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元・神職…?
しおりを挟む村長宅の二階の奥の部屋を借り、フォレンはベッドに上半身だけ起こして書物を読んでいた。
午後には熱も下がり、少しだけ楽になった。
ルシオのくれた痛み止めの薬の効果もあり、どうにか動ける程度には回復した。
「フォレン様、村長のクワルトさんと、ロジエさんがお話があるそうなのですが…よろしいでしょうか?」
リーナがドアのそとに二人を待機させ、フォレンにうかがう。
「…どうぞ。」
読んでいた本を閉じ、脇のテーブルに置いた。
おそらく、昨晩のことを謝罪に来たか、弁明に来たか。
「失礼いたします…。この度は本当に…申し訳ありませんでした…。まさか、あのような事件が起ころうなどと思いもよらず…。」
膝をつき、頭を垂れて謝罪する二人は、ただ青ざめて今後の自分達の行く末を案じているように震えていた。
「ど、どのようなお咎めもお受けいたします…!」
「頭を上げてください、村長殿、ロジエさん。まぁ、村の商売に口を出す資格など私にはありませんが…子爵殿は違う。
領のことは領主の意向に添っていただきたい。…それに、契約違反をしていたのは一部の我が組織の者とファル・ファム商会の者とであり、あなた方はむしろ被害者でしょう。
実際、神泉の水を販売するだけなら違法でも何でもないはずです。
我がルートニアス領の神泉は観光名所として客を呼んで稼いでいますしね?」
ぱち、と片目を瞑って見せる。村に対する咎めは無いだろう。安心していいのだ、と。
「…っ。私は…怖かったのです。代々、神の降臨された村として受け継がれてきた歴史を、私の代で変えてしまった。後ろめたさの中…得た金で村の改革も考えましたが…やはり、心が苦しかった。」
昔、本格的に神泉の水を売ることで収入を得ようと目論んだことがあったという。だが、コール領主にそれが知られることを恐れたのだ。過去に、誇りある村だと高く評価してもらい、貧しいことすらも、実際に誇りをもって暮らしてきたのだから。
「大丈夫だよ~、泉の加護は消えないし、この村の人たちは、思うとおりに生きていいんだよ。」
突然の可愛らしい声に、部屋の皆は驚く。
「ヴェル様!もう戻られたのですか!?」
ゆっくりしてくるかと思っていたため、フォレンも目を見開く。
「ぁい~。村長さん、とロジエさん。今、泉を見てきました。…ここは、大丈夫です。 神気が満ちている。ディーテ神が、この地を愛している証拠。」
ふわ、と微笑む。
「あ、あの。フォレン様、リアン様…こちらの方は…一体?」
村には、ヒースヴェルトが視察することは曖昧に説明していたため、村長すらも、フォレンが視察の一団の責任者だと思っていたのだ。
しかし、こんなことになってしまい、当の本人は神泉には行けないし、行ったのはこんな子供で。
「あぁ、実はこの度の視察の目的は、こちらの方に神泉の側に立つ果樹を直に見ていただくためのものだったのですよ。」
「果樹…でございますか?神果の成る、あの?」
「えぇ。その御表情、得るものがあったようですね?ヴェル様。」
「ぁい!とっても役に立ちました。村長さん、ありがとございました!」
神泉の水を根から取り入れ、幹から枝葉、実に至るまでに栄養分と共にその樹木に留まらせるには、どうしたらよいか。それを知りたくてここへ来た。
通常、神気は留まることをしない。
周辺を浮遊し、時にはパチン、と弾けて霧散したり、いつまでも浮遊し続けるかと思えば、天へと昇って消えていく。
まるで、シャボン玉のように、優美で儚い光の粒たち。
それを、樹木が神泉の水と共に吸い上げ、必要分だけを果実の中に留めることができるのは、やはり構築式が起因していた。
神殿でジャンニが作った、単年で終わる命であるベリーには無かったもの。
樹木として長年の間そこに留まらせるような方法を。
これは有益以外の何者でもない。
「ルシオさんからね、麓の町にある卵を、子爵邸で一時保管するって聞いて…。」
少しだけ残念そうに、ちらりと後ろに控えているルシオを見やる。ルシオは静かに目を伏せ、頷いた。
それは、そうだろう。麓の町の役人だけでは、警備がままならないのは確かだ。
もし、ヒースヴェルトが早速遠隔実験をしてしまえば、そこに、いくら最強のエルフが居たからと言って、町に魔獣が出現するのだから、人々の安全を鑑みれば、得策ではない。
「えぇ。先日の神のお告げによれば、本来魔獣は西の国と北の国でしか孵化しないと…神託がありました。
ですので、エンブルグ皇国の卵は、孵化しないはずなのです。
この度の騒動は…私が思うに、ディーテ様のお怒りに触れた商会が、天罰を受けたと解釈するのが良いでしょう。
此方の方は…ヴェル様は、ディーテ神の御声を最も近くで聞くことのでき得る、至高の方。
その至高の存在を狙われたのですから。」
ルシオは、まるで高尚な神官のように、落ち着払った顔で、威厳に満ちた言動で説明をする。
まぁ、少し前まで実際に最高司祭の跡継ぎとして教会の重鎮であったのだが。
フォレンもリーナも、神官っぽいルシオがムズ痒くて微妙な顔をしていた。
しかし、先日の孤児院でヒースヴェルトの身体を借りてディーテ神が伝えた言葉の通り、今後は事を起こしていくためには、必要なことであった。
孤児院の隣接している教会には、神託として公表するよう子爵の名とついでにルートニアス公爵嫡子の連名で要請しておいた。
孤児院の院長もその場で直に聞いてしまったのだから、歪曲は出来ない。
少なくともエンブルグ皇国には、その噂が広まるよう仕向ける。
ディーテ神の怒りを買った西の国と北の国は、今後神罰による魔獣の影に怯える日々を送ることになるだろう、と。
そこまで流暢に説明をして、ルシオは一息吐いた。
ルシオがアルクスのメンバー以外の前で、こんなに喋るのは珍しいことで、リーナやジャンニは戸惑っていたのだが、フォレンは何となく、この妙なルシオを推察するに、答えが見えたようで苦笑を漏らしていた。
「こほん。時に村長。この村には歴代の神託を記した記録があると聞く。それは代々神子に連なる血筋の者がこの村に生まれているからなのかい?それを見せてもらうことは可能か?そしてもし良ければでいいのだが写させていただけないだろうか。そんなに時間は取らせない。僕が作った機械導具を使えば模写など一瞬で可能だ。どうだろうか、村長。そして支障がなければ今代の村の神子に会わせてはもらえないだろうか。色々聞きたいことがある故な。」
「……………はぇ。」
ルシオは、その日一人村に留まることとした。
そんなことがあって、ルシオ以外の皆は村を後にして、再び悪路を辿ったのだった。
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