ関係のない人々。簡単に散っていく命を。
それでも、良い管理者に育てられた世界を見せてもらえたときは、本当に良かった。
皆が幸せそうに笑って暮らしていて、技術も発展していて、美味しい作物がたくさん採れて、分けあって。
そんなときの、世界の終わりを見せる発言。
どんなに幸せな世界を作り上げたって、その星に寿命が来れば、塵になって消えてしまうのだそう。
『そこに住んでいた人々は、どうなるの。』
『大丈夫。終わりに近づくにつれ、人口は減っていくのだが…それでも小さな集落などに住まう、終焉を迎える星の民は、管理者が新たに世話をする世界に共に移り住むから。まぁ、その星々の環境に適応した新たな肉体を与えるけれどね。転生…とでもいうのか。』
『転生…。それは、悲しいことでは、ない?』
『ふふっ。お前は本当に優しいね。痛みもないし、魂は一度管理者によって浄化して行く。真っ白な魂になって、世界を渡るんだよ。』
『…世界が、終わるとき…管理者は人々のすべての澱みを受け取るの?』
『そうだよ。だから、新しい世界に向かった直後は、管理者はしばらく動けぬ。浄化にすべての力を注がねば、精神が壊れてしまう。』
『そんな…。管理者が動けなきゃ、新しい世界はどうなるの?』
『そこで、翼が役に立つ。』
『………あっ!』
『分かったかい?翼が多ければ多いほど、そして神と親密な関係を築けていればいるほど、新しい世界に向かっても、安心してやっていけるんだよ。…管理者への信頼がない者達は、管理者の不在のとき、暴走するよ。だから、気を付けないといけないね。
逆に、いくら信頼関係のある翼に任せていても、翼の数が足りないと…神が目覚めるまでの間に世界が滅ぶこともある。』
『やっ、やだッ!!そんなのっ。』
大好きな人のために頑張って、頑張っても…滅ぼしてしまうなんて。
『ならば、より多くの翼を得よ。信頼に足る神を目指せ。それが、お前が一番望んでいることだよ。』
『ぼく…そんなに沢山、命を貰うなんてこと…っ。』
最近は出てくることの無かった涙が、ポロポロと溢れてしまう。
『やはり、優しいね。そんなことでは神など務まらないんだけれど。……けれど、お前は余の大切な子だからね。…少し手伝ってあげることにした。安心していい。…お前が翼を選びやすいように、すでに緋の眷属が動いてくれているよ。』
『……ディランが?それに、選びやすいって、どういうこと?』
ディーテ神は、それ以上は何も言わなかった。
帰れば分かるから、と。
『さぁ、世界の終わりを、見に行こうか。』
ヒースヴェルトは手を引かれて、別の世界の終焉をその目で見に向かったのだった。
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