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魔獣の卵
しおりを挟む「オレらが過ごす場所では見たことないよ。庭と、食堂とー、絵本部屋と。だよな?」
「うん。あと、私たちのお部屋も!。見たことないよねぇ?」
孤児院の子供達は、素直に答えてくれた。
「そっかー、ありがとう!」
「バイバーイ!」
元気に手を振るユリちゃんに、ヒースヴェルトも微笑みをかえすが、内心は不安でたまらなかった。
「ヴェル、大丈夫か?…顔色が悪いぞ。」
「うん…。」
(どうしよう…見つけたらどうするのが一番良いんだろう…?魔獣に変えちゃう?いやいや、そんなことしたら孤児院が…町が大騒ぎなっちゃう。でも、石を破壊したらぼく、神殿に戻っちゃうし…。)
「院長室、行ってみないか?大事なものとか、あるんじゃないか。」
リアンの提案に、ヒースヴェルトは頷く。院長室は、二階の子供達の寝室の前の廊下を真っ直ぐ歩く。突き当たりの、重厚な木のドア。
「鍵…は、かかってないな。無用心だなぁ…。」
「黙って入って、悪いことしてるみたい…。モートンさん、ごめんなさい…っ。」
そろそろと入り、執務用の机の回りや、引き出しなんかを漁る。
「ないねぇ…。」
「うーん…。」
「あっ、あっちの、ガラス張りのチェスト…。鍵がついてる。あの中も見たいな。」
「チェストの鍵なら、さっき机の引き出しに…、あった!これだ。」
リアンが鍵を開けると、中には高級なお酒の瓶と、グラス。そして、少しの宝石が入った宝石箱。そして。
「この黒い箱、何だろう…。教会のマークじゃないな。…蛇?」
「これ…ママの空気が無い…。あの石と同じだ。…黒い石、この中にあるよ。」
ヒースヴェルトは恐る恐る、その箱を、手に取った。
静かに箱を開けると、柔らかい布で包まれた、丸い物体。
「あった…。まさか、エンブルグ皇国に…ジャンニの故郷に…あるなんて。」
本来、穢黒石は、長い年月を経て、星の寿命が近づくにつれて増えていくもの。生まれてまだ若いこの世界に、存在してはならないもの。
過ちを犯した、あの死都市にしか、生まれないのに。
「おい、ヴェル…、なんなんだよ、この真っ黒い石。気持ち悪い…。」
「………。」
ヒースヴェルトは、何て答えるのがいいのか、少し考えて。
「…すごく、危険な…魔獣の卵…。今は、まるで石のようだけれど、そのうち孵化しちゃう。」
以前、公爵邸でアイザックがそう表現していた。
故意的に魔獣化させる計画を話し合ったとき、魔獣の卵だと思わせるように仕向けよう、と。
「なっ…何だって!?」
さすがにリアンも怯えている。ヒースヴェルトは、穢黒石をどうすればいいのか分からなくて、通信機でフォレンに繋ぐ。
「フォレン、あのね…っ。孤児院の院長室でねっ、ぁ…じゃなくて、魔獣の卵を見つけたの!どうしよう…っ!」
《ヒー様!?魔獣の卵…ですね…。そうですか。分かりました、触れずに待っていて下さい。
今、ちょうどそちらに向かっていますから!ルシオ様は、どうしました?一緒じゃないのですか?》
「なんか、院長さんと話があるからって、今はリアンと二人でいるの。」
《…穢黒…その卵を持って、すぐにルシオ様の側へ行ってください。割らないよう、気をつけて!》
「ぁい!!」
割らないよう。ヒースヴェルトは箱に入れたまま、ルシオを探す。きっと一階のどこかにいるだろう。
「リアン、ルシオさんを探そう。一緒にいてくれって、フォレンが言ったの。」
「な、なぁ、その卵、割って壊した方がいいんじゃねぇ?孵化したら危ないんじゃ…」
リアンの言葉に、ヒースヴェルトは大きく首を横に振った。
「だめっ!!壊したら、それこそ地獄に飛んでっちゃうよ!!」
「ひっ…、地獄っ?なんなんだよぉ~!怖いこと言うなって!」
階段を駆け降りるヒースヴェルトは、どうして孤児院に穢黒石があるのかとか、いなくなった子が、どうなってしまったのかとか。
教会という存在が、人を不幸にしていることが、許せないとか。
不安や不満、焦りに疑問にと、心のなかはぐしゃぐしゃだった。
(やっぱり…ぼくの世界で…この石が一番邪魔なの!!モートンさん、どうしてそんなことしたのッ…。ぼくの母さんと、同じことを…。)
ヒースヴェルトが、母親と思っているのは、ディランが言っていた、あのスパイだったかもしれない、父親の偽装結婚の相手。
ヒースヴェルトに対して酷い扱いをし、最後には檻に閉じ込めて、穢黒石を破壊し、彼を死都市へと送った。
(ぼくは…華護りの中に込められたママの神力のお陰で大魔境に飛んだけれど…きっとここの子たちは…。)
死都市には、きっと子供を捕まえて、鎖で繋ぐ悪い人間が待ってる。北の国や、西の国で奴隷として売られる。
「ジャンニの故郷の町で…っ。そんなこと、許さない!!絶対ッ!許さない、です!!!」
ずっと、心にその感情を持たないように、頑張ってきたのに。
ヒースヴェルトは、ディーテと出会ってから、初めて人間に対して怒りと憎しみの感情を孕んだ。
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